勇者王転生!
私の名前はAlexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third。
魔族と戦い、魔王を倒し、虐げられた人々からの支持を得て国を治めた。
国民からは「勇者王」と呼ばれ、慕われ、そして波瀾万丈の生涯を閉じた。
しかし私は生まれ変わった。転生したのだ。
前世の記憶と能力を持ったまま、新たに生を受けた。
生まれたばかりの頃はまだ目がよく見えなかった。周りの様子が何となく見えてきたのはだいぶ経ってからだ。
具体的に何日経過したのかは分からない。ほとんど寝ていたからな。
母乳を飲んで、寝ての繰り返しだ。
ただ乳母の乳が出にくいようで柔らかい皮のようなものでできた道具を使い、何度も乳を飲まされた。
お腹が空くと悲しくなり、泣いた。
排泄すると股のあたりが気持ち悪くて、泣いた。
誰もいなくなると寂しくなり、泣いた。
感情の制御が上手くできない。何でもないようなことでも、とにかく泣いた。
私は柵の中に寝かされている。
周りを確かめようと身体を捩るが、なかなか上手くいかない。
やっと横になったと思ったら、そのままひっくり返った。
俯せになり息ができない。苦しくなって手足をバタバタさせていたら、抱き上げてくれた。
歳を取っている乳母に助けられた。母ではなかった。
(私は母に捨てられたのだろうか?)
不安な気持ちになったら、また泣いた。
部屋の中を見渡すと、私のいた城とは大きく異なる。生家は山小屋だったが、それとも違う。
どうやら遠い未来、若しくは異世界に転生したようだ。
言葉もよく判らない。
「けいちゃん、けいちゃん」と言われるので、この世界での私の名前は「けいちゃん」なのだろう。
歳を取っている乳母と、その夫らしき老人にはよく抱かれる。父と思われる男は偶にしか抱いてくれない。母はまだ見たことがない。
私を産んだときに亡くなってしまったのだろう。申し訳ないことをした。
判っていれば回復魔法をかけてやったのに。出産は命がけの大仕事だ。前世では妻や側室が出産のたびに、私が回復魔法をかけて助けていた。
おかげで我が息子、娘は無事に生まれ出てくれた。
私は大きな勘違いをしていたことに気づいた。
今まで『歳を取った乳母』だと思っていた女は今世の母親だった。
この世界では、こんな高齢の女性が子どもを産むのか! 驚いた。
そして父と思っていた男は兄だった。
(なんてことだ!)
今まで常識だと思っていたことは、一度捨てなければならない。
それくらい前世と今世は異なる世界なのだ。
早く世の中を知りたい。ここは一体どういう世界なのだ。
考え、想像し、思い描き、そして疲れた。
私はAlexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third。
偉大なる勇者王だが、今はただただ眠ることにしよう。