「巨大スマホの誘い」
異世界転生ものを投稿するのは初めてなので初投稿です
『異世界転生したら無課金装備マンだった』
「いや何これ」
俺の名前は賀茶郎。無課金で様々なスマホゲーを極めてきたという何となくすごそうな経歴を持つ、至って普通な高二男子だった。
……そう、『だった』。俺が高二男子だったのはつい数時間前までだった。というか数時間前って言い方で合っているのかどうかさえわからない。
それというのも、俺は何一つ終わらなかった春休みの宿題をどうやっていい感じにアレするか考えながら高校へ通学していたところ曲がり角でバッタリ出会った自販機サイズの巨大なスマホに押しつぶされ――そして気がつくとファンタジー世界っぽさがくどい程漂いまくる原っぱにいた……そういう経緯だったりする。うーん、意味不明。何がって現状もだが何より巨大なスマホがものすげー謎。
「つーかトラックで異世界転生……って小説は読んだことあったけどこういうケースは初体験だな」
いや初体験しかないだろうけどねこういうの。異世界転生とか多分レアでしょ。
それはそれとして巨大なスマホは謎すぎて笑えてくる。自販機サイズって部分が最高にバカ。ギャグかなんかでしょこれ。
「はーマジうんち。原っぱに放り出されても困るんスけど」
非常にアレなテンションなので適度にボヤきながら――中空に向かって二本の指でフリック操作よろしくクイッとなぞる感じのやつをした。するとなんかウィンドウが現れた。俺のユーザー情報的なアレコレが書かれている。これで二度目。さっきスマホがないことに気づきつつもついついやった行動がこの現象を発見するキッカケとなった。ちなみにやった行動はホームボタンをタッチするという現状非常に虚無って感じのアクションだったりする。スマホ世代の闇感あるよね。
「ランク150とか高すぎて笑う」
150/150と表示されているので多分カンストだと思われる。なんのランクなのかわからないがRPGでいうところのレベルって雰囲気なので多分そういうやつである。ステータス値も三桁だらけなので恐らくつよい。ちなみにレベルがないというのは0ってことではないらしい。これは元いた世界で聞いた話である。
「まあこんだけ強けりゃなんとかなるでしょ」
ギガ余裕テンションでそんなことを言った俺だったが、ここで自分の服装に目が行った。
……なんつーか肌着って感じだった。
あとなんか申し訳程度に季節イベントで貰ったらしきカボチャ仮面とかサンタ帽子とか海パンとかがアイテム欄に表示されていた。
もしかしなくても無課金だった。しかも配布アイテムだけしか持っていない状態だった。
「どういう戦い方してたのこれ」
何をどうしたらこの状態でここまでのステータスを手にできるというのか。元いた世界では普通に石を貯めてレアアイテムを当てていたのでこの辺がよくわからない。
ていうかこれ名前しっかり『がちゃろー』って俺の名前っつーかよく使うハンドルネームで登録(?)されているので俺で間違いなさそうなのだが、これほんとに俺なんですかね。鏡を見せてくれとりあえず。
「ホッホッホ、いやぁすまぬすまぬ」
突如目の前に謎の爺さんが現れた。訳知り顔をしているので多分物知りだ。
「誰だアンタ」
「ワシの名は」
「映画のタイトル?」
つい聞いてしまった。なんかお約束な気がしたからだ。
「まだ喋っておる途中だったんじゃが……」
「ごめん……」
「いいよ……」
沈黙が訪れた。それはもうめっちゃシーンって感じである。
「いや喋ってくれ」
「すまぬ、タイミングを逃した感があったんじゃ……」
「時と場合を考えてくれ」
「すまぬ……」
なんで俺が嗜めているのか全くわからないが、話を進めてほしいという気持ちは本当だよって感じだったので別にいいかってなった。
「おほん、ワシの名はエキゾチック仙人。本名ではない」
「あー、ハンドルネーム的なやつなんです?」
「そうそれ。でも仙人なのは本当じゃよ」
「具体的には何してるんですか?」
