繰り返される転生
他のやつの更新もしてないのに、新しく始めてしまった……
不定期更新で長さも特に決めてません。プロットだけは作ったので、そこそこのスピードで投稿できるかと思います。
見慣れた部屋、見慣れた天井、いつもの弟子たち。
私はその中心にあるベッドの上で横たわっていた。
―――もう何度目だろう……
ふと、そんなことを思う。
私はこれまで幾度となくさまざまな世界で転生を繰り返し、魔術の研究を続けてきた。
回数は1000回を超えたあたりで数えるのをやめた。たぶん1500回くらいは転生したと思う。実際は数えていた1000回もたまに間違えていたような気がするので、もっとだろう。
その間に様々なものを見て、聞いて、そして様々な人と出会い別れた。すでに転生を始めた頃の記憶はうっすらとしか浮かんでこなくなっている。
だが、そんな状況に至っても未だに心のどこかで『まだだ。まだ、続けるんだ』そう叫ぶ者がいるのだ。
「先生……」「師匠……」
そう言いながらすすり泣く声が、周りから聞こえてくる。
自分の生徒たちに見送られるようになったのは、たぶん400回くらい転生してからだったと思う。
なかなか研究が進まない時、気まぐれに取った弟子の行動からヒントをもらい、それ以降弟子を取るようになった。
次もまた知らない場所で目が覚めるのだろう。
何度も経験した別れだが、やはり寂しく思ってしまう。
900回目に自分の魂へある魔法を埋め込む方法を見つけ、転生後にある程度は転生前の身体能力や魔力量を引き継げるようにすることが出来た。おかげで最近は覚醒直後でも様々なことが出来るようになったが、研究に必要になる身体能力や魔力量を完全に引き継ぐことはできていない。
ちなみに、魔術は意思とイメージで行われ、魔法陣や詠唱はそれらを簡単にするための補助として使われている。魔法は陣や詠唱を行い、特殊な現象を起こすもののことをそう呼んでいる。
―――そろそろ、か……
私は何度も経験した感覚が再度訪れたことを感じた。
いつまで続ければあの声は聞こえなくなるのか、そんなことを考えたが、なぜ転生しているのかもほとんど思い出せなくなった今となっては、簡単に答えが出てくるわけがなかった。
そして、周りにいる弟子たちの声を聴きながら、この世界から旅立った。
◇◆◇◆◇◆◇
「宏輝ー、そろそろ起きなさーい」
どうやら、今回の名前は中島 宏輝というようだ。
「はーい」
とりあえず記憶の整理をしつつ、返事をする。
ちなみに、私の転生の魔術は6歳になって数日後に意識が戻るようになっている。それまでの間は、私に都合のいいように生活をする。
今回も転生術式は問題がなかったようで、正常に作動したようだ。転生前の必要な記憶は持っている。
記憶が戻らなくても、魂に魔術回路を鍛錬させ別の時空に作った個人データベースにアクセスするようになっているはずなので、転生時の記憶の有無は必須ではない。
どうやら現在の体の記憶を見る限りでは、この世界では魔術や魔法は世間一般では認知されておらず、科学が進歩しているようだ。ただ、もっと先の文明も見てきたことのある私としては、特に興味のある技術はなさそうだ。
とりあえず、この世界の文明レベルを引き上げるつもりもなければ、新しいものを公表して金を貯えるつもりもない。金はあっても困らないものだが、現在は被保護者、このタイミングで稼ぐのにも上限がある。
まあ、自力で稼がないと、翌日に生きていられるかどうかも怪しいような世界でないことに感謝するべきだろう。今の世界を基準に、文明が進んでいる世界でも、遅れている世界でも、そのほとんどが福祉がしっかりしていなかった。
私が記憶している情報を見ると、そういう国もあるようだが、この国は特に福祉がしっかりしているようだ。
なにかあっても、なんとかなるというのはとてもありがたい。
記憶の整理と統合を終え、様々なことが分かった。この世界はインターネットやテレビ、新聞を使い、情報が広まる。婦人方の会話によっても広がるが、私の母親はそこまで積極的に話す方ではないようだ。
情報網が魔法に頼っていないなら、先に原理を知っておきたい。大半の情報はインターネットに落ちているようなので、そこに接続するための手段が必要だ。
と、思ったが、どうやら私の父はIT関連? とやらを生業としているらしい。たぶんパソコンを触っていることから、インターネットにも多少は詳しいのだろう。
そんなことを考えていると、母親が部屋へと入ってきた。
「宏輝くーん、起きないと…って、一人で起きれたの? 偉いわねぇ」
そう言いながら、頭を撫でてくる。
子ども扱いをするな! と言いたいところだが、現世では私はこの人の子供だ。むしろ子供扱いをすることが当然なので、甘んじて受け入れる。
「―――会社のサーバーに、今日未明なに者かがハッキングにより侵入した模様です」
