勇者王降臨!
私はAlexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third。
魔王を討伐し「勇者王」と呼ばれた男だ。
前世の記憶と能力を持ったまま、今世に転生した。
今日も満腹になり、いつものように眠っていた。
怠惰ではない。この身はまだ、転生して間もない赤ん坊。
泣いて、乳を飲み、寝ることが赤子の仕事なのだ。
眠ってはいるが、常に探知魔法を張り巡らし警戒している。
転生したが魔法は使える。この世界で異変があれば感じるはずだ。
この世界でも魔力を持った魔族がいる。数は少なく、取り纏める魔王と言うべき存在もいないようなので、急いで討伐するような脅威ではない。
身体が成長したら徐々に倒していこう。
仲間を集め、魔族討伐の旅に出るのだ。
便意を感じた。我慢などできない。私は寝たまま力んで排便した。
固形物を口にしていないせいか、便が軟らかい。
尻について大変不快である。あぁ不快だ! はやく何とかしてくれ!
感情が高ぶり、泣いた。まだ慣れないこの身体では感情が制御できない。
泣いたらすぐに歳を取っている母親が襁褓を外してくれた。
そして濡れた紙で汚れた尻を拭いてくれる。さっぱりした。
新しい襁褓を私に着ける。今世では襁褓を縛らない。粘着質の帯で留めるだけだ。
(この粘着物の材料はスライムなのか?)
魔物の身体をこのように転用するとは、今世の人々の知恵には頭が下がる思いだ。
そんな毎日を過ごしていたのだが、ある日「次元転移」を感じた。
上級魔族が使う高度な魔法で前世では魔王と、その配下にいた悪魔将軍だけが使えた。
魔王はこの手で斬り倒した。悪魔将軍は仲間の魔法使いが倒したと言っていた。
私は慎重に魔力の発生源を探った。
感じる。
これは悪魔将軍の魔力に似ている。いや、悪魔将軍に違いない。生きていた!?
魔法使いが伐ち損じていたのか?
前世で魔法使いは私の側室となって3人の子を産んでくれた。
私が亡くなるまで不惜身命で尽くしてくれた。
魔法使いに限って、そんなミスはしていないだろう。
(直接、この目でみて確認せねばっ!)
今はまだ赤子の身。剣が振れない。
魔法だけで悪魔将軍と対峙するのは危険だが、勇者として仲間の不始末を補うのだ。
何より今世の人々を悪魔将軍の魔の手から救わなくてはなるまい。
私はAlexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third。
前世では「勇者王」と呼ばれた男だ。
今世でも勇者王として、悪魔に立ち向かうのだ。