金策と魔術契約
「金がない」
俺は自室で項垂れていた。
この世界での金策は18歳になり、一人暮らしを始めてからという予定だったので、自由に使えるお金はとても少ない。
ほかの世界では、小さいころから様々な方法で金策をしていたので、お金には困ることがなかった。ゆえに、失念していたのだ。
「人形の設定は終わったが、このままだと配置先まで行けないぞ……」
現在使っている中で一番安全な転移魔術は、過去の情報を参照し、その座標にいた時の記録を使い転移先を決定するため、行ったことがない場所には行くことが出来ないのだ。
「とりあえず、京都や奈良、大阪、あと東京もなんとかなるか」
ここは修学旅行で行ったので、転移できる。
しかし、ほかの場所は難しい。
転移用の魔法道具も人形たちでは設置できないので、俺自身が行かなければならない。
「仕方ない。先生に借りるか」
俺は小学校で知り合い、予定が合うときに魔術を教えている斎藤先生に頼むことにした。
さっそくスマホを取り出し、先生に電話を掛ける。
『もしもし、斎藤です』
すぐに繋がった。
なんだか嬉しそうな声がする。
「あ、先生。今日はちょっと頼みがあって連絡したんですが、時間開いてませんか?」
『もしかして、あれに関することですか?』
「半分アタリで半分ハズレです。出来れば人のいないところで会えるといいんですが」
『わかりました。いつものところに行ってください。すぐに向かいますから』
「ありがとうございます」
そう言って、電話を切った。
あれ、とは、魔術の事だろう。電話の向こうから聞こえていた音から察すると、買い物中だったかもしれない。たぶん、デート中ではなかったはずだ。まあ、適当な服を一式そろえてプレゼントすれば問題ないだろう。
魔術を使い一瞬で服を作り上げ、マジックボックスに仕舞うと、先生の家に跳んだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま戻りました」
数分ほど待っていると、斎藤先生が帰ってきた。
「先に上がらせてもらってます」
顔を見せながら、そう答える。
先生はすぐに身支度を終え居間へと歩いて来た。
「今日はどうしたんですか? 香里ちゃんと何かありました?」
「そういう類の話ではないです。今日に限っては茶化されると困ります」
その一言を聞くと、先生はすぐに真剣な表情になった。
「すみません。本題をどうぞ」
「お願いを先に言うと、お金と名義を貸してほしいという事です」
「……それは、どういうことですか?」
なにか悪いことをしようとしているのではないか、そう考えているのが見て取れた。
「時間も惜しいので、魔術も交えて話します。所持している通信機器の電源を切ってもらえますか?」
「分かりました」
先生は持っていた携帯電話の電源を切った。
俺も二人をすべて覆う大きさの結界を張る。
「当然ですが、この話は他言無用です。許可を出すまでは一切口外しないで貰います。これには、魔術契約を使用するつもりです。よろしいですか?」
魔術契約とは、魔術により対象者に霊的なパスをつなぎ、契約を違反しようとした場合、何らかの方法で違反が出来なくなる、というものだ。方法の中には違反しようとした対象者が死亡することもあり得る。
この世界でこれを行うのは3回目だ。
香里と先生に魔術を教える際、許可なく他人に教えないという契約を結んだ。
「はい。口外しません」
俺はその言葉を聞くと、すぐに契約用の精霊紙を取り出した。
精霊紙はこの世界での生産に成功していないので、数が少ない貴重品だ。
だが、この紙を使った契約は文字通りの絶対となる。
「やり方は覚えてますよね?」
「もちろんです」
「それでは、」
そこで一旦言葉を切り、目で合図をする。
「「我は契約に従う事を誓う」」
俺と先生の声が完全にハモった。
言い終わると同時に、精霊紙が輝きを放つ。
光が収まると、それぞれの目の前には契約の内容が書かれた紙が浮かんでいた。
「我、中島 宏輝は、汝、斎藤 和江に対し、ベクトの情報について許可なく口外することを禁止する。我は対価として、ベクトの情報を開示する。破棄条件は我の死亡」
「相違なし」
「「契約はここに成立した」」
言葉と同時に、紙は一瞬で燃えつきた。
みなさんこんにちはyoshikeiです。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。