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孫を卒業した

作者: ヒロモト

一気に歳を取った気がする。


俺はもう《お孫さん》じゃない。


悲しさは意外とない。


癌やら余命やら騒いでた時は何度か泣いたが、覚悟を決める時間を与えてくれた。


おつかれさん。


時として忘れがちな人は死ぬという当たり前のことを頭のなかで何度も反芻する毎日を送った。


正直疲れた。


いいんだ、俺には血も涙もあるってことの証明だ。


ありがとさん。


大正から始まった戦争跨いだ一世紀近くの大往生。


すげー人生。


誇らしい。


発作で死ぬほど苦しんでも「もう夜遅いから帰りなー」と言えるあなたを尊敬。


先々週頂いた最後のお小遣いはごめん使いきる。


使って欲しいから小遣いは渡すもんだろ?


ハエ叩きにタオルに俺の産まれた日に書かれたノートのメッセージに謎の缶詰、形見はもう十分。


「いらないからお金は大事にとっとけ」「いーから!いーんだって!小遣いだから!」そんな会話が二度とできないのは寂しいわ。


ひ孫の顔をみせらない孫でごめんな。


病室にはいつも人がいた。


だから「俺はネットで小説書いてんだ。いつかは本にしてーんだ」


言えなかったけど、怒られそうだったし、余計な心配かけそうだったから正解だったかもな。


耳も遠かったから叫ばないと聴こえないし、んなこと恥ずかしくてびょーいんで叫べんよ。


補聴器も杖も使わなかったな。


弱っても頼らないのは立派だけど周りは心配してたぜ?



あなたの人生は愛し愛された最高の人生。


だから悲しいとか悔しいとか後悔とかあなたの前では語れない。


おつかれさん、ありがとさん。


ネガティブなことはここで綴るわ。


書くことは俺のルーティーン。


どんな時でも毎日投稿できたのは自信になった。


ありがとさん、おつかれさん。



利用したとか言わんでな?



やっぱ寂しいわ。


どんな時でも俺の味方でいてくれる人がこの世に何人いるよ?


その一人がいなくなった。


俺は自分勝手か?



思うんさ。


あなたの死は俺にとって大きなダメージだけど俺の人生にとって大きなプラスであれってな。



ドラマじゃないんだ、大切な人の死で劇的になにかが変わるなんて思うほど俺は若くないが、そう考えた方が、そうなった方が喜んでくれるよな。



俺は自分勝手か?



ありがとうございます。お疲れ様です。



お疲れ様です、ありがとうございました。



あの世にネットがあるなら20年は昔のガラケーでこの告白を読んでくれ。


恥ずいから感想は書かないように!



じゃあ書くわ、またな。


盆には帰ってくるように!化けてでるなら昼でお願い。


お化け、実は、めっちゃこわい。


あなたの孫の小さな秘密。


おつかれさん、ありがとさん。



あの世があるならまた会おな。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 実話…?じいちゃんの人となりが伝わってきました。 [一言] 何事もなく書き続けるのが供養になるかも知れません。
[良い点] とても伝わる文章でした。 [一言] 順番としては「いずれ子供も卒業する」ということですね。寂しいからこそ豊かになるというか、そうした気づきを最後に与える人生に憧れます。素晴らしいお祖父さん…
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