13:屋敷は普通だった
凍らせたりするスキルが火属性っておかしいかな?
「ところで何故宿屋にいるのだ?家は?」
「お金が無いから。」
どれだけお金を稼いでも宿代、飯代、風呂代を引いてくと少しずつしか貯まらない。
しばらくは宿屋ぐらしなのだ。
そう決心していたが...
「ならば我が屋敷に来るか?」
「へ?」
屋敷?
...イグナスにしばらくついていくと一軒家があった。
「これが我が屋敷だ。」
...魔法使いの屋敷というからもっと大きくて禍禍しいのを予想してたが。
「普通だね。」
「そうだな。」
「な、なんだ貴様ら!
文句があるのか!」
「いえっ!
文句なんて一つたりともありません!
ね、トオル。」
「え、ああうん。
ないとも。」
そう。
今日からこの一軒家に3人で暮らすことになるのだ。
「おじゃましまーす。」
中に入ると、なんだろ、アンティーク感が漂っていた。
「こっちがリビングだ。」
リビングには暖炉やソファが置いてあった。
リビングとダイニングとキッチンはすべて繋がっていて、一つの大きなフロアになっていた。
「広いな。」
「そうか?
それは宿屋よりは広いと思うが。」
あと1階には洗面所と脱衣所、そしてお風呂とトイレがあった。
「2階はどうなっているんだ?」
「2階は個室が用意されている。
4部屋あるがそのうちの1部屋しか使っていないな。
トオル達は2階の好きな部屋を使ってくれ。」
「ありがとう。
でも本当に良かったのか?
僕達がここに住んでも。」
「いいとも。
ちょうど部屋も余っていたし。
それに...
この家は1人で住むには少し大きいからな。」
「そうか。
ありがとうイグナス。」
これで宿屋や風呂に金を払う必要も無い。
より資金面に余裕ができる。
なんだかんだ不安定要素は少しずつ解決しているな。
「そうだトオル。
小爆発覚えたら火属性のスキルをイグナスから教えてもらえば?
せっかく火属性の使い手が近くにいるわけだし。」
「おう!
そうか、トオルは火属性だったな!
なんだなんだ、火属性の魔法を覚えたいのなら私に任したまえ!」
イグナスが突然熱くなった。
「でもまずは小爆発からだね。
もうそろそろコツもつかみ始めたと思うし。」
「そう、あと1歩ぐらいまで来てるんだ。
本当は今日には出来てると思ったんだけど。
今からクエストに行くのはちょっとなぁ。
...明日小爆発を習得したら火属性スキルも1つ教えてもらうことにするよ。
イグナス、いいかな?」
「もちろん!
いくらでも教えてあげよう!」
目が生き生きしている。
ー翌日ー
「コツは魔力を変換した「何か」を圧縮して打ち出す。
それを意識すれば....
すぅーーー...
小爆発!!」
スゥーー...
ボン!
『スキル『小爆発』を獲得しました』
「よし、成功だ。」
「やったねトオル!」
「小爆発は火属性と相性がいいからな。
それでトオル!
どの魔法を教えて欲しいんだ?
過負荷か?
竜舞炎か?」
「いや、その2つはまだいいや。
今日はあの火を吸収するスキルを教えて欲しい。」
「ん、奪炎熱か。
あんな地味なのでいいのか?」
「いいよ。」
この人、スキルに派手さしか求めてないのか。
「トオル、また小賢しそうなものを...」
「役に立ちそうなスキルは覚えておいて損は無いからね。」
「んーまあトオルがいいのならばいいのだが。
奪炎熱は対象から熱を奪ったり炎を吸収したりできる魔法だ。
炎から身を守ったり物の温度を下げたりする使い方だな。
これを応用した熱凍結という魔法もあるぞ。
因みに吸収した熱や炎は火創造などにそのまま運用できる、つまり魔力の節約ができるようにもなっている。」
「ふーん、地味な割に結構役立つスキルだな。
これに決めた。」
「奪炎熱の習得なら家でやった方がいいな。
一旦家に戻ろう。」
多分身近に程よく熱を持ったものがないからだろう。
家に帰ればお湯などがあるからな。
ー屋敷にてー
「では習得を始めよう。
この魔法のイメージは炎熱を我がものにしようというイメージだ。
熱を支配し我がものにする。
それをこの紅茶に向けてして欲しい。」
そう言われティーカップを出された。
これなら安全にスキル練ができる。
「まずは手本を見せよう。
奪炎熱!」
イグナスが手をかざしそういうと、さっきまで湯気がたっていたティーカップから何も出なくなった。
「これで火傷の心配もなく飲めるというわけだ。」
なるほど、こういう使い方もあるのか。
「さあイメージと手本は見せたぞ。
あとはトオル次第だ。」
目の前に置かれたティーカップからは湯気がたっている。
上に手をかざすと湯気が熱い。
この上ってくる熱を、紅茶本体の熱を我がものに。
熱を感じて、それを自分に流れるように。
...お、この感覚、熱が流れ込んでくる。
この熱さが、熱が自分のモノになっていく感覚が、
「...奪炎熱。」
スッ....
「湯気が収まった...」
『スキル『奪炎熱』を獲得しました』
「よし、できた。」
「まだ練度は低いからな。
無理して炎を吸収しようとしても逆に食われるぞ。
徐々にだ。」
「ありがとうイグナス。」
「いやー、それで次は何の魔法を...」
「いや、今日はもういいや。
明日また教えてもらうことにするよ。」
「そうか、まあ火属性のことなら我に任せたまえ!」
「ありがとう、頼もしいよ。」
ふとクロを見ると何か不機嫌そうな顔をしていた。
「ん?クロどうした?」
「...トオルは風属性には目覚めないのかなって。」
?
「そういえば火属性に目覚めたのは怒の感情に目覚めた時だったな。
...もしかしたらこの先何かの感情と一緒に目覚めるかもな。」
「ふーん。」
なんだ、何でこんな不機嫌そうなんだ。
「なんだ。
トオルは後天的に火属性に目覚めたのか?」
「ああ。
まだ言ってなかったね。
僕は...」
カクカクシカジカということで、ややこしい僕のスキル事情を話した。
「ほう、それで1番初めに目覚めたのが火属性だったのだな?」
「そうなるな。」
「感情が芽生える鍵みたいなものは見つかっているのか?」
...正直わからない。
怒の時は、クロがチンピラに捕まって激怒した時に芽生えた。
しかしそれは元々僕に怒があったからと考えている。
女神も言っていた。
なら他の感情はどうする?
元々ないのならばその感情を高ぶらせることも出来ない。
...未だに謎だ。
「わかっていない。」
「そうか...」
「大丈夫だよ。」
「クロ...」
「だってトオルは優しいもん。」
...僕が優しいか。
「ありがとうクロ。」
異世界に来て、救われた気がした。
スキル、ヴァレーヒを豪爆炎から竜舞炎に変更しました。
感情は難しい。