episode 8 真実と幻想と…(後編)
今回のストーリーのラストの内容は少し意味深に残しています。たぶんこのラストに納得いかない人もいると思います。でもそれは後のストーリーに期待してて下さい!
―――シュ・・・アッ・・シュ・・・アッシュ・・・―――
「アッシュ・・・アッシュってば!!!!!」
「・・・・・・
あ、 あれ? ここ・・・は・・?」
目の前にリルティの姿が見える。
必死で自分に訴えかけている。 こもった声がはっきりと耳に届くまで
そう時間はかからなかった。
「う、 後ろ後ろ!! 後ろだってぇ!!!!」
「後ろ・・・?」
振り向くと大きな拳が見えている。
「な!?」
視界が一瞬揺れたかと思うと、 大きな鉛の様な衝撃が体に走る。
シールドを使う暇もなかったアッシュの体は鈍い音と共に空中に投げ出された。
声にならないほどの激痛が体を駆け回る。
「あ・・あ・・ぐ・う・・・」
「アッシュ!!」
「ガゥ!! グルルル・・・。」
オークは近づけさせまいとリルティの前に立ち塞がる。
「よくも・・・アッシュを・・・!!!」
深く構え、 オークを睨みつけるリルティ。 敵に向かいながら詠昌を始める。
「開け!」
オークの右腕に蹴りを浴びせ、 素早く背後に回り込む。
そしてパンチの連続技を決めた後、 数回バク転して距離をとった。
「我が魔力の扉!!
スプラァッシュ!!」
そう言いながら片手を地面につき、 魔力を流した。
数秒するとオークの足もとから空に向かって間欠泉が噴き出た。
その衝撃で腕が千切れて巨体が水流と共に飛んで行った。
地面に叩きつけられたオーク、 だが死んでるか確認せずに急いで
アッシュの元へ走って行くリルティ。
「アッシュ!? 早く治さないとやばいかも・・・。」
しかしリルティは回復スペルは使えない。
「どうしよ・・・あたし回復スペル使えないし・・・
ティナさんを呼ぶしかないよね・・・。」
するとリルティはスキャンし始めた。 あたりを見回してティナの魔力を探る。
「さっき別れたばかりだからそう遠くへは行ってないはず・・・
お願い見つかって・・・。」
東の民家周辺に大きな魔力の流れを感じ取ったリルティ。
「いた!! でも結構遠いなぁ・・・
アッシュをこのままにもしておけないし・・・あれ使うか。」
ティナのいる方角に体を向け念じ始めた。
両手を前に出し魔力を一点に集める。 その魔力は黄色の光へと変わり
やがてそれはオーブとなった。
「できたぁ! 通信オーブ完成!!
・・・って喜んでる場合じゃなかった・・・ティナさんのもとへ・・・。」
黄色くそして薄く光るオーブに念じながら息を吹きかけるリルティ。
するとそのオーブはゆっくりと飛んで行った。
今のリルティの魔力ではこれが精一杯だった。
「あ〜んもう!! もっと早くぅ!」
「リ、 りる・・・てぃ・・ぐ・・ぁ・・。」
「アッシュ!!
今ティナさん呼んだから大丈夫だよ!!!」
「ま、 まも・・・のは・・・
マ・・・ぐ・ぅ・ディン・・・さ、 さ・・・まが・・」
「もう喋らないで!! もうすぐだからね!!」
アッシュはリルティに何かを告げようとしたが
体の感覚が段々となくなり意識も次第に薄れて行く。
「(誰かが俺の名前を呼んでいる。 ティナか・・・リルティの声か・・・
俺はいったいどうしたんだ・・・。)」
目を開けるとティナがアッシュを抱え手を握って心配そうに見つめている。
その横にリルティの顔もあった。 少し安心した表情を浮かべていた。
「ティナ・・・リルティ。」
「ふぅ・・・あんたあたしに助けられたのこれで2度目よ?」
「よかったぁ〜、 一時はどうなるかと思ったんだから・・・」
「リルティが通信オーブを使ったのは正解だけどね、
あんたもっと早く飛ばせなかったの? だったらもっと早く駆け付けたのに・・・」
「へへっ、 覚えたてであれが精一杯だったんです。
コントロールが難しくて・・・。」
「あたしがまだ近くにいたからよかったものの
あの早さじゃいつ届いてたか・・・」
アッシュは辺りを見渡した。 それはディルウィンクエイスの街のど真ん中だった。
「(なんでこんなところに・・・?
俺はマーディン様に夢の事を報告する為にマスタールームに
向かってたんだ。 そしてあの事を見てしまったんだった・・・!)」
「アッシュ、 どうしたの? まだ具合悪いの?」
「なぁ、 なんでこんなところにいるんだ?
