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ETERNAL SAGA  作者: 紫音
63/73

episode 60 小さな乙女

白く濁る湯気の中から黒い影が揺らいで見える。

その影が段々と近づいて来るのがわかる。



 「……まさか…マーディン…様…?」



先程聞こえた声を思い出すとマーディンの様だった。

アッシュはもう一度影に向かって叫んでみる。



 「………くくく…」


 「?」


 「……くくくく……あっははははは!!」



いきなり大声で笑い出した影。

そしてそれは白い湯気から勢いよく飛び出して来た。

アッシュよりずっと小さいその生き物は

背中にある羽をパタパタと動かしながら

腹を抱えて笑っていたのだった。



 「あはっ☆ 騙されてやんのー!」


 「お、 お前!?





















  フュ、 フュリン!?」


 「久しぶりやな! アッシュ☆」



なんと正体はフェアリーのフュリンであった。

かつてアッシュとフュリンは一体化するという不思議な体験をした仲で

6大魔導のガルとの戦闘中に命と引き換えにアッシュに

自らのエネルギーを託した。

フュリンがここにいると言う事はこの不思議な空間は

やはり天国と何か関係があるのであろうか。



 「お前…何でこんな所にいるんだ?」


 「う~ん、 それが…よくわからんねんなぁ。

 オーブを渡したあの日から今までの記憶がないねん」


 「え? じゃあ何でここにいるのかもわからないって事かよ」


 「ん~と、 それはちょっと違うかな…

 あたいが目覚めたのはあんたが来るちょっと前なんやけど

 目覚めた時にあんたが来るってわかってた」


 「……どういう事だよそれ」


 「えっと…。 あたいも自分で何言ってるかわからん」


 「お、 おい」


 「あははは…」


 「何が可笑しいんだよ…。

 というかお前がここに来たんだろ?」


 「どう言うたらいいんかな…。

 この場所に来たんはあたいやけど、 この【空間】に来たのはあんたって言うか…」


 「あ~なるほど、 そういう事か。


 この…不思議な空間についてお前何か知らないか?

 ここから出る方法とかあったら教え…」


 「てかあんた…」



そう言いながらアッシュの胸にもたれるとフュリンは弱みを握ったと言わんばかりの

怪しい表情を向けながらぼそっと囁いた。



 「あんたにこぉ~んな、 趣味があったとは思わんかったな~」


 「え…」


 「ま~あ、 あんたも男や。

 しゃあないっちゃ、 しゃあないんやけど~?」



フュリンとの再会ですっかり忘れてしまっていたが

そう、 今アッシュがいる場所は女風呂のど真ん中なのだ。

時間は止まっているもののティナとリルティがこの湯気の中

それもすぐそばにいるのだ。

フュリンの言葉で思い出すと顔を赤らめながら必死で言い訳をする。



 「ち、 ちち違う違う違う!!

 ついて来たんじゃなくて勝手にワープして来たんだよ!!」


 「ほぉ~勝手にワープねぇ…」


 「勝手にって言うか…頭に考えたらワープするって言うか…



 あぁー違う違う!!

 見たいとかそういうのを考えてたんじゃなくて見ないようにしようと考えてたら…」


 「うっぷぷぷ…あ~っははははは!!」



腹を抱えながらアッシュの周りを転げ回るフュリン。

ただ地面ではなく宙に浮かびながらである。

その光景を無言で見るアッシュ。



 「……」


 「あっははははは!! 

 やっぱ人間をからかうのはおもろいわぁ~!


 くくくく…あははは!

 そや、 人間やなくて

 ヴァルファリエンやったなぁー!

 

 ん? じゃあヴァルファリエンをからかったのはあたいが初?


 それってめちゃすごない? なぁアッシュ~☆」



一向に治まらないフュリンを見ながらギラギラとした右拳を秘めるアッシュ。

しばらく笑い転げていたフュリンであったがその変化に気づくと

怒っているアッシュの機嫌を取ろうとサイズが違う自分の頬を擦り合わせた。


 「も、 もぉ~、 ギャグって、 わ、 わかんないかな~

 怒った?」


 「……」


 「ちょ、 ちょっと~何か言ってやぁ

 

 そんな怖い顔しないで…ねっ☆」



フュリンはアッシュの正面に浮くと今までに無い表情と声で可愛くアピールをしてみる。

次に羽を動かしながらくるくると回りながらダンスを踊る。



 「あはっ☆」



そしてにっこりと笑みを見せた。

しかしアッシュの表情はピクリともしなかった。



 「(あれ…おかしいな…今のめっちゃ可愛かったのに…


 やばい…かなりキレてるわ…)」


 「…………」

 

 「(こ、 こうなったら最後の手段しかない!! 

