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ETERNAL SAGA  作者: 紫音
70/73

episode 67 我が魂を懸けて


世界の西南に位置する空中浮遊大陸国、 エルフの国エルザード。

その中心にそびえる二等辺三角形の建物、 マナフォビッド

エルフのエレメンツハウスである。


現在その国王であり、 マスターであるジェノは、 エレメンツ部隊を世界各地に送り込んでいた。

机の前で頬杖をついて退屈そうに座っているジェノの元に、 ノックをする音が届けられる。



 「………入れ」



マスタールームの扉が開かれた。



 「失礼します…。 お体の方はどうですか?」


 「だからもう何ともねぇって言ってんだろ。


 何時んなったらここから出れんだよ…」


 「出るなどと…貴方はこの国の王、 それにマスターとなられたのです!


 出て行かれては困ります!」


 「わーってるよ、 うぜーな…。


 …で、 なんか用があんだろ?」


 「はっ」



男は背筋を伸ばし、 足を揃え直してきっちりとその場に立つと続けた。



 「北のノルディア大陸周辺に例の影が出現。


 現在ディアナ率いる部隊が戦闘中との事です」


 「“ディウスの影”か…」


 「もうノルディアにまで影が現れました。

 

 このエルザードに到達するのも、 時間の問題です」


 「他の部隊は? 戻って来いと言っただろうが」


 「はい…恐らく、 今帰還中かと…」


 「……ちっ! 何もたもたしてやがる…!」



ジェノはくるりとイスを回して立ち上がると直立している男の側を通り過ぎて行った。

ポケットに片手を突っ込み、 もう片方の手を扉のノブにかける。



 「ど、 どちらに行かれるのですか…?」


 「………いつもんとこだ」


 「は、 はぁ…」



そう言葉を男に吐き捨てると部屋から出て行ってしまった。



 「………いつもの所……?」







【ディウスの影】

 ※episode47 参照。

グランベルクから突如現れた謎の黒い物体。

発症した地からジェノがそう呼んでいる。

マスターであるロゼやシキにも匹敵する程の強力な魔力と、

生物に憑依し、 支配すると言う能力を持つ。




















 「……わかったよ。 君の罠にハマってあげる」


 「へへへ…。


 (よ、 よ~し。 上手くいったぞ…!)」


 「僕はこう見えて、 結構物分りがいいほうなんだ。


 さ、 どうすればいいんだい?」



シェイルの首から手を放し、 両手を軽く上げてゆっくりと彼女から離れる。



 「まずこのバリアを解けよ」



ディックの発した言葉を素直に受け取り、 子供の笑みを見せながら

パチンと指を鳴らした。 周辺に張り巡らされていたバリアがスッと消える。

中に入り、 シェイルの無事を確かめる為ヴィーゼは横たわった彼女を起こすと声をかける。



 「シェイル、 シェイル!」


 「……………ぁ、 …ヴィ…ぇ」


 「よし、 もう喋るな…じっとしてろ」


 「…ぅ…………………ん…」



心から安心した表情を残しながらシェイルはゆっくりと目を閉じる。

彼女を抱えたヴィーゼに壁を作ったアッシュ、 ディックそして

扉の前にティナとリルティが退路を絶つ。



 「約束だよ。 さぁ…アッシュ」


 「…………ほら」



手首から腕輪を取り、 ディウスに向かって放り投げた。

片手で受け取るとアッシュに向けていやらしい笑みを膨らませた。

そして即、 自分の腕につける。



 「こ、 この時を…この時をずっと待っていた……」


 「…………」


 「フ、 フフ、 フフフ…。







 ふふふ、 ふふ、 ふふふふ…くくく…つ、 ついに………。 フフフ…。






 フフフ、 …くく、 くくく、 ふはは…」



何とも言えない気味の悪い笑い方をする悪魔、 ディウス。

小さく笑い零す姿を隣で一緒に見ているアッシュに口だけを向けて

ディックは小声で話しかける。



 「おい、 何もマジで渡さなくてもよかったんじゃないのか?

 このまま一気に叩いちまえば、 何とかなっただろ?」


 「どうせアイツには使えないから大丈夫だって。


 それにシェイルがあの状態だから、 下手したら巻き添え食らうかも知れないだろ?


 こんな狭い所でさ」


 「ま、 言えてるな…。


 そんでどうすんだよ」


 「まぁ見てろ。 あいつがすぐに本性を表すから…」


(あかんわ…。 方法が…あれ? いつのまに…)



 アッシュの話が終わる直後に突然、 頭の中から声が聞こえ出した。



 「ばか、 遅いんだよ」


 (エターナルサーガに集中しすぎて全然気づかんかった。

 で…? どうなったん?)