テレビからそんな声が聞こえてきた。ふとさっきの疑問を思い出し、母親にもインターネットになにが使われているのか、ダメもとで聞いてみることにした。
「おか……じゃなかった。ママ、インターネットってなにを使ってるの?」
危なかった。なんとか気づいてよかった。
今までの呼び方は「お母さん」か「母上」「お母様」などが多く、「ママ」という呼び方はこれまでの転生で使う事がほとんどなかったため、間違えるところだった。
「インターネット? なに、興味があるの?」
「うん!」
とりあえず、いつも幼少期に行っている無邪気な子供を演じる。
すると、母親はスマホを取り出して
「えっとね。インターネットは、インターネット・プロトコル・スイートを使用し、複数のコンピュータネットワークを相互接続した、グローバルなシステムである。だって」
以上、ウィキペディアより。
父親がこの場にいたら、こんな言葉を言っただろう。
いやはや、誰に配慮しているんだか。
両親のどちらかがスマホで調べなにかを説明したりするときには、父親が毎回、最後にそう付け足すのだ。
「って言っても、わかんないよね」
母親はそう言いながら笑った。
こちらの世界での用語の前提知識が乏しいため、ほかの世界の物に当てはめることもできそうにない。つまり、さっぱりわからないという事だ。
そうだ。スマホがあれば、インターネットが使えるじゃないか。
「じゃあ、スマホはなにを使っているの?」
「えっと、それはスマホがどうやってネットに繋がっているのかを聞きたいの?」
「たぶん?」
たまに思うのだが、転生先での世界での前提知識が6歳では乏しすぎる。だが、しっかりと知識をつける10歳や15歳となると、魔力の成長が遅くなるため、効率が悪い。それに、そこまで成長してしまえば、しっかりとした人格が形成されてしまい、覚醒後もその影響を受けかねない。
よって、あきらめるしかないのだが、この世界は6歳では一人で外出すると怖い人に連れていかれる可能性があるため出してもらえず、情報の収集もままならなかったようだ。めんどくさいったらありゃしない。
「たしか、このスマホは今、うちのルーターと電波で繋がっていて、ルーターがインターネットに繋がってるんじゃないかな?」
なるほど、電波か。それなら大体わかる。父親の見るテレビ番組に数回出てきているのを見た。
それに、ルーターとやらはわからないが、たぶんあれだ。こちらの世界の言葉に置き換えるなら接続中継機器の事だろう。なんだが、知識が偏っているような気はするが、まだ6歳。ここからの修正がいくらでも効く範囲だ。
「へ~」
とりあえず、わかったようなわからなかったようなよくわからない状態でも適当に納得した感を出しつつ、相槌を打っておいた。
「まあ、わかんないよね」
が、その必要もなかったようだ。確かに6歳で理解するようなものではなさそうだな。
くぅ
可愛い音が聞こえてきた。
「あ、そうだった。早くご飯食べて保育園に行きましょうね~」
どうやら私の腹がなったようだ。
いろいろとやることはあるが、朝食をとってからにしよう。腹が減っては戦はできぬ。
朝食を食べ終えた私は、保育園へと連れていかれた。
どうせなら、家の中で魔術回路を起動させたかったが、仕方ない。先生方には悪いが、園内で起動させるとしよう。
魔術回路の起動は魔術を意図的に使うために必要な工程だ。
だが、火事場のバカ力を自分の意志で使えるようにするのと同じことをするため、体への負担が大きい。
この工程も何千回と繰り返してきたが、起動後の昏睡も含めて最低でも30分はかかる。この体はそこまで鍛えられていないため、50分から1時間はかかるだろう。
まあ、適当に周りの目をごまかしつつ部屋の隅で行えば、そうそう目立つこともあるまい。
そんなことを考えていると、いつの間にか保育園の中にいた。
周りを見ると、いつも遊んでいる少女(この場合、年齢的に見て幼女の方が正しいのかもしれないが……)を見つけた。
「マナちゃん、おはよう」
声をかけると、彼女、草ヶ部 真央もこちらを向き、
「あ、コウくんおはよ~」
と、笑顔で言った。
視界の片隅に映っている時計をチラリと見ると、いつも先生がみんなに声をかけるまで1時間以上あった。
それなら、と思い、少し眠そうにしながら、
「マナちゃん1時間後くらいに起こしてもらってもいい?」
と言う。もちろん眠くはない。魔術回路の起動のためだ。
だが、
「いちじかん?」
どうやら、時計についてはまだよくわかっていなかったようだ。
まあ、この年なら仕方ないだろう。正確な時間に起きることはできないが、もう少しわかりやすい時間の指定にしよう。
眠っている時間がかなり長くなってしまうが、仕方ない。
「えっと、先生がみんなを集めるときに起こしてほしいな」
「わかった~」
マナちゃんはそう言うと、他の子たちと遊びに行った。