 男ならこうするのが一番っ!!)」



するとフュリンは肩を落として地面にゆっくりと着地した。

そして今一番できる最高の悲しい表情を作り涙目でアッシュを見上げる。

アッシュは特に目を合わせるでも無く腕を組んで黙っている。



 「すんませんでしたぁぁぁー!!」



物凄い勢いで土下座をするフュリン。



 「堪忍したって下さい!!」


 「……お前、 ふざけてるだろ」


 「め、 めっそうもございません…!!」


 「謝れば何でも許されると思ってるのか?」


 「それは…」


 「…気持ちが伝わって来ないんだよな」


 「じゃ、 じゃあどうすれば…」



アッシュは深く考え出したかの様に振舞いながらフュリンにこう告げた。



 「そうだな…お前のその羽…むしらせてくれ」


 「そ、 それだけは…


 それだけはぁぁ!!」



フュリンはアッシュの足にしがみ付き涙ながらにこう叫んだ。



 「あんた鬼やぁー!!

 ちょっとからかっただけでフェアリーの一番可愛いとされてる

 この羽をむしるなんてぇぇ! あんまりやぁぁぁ!!」


 「…くくくく…くく…ぷぷぷぷぷ」


 「うわぁぁぁぁ…あ?」


 「あははははははっ!!」



いきなり大笑いをするアッシュにフュリンは彼の笑ってる意味が理解できず

ただ次の一言をじっと顔を見つめながら待っているのだった。



 「ばーか! さっきの仕返し」


 「え?」


 「あはは!! 怒ってると思ったのか?」


 「じゃあ………怒ってへんの?」


 「当たり前だろ。 そんな事で怒るかよ」


 「うわ~んアッシュ~!!」


 「お、 おいくっつくな! 離…れろぉぉ…」



泣きながらアッシュの腕に抱き着いた時だった。

フュリンの流した涙が宝石の様に綺麗な石に変わった。

その丸い石はアッシュの腕を滑り地面に落ちると砕けて消えて行く。

もちろんアッシュはその現象を見逃すわけはない。

すぐにフュリンに聞いてみたのだった。

フュリンは鼻をすすって涙を拭いながらその現象について答える。



 「あ~ついに見られたか…。

 これは【メリーティア】って言うねん…。

 あたい達フェアリーは大人になる為に何段階かの成長段階があって

 すぐに大人になるのもいれば全く大人になれへんのもいるねんけど…。

 でな…一番早く大人になれるのは……め、 め、 【メルトナ】を見つける事で…」


 「メルトナ?」


 「うん…つ、 つまり…その…」


 「なんだよ」


 「人間の言葉で言うと……お、 おむ…こさん…やな」


 「へぇ…」


 「うん…」



場の空気が止まった。

アッシュとフュリン、 大きさが違う2人がお互いの顔を見つめている。

しばらくすると事の重大さにやっと気づいたアッシュは大声を上げた。



 「えぇぇぇぇぇぇぇぇ~!?」


 「わぁぁびっくりした!!」


 「お、 おれぇぇ!?」



アッシュは人差し指を自分に向けてフュリンに叫んだ。

照れからなのかフュリンは迷いながらゆっくりと頷く。



 「ちょ、 ちょっと待て!

 そのメルトナってのはフェアリー同士の事じゃないのか?」


 「うん…普通はそうやで」


 「お、 俺はフェアリーじゃないだろ!!


 と言うか嘘だよな…?」


 「う、 嘘ちゃうって!!

 メリーティアは心を許した相手にしか起こらん現象なんやから」


 「そ、 そうなのか…」


 「うん…」



再び2人の間に沈黙が流れる。

この沈黙が続くとおかしな雰囲気を作ってしまいそうだと思ったアッシュは

無理やり会話を始める。



 「ま、 まぁ~ほ、 ほほら、 こんな所で話しててもアレだから…。

 とりあえず…こ、 ここから出ないか?」


 「そう…やな」


 「(…お、 知らない間に体が動ける様になってる。

 よし、 このまま外に出よう)」



今も尚、 湯気が充満しているこの温泉に来てから30分程しか

経過していないがアッシュにしてみれば長かったに違いない。


やっと出られる…。


そんな安堵の表情浮かべながらふと周りを見て気づいた事があったのだった。



 「なぁ、 止まった時間はどうするんだ?」


 「さぁ…」


 「さぁ…って、 お前がやったんだろ~!」


 「あたいやない!! あたいはアッシュに会いに来ただけやもん!」


 「じゃあ誰がやったんだよ」


 「そんなもんフェアリーのあたいにわかるわけないやろ、 あほまぬけ」


 「お前な…」


 「あはは☆」


 「とにかく…出るぞ」



2人は温泉を後にする。

脱衣所を通り過ぎ、 外へ繋がる扉に手をかけた。



 「あ…あれ? 何処だ?」



扉を開けた先にはまた別の空間が広がっていた。

後ろには脱衣所。

前の景色と後ろのそれは全くの別世界。

中に入ると扉は勝手に音も立てず閉まっていく。



 「見ろよフュリン、 あんな上まで…」


 「ここって図書館? でも何でこんなとこに?」


 「わからない…。


 (人の心が読めたり、 時間が止まったり…

 今度はなんなんだよ…一体)」


 「アッシュ、 なんか…気持ち悪い…。


 ちょっと一回戻ろ……




 あれ…アッシュ、 あたいら何処から来たっけ?