 「今説明してる時じゃないんだ。 俺の記憶を辿れよ」


 「通信オーブ使ってないと本当、 不気味だな…お前」



先程まで1人笑い続けていたディウスはすぐ後ろに浮いているアーダとイーヴァを

自分の中にしまい込みながら言葉を漏らした。



 「くっくっく、 ほんとに…感謝しなくちゃいけないね。 


 僕の一番欲しい物をくれたんだから…」



両手でアーディルを胸まで持っていくとそのままスッとディウスの中へと入りこむ。

最後の1つを完了させるとセティスをつけている腕を伸ばし、 手をゆっくりとアッシュ達へと向けた。

そして再び口元を吊り上がらせ、 半笑い口調で腕に魔力を送る。



 「くっくっく…ごめん。 


 僕やっぱり物分り悪いや。


 どうしてもさ、  その裏切り者は消さないと気が済まないんだよ」



魔力が徐々にセティスへと運ばれていく。

赤く光を放つその腕輪を目の当たりにしているアッシュ達。

本当にディウスはエターナルサーガを扱う事ができないのだろうか。

魔力は増幅され、 セティスが鼓動を打っている。

ディックにティナやリルティ、 そしてまだ真実を知らないヴィーゼ。

彼らはアッシュへと一斉に視線を送りながらそんな事を思っていた。

皆の視線を肌で感じながらアッシュは1人1人、 顔を見ていきながら微笑むと

冷静な表情でディウスを見る。



 「何をするつもりだ、 ディウス」


 「僕を裏切ったそこの2人を始末するだけだよ。


 何だったらどいてくれてもいいよ。 君たちにも当たるからね」


 「シェイルを解放すると言う条件だったはずだろ」


 「うん。 だから解放したじゃない。


 殺したらいけないなんて…言ってないよねぇ? アッシュ」


 「……お前、 まさか最初からその気で」


 「少しは考えなよ。


 くくく、 僕はそんなお人良しじゃないよ。


 ディルウィンクエイスじゃあるまいし。


 まぁでも、 2人の始末が終わったら今度は君たちだからね。


 そうだ!


 どうせならエターナルサーガを発動させてから殺しちゃおうかな。


 せっかく君がプレゼントしてくれたんだしね」



まるで子供が大人をからかっている様な風景だ。

ディウスの姿が実際子供なので本当に子供にからかわれている気分になってくる。

アッシュの隣で燃える拳を抑えきれず、 我慢の限界に来てしまったディック。

言ってはいけないとわかってるのにもかかわらずとっさに口が滑る。



 「ははは! ばっかだな~おめぇ! 発動できねぇのによー」


 「ディック!!」


 「あ、 しまった…」 


 「ふ、 ふふふ…君、 面白い冗談を言うね。







 ディック…ストライバー」



微笑みながら話すディウスの声が段々と震えて来るとギッとディックに睨みを効かしながら

大声で怒鳴り、 口から言葉をぶち投げる。



 「僕はね…、 君みたいな冗談を言う奴が…


















 だぁぁいっっっっきらいなんだよおぉぉぉぉぉ!!!!!」



ディウスはセティスに溜まった魔力を解き放った。

光が一気に部屋を包み込み、 破壊された扉から通路の先へと何処までも広がっていく。

眩い輝きにアッシュ達の身体も包まれていった。












光は緩やかに落ち着いていき、 やがて辺りから消えていった。




























そして…。

























 「あ、 あれ…?  う、 嘘………そ、 そんな…はず…は…」



















セティスのアクティブ状態、 つまり杖の姿と化したアッシュのセティス。

紫の光を放ちながらそのセティスは…











再び主人であるアッシュの手へと戻っていたのであった。



 「そ、 そん…な…」


 「へへへ。 悪いなディウス。


 俺も物分りが悪いみたいだな」


 「だ、 だま…したね! ぼ、 ぼくをよく…もぉぉ…!!!」


 

歯を食い縛って心の底から全身へと怒りを滲み出していく。

そして額からは同時に焦りと言う汗が一滴、 垂れ落ちた。

それもそのはず、 鍵はアッシュに渡ったのだから。

ディックは安堵の表情をため息として表すと、 にやついた笑みに変えて小さな悪魔へと向けた。



 「と言うわけなんだよディウス。 おめぇの野望もここまでだな!!」


 「…………フフ、 フフフ、 なるほど……。
























 やっぱり…保険かけといてよかったよ…」















 「!? 