「ワシの場合はなんか尖った山的なやつの上に座ったりしておるよ」
「すげー」
とりあえず拍手をした。すごそうだったからだ。
「褒めてくれてありがとうなのじゃ。あともうぶっちゃけ長々説明するの面倒じゃからサクッと言うぞい」
「いいぞい」
「おぬしはアレじゃ。この世界における支配者的なヤツがうっかり別世界の住人であるおぬしをこの世界に転生させてしまったのでとりあえず付け焼刃的な高ステータスを付与したとかいうアレじゃ」
「雑ぞい」
「おぬしも『ぞい』の使い方が雑だぞい」
エキゾチック仙人、思ったより抜け目がない。やはり強キャラか。
「エキゾチック仙人、俺はどうするのが正解なの」
「どの道その支配者的なヤツに会わないことにはこの世界で労働に従事する以外に道はないのう」
「は? こんなに強いのに?」
「だっておぬしお金持ってないもん」
言われてウィンドウを開ける。よく見ると、0と表示された箇所が二箇所あった。一つはランクアップまでに必要な経験値の欄。ランクがカンストしているので当然である。そしてもう一つが……この世界での通貨だった。日本円は普通に持っていた。お金あんじゃん。
「日本円ならありますけど」
「悪いが別世界の通貨を両替するには別世界にリンクできる――」
「その支配者的なヤツと会わないといけないんスね?」
「そういうことなのじゃ」
「すげー、超シンプル」
でも俺的には超ファンブル。くそー、思ったより自由度がなくて支配者的なヤツへの憎しみが募る。だが憎しみは憎しみを生む……俺はそんなことはしたくねェ、したくねェんだ……。だから俺は耐えた。ゥチゎ耐ぇた。。。
「オーケー、いいぜエキゾチック仙人。その支配者的なヤツに会ってみるぜ。だから行き方とか諸々教えてほしいんだぜ」
「よかろう。これをやろう」
「あ、こりゃどうも」
エキゾチック仙人に手渡されたものはなんかUSB的なヤツだった。つーかUSBだった。
「最寄りの村にある共用PCに挿すと色々データが見られるから必要に応じて印刷とかするといいぞい」
「急にアナログ」
「デジタルじゃぞい」
「いや結果がアナログ」
「なんじゃとこのスマホ世代め」
「ここホントに異世界?」
「魔法も科学もほどほどに発達したファンタジー世界なんじゃ」
「とても都合がいい感あるぜ」
「なんでもええじゃろ。とにかく、USBにワールドマップとかそういうの入れておいたから上手く使うのじゃ、ではの」
「え、どこ行くんです」
「仙界に戻るんじゃ。ワシも暇じゃないんじゃよ」
とかなんとか言ってエキゾチック仙人は姿を消した。
「しゃあねえ、とりあえず歩くか」
よく見たら町っぽいのが見えたのでそっちに向かって歩き始めた。……すると。
「ギャハハー! 無課金装備のヤツが現れたぜェーー!」
なんか顔がスライムの人間(?)が草陰から飛び出してきた。無課金装備がどうのって言っていたけどパンツ一丁のやつには言われたくないよね正直。
「死ねェーーー!」
飛びかかってくるパンツ一丁スライム男。
「生きるッ!」
掛け声とともに俺はパンチを放つ。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
めっちゃ叫びながらスライム男は吹き飛び、そして爆発四散した。なんかわからんけど俺の筋力値はやっぱり高いらしい。
「強敵だった」
微塵も思っていなかったがそう言っておいた。なんかその方が助けてもらえたりできそうだったからだ。原っぱにいるの多分俺だけだけど。
「ふーん、中々いい筋をしているようね。強敵だったとか言ってたからニュービーなんだろうけど」
ふと、背後の木陰から少女の声が聞こえた。振り返るとめっちゃかわいい銀髪ロングの魔法使いっぽい姉ちゃんがいた。正直タイプだった。
「俺、ガチャローって言います。初心者ですけど筋はいいと思っています」
とびきりいい声で話しかける。これはキマった。
「へえ、ガチャローさんって言うのね。じゃあ早速――」
