episode 62 神行
「こちらです」
メルヴァーに連れられてやって来た所、 それはこの超巨大図書館【エターナルサーガ】
中央に位置する石で出来たテーブルの丁度北の最奥。
その壁の前に杖の様な物が地面に突き刺さっている。
杖の先には石の様な材質の物が取り付けられてあった。
メルヴァーがその前まで来ると振り返ってこう言った。
「アース様、 これにアーディルを」
「何だ…その杖みたいなのは…」
言われるがまま杖の前へと進むアッシュだが、 アーディルをどうすればいいのかわからず
とりあえずこの石に手をかざして魔力を送ってみた。
しかし何の反応も見られない。
「魔力ではなくアーディルです。 アース様」
「アーディルを送るってどうすればいいんだよ。
まさか取り出すのか?」
「はい…」
胸に片手を当てたアッシュは瞳を閉じて静かに念じた。
すると紫の光が現れ、 引っ張ると輝く球体が胸からにゅるっと出て来た。
そして石に近づけると球体が引き寄せられるかのようにスッとその中に入っていく。
「これでいいのか?」
石は紫に発光すると刺さってある杖の先の地面から光が勢いよく伸びていき
中央のテーブルから四方八方に分散し光の線が部屋全体を覆って行った。
「お~!! 部屋が明るなった~!!」
真っ暗闇だったこの部屋に明かりが戻り本来の姿を取り戻した。
完全に明かりが全体を覆うと刺さってあった杖が突然宙へ浮いて
アッシュの手に収まった。
それを見届けるとメルヴァーが再び話をする。
「これが“ディメスエンティア”と呼ばれるセティスで、 エターナルサーガの稼働に必要な物で御座います。
以後は貴方様がお持ちくださいませ」
「これが…エターナルサーガに必要な鍵…か」
「これでアクティブ状態になりました。
データの作成を行って下さいませ、 アース様」
「それで、 どうすればいいんだよ」
「杖に念じるだけで完了されます」
「念じる? …こうか?」
杖の石に向かってアッシュは念を送った。
すると呼応するかの様に杖自体が白く輝き
やがてそれはアッシュの手首に巻きついた。
光が落ち着くと杖は銀色の腕輪と化していたのだった。
「なんだ…これ」
「うわ~杖が腕輪になったー」
「アース様が正式に“ディメスエンティア”の持ち主になられました。
これでエターナルサーガを起動する事が出来ます」
「起動って…?」
「…そうでした。 貴方様はまだ知らないのでした。
度々申し訳ありません。 何せ本当に久しぶりの事なので…。
でしたら起動の前にこちらに…」
メルヴァーはまた何処かに歩いて行く。
アッシュ達もそれに続く。
その歩いている途中でフュリンがアッシュに話しかけるのだった。
「あ、 あんた、 いつの間に神様になったんや」
「ん? あ、 あぁ…まぁ、 色々な…」
「ヴァルファリエンて聞いた時もびっくりしたけど…。
言葉もでんわ…ほんま」
「本当…驚くよな…。 俺が神だなんてさ…」
「でアッシュ、 どうすんの?
エターナルサーガを発動できるって事は“思いのままに何でも出来るようになった”
って事やろ?」
「あぁ…本当にそんなもの起動させていいのか…わからないけど
別に俺は世界をどうこうしようって思わないし。
とりあえず、 どんなものか確かめるだけだったらいいんじゃないか?」
「(か、 神様のおよめさんか…。
って事はあたいは…女神様?
