episode 5 新たな理由
エピソード5 新たな理由 完成です。
読者のみなさん! おかげさまでエターナルサーガ
ランキングで1位になりました!!!
投票してくれた方、 本当に感謝しています。
これからも末長いお付き合いの方よろしくお願いします。 では、どうぞ
−ディルウィンクエイス−
マスタールーム
「マーディン様!!」
「あぁティナ、 いいところに来てくれました。
これを見て下さい…」
さっきティナが追いかけてたあのオーブが
マーディンの手で鈍く輝いていた。
「ディックから届いた通信オーブです」
「ディックに一体何が…!?」
「…繋ぎますよ」
オーブはマーディンの手から離れると地面で強く輝きだした。
やがてその光は人型へと形作られていく。
何度も点滅を繰り返し、 光の光度が落ち着いてくると
その人型はディックへと変わった。
「ディック! 無事なの!?」
ティナの呼びかけに反応するディックだが
彼は彼女を見つけられないでいた。
どうやらある程度近づかないとお互いの姿が
見えないらしい。
「ここよ、 ディック!」
―――…あぁ! いたいた!!!―――
「ディック、 状況を報告して下さい。」
―――はい。 ラジュ村付近の森に今潜伏してるんですが
心遠眼で仲間にこの周辺を探らせていたところここから
5キロ地点にレヴィナードの部隊を発見しました……ただ―――
「…何です?」
―――それが、向こうもこちらの動きに気づいてたみたいで
丁度さっきレヴィナードから通信オーブが
届いたんです―――
「通信オーブですか……」
―――内容を簡単に言うとマスターと直接
話がしたいそうなんです―――
「あんたなに馬鹿な事言ってんの!!
マスターがここを離れる訳にはいか…」
ディックの幻影に怒鳴り散らすティナの肩に
そっと手を置くマーディン。
それは合図なのか途中で言葉を止めるティナ
。
「向こうの状況はわかりますか?」
―――こっちの返事を
待ってるって感じです―――
「(妙ですね…。
こちら側の情報を把握しているにも関わらず
襲って来ないとは…奇襲作戦の1つや2つ考えていても
おかしくはないはず。 それに通信オーブ……)」
通信エリアから離れ、 考え込むマーディン
右手を口に当て、 ひじを左手で支えて意識を集中する。
―――…ス…タ…マスター!
どこですかぁぁ!?―――
「…はい、 どうしましたか?」
―――今届いた情報なんですけど、
レヴィナードのマスターを確認できました!!―――
「なんでレヴィナードのマスターが!?」
【 通信オーブ 】
自分の魔力をオーブに流しそれを相手に
飛ばして連絡を取る手段。
飛ばしたオーブは相手の魔力を感じ取り
必ず相手に届く事になっている。
通信オーブは相手以外を
またこのオーブは目で確認する事が出来てしまう為
敵に発見されやすいので使用の際には注意して使う必要がある。
【 スキャンオーブ 】
スキャンで見た情報をオーブ化したもの。
このオーブを相手の中に入れるとその情報が経験できる。
また通信オーブと併用する事で遠く離れた相手に敵の情報を届けるという使い方もできる。
【スキャン】
対象のエネルギーの流れを見極め魔力の強さや
状態を把握できる技術。
スキャンで感知できるのは現在の魔力量であり
潜在的な魔力は感知できない。
また体力も感知する事はできない。
しかしスキャンそのもののLvを高める事によってこれらの制限は受けなくなる。
発動時、 使用者の瞳はエメラルドの様な緑に変色する。
スキャンのLvを上げると対象は生物に限られず暗視化など
戦闘面以外でも使用できる様になる。
―――で、 どうしますか!?―――
「…わかりました。 私もそちらに向かいます」
「ま、 マスター!! 罠かもしれないんですよ!?」
「わかっています。
ですが今までのレヴィナードの行動とどこか違う…
そんな気がするんです。
本当に話し合いを望んでいるかもしれませんし…」
「マーディン…さま…」
「ディック、 20分でいいので少し時間をもらえますか?」
―――了解っ! では20分後にまた飛ばします!
