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ETERNAL SAGA  作者: 紫音
68/73

episode 65 潜入 (前編)


 「お…、 こっから行けるのか?」



合流を果たしたアッシュ達は無事に要塞へと続く道を発見する。

地面に一か所だけ金属が顔を出していた。 推察すると要塞の天井部分の様にも見える。

浪炎の前足でゆっくりと周りの砂を払ってみると、 すぐ傍に手が入るぐらいの小さな窪みを見つけた。

窪みの周りにガラスの割れた破片が残っており、 中は砂に埋もれてしまっているので

ディックは再び浪炎の前足を使って砂をほじくり返した。

すると石で出来ているボタンの様なものが現れる。



 「多分……こいつを押せば……」



躊躇(ためら)う事無く、 ディックは押してみる。

手のひらに丁度フィットする様な作りのボタンを押すと自分の周辺の地面が螺旋を描く様にして

ゆっくりと開閉される。 同時に足元から光が漏れてくる。


これは中へ通じる扉だと確信したディックは、 まだ完全に開いていないのにもかかわらず

皆に伝えようと振り返ったのも束の間、 突然強烈な吸引力が発生し浪炎の機体がガクッと

吸い寄せられ中に引きずり込まれようとしていた。

他の地点を探索しているアッシュ達は、 ディックの場所を把握しているので光が漏れた時点で

気づいてはいたのだが…。


ディックが浪炎ごとその中に吸い込まれて行ったのをただ、 呆然としてその光景を見ていたのだった。

そして扉はまた螺旋を描きながらゆっくりと閉まっていく。


扉が完全に閉じ、 元の状態に戻るとアッシュ達は思い出したかの様にその場所へ駆けつける。



 「ディック!!」



ティナがその周りを調べると、 先程ディックが押したボタンを見つける。



 「……アッシュ、 きっとこれを押せばまた開くはずだわ」


 「よし、 押してくれ」


 「……いい? いくわよ」



窪みの中に浪炎の足を突っ込ませ、 ボタンを押してみる。


扉の開閉が始まった。



 「う…う、 ま、 まぶ……し…い…」


 「あぁ…ぐぅ…ぐぐ…す、 すすす…ごご…いい……ちか…ら…」













 『ぅぉぉぉぉ…ぉぉぉ~おおおおあぁぁぁぁぁぁ~!!!!!!』



大きな悲鳴と共にアッシュ達は中に吸い込まれて行ったのだった。






















天井から大量の海水と一緒にアッシュ達が流れ込んで来た。

壁や地面に激しく叩き付けられ、 リルティを最後に天井の扉が螺旋を描いて閉まる。

海水はそのまま何処かへと流れて行き、 そのフロアにびしょ濡れに倒れている彼らだけを残した。

その一部始終を離れた所で見ていたディックが早足で駆けつけて来る。



 「だ、 だいじょうぶか? おめぇら…」


 「…痛…っ…」


 「なんとか…だい…じょうぶ…です……」


 「みんな無事に入れたみてぇだな」



全身の至る所からズキズキと痛みの信号が届くが

この要塞に“奴”がいるのだからいつまでもこうしているわけにもいかない。

ティナは痛みを堪え、 立ち上がりながら次の行動を告げる。


 「とにかく…ここからは離れないと…。 今ので見つかったかも知れないし…」


 「……くそ…スキャン出来ないぞ…これじゃあ何処にいるかわからないな」


 「向こうもこっちを探れないって事だからとりあえず大丈夫だ。

 