俺はマスタールームにいたはず・・・。」
「なに寝ぼけてんのよ、 あたしとリルティとあんたで魔物を退治する為に
ここに来たんでしょう!?」
「(どう言う事だ!? 確かにマスタールームにいたはず・・・
あれは夢だったのか・・・いや、 夢なんかじゃない。)
そ、 そうだジェノ、 ジェノはどうしたんだ?」
「こんな時にあいつどっか行っちゃって見当たらないんだよー」
「(なんか微妙に変わってる・・・夢の中では確かリルティを助けて
マーディン様の救出に1人で向かっていったから俺も後を追って・・・)」
「2人ともちょっといい? 少し気になる事があるの・・・」
「気になる事??」
「魔物をスキャンした時の事なんだけど、 ほら、 知っての通り魔力は
みんなそれぞれ顔と同じで違うでしょ? アッシュにはアッシュの
リルティにはリルティの魔力の形があるわけだけど魔物にももちろん例外なく
魔力の形はあるわよね、 でもここにいた魔物は全部魔力の形が一緒なのよ。」
「ティナさん、 それってまさか・・・?」
「わかった? さすがリルティね! やっぱり成績トップの噂は本当だったのね」
「なぁ、 魔力の形が一緒だと何なんだよ。」
「【マテリアルフォース】を使った・・・・・・って事ですよね?」
「マテリアルフォース・・・?
エレメンツが使用する術の中で最も習得が難しい、 あの召喚術か?」
「そう、 マテリアルフォースは強力な者なら一体呼び出すのが精一杯だけど
今回の低レベルの魔物なんかは一度に何体も呼び出す事ができるの。
呼び出された魔物は召喚者の魔力で形成されているわけだから、
当然みんな同じ形よね。」
「ティナさん、 でも魔物の召喚は禁じられているじゃないですか!?
歴代のエレメンツのマスターが封じてきたって・・・。」
「そうね。 魔物召喚は魔力だけじゃなく生命力も奪われるから
通常の召喚よりも早く暴走してしまう可能性がある・・・
だからマスター達は封じたんでしょうね。」
「もしかして・・・・・・レヴィナードですか!?」
「確かにあそこのエレメンツは戦闘マニアだから禁じられた術の
封印を解いたのかも知れないし・・・・・・」
アッシュはゆっくりと立ち上がり、 2人に背を向けた。
話さないといけないと自分でわかっておきながらも言い出せず
少しためらっていた。
「アッシュ・・・?」
「俺・・・見たんだ・・・。
マーディン様が誰かと話してるところを・・・それで聞いてしまった・・・。
マーディン様が魔物を・・・魔物を使って街を襲わせるって・・・。」
「!!!!!?」
「でもおかしいんだ! さっきまでマスタールームにいたのに
今はここにいる・・・・・・もう何が何だかさっぱりわからないんだよ!!」
「落ち着いて!! アッシュ、 確かにあんたはあたし達と上から降りて来たのよ
ずっと一緒にここまで来たの。 リルティもそれを証明できる!!」
「アッシュはあたしとマスタールームに向かった。 クレイドさんに言われてね。
そしてマスタールームに着くと誰もいなかった・・・
しばらくそこで待ってたら、 そこにティナさんが来て下の魔物を退治するのを
手伝ってって言われて一緒に魔物を退治しに向かったんだよ?
その時マスターはいなかったじゃん。」
「それにマーディン様がそんな事するはずないでしょ!?
なんで自分の街を危険にする必要があるの? それに今だってマスタールームで
みんなに指示を出していると思うし。」
「(何かおかしい・・・。 また夢なのか?
いやあっちが夢か・・・? これはいったい何なんだよ!?)」
アッシュの頭の中でいろんな情報が入り交ざってパニック状態になっていた。
自分の前髪を掴み崩れた髪をまたかきあげる。
そんな事をしているとふっと思い浮かんだ事があった。
「そ、 そうだ! あの森・・・。 あの森に行ってからおかしくなったんだ!
ティナ!! ここから北に大きな森があるよな?」
「森? ・・・・・・迷いの森の事?」
「そう! 迷いの森だ!! あそこにマーディン様が
泡に閉じ込められているんだよ!!」
「あわ? マスターが?」
「アッシュ、 あんたまだそんな事言ってるの?
マーディン様はマスタールームにいるってさっきから言・・・・」
アッシュはティナの話もろくに聞かずに森へと向かった。
「ちょ、 ちょっとアッシュ!!」
「(何かおかしい・・・。 何か・・・。)」
深い霧が立ち込める森の中に入って行くアッシュ。
不気味さは変わらないものの足取りは以前よりも軽かった。
しばらく霧の中を走っていくと水の音が聞こえ始めて来た。
「(水の音がする・・・。 もうすぐだ!!)」
迷うことなく目的地へと向かうアッシュ。
すると大きな泉が見えてきた。
「ここだ・・・。」
泉の前まで来るとゆっくりと周りを歩き始めた。
「確かあのあたりにマーディン様がいて、 ジェノと会ったんだよな・・・
それで、 あいつが助けようとして・・・」
記憶の引き出しの中から、 持ち出せるだけ引っ張り出してきたアッシュ。
しかし謎は解決される事は無かった。
「ん? なんだ・・・?」
―――・・シュ・・・アッ・・・シュ・・・―――
どこからともなく自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「くっ・・・またあの声か!! 誰なんだよ!! 俺を呼んでいるのは!!!」
すると辺りの霧が一か所に集まっていく。 その霧が段々と人の形になっていく。
光を放つとそのあまりにも眩しさに目を瞑った。
目を開けた瞬間アッシュの前に1人の女性が立っていた。
「!?」
栗色の長い髪に霧に溶けてしまう程、白く透き通った肌をした
女性だった。
「アッシュ! また会えたね・・・」
「レ・・・リ・・・ス。」
夢に出てきたあの女性だった。 しかし名前しか思い出せない。
「(レリス・・・でも俺はなんで知ってるんだ?