女神様かぁ…女神様…はは☆)」
「なーに一人でぼそぼそ言ってるんだよ」
「え? こ、 こっちの話!!」
「…変な奴」
話が終わったところでメルヴァーが丁度足を止めた。
そこは中央にあるあのテーブルの前であった。
ここで一体何をするのだろうか。
「エターナルサーガを起動する前に知っておいて下さらないといけない事があります。
それではご説明させて頂きます。
エターナルサーガと言うのは解りやすく申しますと
“神々が残した知識を共有できる”と言う事です」
「神々の知識…」
「…ヴィジョンでご覧になった方が解りやすいと思いまして
さあ、 アース様。 こちらへ」
とイスを引くメルヴァー。
「ヴィジョンってさっき俺が見ていた映像の事だろ?」
イスに深く腰掛けるアッシュ。
「はい。 この部屋にある“書”はプラートガルドの全てが詰まってあります。
宇宙、 星、 そして貴方様が見ていた“ガルドエディル”
その全ての情報をここにいながらにして知る事が出来ます。
生命体の行動パラメータ、 オーブ情報なども知る事が出来るのです」
「す、 すげぇ…」
「そうか…ディウスはこれを操作して作り変えようとしているのか」
「いえ…ヴィジョンはあくまでもプラートガルドの観察…。
創造はエターナルサーガが担っております」
「あ、 そうか…」
「さぁアース様、 まずはエターナルサーガのヴィジョンをお手に」
「…ヴィジョンで見るんだな…」
メルヴァーが静かに頷くとアッシュは念じる。
すると本が何処からか飛んできてテーブルの上に置かれた。
そのまま再び念じると本は発光し、 ヴィジョンを作る。
そして映像が流れ始めた。
アッシュの後ろに歩み寄ったメルヴァーはその映像の説明と
エターナルサーガの歴史を語りだした。
「このヴィジョンは前アース様の記憶だけではなく、 歴代のアース神の記憶が
全て詰まっております。
神霊魂(ミクトアーディル)はそうして何代も受け継がれていき
現在は、 貴方様が新代のアース神と言う訳で御座います。
この神行(しんぎょう)の目的はミクトアーディルをより高める事。
つまりエターナルサーガを使い得た知識を保存して次代に残していく事こそ
神々が成す神行の目的なのです」
「ほえぇ…難しすぎて頭いたいわ…」
メルヴァーの言葉を耳にしながらヴィジョンを見ているアッシュ。
映像には古代と言うべきなのだろうか、 遥か昔の人々の姿や戦争
その代のアース神が行った事が流れている。
歴史だけでは無くその時にアース神が得た知識も記録されていた。
その中で魔力やスペルなどについてもわかった事があった。
実は今まで使っていたスペルはこの図書館にあった知識であり
人はここからスペルを引き出していたに過ぎないと言う事、 そして
その知識こそ歴代のアース神が残していった知識である。
魔力と言う概念を設けたのもやはり歴代のアース神。
このヴィジョンを通してアッシュはエターナルサーガの真の意味を
要約、 理解する事が出来たのだった。
「俺は勘違いしていた…。
そもそもエターナルサーガは神の知識を蓄える貯蔵庫の様なものだったんだ…。
そうか…世界を思い通りに出来るっていうのは歴代の神の知識を共有出来ると言う事なんだ」
「その通りで御座います。 アース様」
アッシュは左腕に輝く銀の腕輪に目を落とすと触れながら話を続ける。
「このセティスとミクトアーディルでエターナルサーガの封印を解いて
神の知識を得る事が出来ると言う事だったんだな」
「さぁ、 アース様。 エターナルサーガの起動を」
アッシュが頷くとヴィジョンは本へと戻り、 元ある場所へと飛んで行った。
それを確認すると腕輪に念を送った。
腕輪は再び杖の形を取った。
そしてその杖を高く掲げるとこの部屋に異変が起こる。
「な、 な、 なんや!?」
「大丈夫、 今エターナルサーガを起動させてるとこだから」
「ここは? また別の場所にワープしたんか?」
空間はまた深い闇に戻った。 目の前には巨大スクリーンが浮かび上がっている。
これがエターナルサーガなのであろうか。
アッシュがその前に立つとスクリーンいっぱいに記号の様な文字が出現した。
そして文字を読み取っていく。
「………」
「…全然読まれへん…。 エルフ語やと思ったけど違うんやな…」
「す、 すごい…そんな…まさか…」
「え、 なになに何て書いてあるん? あたいにも教えてや!!」
「メルヴァー、 これ…本当にそうなのか?」
「……はい。 アース様」
「こらアッシュ!! ちゃんと説明しろ!!」
「信じられない…。
まさか…あいつも神の力を…」
「あいつ? あいつって誰!?」
「プラートフォビスを管理する神…
ラグナ神で御座います」
「ラグナ神…? アッシュ、 ラグナ神って?」
「ラグナ神は…
リーベルトだ……」