 ちょっとだけ周りを探って来たんだがよ…

 おんなじような部屋ばっかだ」


 「……どうします?」



この部屋から次の部屋に繋がる通路は3か所。

周りを見渡しながらリルティが問うとそれにティナが答えた。



 「ばらばらになるのは避けましょう。












 そうね…。






 そっちから行くわよ」


 「よし、 みんな魔力を消して行こう」



アッシュが先頭を、 続いてリルティ、 ティナ、 最後にディックと言うような隊列を組み

固まって選んだ通路を進んでいく。

同じ様な部屋が続きその部屋から通路が2~4か所くっついていて

部屋、 通路、 部屋、 また通路と言う事を何回も繰り返す。


部屋それ自体には特に気になるものはない。

壁に面して、 端末類やモニター、 後は金属の太いパイプが通路に伸びている。

だが、 通路に関してはかなり狭かった。

人が2人、 通れるかどうかぐらいの幅しかない。 

この辺りは機材で埋め尽くされているのだろう。

要塞の機能を制御する重要なシステムなのかもしれない。


部屋に置いてあるタンスの大きさの装置や卓上の装置についてあるいくつもの

スイッチやボタンなどを見ながらアッシュはそんな事を考えていた。



30分程歩いても全くと言っていいほど進展がない。

ディウスの魔力は相変わらず察知できず、 周りの景色は変わらないまま。

どの通路を通っても、 似たような場所ばかりが続いている。

そんなこんなで緊張感が解けたのか、 一同会話をしながら進むようになっていた。


一通りの話をするとアッシュが話題を変えようと話を切り出した。

立ち止まったアッシュはみんなの足を止める。



 「実は、 みんなに言わなきゃならない事があるんだよな」


 「どうしたのよ…、 急に」


 「うーん……。 今でも、 頭の中が…凄い……うるさいんだけど…」


 「?」


 「?」


 「?」



3人共顔を合わせて同じ表情を作った。



 「いや実はさ………。








  え? いいだろ別にそんな…。 あぁ…。 は? どうやって?






 はぁ。 わかった…」



と、 説明しようとしたアッシュであったが急にぼそぼそと何かを呟いては

誰かに返事を返す。 そしてまた誰かに問いかけ、 溜め息を吐いて何かに納得した。

その行動を黙って見ている3人。

しばらくするとアッシュはまた音量を元に戻して話し始める。

ディック達が少し不気味な視線を送っているのをわかっているアッシュは

少し言いにくそうに言葉を出した。



 「あ、 あの…さ、 今からみんなにやってほしい事があるんだけど…




 通信オーブの回線開いて…くれないか?」


 「通信オーブ?」


 「そんなもん開いてどうすんだよ…」


 「いやぁ…、 俺も言いたいんだけど…さ」


 「ん? なに? 今なんて言ったの?」


 「と、 とにかくやってもらえないか。


 でないと先に進めないからさ…ははは…」


 「…………はい。




  開いたよアッシュ」



リルティを初めに残りの2人も同じように通信オーブの回線を開く。



 「…………で?」


 「えっと………ちょっと…あはははは。  おい…








 おいって……!!



 早くしろよ……!!」


 「…ま……kjぁ……tpって!!



 

 な……hにt…☆…○yw………ねん!!」












 「!?」


 「……何なの、 今の…」


 「微かに何か…聞こえたよな…今」


 「だかkgsksん…ら、 もっと…あんたの周波数をやな…



 ん?





