episode 70 アーディルを狙う者
久しぶりに戦闘シーンです。
次回も続くと思います。
残骸をどけた辺りにかろうじて人の足の様な物が見えるが後は砂に埋もれている。
男はそこへ近づくと魔力で周りの砂を撒き散らすとそれは姿を現した。
どうやら人間には間違いなさそうだが、 既に息絶えている。
にやけた口元を作った男の目に映ったのは…。
「…よう、 無残にやられたなぁおい。
ま、 そのアーディルは俺が使ってやるから心配すんなよ…おっと、
早い事取り出さねぇーと」
躯の胸に手を当ててアーディルを取り出す。
少しずつ光の塊が顔を出すと紫色の鈍い光が暗い深海に不気味に広がった。
塊が男の腕を伝って行き胸の中に入る。 すると躯は灰となり消えてしまった。
「くっくっくっく。 なるほど、 ディウスは封じ込められたか。
これは好都合だぜ…。 この間にアッシュ・バーナムのアーディルをいただいてやる!
邪魔な兄貴はもういねぇーしな……くっくっくあっはっはっは!
お…? 何かがこっちに向かってるな。
もしかしてアッシュ・バーナムか!?
くっくっく、 そうか…俺の魔力を追って来ているんだな。
さぁ来い……このリューゼ様がもらってやるからよ!」
リューゼは魔力を放出し、 海上を目指して行った。
その2時間前…。
-テリス-
街から東に行くとラジュと言う小さな村があるのだがその境に川が流れており
低い橋が架けられてある。
その橋から下を流れる川を1人見つめながら物思いに更けてるレリスの姿があった。
「(ディック達…遅いな。 アッシュ見つけられたのかな…)」
レリスが見つめてる川にいきなり、 丸い光が現れ丁度レリスの高さ辺りで止まると
それがフラッシュと共に飛び散ってアッシュが姿を現した。
「!? ア、 アッシュ!?」
彼女が気づく前からアッシュはレリスを視界に入れていた。
ワープした場所と言うのが丁度彼女の前方なのだが、 何故か空中にいた。
従って彼は重力に逆らう事なくそのまま川へ落ちる事に。
予め把握出来ていればすぐに対処して行動に移せただろうが
何せ、 彼にしてみればほんの数秒にも満たない時間なのだ。
レリスが橋から川の岸に走って辿り着くとアッシュも川からぶつぶつと言葉を垂れながら上がって来る。
ただ独り言ではない。
「アッシュ!」
「…んとにぃ…。
や、 やぁレリス、 タダイマ…」
水を含んだ服の裾を手で絞りながらアッシュが恥ずかしそうに言った。
頭から足の先までびしょ濡れになっている身体を強く抱きしめるレリスの腕を解くと、
彼女の潤んだ瞳を見ながら状況を説明する。
自分が高次元の存在になった事やディック達の事、 そして今やらなければならない事を順を追って話した。
「……そっか。 じゃあそのアーディルを捜しに行くんだね」
「あぁ、 ごめん…だからもう行かないと」
「うんいいよ! でも終わったら戻って来てね。
色々話したい事があるから」
「わかった。 大丈夫! ほんとすぐだからさ」
「うん」
「フュリン、 クイックフェザーをダウンロードしてくれないか?」
(ん~いいけど、 また途中で元に戻るのは気ぃつけなあかんで)
「わかってるよ、 完了したら声かけてくれ」
レリスが不思議そうにその独り言を聞いていると頃合いをみて尋ねる。
「フュリン?」
「あ、 そっか…レリスは知らないんだったか」
頭の中にいるフュリンについて説明するアッシュ。
「…と言う訳で、 そのマテリアライズをしないとこの世界に存在出来ないんだよ。
ほんとに俺の人生っていつもこんなのばっかでさ…ははは…」
「ディックから前にちょっと話聞いた事あったんだけど…フュリンってどんな子なの?