 ドアは?」


 「何処からってお前…今入って…」



と後ろを振り向くとそこに扉は無かった。

アッシュ達の目に映っていたのは煉瓦で出来た壁。

そして周りには上までびっしりと詰まった本棚が並んでいる。

2人はこの部屋に閉じ込められてしまっていたのだった。


きっと誰かの仕業に違いない

だが誰が? 何の為に?


そんな事を考えながらアッシュとフュリンはとりあえず部屋の散策を始めた。

足音がこの部屋に冷たく響く。 天井は闇に溶けていて何処まであるのか把握できない。

それにしても見事に綺麗に収まってる本棚達。

フュリンが【図書館】と口にしていたがこの部屋を使った形跡が一切見当たらない。

人が使っていた形跡がないのだ。

どの本も綺麗に整頓されて置かれてあった。

丁度部屋の中央にイスとテーブルを見つける。

辺りに目を配りながらその前まで来ると手でテーブルを触ってみた。

感触からして恐らく石の様な材質で出来ている。

イスに少し警戒しながらゆっくりと腰を降ろすアッシュ。

そして改めてこの巨大な図書館を見渡した。

上の方でちらちらと鈍い光が見えるのはフュリンの放つ羽の光。


フェアリーの羽が微弱な光を纏っていた事を

今になって気づいたアッシュ。

目で追って行くが途中で本棚に視線を変える。



 「……ここは一体なんなんだ…」



フュリンはひらひらと細かく羽を羽ばたかせながらずっと続いている

本棚を見上げながら天井に向かっていた。



 「ま、 まだ天井見えへんやん…。


 ほんま…何処まであんね…やろ…」


 

もうすでに下にいるアッシュを確認する事が出来なくなっている所まで

来たフュリンはこの深き闇に恐怖し、 急いで降りていく。



 「アッシュー!!

 (うわわ~、 し、 下が何も見えんやん~!!

 こここここわ~!!!)」


 「ん? 何か今…



 フュリンか?」



深い闇の天井から小さな強い光がアッシュ目がけて

急降下して来たのだった。



 「(…へぇ、 早く飛ぶと光が強くなるのか…)」


 「あかんわアッシュ、 この部屋めちゃめちゃ高い!

 あんだけ上がってもまだまだ天井見えなかったんやから」


 「……底なし沼って聞いたことあるけど…。


 まさか底なし天井だったりして…な」


 「で…何かわかったん?」


 「そうだな…本が読めないって事以外は何も」


 「本が読めへんって?」



アッシュは近くの本棚から本を手に取ろうとした。



 「うぐぐぐぎぎぎぎぎぃ~!!!!」


 「取れへんの?」


 「はぁはぁ…こ、 この通り…」


 「どうゆうこと?

 読む事が出来へん本がこんなにいっぱい?」


 「さあ…。



 でも、 きっと誰かの仕業だろうな」



と、 いきなりアッシュは天井に向かって大きな声で叫び出した。



 「誰だよ!! いるのはわかってるんだよ!!


 出てこいよ!!」



数秒遅れて聞こえてくるアッシュのこだま以外は何の反応もない。



 「どこのどいつやぁぁ!!


 はよ出てこんかったら痛いめみるでぇー!!」


 「……」


 「………アッシュ、 スキャンで探してみたら?」


 「さっきからやってるんだけどな…やっぱり反応は無いみたいだ」



相変わらずの無音に耐え切れなくなったフュリンの心に少しずつ恐怖が侵入し始めた。

辺りを警戒しながら体が小刻みに震えている。

そしてアッシュへと距離を縮めていくフュリン。



 「……な、 なんか…寒くない…?」


 「お前…


 まさか、 意外と怖がりだったりして…」


 「こここ怖がりとち、 ちゃうわ~!!」


 「ふぅ…」



アッシュは軽くため息をつくと後ろの本棚を背にして地面に座った。



 「ほら、 お前もこっち来て少し休めよ」


 「う、 うん…」



少し戸惑いながら宙を飛ぶとアッシュの横にひょこっと降りた。



 「お前って本当に不思議な奴だな」


 「な、 なにが?」


 「だって、 人間好きになるフェアリーなんて聞いた事ないぜ?


 まぁ俺はお前しか見た事ないんだけどな」


 「……うん」


 「フェアリーって大人になったらどうなるんだ?」


 「どうなるって?」


 「何か見た目が変化するのか?」


 「それって変化して欲しいって事!? アッシュ!!」


 「あ、 いや…どうなるのかなと思って」


 「ち、 違うん…か…。


 ん~と……それは秘密…あはは…」

 

 「な、 なんだよ秘密って」


 「………あははは。 ま、 まぁいいやん!」


 「言いたくないんだったら別にいいけどさ…」


 「……うん」


 「ふぅ…」


 「……」



2人の間に何とも言えない重い空気が流れだした。

気まずいとは少し違うこの微妙な空気感。

しばらくすると2人は眠りに着いたのだった。



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