 なに…?」



下を向きながら話していたディウスはいきなりパッと目の前のアッシュ達を睨むと

右腕を前に出して力コブを作り、 握りしめていた拳を力いっぱい開く。


すると…。



 「あ、 ぐ……ぃぃ……ぃ…………ぁぁぁぁぁあああー!!!!」


 「!?」 

 

 「え!?」


 「な!?」


 「え!?」


 「シ!?















 シェェェェェェェェイル!!!!!!!」



ヴィーゼの腕で眠っていたシェイルが突然、 悲鳴にも似た喘ぎ声を出した。

彼女の身体は段々と膨張していき、 同時に衝撃波を発生させる。

ヴィーゼはもちろん周りにいたアッシュ達も吹き飛ばされてしまった。

全速力で壁にぶつかった様な衝撃が一波(ひとなみ)過ぎると後は強風にも似た強い波動により

彼女へは近づけなくなった。



 「おめぇ!! なにしやがった!!?」


 「ふっふっふっふ。!


 さあ…、 何したと思う?」



笑っていたディウスの口が全開に開き、 目が赤く輝いた。

その行動でシェイルの身体がさらに膨れ上がっていく。

最早彼女は人間の形を留めていない。



 (あ、 あかん!! アッシュ、 みんなを!!)



そして次の瞬間…


シェイルの身体は宙に浮かびあがり中心から熱を発しながら爆発したのであった。

爆発によって部屋は破壊され、 さらにその周辺のエリアにまで広がった。

ギルヴェリアスの3分の1が1つのエリアと化した。

ただ不思議な事に、 そんなに大きな爆発を内部で発生したにもかかわらず

天井や壁は破壊されてはいなかった。


腕をゆっくりと戻すディウス。

所々に漂う煙に包まれながらアッシュ達の魔力を探る。

その行動と共にこの辺りにいるであろう彼らに呼びかけるのだった。



 「ほ~らどうしたんだよ、 そんな程度じゃ死なないんだろ?」



しばらく魔力の反応を探る事に徹し、 そしてまた独り言の様に話し始める。



 「鍵はまだあるんだ。 君のが使えないならこっちのもう1つの方を使うまでだよ」



再び沈黙して魔力を探る。

アッシュ達の反応は1人も捉えきれないでいた。

ただ死んだとは思ってはいない。 気配を消しているなら魔力は拾えない。

決して油断を見せずに周りに目を配るディウス。



 「君は今きっと、 こう思ってるはずだ。


 シェイルのアーディルがないとエターナルサーガは発動できないと…ね」



数歩歩くと手から魔力で作った光のレーザーを放った。

煙の中を一筋の光の線が通過した。 遠くの方で爆発した音が聞こえる。

何かに命中しただけであったがディウスは誰かを狙って放ったわけではない。



 「くっくっく。

 実は君たちが来た時点で彼女のアーディルは手に入ってたんだよね。


 君の言った通り、 僕1人で全員を相手にするにはちょっときついから


 チャンスを狙ってたわけだけど、 それにしても君が鍵を持っていたなんて…ね。






 ん…?」



煙が収まった。 辺りを見渡せるようになると同時にディウスは見上げた。

彼らは天井すれすれまで上昇し、 バリアによって護られていたのだった。

アーディライズされた神々しい姿のアッシュの後ろにディックやティナ、 リルティがいた。

そしてそのバリアから抜け出してディウスの前へ降りたヴィーゼは

アーディライズを発動させて1人、 戦闘態勢に入る。



 「何やってんだヴィーゼェェェ!! 1人じゃ無理だぁぁ!」


 「………」



上から叫ぶディックの声を軽く流しつつ、 強烈な目つきでディウスを睨む。

彼は既に理性を失っており、 目の前の敵を殺す…という事しか考えていなかった。

バリアを解き、 今にも飛びかかっていく勢いのヴィーゼを囲んでアッシュ達が降りてきた。



 「そこをどけ……アッシュ」


 「ダメだ! あいつにアーディルを奪われるだけだ!!」


 「そうだぜヴィーゼ! おめぇと一緒に戦う仲間がいんだよ!


 奴をぶっ倒すにはみんなでボコる。 こいつが1番だろ!」


 「アッシュ! 私とリルティは援護に回るわ!」



ヴィーゼの前にいるアッシュとディックはそれぞれ全身から魔力を解き放ち

戦闘態勢に入った。 



 「っしゃああ!! いくぜぇぇぇディウス!!!」



ディックの発した声が合図となり前衛の3人はたった1つのターゲット、 

ディウスへと一気に飛びかかって行ったのだった。





と、 その時だった。





アッシュの身体に異変が生じる。



 「な、 なんだコレ…」



アッシュの身体がみるみる内に光となり、 足の先から溶けて行く。

攻撃しようとしていたディックとヴィーゼはその現象に足が止まる。



 「アッシュ!!」


 (これって…もしかして戻ってんの!?)


