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第五愛

 パパは翔君に優しい笑顔を投げ掛けた。

「はじめまして。凛の父です。翔君、凛と仲良くしてやってね」


 パパの言葉に安心したのか、翔君は普段の笑顔を取り戻した。

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 それでもパパがいるので居心地が悪かったのか、翔君は十分ほどで病室から出ていった。


「感じのいい男の子()じゃないか。彼の事好きなのか?」


「もう、パパったら! 全然そんなんじゃないから! 初対面の時にわたしの歳を聞いてきたのよ!」


 パパはわたしの顔を覗き込んだ。

「それにしては凛も楽しそうな顔してるように見えたけどな」


「もう、そんなんじゃないってば。パパ、嫌い」

 わたしはプンとそっぽを向いた。


「ごめん、ごめん。ちょっといじめ過ぎたかな。でも好きな人が出来るって凄い事なんだよ。あ、彼もパジャマ着てたけど病気で入院してるのか?」

 パパは心配そうに再び私の顔を覗き込んむ。


「うん。わたしと同じ白血病。わたしより一つ上のステージみたい」


 そう言って俯いたわたしにパパは明るい顔で話しかける。

「じゃあ凛が勇気付けてあげないとな。二人でお互い心のケアをし合うなんていいことだとおもわないか?」


「うーん。そうだね。二人でお互い身体のケアもし合ったりしてね」

 わたしがおどけてぺろりと舌を出すと、パパは困ったようなそれでいて寂しそうな顔をした。


「おいおい。パパをいじめないでくれよ」


「冗談冗談。パパが意地悪な事言うからお返ししただけよ」


 パパは笑顔に戻った。わたしはパパの笑顔が大好きなのだ。パパの笑顔で勇気が出たり、安心したりする。


 そんなパパの為にもわたしは生きなきゃならない。


 夜八時、パパが帰るのを待っていたかのように、病室のドアがノックされた。


 ――コンコン。


「はあい」


 ドアが開くと翔君の笑顔が見えた。


「どうしたの?」


 翔君はわたしの部屋をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認すると話し出した。


「あのさ、もうすぐ八時半だろ? 一緒にディズニーの花火見にいかない? 五分も歩けば綺麗に見える場所があるんだ」

 

「え? でも勝手に外出なんてしてバレたら怒られるよ」


 それでも翔君は、

「大丈夫だって。俺が責任とるからさ。行こうよ」

 そう言ってわたしの手を引っ張った。


 わたしたちは看護師さんに見つからないように忍び足でなんとか病院を抜け出したのた。


 千葉県浦安市、わたしの自宅も入院している病院も浦安(このまち)にある。


 外に出るやいなや、翔君はわたしにハイタッチを求めてきた。


「イエーイ。やったね。ほら凛ちゃん、こっち、こっち。ここに座って。バッチリ花火が見えるから」


 わたしが座った瞬間。


 ――ドドーン。


 ディズニーの花火が始まったのだ。


「うわあ! すごおい!」


 わたしが花火に感動していると、翔君の顔が近づいてきた。


「え?」


 抵抗する間もなく翔君の唇がわたしの唇を(ふさ)いだのだ。


 わたしも知らず知らず翔君(かれ)の首に手を回し、引き寄せていた。


「凛、二人で頑張ろう。俺たち、生きなきゃだめなんだよ」


「うん」


 彼は後ろからわたしを抱き締めてくれた。そのまま、数分二人で花火を見つめていると、


 ――ドドドドドーン。


 フィナーレと思われる白銀の花火が浦安の夜空一面を飾ったのだ。


 わたしは振り返り再び彼の顔を見つめた。


 彼はフィナーレの余韻を楽しむように夜空を見つめていた。


 そして(わず)か五分間だけ開園された東京ディズニースカイは幕を閉じた。

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