…通信終わり―――
するとまた点滅が始まり、
ディックの姿はフラッシュと共に消えて無くなった。
「ティナ」
「はい」
「アッシュをイマジンルームまで連れて来て下さい」
「マーディン様、 さっきも仰ってたんですけど
イマジンルームで一体何を?」
「貴方はもうわかっているはず…
アッシュの中に、あのオーブがあると言う事を…」
「(エディルオーブ…)
【スキャンオーブ】は提出していないはずですが…
どうして知っているんですか?」
「…………」
「…まさか最初から知っていたんですか!?」
「ティナ、 今は話してる時間などありません…」
「…わかりました」
マーディンに一礼すると部屋を出て
アッシュの元に向かった。
「(グランベルクの狙いがアッシュだと
いう事は明白なる事実…
今の内に【アレ】を取り除いておかなくては…)」
そしてティナはアッシュを連れイマジンルームへと辿り着く。
「ここは初めて見る部屋だな…。
何をするとこなんだ?」
「イマジンルームと言ってスペルの技術を磨いたり…
訓練によく使われる部屋なの」
するとアッシュ達の目の前に
いきなりマーディンが姿を現した。
「!?」
「2人とも来ましたね。
ではアッシュこちらに来て下さい」
「は、 はい…」
アッシュは魔方陣の描かれた床の上に連れて行かれ
微かに鈍い光を放っている魔方陣に少し
戸惑いながらもそこに腰を下した。
「な、 何をするんですか?」
「今は説明している時間はありませんが
貴方にはちゃんと話しておかないといけませんね」
少し離れた所で2人を見守るティナ。
「アッシュ、 貴方の中にはあるオーブが宿っています。
【エディルオーブ】と呼ばれるものです」
「エ…ディルオーブ……」
「それには強大なエネルギーが秘められており
今の貴方にはこれを使いこなす事はおろか
その力に耐え切れずに自らを傷つける恐れがあります。
ここでそのオーブを取り除き私が暫くの間
封印して預かる事にします」
「(俺の中に…そんな力が…)
なんでそんな物が…俺の中に…?」
「アッシュ、 今は時間がありません。
儀式を始めますが、 貴方の確認が欲しいのです」
「俺…どう言う事かわからないです…。
でど、 危険なものなら取り除いてください」
「…わかりました。 では…始めます」
マーディンは両手をアッシュの額に当てると
何やら呟き始めた。
「イーフリュ・マータ・スクローズ・レ・パンヌ・ダーケイ・イーダア・
アジュ・ラ・デュクス・モフィール・ダール・我が手に納めよ」
アッシュの胸辺りが突然輝きだすと
同時に燃える様な痛みが彼を襲った。
あまりの激痛に大声を上げる
「うぅ…うがあぁぁぁぁぁ!!!!!!
うぐぐぐぐぐ…わぁぁ・あ・ぁ・ぁ」
マーディンは暴れ回るアッシュを抑える為に
金縛りの様な力でアッシュを縛る。
「(アッシュ…!!)」
手を絡め祈りながら見つめるティナだが時々
悲鳴を上げるアッシュに目を背ける。
「うぐぁぁぁぁああああああ!!!
…あがぁぁ!! あぁ…が…う…」
「もう……少しです…」
そしてついに光の塊をアッシュから抜き出した。
「…はぁ…はぁはぁ…
はぁ…あ…ぐぅ…はぁはぁ…」
「アッシュ!? 大丈夫!!?」
ティナが駆け寄り彼に肩を貸す。
「よく頑張りましたねアッシュ。
無事オーブは取り出せました」
正面に立っているマーディンの手には紫の輝きを放つオーブが
鈍く不気味に光っていた。
「あれが…、 エディルオーブ……」
「これは封印庫に保管しておきます」
マーディンが唱えるとそのオーブは近くの
水晶玉の中にすっと入って行った。
「…さて、 もうそろそろディックから連絡がくるはず」
「……?」
マーディンの元にオーブが届く。
彼女は先程と同じ様に通信を繋ぎ始めた。
ディックの幻影が姿を現す。
「ディ、 ディック!?」
「お待たせしました。
向こうに今から行くと伝えて下さい」
―――わかりました。 では!―――
フラッシュと共に通信が途絶えた。
「ティナ、 それにアッシュ、
貴方達も一緒に来て下さい」
「マーディン様! 危険です!!