「これで魔術の起動が出来る」
部屋の中で人目に付きづらい場所に移動し、壁にもたれかかり、楽な姿勢になる。そこで、自分の意識を内側へと向けた。
そして、深く、自分の中心を探るようにして、魔術回路を探す。
……見つけた。
「魔術回路、覚醒」
小声でそう唱えると同時に、私は意識を失った。
ゆさゆさ
誰だ、魔術回路の起動で疲れているというのに起こそうとしてくる奴は。
ゆさゆさ
なんだか、声も聞こえるけど、僕は疲れてるんだ。
「コウくん、起きてよ~」
そんな声が聞こえている間も体はゆすられている。
急速に意識が戻り、思考がはっきりとしてくる。
そうだ。魔術回路を起動させてたんだ。
私は6歳児が行うであろう起床時の反応をしながら、目を開けた。
「おはよ、コウくん」
時計を見ると、頼んでからちょうど一時間後だった。
もしかして、意味を理解していたのかと思っていると
「かくれんぼやろ?」
遊びに誘ってきた。
マナちゃんの後ろには数名、こちらを見ながら立っていた。どうやら、ただ遊びたかっただけのようだ。
まあいい。かくれんぼなら魔術を使う方法が多くある。魔術の浸透した世界だと、基本的にルール違反と言われていたが、この世界ではそんなルールは存在しない。
マナちゃん達には少し気の毒だが、練習相手になってもらおう。
「うん」
じゃんけんをすると、私が鬼になった。
ありがたい。これですぐに確認できる。
「じゃあ、数えるね」
そう言って体を壁に向ける。
「いーち、にーい、さーん……」
少しゆっくり数えつつ、脳内で探査魔術のイメージと魔法陣を組み上げる。
「なーな、はーち……」
組み上げを終え、入念に魔法陣を確認する。
魔法陣は紙に書いておくのだが、現在は用意できていないので、脳内で組み上げた。
ちなみに、詠唱や魔法陣を使うとイメージのみで行うよりも、消費魔力が減少するという効果がある。稀に法則がぐちゃぐちゃになった詠唱や魔法陣を使うやつがいたが、それは消費魔力を増やすことになるので、使えば必ず消費魔力が減少するとは限らない。
「きゅーう、じゅう……もーいーかい」
「「「もーいーよー」」」
返事はすぐに返ってきた。
私はさっそく魔術を起動させる。
魔術は何の問題もなく発動し、自分を中心に半径100mほどの詳細な情報が流れ込んできた。
すぐ近くに、目標の人影を見つけた。
とりあえず、見当違いの場所を探すそぶりをしつつ、この体の特性や得意不得意などを探る。
時間つぶしを終え時間を調節しながら隠れていた人を見つけていった。
「あ、コウくん見っけ!」
最後の一人を見つけ時計を見ると、いつもならあと数分でお絵描きの時間が始まる所だった。
私は今まで特に目立つようなことはしていないようなので、特別に警戒されていることはないはずだ。
なにをするにもこの世界の情報収集と、魔術回路や基礎体力の強化が必須だろう。
だが、とりあえずはお絵描きに集中するとしよう。
なにも考えることもなく、気ままに書くのは久しぶりなのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
ふぅ、年甲斐もなくはしゃいでしまった。
手の甲で額の汗をぬぐいながら、周りにいるクラスメイト達を見る。
先程まで、私も あの中ではしゃいでいた という事を思い出すと、少し恥ずかしくなる。
そろそろ情報収集のためにインターネットとやらを少し覗いてみることにした。
脳内に電波を検出し内容を解析する魔術とそれをたどるための魔術、それらを可視化を脳内に可視化する魔術を組み上げる。
慣れていないこともあり術を組み上げるのに時間はかかったが、なんとか組むことが出来たので、さっそく魔術を使用した。
だが、そこで激しいめまいに襲われた。
な、なんだ?
即座に魔術を停止させ、原因を探る。
すると、魔術回路の起動による疲労に加え、この世界のインターネットが思っていた以上に広く、引き継いだ魔術回路の能力値だけでは足りなかったようだった。
「電脳世界が存在しているわけではないはずなのに、何をどうしたらこんなに広くなるというんだ」
これまでの世界ではありえないほど広いネットワークに驚き、そうぼやいてしまう。
仕方ない。魔術回路を強化してから再チャレンジしよう。
そう決心し、体力づくりのため全力で鬼ごっこ等をした。
こんにちはyoshikeiです。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。
なんとなく、一回も読んだことがない逆転生ものを書いてみたくなってしまい、書きました。
ただ、書くネタがない上に、保育園から始めるとかバカけたことを過去の私はしていたので、中学生(高校生になる可能性あり)までは基本的に面白いイベントが起こせそうな行事だけ書いていくつもりです。
今後ともよろしくお願いいたします。