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四季の女王達   作者: 大西洋子
9/12

命の廻り

 白鳥を失った王子と北風は言葉を失ったまま、人が住む最北の村に向かって歩き続けます。

 もう少しでその村にたどり着こうとしたとき、またもオオカミの群れが姿を現しました。

 王子は、持っていた槍の穂先の覆いを外し身が構えます。

「精霊王の第一王子、我らはそなたを狩るつもりはない」

 オオカミの群れから一頭進み出て、王子に語りかけました。

 しかし、王子は槍を構えたまま、オオカミを睨みます。

「オオカミよ、そなたらは白鳥を殺した」

「……殺したと言うが、王子よ、そなたは生きるための狩りをし、己の糧にしないのか?」

 オオカミが、逆に問います。

「王子、あなたが自ら手汚さずとも、生きるために何かしら命を奪っておられます。

 いや、それ以上に、生きるため以外に、何らかの形で命を奪っておられます」

 王子の構えた槍先が、大きくぶれていきます。

「我らは生きるために、白鳥を狩りました。それでも我らに、命を盗るな。と、仰せられますか?」 

 王子はオオカミの言葉で、ようやく槍をおろしました。

「……わかってくださり、感謝いたします。

 精霊王のご子息様が、このような地までお越しの件は、すでに雪と氷の主に伝わっております。

 雪と氷の主からの言伝でございます。空にカーテンがかかる時、最北の村近くの岬でお待ち願うと」

「空にカーテン?」

「オーロラと呼ばれるものです。この時期空にカーテンのような光が現れます。

 そのオーロラが現れるそれまで、最北の村で長旅の疲れを癒していただきたい」

 

 三日後、オオカミの言ったオーロラが現れました。

「……なるほど、確かにこれは空のカーテンだ」

 王子は急いで岬に向かいます。気がつくと声をかけてきたオオカミが並走して走っています。

 やがて、凍りついた海に突き出した岬に辿り着きました。

 オオカミが立ち止まり、空に向かって遠吠えします。おそろしく澄んだ空にビリビリと響き、さらに寒さが厳しくなるのを感じ、王子は思わず身を強張らせました。

「……あぁ、雪と氷の主が来られる」

 北風がそう呟き、空に吸い込まれるかのように、その姿が消えていきます。

「王子、北風は雪と氷との主の元に戻られました。これから、さらに寒くなりますゆえ、我に身体をお寄せになってください」

 王子はオオカミの言葉に従い身体を寄せます。そして、はっとなりました。オオカミの身体が、見た目よりかなり痩せ細っていることに。

「お主、白鳥を狩り、糧にしたはずでは?」

「あれは次の担い手に譲りました。命を確実に繋げるために」

 鳴くような風が彼らを包み、雪と氷の渦が見えました。雪と氷の主が姿を現したのです。

   

  

     

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