  あぁー、 あぁー、 テステスー。 あぁー」


 「…おい、 なんだよ…この声…」


 「この声…ってまさか!?」


 「久しぶりやなぁ!!! リルティ~!!!」


 「やっぱりフュリンだぁ~!!」


リルティはアッシュに向けて声を上げると2、 3回頷いて返事を返した。

久しぶりにこの独特な言葉使いを聞いたリルティはフュリンと会話を始める。

その間に説明を、 と2人の会話を聞きながらディックは問いかけるのだった。



 「フュリンって言やぁお前…あの妖精の…だろ?」


 「あぁ。 実はわけあってまた俺の中に入ってるんだ」


 「わけ?」


 「アッシュ、 ちゃんと説明出来るんだろうな」


 「え~っと…。



 そうだな…ちゃんと最初から説明した方がいいな」 


 「それだったらここら辺りで少し休憩しましょう。


 このまま歩いていても仕方ないし…作戦を考えるついでに」


 「だな…。 よし、 じゃあもうこの部屋で休憩しようぜ」 



と言う事で一同腰を降ろして休憩を取る事にしたのだった。





















30分後。






 「…というわけなんだよ」


 「……そ、 そうだったの…か」


 「………」


 「………」


 「まーびっくりすんのもわかるわー。


 あたいなんて間近でそれ聞いてんから」



アッシュの話を聞いたディック達は驚きを隠せずにいた。

その話を聞いてどう答えを返せばいいのか正直わからないと言った表情を出していた。

いや、 確かに驚いたとは思うが彼の言葉を半分冗談としてしか受け取れざるを得なかった。

いきなり消えて再び戻って来た時には神になっていたなど

誰が聞いても耳を疑う事だろう。

一通り話し終えると、 しばらく場を沈黙が支配する。


 「……………。









  …ねぇ」



卓上の機材の角にもたれかかっていたティナがその沈黙を破る。



 「アッシュが今言った事が本当だったら、 エターナルサーガを手に入れても

 あいつは何も出来ないと言う事…?」


 「そう、 何も出来ない」


 「と言うかよ、 もともとエターナルサーガってどういうものなんだ?


 人間を始め、 この世界の全てを作った創造書だと伝説として語られてるだろ?


 本当なのか?」


 「う~ん……どう言えばいいのかな…。


 

 確かにそういった事は出来るとは思うから本当なんだとは思うけど。


 俺の力ではそこまでの事は出来ないし…

 エターナルサーガの本来の使い方は神の得た知識を残す為のもので

 創造や破壊をする為のものじゃないんだよ…たぶん」


 「たぶんってあんた…」


 「フュリンとシンクロしてる間はアース神の記憶が封じられてるみたいで

 俺じゃ、 この説明が限界なんだ。

 フュリンに助けてもらってやっと説明する事が出来るんだから」


 「ま、 俺達の脳みそじゃもっと理解出来ねえって事だろ?


 いいじゃねーかティナ。 これでディウスの野望も叶う事はないんだからよ。


 そいつがわかっただけでも俺は良しとするぜ!」


 「……それは、 そうだけど…」


 「てかさ、 通信オーブがあんな風に使えるなんて知らなかったよあたし。

 あれはどういう事? ダウンロードしたって言ってたけど…?」


 「ああ、 それだったらフュリンが話した方がわかりやすいと思う。



 フュリン?」


 「ダウンロードって言うのはエターナルサーガに保存されてある知識を引き出す事なんや。



 ぶっちゃけて言うたら…

 アッシュはエターナルサーガに記されてある全てのスペルを扱えるって事」 


 「す、 全て…!?」


 「そうや。 ついでに教えたげるわ。


 いいか?


 エターナルサーガにはスペルの他に人や物の情報の全てが保存されてあって

 リルティ、 あんたの情報ももちろん載ってる。


 あんたが習得出来るであろうスペルの全部がな。


 ただし、 習得出来るかどうかはあんた次第…今後のあんたの行動次第でそれは変わる。


 あたいが今言ったのは何もスペルだけの事やない、 生き方もそう。


 エターナルサーガにはあんたの一生が記されてある。



 あんたの運命は決まってるねん」


 「そういう事か…



 所詮、 俺達は決まったレールの上に乗ってるって事なのか…」


 「そういう事でもないんよ兄ちゃん。


 運命は決まってるけど確定してるんやないって事。


 兄ちゃんの小さな行動の積み重ねによって運命は修正される」


 「そうなのか?」


 「どの道に進むかは兄ちゃんの行動次第。

 そやからディウスがエターナルサーガを発動出来るかどうかは

 あんたらにかかってるって事」


 「そっか! んじゃそのディウスを倒しに行くとしようぜ!!」


 「そや!!」


 「えへへ、 なんかお伽話に出てくる勇者と魔王みたいですねぇ~☆」


 「“みたい”じゃなくてそうなんだよリルティ!!


 俺達は勇者なのさ! 魔王の野望を阻止しようぜ!

