廻る季節
世界にようやく春が訪れました。
今までの遅れを取り戻すかのように、一気に花が咲き出し、渡り鳥が次々やってきました。
冬の女王は、春の女王が一人で歩けるようになる頃、忽然と姿を消しました。
春の女王は塔の中でじっとしていません。部屋の窓際から落ちるのではないかと、その危険に根を上げた女王の世話をする者らの望みで、窓に立派なバルコニーが作られました。
やがて、雪が溶け、雪解け水が命の源として廻るようになると、春の女王の背中に紋白蝶の羽が生えてました。
春の女王の行動範囲がますます広くなり、あちこち飛び回るようになりましたが、夕方には塔に戻られるので、女王の世話をする者らは春の女王の姿を微笑ましく見守ります。
春が落ち着いた頃、精霊王は三人の王子と、姫君を召還しました。
「……さて、報酬の件はどうしたらよいものか……」
「この件に関わった者は、春が来ることを待ち望んでいました。
父上、四季の女王に感謝し、次の四季を待ちわびる気持ちを表す祭をこれからも行ってください。
そして四季の女王らに長い塔生活を心地よく過ごされるよう、人々が快適に過ごせるよう、心を砕いて下さいませ」
こうして、世界に季節の変わり目に行われる祭が、いくつも出来ることになりました。
やがて、雨がよく降るようになりました。
春の女王がふらりといなくなり、数日後には夏の女王と、すっかり居心地のよくなった四季の塔のあちこちを案内する姿を見かけました。
まもなく、季節は夏になるのが、皆、わかりました。
「春の女王、いよいよ雪と氷の地に行かれるのですね。さぁ、私の力をお分けいたしましょう」
夏の女王の力を受け入れた春の女王の背中の羽が、黒い筋がはっきりした揚羽蝶の羽へと変化しました。
春の女王は四季の塔の周りをぐるりと飛び回ると、北へ北へと飛び続け、北の大地に短い春を届けにいきます。
そして、秋が終わろうとする頃、力を使い果たした春の女王の元に、冬の女王が現れます。
「春の女王、さぁ、私の中へ……」
春の女王は冬の女王に言われるまま抱きつき、冬の女王の身体の中に吸い込まれます。
「――私に歓びの心を与えてくれる春の女王よ、私はあなたのために命をかけて、季節を廻らせましょう」
冬の女王はそう呟くと、秋の女王の元へと向かいます。雪と氷の地に実りをもたらすために、そして春の女王を再生させるための力を奪うために。
――季節は廻る――




