家庭環境
「……学校で何かあったの?」
「えっ?」
おばあちゃんが訊いた。あっ、まずい、びっくりし過ぎて反応してしまった。
「あったのね?何があったの?いじめられたの?」
おばあちゃんは、〝あのこと〟をまだ気にしている。〝あのこと〟が起こったのは、自分だと思っている。本当は、あのひとのせいなのに。
仕方ない。このまま話さなかったら、私のことだと思うだろう。そうしたら、心配しすぎて過労死してしまうかもしれない。いけない!それはすごく困る!私のご飯は!?
「ん。なんか、樹里の鉛筆折られたりした」
ふつうに。できるだけ、「ふつう」に。
樹里。普段は絶対そんなふうに呼ばない。そうやって呼んだのは、おばあちゃんを安心させるため。仲いい子、ちゃんといるんだ、って思わせるため。
「えっ」
おばあちゃんがすっとんきょうな声を出した。
「あの、樹里ちゃんが?」
「うん」
「ええっ」
びっくりしすぎだって、おばあちゃん。
私の家は三世帯住宅。っていっても、私にはお父さんはいないし、お母さんも働きに出ていてほとんど帰ってこない。っていっても、精子提供者はもちろんいるし、お母さんは十六の時に、その悪い男、つまり精子提供者、もしくはお父さんに騙されて私を産んだ。〝悪い男〟のお父さんは、どこかへ逃げた。それで、我が家の働き手となったお母さんは、帰ってきてるのかもしれないけど、私は知らないという、一般的には妙な状態になっている、というわけ。なんでも、スナックかクラブで働いてるらしい。
お父さんのしたことは許されないことだし、許さないし、お母さんも子供に会う位したらどうだって感じだけど、二人の気持ちは分かる。でも、やっぱり嫌だ。うん。ちょっとは考えろよ、この考え無し。
「え、え、え。ああ、でもツカちゃんのことじゃなくてよかった」
ツカちゃん、ねぇ。
変だと思うんだけど、司じゃ馴れ馴れしいし、司ちゃんってのもなんだってことで、ツカちゃんになったらしい。身内だから、別にいいと思うんだけど。
「え、え、でも鉛筆ってそんなに簡単に折れるものなの?折るには太くない?」
そこなの?あんた、ちょっとおかしいんじゃない?
はあ、とコッソリため息をついた私は、おばあちゃんに説明する。
「ジュエ……樹里が持ってる鉛筆は、細いの。最近そういうのが流行ってるんだよ」
「へえー……」
そして、不思議そうに首をかしげる。
「でも、樹里ちゃんって、人気者だったんじゃないの?」
おいおい、おばあちゃん。
その大きな間違いは、一体どこでしたのでしょうか。
ジュエリーは、いわゆる一匹狼。なんとなく、浮いている。そりゃ、たまに話かけられはするけど、人気者とは程遠い。ま、私もだけど。
「別にそんな事ないよ。どこで知ったの?」
「どこって……あぁ確か」
おばあちゃんは、話を続ける。
「ツカちゃんの参観日ね、ツカちゃんのお友達が言ってたの。『樹里ちゃんって、可愛いよねぇ』『うん、なんか正統派でねぇ』って」
正統派……正統派か……あいつ……。センスないかも、言ったやつ。
「おばあちゃん、それ、悪口だから」
「へえぇぇ!へえぇぇ!!」
何、今の。ウーケーるー。というか、気づけよ。あんた、今までどんだけいい人生送ってきたんだ?
ちょっと酷いこと言っちゃった。ごめんなさい。まあ、『言って』はないんだけど。
「へえぇぇー、へえぇぇー……」
なんかおばあちゃん、ふらふらと台所へ向かっちゃったよ。おーい、大丈夫ー?おばあちゃん。もう年なんだから、無理すんなよー。
「あのさー」
返事無し。
「あのさー!」
返事無し。
「あ・の・さー!」
返事無し。
「あ!の!さー!!」
「へぇっ?なあに?」
耳、遠いな!補聴器、つけろよ!
「お・じ・い・ちゃ・ん・は?」
「えぇ?知らないけど……」
知らない、って!
それ、あり?
別に仲が悪いって訳じゃない。というか、むしろ良い。良好。いわゆるおしどり夫婦。
互いのことに興味がないだけ……って、それ結構重大じゃないか?やっぱ、ちょっとおかしいんじゃない?
まぁなぁ、鳥ラーメンをそのままで食べちゃう人達だし。
ていうか、おじいちゃん。
そこに、ソファーに、寝てるじゃん!!
これだから、嫌になるんだよなぁー……。誰か、助けて!
サブタイトル、つけるの難しいです……




