第四愛
翌日、お昼ご飯を食べ終えると翔君が来てくれた。
「そこのお姉さん、俺と散歩しない?」
「えー! ナンパですかあ?」
わたしは腕を組み、おどけてきた彼に対しておどけて返した。
「ははっ。元気かな?」
「うん。この通り全然元気だよ」
わたしは両手を広げて元気であることをアピールした。
「良かった。少し散歩行かない?」
「しょうがないなあ。彼女のいない可愛そうな人にちょっとだけ付き合ってあげるか」
「ひっでえなあ。こっちだって彼氏のいない可愛そうな女の子にボランティアで誘ってやってんのにさ」
彼はしてやったりという表情でそう言った。
「あっ、酷おい」
わたしはほっぺを膨らませる。
お互いの目を合わせぷっと吹き出し、わたしはベッドから降りた。
「今日はほんとに調子いいから少しあるこうかな」
そう言ったわたしに彼は肩を貸してくれた。
「ほんとに大丈夫? 鳥越さんが許可してくれたら歩こうか。でも鳥越さんが駄目だって言えば車イスね。俺が押すからさ」
彼の優しさがなんだか嬉しかった。ナースステーションに行き、彼が鳥越さんに話しかけている。
「駄目。車イスなら十分だけいいわよ」
そんな約束をしたらしく、彼は戻ってきた。鳥越さんはわたしの顔をみてにこりと微笑んだ。
「十分だけだってよ。しかも車イスだって。時間ないから急ごうぜ」
彼のステージの方が進行しているにも関わらず、僅か十分の為に急いで車イスを押してくれた。
病院の外にあるベンチに座った時、彼は咳き込んだ。
「ゴホッ、ゴホッ」
「翔、大丈夫?」
わたしはそう言ってかれの背中を擦った。
「ごめん、ごめん。大丈夫。なんでもないよ」
彼は胸を押さえながらわたしに微笑んだ。
「もう、心配しちゃったじゃないの。でも良かった」
「へー。心配してくれたんだ。嬉しいな」
わたしはなんだか恥ずかしくなり、顔を赤らめた。
「別に深い意味はないからね」
その後もたわいのない会話をしていた。僅か十分ではあるけれど、わたしにとっては白血病のことを忘れられる一瞬であった。
「そろそろ帰ろっか。鳥越のおばちゃん怒ると怖いし」
無邪気な彼の顔はわたしの心を癒してくれた。
あれ? この人といるとなんだか心地いい。嘘でしょ? うん、恋なんかじゃないよ。
すると看護師の鳥越さんが私たちを見つけ、声を掛けてきた。
「二人とも大丈夫? そろそろ病室に戻らなきゃ」
鳥越さんは心配そうな表情でわたしに肩を貸してくれた。
「今ちょうど帰ろうとしてたところなんです。鳥越さんの噂話をしながら。ねっ、凛ちゃん」
そこで、わたしに振るかな。
「え? うん……鳥越さんていい人だよねって言ってたところなんです」
わたしもわたしで話を合わせてしまった。彼はわたしに「グッショブ」とでも言わんばかりに目配せしてきた。
鳥越さんに、連れられわたし達は部屋へ帰っていった。
部屋に戻るとパパがわたしを待っていたのだ。翔君は緊張した面持ちで直立不動している。
「こ……こんにちは。翔と申します」
パパは翔君の緊張している姿が可笑しかったのか、ぷっと吹き出した。