それにこの泉もあの時の夢の場所に似ている・・・。)」
「アッシュ、 いなくなったら探してくれるんじゃなかったの?」
「・・・え?」
「約束忘れたの? 離れ離れになってから
ずっとアッシュの名前を呼んでたんだよ?」
「俺の名前を・・・?
そうか・・あんたが俺の名前を呼んでたんだな。」
「う・・うぅぅ・・・!!! ア、 アッシュ〜 体が痛いよ〜」
レリスの様子がおかしい、 アッシュは突然の出来事にどうする事もできない。
「ど、 どうしたんだ!?」
レリスの後ろの方で霧にまぎれて誰かが姿を現した。
それはマーディンだった。
マーディンは掌をレリスに向けその手から
光のロープの様なもので彼女を縛っている。
「マ、 マーディン様!?」
「アッシュ、 この者に耳を傾けてはいけません!!」
「ううぅぐぐ・・ アッシュ〜! た、 助けて・・よ・・・ぐぐあぁ〜!」
「これも夢なのか!? マーディン様、 教えて下さい!!!
これはいったい何なんですか!?」
「これは心術に近いですが違います。 ・・・さぁ解きなさい!」
すると周りの景色が溶け落ちて行く。 しばらくすると霧で包まれていた
森は薄暗い森へと変わって行った。
「ここは・・・? ここがさっきの森なのか!?」
「ぐぅぅう、 も、 もう少しのところを〜
マーディン貴様〜!!!」
レリスの顔が醜い化け物へと変化していく。
体は闇を思わせるほど黒く胸の中心にはルーンの文字、 そして背中に
白と黒の翼を持つ、 そう、 アッシュがかつて召喚した者と酷似していた。
「アッシュ、 下がってなさい!」
「レリスがなんであんな化け物に・・・!?」
マーディンが何やら詠唱をし始める。
「イーフリュ・マータ・スクローズ・レ・パンヌ・ダーケイ・イーダア・
アジュ・ラ・デュクス・モフィール・ダール・我が手に納めよ!」
四翼の者の周りを光の円が囲んだ。 その円は球体となり少しづつ
小さく縮小される四翼の者もそれに合わせてサイズを縮めていく。
「お、 おのれ〜!!! このままでは終わ・・・らんぞ!!」
さらに球体ごと縮小してオーブとなった。
光は徐々に消えて行きやがて、 四翼の者の気配が消えた。
そのオーブはマーディンの手に吸い寄せられるかの如く納まった。
「マーディン様・・・
説明・・・してくれますよね?」
「・・・・・・。」
マーディンは重い口を開いた。
「まず、 これは貴方の・・・エディルオーブです。」
「!!? だってそれは俺から取り除いて封印したって・・・。」
「私もうかつでした・・・。 まさかオーブに意思があるとは思いませんでしたから」
「オーブに意思・・? どう言う事ですか!?」
「生命は死を迎えると2つの魂に分かれます。
1つは意識体、 精神体とも呼ばれるもので天界へ昇って次の生命へと生まれ変わります。
そしてもう1つはエネルギー体と呼ばれオーブとはこの事を言います。
しかし中には意識体と分離せずにこの地をさまようものもあると聞いた事があります。
恐らくなんらかの強い意志がこの地に止まりたいと分離しなかったのでしょう・・・
このオーブが貴方と離れた時から少しずつ封印が解かれそして
貴方の感情を揺さぶる事により覚醒させようとしていたのでしょう。
貴方が見た夢や幻はこのオーブが作り上げたもの。 何を見たのかは知りませんが
今が現実であり真実です。」
「街の魔物は・・・?」
「幻でしょう。 魔物どころか、 今日は何も起こってませんよ
貴方は今朝から行方不明になっていたんですよこのオーブと共に・・・
この森にずっといたようですね。 リルティが見つけてくれました。
通信オーブを飛ばしてくれたのはいいのですが、 どうも・・・。」
「レリスもですか? あれも幻って言うんですか?」
「レリスがどう言う人なのかは知りませんがおそらくアッシュの心の中に
あの化け物が入って引っ張り出してきたんでしょう。
レリス本人ではないことは貴方が一番知ってるのではないのですか?」
アッシュが体験した事は全て夢、 幻だったのか・・・。
そしてレリスと言う女性。 彼女も夢、 幻なのだろうか。
しかし、 何故か納得できない・・・。
魔物との戦いで傷ついた事、 マーディンが泡に閉じ込められて
その泡を破ろうとした時に感じた電流の痺れ・・・そして
マーディンが誰かと話している時の会話。
全てが現実の様に感じる。 本当に幻だったのだろうか・・・。
そう思いながらアッシュは家路についた。