妖精…って聞いてるけど」
「うん、 フェアリーって言う小っちゃい奴なんだけどな、 こいつ変な言葉使いで
初めは早口なやつだなって思った。 まぁ、 今もそれは変わらないんだけどな! はは」
(……よし、 アッシュ完了したで~)
「わかった。
…続きはまた戻ってからな」
「うん。 気を付けてねアッシュ」
さっそくクイックフェザーを発動させ、 宙に浮かぶと手を振ってレリスに挨拶した後
アッシュは空の彼方に飛んで行ったのであった。
そして手を振っていたレリスはアッシュが消えた空に向かって微笑む。
「さあ…そろそろ家に帰ろうかな」
ぼそっと呟くと自分の家に向かって歩き出した。
円形の造りの街テリス、 ただ街と言っても人口が100人程度で規模は小さい。
すれ違う街人の大体が顔見知りと言った感じでその理由に今丁度レリスと馬車屋の主人が挨拶を交わした。
レリス自身は元々この街の住民ではない。 少し前からアッシュと共に家を購入し
2人で住みだしてから日はまだ浅いが、 それでも馬車屋の主人の様に彼女を知る者は少なくない。
2人の家は円形の丁度北西にあたる所でそこ周辺は住居が立ち並ぶ、 言わば居住エリアだ。
その一角に構える茜色の瓦で敷き詰められた二階建ての家が彼女達の家。
玄関前は白い柵で囲まれ石畳が扉までを案内する。
隣の家もその先の家も皆同じ造りで統一されているがレリス達の家だけ浮いてる様に見えるのは新築である為。
扉にはノブがついてなく、 その代わりに銀色のプレートが張り付けられ
手をかざすと開く仕組みになっている。
ロックは自動で掛かり予め登録している者以外は解除が不可能となっている。
レリスは中に入ると、 軽くため息を零しながらリビングのロングソファーに身体を投げる。
そして天井に身体を向けてじっと見つめ始めた。
「(アッシュが神様……か)」
先程川に落ちてずぶ濡れになっているアッシュの情けない姿が天井に再現される。
“神”とかけ離れた彼の姿に思い出し笑いを重ねた。
体勢を横に変えてその光景を噛み締めながらゆっくりと眠りについたレリスであった。
-聖域・フォトゥラ-
エルフの世界ラミュンダにあるとされる聖域フォトゥラ。
そこはエルフの王族に連なる者以外は足を踏み入れる事は禁じられている場所。
ラミュンダの何処かに存在しているが詳しい所在地は一般のエルフには知らされていない為、
ほとんどのエルフには伝説と言う形で知られている程度である。
何処かの森の奥深くにある泉、 その前に聖域の入り口となる台座がある。
王となったジェノはその台座の前に立って刻まれた文字を見ながら
面倒臭そうに後ろにいる部下に声をかける。
「てめぇらは一体何時までついてくんだよ」
「申し訳ありません。 これがわたくし達の役目で御座いますので」
「アークエルフは生涯、 その身を王に捧げるとされています。
この身が果てるまで王であるジェノ様にお仕えすると…」
頭を下げながらジェノに説明する長髪のエルフ、 アスファとニルヴァ。
彼女達は種族階級で最も高いとされる“アークエルフ”と呼ばれるエルフで
種族の中で現在は彼女達以外にはいない。
エルフには種族階級と言うものがあり、 どんなエルフも皆初めは最下級のレッドエルフで生まれてくる。
エルフは人間と違い人の身体から子を産むのではなく母胎樹と呼ばれる
巨大な大木から生を受ける。 母と言う存在はその母胎樹になる訳だ。
つまり人間の様な母と呼べる存在はエルフにはいないのだが
同じ母胎樹で生まれた者同士を兄弟と呼ぶ事はある。
その母胎樹がフォトゥラにあり、 その為聖域と呼ばれている。
母胎樹の役目はそれだけではない。 それはエルフを進化させる役目もある。
進化すると階級が上がるのだが、 誰もが皆最上級まで進化出来るとは限らない。
エルフの身体に“マナ”と言う血液の様な物が流れており、 経験を積んだり年を取ったりする毎に
マナは変化し、 次の階級に進化出来るかを母胎樹が判断する。
そこで進化が止まってしまう者もいる。
王になってからジェノはこの聖域に通い詰めている。 真のエルフとなる為に。
台座に手をかざし、 ワープした先には氷の様に透き通ったガラスの世界が広がっていた。
この聖域には巨大な大木以外他は何もない。
巨大な根っこがガラスの地面に張り巡らされており目でもそれが確認できるのだが
一体何処まで続いているのだろうと思う程その根っこは果てしなく地下を占領していた。
ジェノはその母体樹の前まで来るとニルヴァが声をかける。
「わたくし達はここで」
「わかってる」
ジェノは静かに樹に触れて何かを念じると、 体がその樹に吸い込まれていった。
それを見届けるとアスファが整えていた姿勢を崩す。
「ジェノ様ってここに来る度に進化してない?」
「そうですわね。 ただあの方はエルフと人間のハーフ。
外見が余りお変わりにならないので、 その事をつい忘れてしまいますわ」
「レッドからいきなりグリーンよ? そんな早い進化なんて今までいなかったはず…」
「ジェノ様は人間として育ってきたのですアスファ。
今まで母胎樹の洗礼を受けていらっしゃらなかったので
その様な現象が起きても不思議ではありませんわ」
「う~ん…そうかもしれないね」
「それに王族がその様な階級に留まるはずがないんじゃなくて?
