雪と氷の地
「……四季の女王は、それぞれの季節を統べると同時に、それぞれの力を世界に放つ。
これは、他の季節の女王も同じように、何らかの力を放っていると考えたほうがよいかの?」
フクロウ博士は秋の女王にたずねますが、女王は再び眠ってしまいました。
「……この世は、まだ、知らぬことが多いのぉ……」
言葉は残念そうですが、どこか楽しげな雰囲気が混じっています。
「博士、一度父の元に戻りましょう。もしかしたら、北に行った兄が何らかの情報をつかんでもいるかもしれません」
「ほほ、そうじゃな。どれ、ワシも王の元にまいるとしよう」
「三番目の王子さま、わたしも同行いたします。秋の女王が目覚めた時に、おそらく、事の顛末をおたずねになるでしょうから」
こうして、三番目の王子は、フクロウ博士と雁と共に精霊王の元に戻ることになりました。
さて、少しばかり時間をさかのぼって、北の地に向かった一番目の王子をみてましょう。
王子は白鳥と北風と共に、北へと歩き続けていました。北に進むに連れ、服や装備が環境に合わなくなり、立ち寄った村で身なりを整えました。
「雪と氷と地だと耳にしていましたが、以外と人がいることに驚きました」
「王子、もう少し北に集落があります。そこが人が住む最北の村になります。そこで王子様はお待ちになってください。そこから先は、この時期は死に等しい世界となっておりますゆえ」
「ありがとうございます」
王子は何故自分達がこのようなことを命じたのか、行く先々で見物を広げるためなのだと気づかされました。
百聞一見とはよくいったものです。王子は目に映る光景を焼き付けます。
「王子。気をつけてください。オオカミが後をつけてきています」
白鳥が囁きます。
「いざとなったら、私が盾になります。王子は全力で村に向かってください」
「しかし、それだと……」
王子は言葉が続けられなくなりました。白鳥の悪い予感が現実になってしまいましたから。
「白鳥、白鳥!」
王子は北風に羽交締めされた状態で、空に浮かびあがります。白鳥がオオカミの群れに取り囲まれ、その姿はオオカミの身体で見えなくなってしまいました。
「王子様、父上の、いや、皆の願いを果たすために、ここは堪えてください」
王子は北風にそうなだめられ、唇を噛み締めながら先を急ぐのでありました。