10:その色は赤だった
『スキル『怒』を獲得しました』
突然頭に響いたその声は聞き覚えがある。
女神の声だ。
怒...
これが怒り...
フツフツと湧いてくるこの感情が...
この怒りの矛先は、ダガーの向けた先には
「おい、離せって言うのが聞こえなかったか。」
クロの髪を未だ掴んだまま間抜けヅラを晒しているチンピラがいた。
「チッ、なんだよ。
何のスキルも使えねえ雑魚かと思ってたのによ。」
「いいから離せって言ってんだろぉ!」
ダガーを構え髪を掴みっぱなしのゴミに攻撃する。
ダガーの刃が赤く光る。
「くぅ!」
ゴミは間一髪のところで避け、掴んでいたクロの髪も手放した。
「クロッ!」
「トオル...ッ」
咄嗟にクロの手を引き自分の後ろに庇うように立つ。
「火属性か。
火創造は使えるようだな。
しかもそのダガー、ミスリル製か。」
「ミスリル...それでトオルのダガーが光って...」
「チッ!
2人ともある程度属性能力が使えるのか...
分が悪いな、ずらかるぞ!」
そう言うとさっき火が消えて落ち着いたチンピラを、図体のでかいチンピラが持ち上げあの威勢のいい奴は単体で逃げていった。
ガクッと膝から落ちる。
疲れた。
「はぁ...はぁ...クロ、大丈夫か..。」
「トオル...
ごめんね!巻き込んで!危険な目に遭わせて!何も出来なくて!
ごめんねぇ...!」
「いや、クロが無事だったならそれでいい。
よかった。」
ほんとによかった。
お金を奪われてもないし、怪我は首に小さい切り傷がついただけだ。
「取り敢えずギルドにお昼食べに行こうか?」
「うん!」
そこから少し歩いたところにギルドはあった。
それぞれ好きなものを注文し話しをする。
「あいつらとは何があったんだ。」
「占い師をする前に偽物売りつける詐欺をしてたの。
それで強い剣が欲しいっていうから見た目は強そうだけどすぐ折れちゃうやつ売りつけてやったの。
その時の人だね。」
なんだろう。
改めて冷静になると結構クロが悪いな。
「でもトオルすごかったね!
無属性だったのに火属性のスキル使うなんて!
あの時のトオルかっこよかったんだよ!
髪の一部と目が赤くなってね、表情が今までになく動いていたの!」
「髪と目が赤く?」
「そう!超かっこよかった!」
なんでだろう。
あのスキル『怒』のせいだろうか。
ハッ!
「そうだ、あの時女神の声が聞こえたんだ。」
「女神の声?
もしかしてスキル獲得みたいな内容?」
「そうだった。
なんでわかるの?」
「スキルを獲得した時は女神の声が聞こえるんだ。
でも誰なんだろう、あの声を女神の声って最初に言った人。
わかるわけないのに。
聞いたことあるのかな?
あれ?なんでトオルはあの声が女神の声ってわかったの?」
ヤバ
「なんとなく。」
濁しておく。
「ふーん。
そうだ、その声が聞こえたなら登録書確認しなよ。」
「あ、忘れてた。」
内ポケットから取り出し確認する。
『感情の器』の文字に触れると新たに文字が増えていた。
怒・・・スキル所有者に「怒」 の感情と火属性を与える。怒の感情が強くなれば強くなるほど、火属性のスキルの効果が増す。
「す、すごい...」
本当だ。
本当にスキルと一緒に感情を与えられた。
そしておまけのように書いてあることもすごい。
「火属性って...
こんな簡単に属性ってあげていいものなのか?」
「そんなわけないよ。
ていうかトオルのスキル事情がややこしいよ!
スキルをもらうためのスキルで更なるスキルの可能性を広げたよ!
ややこしいわ!」
たしかにややこしい。
属性もスキルの器だ。
つまり僕はスキルの器を手に入れるためのスキルを手に入れるためのスキルを持っていることになる。
うん。
「ややこしいな。」
やっぱり僕のスキル事情は変わっている。
「火属性をゲットしたなら属性能力の欄も見てみたら?」
「確かにそうだな。」
早速用紙を振って最初のページに戻す。
仕組みはどうなってるんだろう?
そんなことよりスキルだ。
属性能力の文字に触れると「火属性」と書かれた欄があった。
と言ってもこの欄しかないが。
そこにはスキルがあった。
火創造・・・火を作り出す。作られる火の大きさや放出範囲はスキル使用者の力量や加減に左右される。
「おー。
火を作り出すのか。」
「まあ初級のスキルだね。
生活の中なら結構役に立つよ。
戦闘だと牽制に使ったり無属性能力と組み合わせたりするね。」
「なるほどね。」
心配していたスキル問題もこれでひとまずは安心できる。
あとは無属性能力か。
「街の中でスキルを試す場所みたいなのはないのか?」
「危ないからねー。
ないかな。
みんな試す時は塀の外に行ってるらしいし。」
「うーん。
午後からも動く元気はあるか?」
「今日はちょっと疲れたかなー?
もうクエストに行く元気はないよ。」
「じゃあ食べ終わったら先に宿行っててくれ。
僕の分のお金は後で返すから払っておいて。」
「トオルはどうするの?」
「スキルを試してみたいから簡単なクエスト受けてみる。
ついでにお金も稼ぎたいし。」
「そう、気をつけてね。
僕は先に宿に行ってるからねー。
ごちそうさまー。」
さて、何をやろうか。
無事、感情と属性とスキルを手に入れたのでした。