あの方ならすぐにアークまで進化出来るでしょう…ただ…」
「ただ? ……何? ニルヴァ」
ニルヴァは母胎樹を見上げながら静かに呟いた。
「ジェノ様が中にお入りになるとお母様のご様子が…少し気になるんですよね」
「……お母さん? でも嬉しそうよ?」
「嫌な意味じゃないですよアスファ。
お母様が何か変わろうとしているとわたくしは申したいのです。
…もしかしたらお母様自身が新たな進化を成されるのかも」
「もうそんな時期? まだ100年経ってないのに」
「ジェノ様と何かご関係があるのかも知れませんわね」
風も無いこの聖域に鎮座する母胎樹を見上げながら2人はジェノの帰りを待つ。
そして目的のアーディルの反応を頼りに空を飛び続けているアッシュは
アーディルの反応の変化に気づくのであった。
「このアーディルは…やっぱりそうだったのか」
(うん…。 ヴィーゼやな。 でもさっき何者かに消された…)
「いやヴィーゼはもう死んでた。 ガルドエディルに俺達が来てからあいつの魔力は無かったから。
お前が感じたのはアーディルの反応だよ」
(そうなん? 魔力とアーディルの見分け方がまだちゃんと分からんわ。
アッシュは簡単にやってるけどあたいには難しい…)
「今のアーディル、 消された様に感じるだろ?
これは俺もシグナスの時に経験したからわかったんだけど、 アーディルを吸収したんだ。
でも死んだらアーディルも消滅するはず…何で吸収できたんだ…?」
(もしかしてディウスが取り出しかけてたのと関係があるんちゃう?
ほんで誰なん?)
「誰かはわからない…。
でも何処かで感じた事のある魔力だな…この反応」
(ヴァルファリエンてまだおったん?)
「いや…生き残っているのは………」
その時スキャンにより高速で魔力がこちらに向かっている事に気づいた。
(凄い速さで海から上がって来てるで…)
「……………………。
来るっ!!」
丸い光が海から水しぶきを上げて飛び出してきた。
アッシュは少し距離を取ると身構える。
「お前…何者だ!」
「おいおいおいおい。 前に1度会ってるだろ?
忘れてもらっちゃあ困るぜ。 へへへ」
「会ってる?」
「あー、 こう言えばいいか?
フィル・ドラントとレジェア・ファブレのアーディル、 大事に使わせてもらってるよ。 くっくっく」
「!?
お前! リューゼ!?」
(リューゼ……ヴィーゼの弟…)
「気づいているとは思うが、 ヴィーゼのアーディルは俺が頂いた。
次はお前のだ、 アッシュ・バーナム」
「お前、 どうやってこっちの世界に…」
「んなの簡単じゃねぇーか。 こいつらのアーディルがあればよ。
ちなみに向こうの世界は崩壊寸前だ」
「崩壊寸前!? どういう事だ…?