 「くっそ~!! こんな時にぃぃ!!!」



その言葉を最後に彼は透明に薄くなりつつも光と共に

空に吸い上げられるようにして消えて行ってしまったのであった。



 「アッシュュュュュュュュュュュ!!!!!」


















 「ふふ、 なんだかよくわからないけど…ほっとしたよ。


 これで…君のアーディルが邪魔されずに取り出せるんだからね」


 「っ!?」



アッシュに気を取られている内に一瞬でヴィーゼの背後を取ったディウスは

シェイル同様に首を掴み上げてアーディルを吸い上げる。



 「が!? ぁが……ち、 ……ちから……が……ぁ」


 「ヴィーゼェェェ!!




 

 はぁぁぁっ!!!!」



急速にギガドライヴを発動させ、 ヴィーゼの背中に寄生しているディウスの背後に

超スピードで近づき、 後頭部に向かって思い切り両手を振り下ろした。



 「おらぁぁぁぁ!!!」


 「あがっ!?」


 「うりゃぁぁ!!!」



アーディル抽出を阻止しようとその後も連撃を次々と打ち込み続けるが

殴っても蹴りを放っても、 フォースエッジで斬りつけても

攻撃は確実に命中しているはずなのだが、 ディウスの手はヴィーゼを離す事はなかった。



 「は……なさ…な…ないよ…。


 ……絶対にねぇぇ!!」


 「たの……お………ご…と………」


 「……………くっそぉぉぉぉ!!」



ヴィーゼは既に言葉を発する力さえも残されていなかった。

伝えようと並べた言葉はディックには届かなかったが、 彼の苦しむ顔が訴えている。

アッシュがいない今、 ディウスを止められるのは彼1人しかいないのだ。

ここで躊躇(ためら)ってアーディルを取り出させてしまうのだけは絶対に避けなければいけない。

押しつぶされそうになる罪悪感を抱えながらディックは決意を決めた。



 「ヴィーゼェェェェ許してくれぇぇぇぇぇ!!」



瞳に熱く涙を浮かべると力強く目を閉じ、 ディウスとの距離を取った。

そして右手に持った大剣にギガドライヴのパワーを増幅させながら

左手にもそのパワーを溜め込む。



 「(半端にしかけてもアイツには効かねぇ…。


 俺の最高の技で全力でやらねぇと)」



 「馬鹿だね!! この間にアーディルを取り出せば僕の勝ちだよ!!」



ヴィーゼの首に両手を強く押し込んだ。



 「ぐ……ぉ……ぉ……ぉ…!!」


 「し、 しつこいね君。 



 これで…どう…だい!



 ほぉぉぉらぁぁぁぁあああ!!」


 「…………ぁ………」



ヴィーゼは力尽きた。



 「ふふ…ふふふ。 やっと諦めたみたいだね。


 じゃあ遠慮無く…」



“この勝負勝った”と言わんばかりの顔でディックに目を向けたその時、

ディウスの瞳の中に映ったのはディックではなく光の衝撃波だった。

スパークされた黄金の刃がクロスし、  その波に隠れて向かってくる姿を捉える。

ディウスの少し手前で低空飛行し、 大剣を両手で構えて声を振り絞った。



 「ギガクロスブレイドォォォォ!!!










 おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 「ちっ!」



ディウスはやむを得ずとっさに片手で前方にバリアを作って衝撃をやわらげる。

そして激しく衝突。 命中した瞬間に大きな爆発と共に辺りに光が飛び散る。

目も眩む光の中から出て来たディックはそのまま空中で

体を回転させて体勢を整えたあとティナ達の前の地面に着地した。

先程もう片方に溜めていたギガドライブのパワー。

その左手を悲しみの表情でしばらく見つめると気持ちを切り替えて拳を作った。



 「いいかおめぇら…よく聞けよ。


 今から俺が技をしかけるから、 同時に全力でここから脱出してくれ」


 「な、 何言ってるんですかー!?


 ディックさん1人を置いて行けません!


