春の女王
「この氷の繭の中に?」
「兄様、雪と氷の主は“冬の女王が譲り受けし秋の女王の力が、夏の女王から分け与えられた力を使い果たした春の女王を呼び覚ます力となろう”と。語っていましたね。
秋の女王の力は豊穣、すなわち命です。冬の女王は、秋の女王から僅かに残った力を譲り受け、このようなお姿になられたと。秋の女王は語られていました」
皆、思わず冬の女王のお顔を見ます。なるほど、確かに優しい顔つきでまるで母のようだと思いました。
「……雪と氷の主は、春の女王に関して、何か言ってはいなかったかのぅ」
「フクロウ博士、確か、このようにおっしゃいました。
……叫べ。古き刻は終わり、新たな刻の始まりだと。
……歌え。四季の廻りのありがたさを。
……感謝を。命の廻りに。と」
「おい、誰かおらぬか。
至急、祭を執り行う。古き廻りが終わり新しき廻りを祝う祭を。四季の廻りに感謝する祭を。命の廻りを気づかされる祭を」
精霊王の言葉は直ちにお触れとして示され、たちまち世界に広められ、続々と人が集まり、その集まる人相手に商売を始める者も集まりました。
いきなり祭と言われても何をすればわかりませんでしたが、しだいにあちこちで力比べをする者、剣や槍の技を競う者、大きな焚き火の周りで歌や躍りを披露する者が現れ、賑やかになりました。
精霊王は、集いし者らにありったけの酒を振る舞いました。
そんな様子を、姫君は冬の女王の側の小さな窓から見ます。
「こんな小さな窓だとよく見えないですね。誰か、この窓を大きくしてください」
姫君の命で、窓は作り変えられました。
外の冷たい風が入るようになりましたが、下の賑かさが間近まで伝わります。
「春の女王、聞こえていますか? 皆、春を待ちわびています。冬の女王、もうしばらく頑張ってください。四季の廻りを閉ざしてはなりませんよ」
姫君は氷の繭に己の身体を寄せ、中に向かって囁きました。
渡り鳥らも、空から大地から声をあげます。
祈り、祈り、祈りの聲……
その祈りの聲が届いたのか、氷が弾けるかのような音と共に、繭に亀裂が入ります。
「あぁ、繭ではなくて、卵だったのですね……」
姫君のつぶやきと重なるように、その亀裂は大きくなり、それは一気に弾けました。
「春の女王……」
冬の女王が目覚め、春の女王を抱き止めます。
「再び、あなたさまをこの地に送れたことに感謝します」