「早速? 一体何を? あ、もしかして宿屋へゴー的なやつですか――」
言い終わるかどうかというタイミングで、
「死ねぇニュービー……!」
かわいい姉ちゃんはなんか光弾をぶっ放してきた。
「ギャアアアアアアアア…………アレ?」
マジで想定外の展開でビビりにビビってビビリンティウスって感じだったが、蚊が刺した程度の衝撃だった。
つまりアレだ、俺の耐久値がすごかった。
「えいえいっ」
というわけでパンチをお見舞いした。
「ひゃうんっ!」
かわいい姉ちゃんはなんか悶絶したっぽい声を出しながら尻餅をついた。かわいい。あと胸が揺れた。
「くー、やるわねアナタ」
微妙に悔しそうな感じで姉ちゃんは言った。
「ひどいですねお姉さん。俺は敵なんかじゃありませんよ」
「だからニュービーって言ったでしょうが」
「あ、じゃあアレですか。初めから初心者狩り目的だったってわけですか」
「ふん、そうよ。なのに何故か全然効いてない模様。ぐぬぬ、解せないわね、アナタほんとに初心者?」
そんなことをぶつぶつ呟いている姉ちゃんの足元になんかカードが落ちていた。位置的にはさっきのスライム男を倒したあたりだと思われる。
「なんだこのカードは」
拾ってみるとなんかEXPと書かれていた。もしかしなくても経験値カードだ。
「いや何? ここそういうレベルアップ方式なわけ?」
「ふふん、ご存知ないようねニュービーさん。それは経験値カード。それを食べることで私たちはレベルアップするのよ!」
何やら自信満々にチュートリアルめいたことをおっしゃるお姉さん。タイプなので何をしていてもかわいい。
……いや待て。
「……え? レベルアップなの? ランクアップじゃなくて?」
「は? 何それ。レベルじゃないのアナタ」
「うーん、なんかランクなんですよね」
などと言いながら俺はウィンドウを開けた。そこにはやはり強キャラ感漂う俺のステータス(ただし付け焼き刃)が表示されていた。そして俺のステータスにレベルの概念はなく……あ、ごめん訂正、スキルにはレベルの概念があったわ。
……まあともかくとして、俺の強さを示す指標的なやつはレベルではなくランクだった。
「……ステータスがすごい高いことにもびっくりなんだけど……一個思い出したことがあるわ」
なんかいい感じのタイミングでお姉さんが口を開いた。
「何なんですかお姉さん」
「この世界の生命体は大きく分けて二種類いるのよ……」
「ほう、それは一体どんな――」
「一つはレベルで強さが表示されるやつ……そしてもう一つがランクで強さが表示されるやつ……以上よ」
「…………」
それもうただの表記割れなんじゃないの?
「とにかく、私も細かいことはよくわからない……っていうかランクで表示されている人なんか初めて見たわよ。何? 枠が黒色とかそういう感じなの?」
「いやー、そういうブラックカード的なやつかどうかはわかんないスね。俺もそのへん気になってたんスよ。なんかそういうのわかるとこないですか、ついでに共用PCとかあると尚良いんですけど」
いやぁ、我ながら図々しすぎるだろとか思いつつもとりあえず聞いてみたのだが、
「あー、市役所とかで聞くといいんじゃない?」
なんか妙に現実的なワードを伴った答えが返ってきた。
「あぁ、市役所。……あの、何か酒場的なところじゃなくて?」
「近くの酒場はダメね。『やつら』の拠点だから近寄らないほうがいいわよ」
「やつら」
「ええ、『やつら』よ。『やつら』はマジでヤバイからヤバイわよ」
「ヤバイからヤバイ」
何も具体的なことがわからないが、とにかく『やつら』とやらはヤバイらしい。覚えておこう。
「まあそんなわけだからおとなしく市役所で聞いてきたほうがいいわよ」
なんだかんだと忠告してくれるお姉さん。やさしい。
「って、お姉さんは一緒に来てくれないんですか」
「なんでアナタについてかなきゃいけないのよ」
「正直タイプなんです!」
「ひゃうっ!?」
決まった……! 今度こそ決まった……!
