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第二十愛

【この先の展開について】


この先の展開について、法律上の問題点などを調べる為、骨髄バンクのとある機関に電話で取材させていただいたところ、お仕事中にも関わらず快くご協力いただくことができました。


私の考えていた展開では法律上少し無理があるようですが「小説の中の話」としてご容赦願えればと思います。


また、ご協力いただいた機関の方々にはこの場を借りてお礼申し上げます。

 わたしは再び検査を受ける事になる。そしてその結果は……再発である。しかも「骨髄移植のみが最後の(とりで)」となったのだ。


 しかし他人であるドナーと一致するのは四千から八千分の一といわれているようだ。兄弟姉妹であればその確率は四分の一まで上がるのだけれど、一人っ子のわたしには意味のない事である。


「遠藤先生! 親子なら……わたしなら適合するんじゃないんですか? 親子で、しかも血液型も同じなんです。調べて下さい。お願いします!」


 パパは先生に殴り掛からんばかりに詰め寄っている。


「お父さん、落ち着いて下さい。確かに他人に比べれば適合率は高いです。しかし親子というのはなかなか適合しないんですよ」


「そんな! 親子なんですよ。適合するに決ってるじゃないですか! 先生!」


「いいですか、お父さん。落ち着いて聞いてくださいね。『白血球の血液型』は両親から半分ずつもらうことになるんです。皆さんが一般的に知っている『A、B、AB、Oなどの血液型』ではなく『白血球の血液型』の事ですよ」


 先生はそう言うと眼鏡を外し白衣のポケットへしまった。


「仮に両親の『白血球の血液型』がAB、CDだったとしますよ。半分ずつもらうので生まれてくる子どもの『白血球の血液型』はAC、BC、DA、DBの4種類だけになるんです。要するに兄弟姉妹であれば四人に一人は同じになるんですが、四人とも親とは一致してないでしょ? ここまでは解りますね?」


 先生は紙に書きながら説明してくれている。確かに親と同じABの子供もCDの子供も産まれないのだ。


「あ、はい」


「もしも親がAB、BCというふうに同じBをもっていた場合は、AB、BB、AC、BCの子どもが生まれてくるのでABの子どもだけ親と重なります。でもね、『白血球の血液型』は『一般的なABOの血液型』とは違い沢山種類があるんです。夫婦で同じBを持っているなんて非常に稀なんです。だから親子で一致する可能性は僅かニパーセント程しかないんですよ」


「そんな……」


 パパは項垂れ力なくパイプ椅子に座った。


「まあ、念の為に調べてみましょう。他人に比べれば遥かに可能性は高いんですから」


 先生はパパの肩をポンと叩き病室を後にした。


 後日、調べてみたもののパパとわたしは一致しなかったのだ。パパはこの結果に数日間塞ぎ込んでいた。


「パパ……きっとドナー見つかるから。だから元気出して」


「うん。そうだな。ごめんな、凛。これじゃあどっちが病人なんだか分からないよな」


 すると鳥越さんがノックもせず慌てて病室へ入ってきた。


「凛ちゃん! 見つかったのよ! 適合するドナーさんがいたのよ!」


 わたしとパパは目を大きく見開きながら目を合わせた。


「ほんとですか?」


 鳥越さんはうんうんと何度も頷きなから微笑んでいる。パパは鳥越さんの手を両手で握り今にも泣き出しそうな表情で「鳥越さん、ありがとう」と何度も言いながら頭を下げている。


 そしてベッドの上で上体を起こしたわたしを抱き締めた。「良かったな、良かったな」そう何度もいいながら赤子に接するように何度も何度もわたしの頭を撫でてくれたのだ。


 そして何かを思い付いたかのようにわたしから離れ再び鳥越さんの方を向いた。


「鳥越さん、手術はいつできるんですか? 明日ですか? 明後日ですか?」


 鳥越さんは苦笑いしながらパパの両方の肘を掴んだのだ。


「お父さん、落ち着いて下さい。そんなすぐにはできないんですよ。まず骨髄バンクからドナーさんにお手紙が送られます。そしてドナーさんが承諾されれば規定の病院へ行くんです。まずはドナーさんからのお返事を待ちましょう」


「そんなに七面倒くさいんですか? 電話かなんかで連絡とれないんですか? なんなら僕が電話しますので電話番号教えて下さいよ。あ、お礼も言いたいし」


 わたしは鳥越さんと目を合わせ、二人してプッと吹き出してしまった。


「もう、パパ! そんなに焦らなくても。もう、子供みたい」


「そ、そうだな。見つかっただけでも進歩だな。鳥越さん、宜しくお願いします」


 一筋の光が射し込んで来たのだ。この光、決して闇へ放り投げる訳にはいかない。わたしは祈るような想いで窓の外を見つめた。

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