 その為にはリルティ、 お前の力が必要だ。 力を貸してくれるよな?」


 「もちろんですよ☆」


 「よっしゃ! んじゃ行くとするかぁ~!」


 「おぅ~!」



ディックが拳を突き上げるとリルティもそれを真似る。

そして2人はスタスタと狭い通路に消えていく。

その一部始終をあきれて見ていたティナとアッシュはそれぞれ一言を零した。



 「あ、 あの2人、 ノリがいいというか…何と言うか…」


 「ただの馬鹿なのよ…」



溜め息をついたティナはハイテンションに浮かれるディック達の

背中を見ながら歩いてついて行く。 その少し後ろをアッシュが歩く。

部屋、 通路、 部屋、 通路、 部屋…それにしてもこの状態、 一体いつまで続くのだろうか。

まさか同じ所をぐるぐると回ってるではないのかと思ってティナに相談してみる。

彼女も同じ事を思っていたらしい。 しかしその2人の予想は良い意味で裏切られる形になった。

先頭を行くディックが後ろの2人に手を招きながら声を出して呼んでいる。



 「もしかして、 何か見つけたのかしら」


 「行ってみよう」



2人は走って向かった。























ディックの元へと駆けつけると巨大な空間が先に広がっていたのだった。

通路が狭かった事もあって余計に広く見える。 通路の先は巨大な空洞になっていた。

もやもやと青白い光が漂うその空洞の端にちょこっと立っている4人。

そして100メートル程先に、 巨大なドームの様な物体が確認する事が出来た。

物体に気を取られていたら先頭のディックが足を滑らせる。



 「う、 うおっ!! あ、 あっぶね~」



足元を見るとその先は崖となっていた。

顔だけ出して下を見ると目も眩む高所に立っている4人。

通路を出てすぐに道が途切れていたのだ。

右には少しだけ足場があり、 壁を背に伝っていけばどうにか進めそうだ。

ただこのまま危険な場所を移動するならとティナが提案を持ち出した。



 「クイックフェザーで一気にあそこまで行くわよ」



クイックフェザーを使い目の前に見えるドームへと近づいて行った。

そして4人共すぐにその物体が何であるのかわかってしまう。


今まで通って来た部屋や狭い通路はギルヴェリアス内部の何処かだと思っていた。

しかしこの物体こそが要塞戦闘艦ギルヴェリアスなのだ。

彼らがいる辺りが艦の前なのか後ろなのかそれは把握する事は出来ない。

巨大過ぎるからだ。


アッシュ達はとりあえず近い範囲で散策を始めた。

中に入れそうな扉、 窓を肉眼で探して見つからないとわかると次にスキャンを発動させる。

ティナとリルティは心遠眼と併用して中を覗く。

心術を使って覗いている彼女達を見てアッシュは思い出したようにフュリンに声をかける。



 (うん! まかしとき☆)



内部を一通り覗いてわかった事があった。

ギルヴェリアスはただの戦闘艦ではないと言う事。

いくつもの区画に分けられており、 移住区画から工場区画など

一種の街の様な造りになっていたのだ。 ディルウィンクエイスがそうだった。

ギルヴェリアスはそれの何十倍もの規模を持つ。



 「街だな…」


 (ん~肝心なディウスがおらんな…。


 まさか一番向こうの方なんか…?)


 「……この反応は……」


 「アッシュ~!」



離れた所からこちらに飛んで来ているリルティがアッシュを呼んだ。



 「この反応って」


 「あぁ。 ヴィーゼだ」



心遠眼で覗きながらティナも話に加わる。



 「でも何やってるのかしら…1人で」


 「見回りしてるのか…? そうかディウスの命令で…」


 「これってチャンスだよ☆


 会ってどういう状況か教えてもらえるんじゃない?」


 「そうだな…。


 ただ、 どうやって中に入るんだ?」


 「そこが問題ね。

 或いは彼に気づいてもらって中に入る手段を教えてもらうか。

 まぁそれもどうやって中の彼に知らせる事が出来るかを考えないといけないけどね…」



ティナの出した問題に両腕を組んで考えるリルティ。

目線を落としてその先に想像で作り上げた案を実験してみる。



 「例えば……通信オーブで伝える…とか?」


 「通信オーブか…。 やってみる価値ありそうね。


 彼の魔力はすでに確認済みだし。


 ディックどう思う?」



と、 ティナが後ろにいるディックへ問いかけてみた。

すぐ後ろにいたはずのディックはというとまた自分だけ蚊帳の外状態になっていた事もあり

この前と同じ表情でふてくした顔を向け、 いじけていたのだった。



 「…何よその顔…」


 「…別にぃ~。





 通信オーブ、 いいと思うぜ」


 「ちゃんと聞いてたんだ…。



 



 それじゃあ、 リルティの案でいきましょう」



アッシュ達はヴィーゼに通信オーブを送る事を決めたのだった。







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