ディウスはまだエターナルサーガ発動させてないし…引き合い始めているのは知ってたけど
崩壊?」
「あー理由? 俺が無理矢理次元の穴作ったからじゃねぇーの?
こっちの世界は大丈夫みたいだけどな。
おいおいおい、 俺はそんな事言いに来たんじゃねぇーんだぜ」
リューゼはにやにやと笑いながら全身から魔力を解き放ち、 アーディライズする。
「くっ…!」
(アッシュ、 あいつ凄いパワーやで!! ディウスと同じぐらいかも)
「あいつもディウスみたいにアーディルを取り込んで来たんだ。
でも俺はあんな奴なんかに…」
アッシュもアーディライズを発動する。
「負けてやるつもりはない!」
「さすがにアーダのパワーは特別だなぁおい。
ま、 それもこの俺の物に…
なるけどなぁぁぁ!!」
翼を羽ばたかせながら勢いよく向かってきた。
アッシュは左手を前に出してスパークボルトを連発させる。
それを難無くかわし、 いきなり急スピードで接近しアッシュの側面からエルボーを放った。
それを右腕で弾いた後、 流れる様に拳の連撃を繰り出すアッシュ。
「ふん! はぁ! たぁ! うぉらっ!!」
全て受け止めているリューゼはアッシュの最後の1打を弾くと今度は彼の連撃が始まる。
2人の激しい攻防が続いていた。
「はっはっはっは。 どうした? もっと本気でやれよ」
「…………」
(そうやアッシュ、 何で本気でやらんねん)
「んじゃそのままやられてろよ、 ……おりやぁぁ!!」
「……そこだぁ!」
拳を振りかぶったリューゼの隙をついて空いている腹に強烈なフックをかました。
「がふっ!」
動きが止まったのをチャンスとし、 アッシュは一気に魔力を爆発させた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
フルパワーで魔力を解放したアッシュは超高速で猛攻を繰り出す。
無数にパンチの嵐を浴びせた後、 背中に生える1枚の羽を掴むと毟り取る様に
リューゼを海へと投げ飛ばした。
そして全身を縮込ませ、 体を広げると巨大な火炎球を放った。
「開け! 我が魔力の扉!!
フレアノヴァァァァ!!」
燃え盛る塊がリューゼを飲みこんだ。
「へ! 甘い!!」
「!?」
いつの間にかアッシュの背後にいたリューゼは背中に両手を当てるとスペルを放つ。
「開け! 我が魔力の扉!!
トォォリプルエアラインッ!!」
凝縮された真空波を背中にぶつけるとアッシュの身体は吹き飛ばされる。
そして第2撃目、 真空波を再び放つ。 これは対象を細かい刃で切り刻む。
「うわあぁぁぁぁ!!」
「まだ終わりじゃねぇーぜ? くっくっく。
ほらよぉぉぉぉ」
第3撃、 それは太い真空波。 対象に物理的ダメージを与えるこのスペルのメインである。
アッシュは鋼鉄の様に固い衝撃を受け、 シールドが機能しながらも大ダメージを受ける事となった。
放ち終えた両手をゆっくりと戻すとリューゼの口元が吊り上がる。
「へ! 今のはフィル・ドラントのオリジナルだ。
どうだ? かつての仲間のスペルを味わう気分はよ」
「ぐ……」
(アッシュ、 大丈夫か?)
「……大丈夫。 油断しただけだ。
なるほど、 風のスペルやスピード系はフィルの得意分野だったな。
さっき俺のスペルを急スピードで回避出来たのは…そういう事だったのか…。
これは…様子見てる場合じゃないな。
しょうがない…どれだけマテリアライズに影響があるかわからないけど…使ってみるか」
アッシュはそう言葉を漏らすとフュリンにこう言ったのだった。
「フュリン、 エターナルサーガから俺が今から言うフォース技をダウンロードしてくれ」
(おっけー!! ほんで…何や?)
「…………。
神技…
天魔神剣を……」
しばらくエターナル2に力を入れたいのでアッシュのストーリーは
ここで少しお休みしたいと思います。
よろしかったら2の方もご愛読頂けると嬉しいです。