始まる物語
「あ、あの……。 名前を忘れられたとは……?」
マイハニーが、おずおずと言った様に話しかけてきた
俺が聞きたいよ!!!
なんて、喉元まで出掛かったところで気持ちを抑える
この子には悪意は何もないんだから、と。
「あははっ……、記憶無くしちゃったー。 みたいな?」
後頭部を掻きながら、若干笑みを交え言葉を返す
若干ハニーの目が輝いたのを俺は見逃さない
「ねぇ、お姉ちゃんっ!」
「……、アタシは何も言わないよ」
ハニーが豚に声をかけた所、背を見せる豚
下半身までは素晴らしく美しいのに、見せつけられた背中は傷だらけだった
豚だから鞭で調教されたのかな!
ヘタレが故に面と向かって言えない台詞を心の内で絶叫してみた
「あのねっ! 良かったら我が家に定住しませんかっ?!」
ほわっつ
「あ、あっ……。 定住とまでは行かなくても、記憶を取り戻すまではー……、みたいな」
俺の反応が無かったから、若干眉尻が下がるマイハニー
本来だったら、無償の優しさは疑問に感じるべきだが。
こんなに可愛い奴か悪い訳がない!!
「あははは! 有り難い話だから宜しく御願いしたいよ!」
当然こうなるわけで
「えへへ……、よろしくね! お兄ちゃん!」
「お、お兄ちゃん……?!」
「お兄ちゃんじゃ駄目……?」
「駄目な筈がないさ! 俺はお兄ちゃんだ!」
当然こんな流れになってしまった
だって、子犬みたいな潤いの有る瞳に見つめられてごらんよ
俺の紳士の部分が反応するじゃないか
今下ネタ的発想に陥った奴
すぐ後ろから豚が威圧かけてきてる俺に、
そんな事が出来ると思ってるの?
泣くよ?
と、まぁ。 マイハニーがマイシスターになったわけで
「お兄ちゃんっ! お風呂に入ろう? 汗かいちゃったでしょう!」
「おぉ、良いねぇ! 入ろう入ろう!」
「ナッシェ! 駄目に決まってるだろう!」
「「えー……」」
可愛らしい妹のお誘いを無碍にするなんて駄目なお姉ちゃんだ
「住むところは我が家で良いが……、名前と。 あと、仕事はどうするんだ?」
なまえ
名前ですってよ
あと、仕事? 異世界ならではのモンスター狩りとかですかね
自分スライムにすら殺される自信あるですよ
「あー……、じゃあ。 ナッシェが決めてくれないか?」
この世界のありふれた名前を知らないし、
なにより自分で自分の名前を付けるのはむず痒い
「えーっと、“わんこ”!」
この子ネーミングセンスの欠片も無いみたい
「“ファリス”とかで良いんじゃないか?」
「うわ、豚すげ痛い痛い痛い痛いッ!!」
素直に豚のネーミングに感心したら頭を片手で掴まれた
解せぬ
っことで、
ファリスこと俺
ここに爆誕