「待て……!」
その時、空から何者かがイケボと共に飛来した。
「エリカは俺が告白したかったんだ!」
なんか発言は絶妙にダサいがとにかくイケボなので強い……そう思わざるを得ないほどイケボの男が顔をこちらに向けた。
そいつは、なんか黒いコートを着たクールな感じの青年だった。お姉さん――どうもエリカさんというらしい――と同い年ぐらいっぽいので俺より三歳ぐらいは年上だろうか。あとイケメンでもあった。とてもつよい。
「カイト……! なんでここに……」
「エリカ、君は今日、そこの木の下に呼び出された……そうだね?」
「ええ、市役所に務める佐々木さんに『伝えたいことがある』からって」
その時、カイトとかいうイケメンの目がカッと見開かれた。
「そいつは来ない! なぜなら俺が勝負に勝ったからだ……!」
「そんな……カイト、あなたまさか佐々木さんを――」
「ああ倒したのさ……レスバトルでな……」
「レスバトル」
「何言ってんのよカイト! どうせ今回も相手のアカウントにクソリプを大量に送りつけてたとかそういうアレなやつでしょ!」
「クソリプ」
なんか話の流れがアレな感じになってきた。もうひとりで市役所に行ったほうがいいかもしれない。
「さっきからオウム返しみたいなことしかしないそこのお前! 俺はお前からもエリカを守ってみせる……!」
「やめて! 私のために争うのは!」
エリカさんの倒置法を用いた言い回しにすらかわいさを感じた俺は、一人で市役所に行くプランを速攻で破却、すぐさまカイトとやらと対決するプランに切り替えた。
「そんなに言うんならやってやるぜ……カイトとやら……」
「俺の名はツブヤイター・カイト。伝説の戦士、その名を受け継ぎし者……」
「たまたま名前が同じなだけじゃない……!」
「でもツブヤイターって肩書かっこいいもん! 俺だってカイトだからツブヤイターを名乗りたいんだもん! エリカだって昔かっこいいって言ってくれたじゃん!」
「いつの話よそれ!」
「ほらあの……幼稚園ごろのやつだよ!」
「覚えてないよそんなの!」
「俺は覚えているもん!」
なんかずっと続きそうな痴話喧嘩を繰り広げ始めたので俺はムカついてきた。憎しみは持たないようにしておきたいが、痴話喧嘩をずっと聞かされる状況に関してはちゃんと苦言とかそういうのを発信する権利があるはずだ。ゆえに俺は――
「カイトとやら! タイマンで決着つけよう……ぜ!」
「いい度胸だ馬の骨……! エリカは俺のものだ……!」
なんか上手いこと挑発してさっさと決着を付けることにしたのだった……!
クソどうでもいい用語集その①
思念執筆術式『シャベッター』
自分が思ったことがそのまま文章化され、専用の掲示板なりメールなりに投稿される技術。
魔法と科学がなんかいい感じにハイブリッドしたやつである。
数年前まではその有用性を軍事利用する動きもあったのだが、とあるマシーンのエースパイロットが戦闘中に少し考え事をした際、シャベッターを搭載した魔導兵器がそれに反応してしまい敵パイロットにクソリプみたいな鬱陶しい攻撃を仕掛けてしまったことがあった。
そのために「あれちょっと危なすぎるよな……」という風潮が高まり、現在では軍事利用及び感度の向上に関しては規制の方向に話が進んでいるという。