 それにどうやって脱出するのかも…」


 「…リルティ、 頼む…。

 ここにいたら巻き添え食らっちまうんだ。


 大丈夫。


 ヴィーゼに転送してもらった場所まで行けば後はティナが何とかしてくれる。

 心配すんな! その頃には絶対に脱出できるようになってるからよ」


 「絶対にって……さっきの衝撃でもびくともしなかったのに…

 どうしてそんな事が言えるんですか!?














 まさか…ディックさん…」



リルティの潤んだ瞳に目をやる事なくディックはティナを見つめる。

彼女に軽く微笑みを残しながら名前を呼ぶ。 



 「ティナ…」



彼の言った“ティナ”と言う言葉には色んな意味が含められていた。

ディックの気持ちがこの名前に全て込められている事をすぐに感じ取った彼女は

静かにリルティの肩に手を置いてこう言った。



 「リルティ……言う通りにして」


 「ティナさん!!


 ティナさんわかってるんでしょう!? ディックさん死ぬ気ですよ!?」


 「……私達はここから脱出するの。 早く準備しなさい」


 「本気ですか!? ティナさん本気でそんな事言ってるんですかぁ!?


 ディルウィンクエイスは仲間を見捨てないんでしょ!?

 絶対に見捨てたりしないって! そうじゃないんですかぁ!?」


 「……何度も言わせないで…。 早くしなさいリルティ」


 「ティナさん好きなんでしょう!? 死んじゃってもいいんですかぁ!!

 もう会えないかもしれないのに何でそんなに冷静にいられるんですかぁー!!


 絶対に間違ってる! ねぇティナさぁぁん!!」



悲しい表情で怒鳴り声をぶちまけた。

服を引っ張り身体を揺さぶってもティナは無言のまま抵抗しない。

そんな彼女に絶望したリルティの力が徐々に弱くなるとその手を優しく振りほどき、

クイックフェザーを唱える準備をする。

リルティはそのまま地面にへたり込んでしまい、 泣きじゃくっていた。



 「こんなの…こんなの…ダメだよ…」


 「…………ったく



 しゃーねーなー。 ほらよ」



上からリルティをしばらく見つめると、 穏やかな表情でリルティの手を取って引っ張り上げる。



 「おめぇは……俺の妹みてぇなもんだ。


 大事な妹を守りたいんだよ、 わかってくれリルティ…」



ゆっくりと深呼吸して笑顔と一緒に溜め息を捨てると、 ディックの目つきが変わった。



 「……よっしゃー!! ほんじゃそろそろこいつをぶっ放してきますかぁ!!


 おめぇら、 絶対に生き残れよ……。 








 











 よし、 いけぇぇぇぇ!!!」



ディックは再び光の中に向かって走り始めた。

と同時にティナはリルティの手を無理矢理に引っ張りながらクイックフェザーで

逆方向に飛行する。

走りながら振り返って離れた事を確認したディックは両足をついて高く飛び上がった。

左手に輝く命の光を頭上に掲げると巨大な光の球体となった。

下には光の衝撃波を片手で受け止めているディウスがこちらを睨んでいる。

バリアにより少しずつ衝撃波を押し返そうとしていた。



 「(あいつ…片手で堪えてやがる…!?


 だが身動きとれねえ状態には変わらねぇ。 なんとか間に合ったな…)」



今の現実を少しだけ忘れるように静かに目を瞑り、 心の中で誰かに向かって囁き始めた。

それはディルウィンクエイスのマスター、 マーディンに向けられたものだった。
















マーディン様…






あなたとの約束守れなくてすいません




エディと闘う時に使おうとしていたあの技




今、 1度だけ使わせて下さい
















ティナ…




おまえには色々と大変な思いをさせちまったな…。






すまねぇ…

















そんでこんな俺を…最後まで信じてくれて





ありがとな…。











おまえがずっと想ってる相手はよ…






















おまえの事、 同じぐらい想ってんぜ…!

















んじゃ…
















バイバイ…






























いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!!!!!!










オーブ。


それはまたの名を魂と言う。

ディックはオーブの中にある生命エネルギーを全て使い、

この一撃にかけたのだ。

自分の大切な仲間、 愛しき人、 そしてその人達が住む世界。

全てを守る為に彼は命をかける。

自分の存在をかけると言う事は簡単に出来るものではない。

人間と言う生き物は無意識の内に力をセーブし、 己が肉体を傷つけなくさせる。


壁を力いっぱい殴ろうとしても全力で殴る事が出来ない様に

脳がコントロールしているのだ。

そのリミットを取り外し、 今、 魂を壊してまでも彼は守りたいと思っているのだ。 

 

そして、 ディックと言う男は…。






この巨大な要塞戦闘艦と言う箱の中で終わりを迎えてしまう。









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