アッシュは帝国に狙われてるんですよ!?」
「…ティナ、 私がついているんですそうはさせませんよ。
それとも私では力不足とでも?」
「そ、 そのような事は…」
「大丈夫です。 さあ行きましょう」
マーディンは右手を前に出し円を描きだした。
そこに魔力を流して光の渦を作り出す。
その渦は徐々に大きくなり人が入れる大きさに成長した。
「これって…あの丸い扉に似てる…」
「ついて来て下さい」
先にマーディンが渦に入った。
次にティナが入りそしてアッシュの番となった。
「…もうそろそろ慣れないとな…。
…よっと」
そしてディックの待つ森へと辿り着く。
光の渦から出るとエレメンツが数名で出迎えていた。
「マスター、 こちらです」
と案内されてディックと合流を果たした3人。
「ディック、 現在の状況を教えて下さい」
「クレイドがレヴィナードと接触しているんですが
なんか向こうの様子が変なんですよ」
「…変? 続けて下さい」
「エレメンツの数にしても、 少ないと言うか…」
ティナとマーディンは心遠眼で様子を探った。
「リーベルトを含めて3人ね」
「もしディルウィンクエイスを襲撃に来たのなら
レヴィナードの事だからもっと数で圧力をかけて来ると
思うんだけどなー」
「では、 他に目的があると…?」
「はい。 そうでないとおかしいですよ。 いくらリーベルトがいるにしても
あの人数は…」
「…わかりました。 向かいましょう」
レヴィナードが待つ場所へ向かう事にしたマーディン達。
相手の事はおろか敵か味方かでさえも
正確に把握できていないアッシュ。
とりあえず皆の後ろをついて行った。
「お待たせしました。 レヴィナードの皆さん」
「あんたんとこのエレメンツは
あんたに似てバカと言っていいほど警戒心強いねぇ…マスターマーディン。
ハウスまで行ってやるって言ってるのにさ」
手を腰に当てた女がマーディンに向かって歩き出した。
漆黒の長い髪にルビーを思わすほど妖艶な紅い瞳
槍を突き出したかの様な鋭い口調
しかしその美しい顔立ちとふくよかな胸に
自動的に目が行ってしまう。
黒い髪がその白い肌をより際立たせる。
「貴方も、 その冷たい物言いは相変わらずですね。
美しい顔が台無しですよ…ロゼ」
「ふん! わかってると思うけど、 今日は話し合いに来たんだよ」
「話し合いですか…
貴方の口から聞くなんてまた似合わないセリフですね」
「ホントはあたしだって暴れたいんだよ。
でも陛下の命令なら仕方ないのさ」
「…話の用件は何です?」
ロゼはマーディンのすぐ隣にいたアッシュを軽く睨む。
蛇に睨まれた蛙の様に一言も言えずに
立ち尽くしてしまうアッシュ。
思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「もちろん、 あの坊やの事でさ。
まぁ正確にはその中の【オーブ】だけど」
「渡せと言われて私が素直に応じない事は
貴方も知っているでしょう?」
「だから話し合いに来てやったって言ってるのさ」
「じゃあ…聞きましょうか」
2人が会話している中アッシュは1人考えていた。
自分の中に強大な力が宿っていた事。
それを帝国が手に入れようとしている事。
自分からオーブを取り出した本当の理由。
そして今、 何故この場に連れて来られたのか。
全ての謎が1つの線として繋がろうとしていた。
「簡単に言えば武術大会みたいなもんさ」
「武術大会…?」
「ルールは簡単だ、
普通のトーナメント方式で一対一で
戦いの勝者が次に進む。
一応降参棄権をする事もできる。
勝者って言ったけど【勝つ】と言うのは
【殺す】と言う事だからよく覚えとくんだね」
「なっ!!?」
「くっくっくっ。 参加者は自由だ。
エレメンツの資格が有る者なら誰でもいい。 もちろん…マスターもな」
「…………」
「それにあたしらだけじゃ盛り上がらないって事で
他のハウスにはもう通達済みだ。
参加するハウスは、
グランベルクの…
【レヴィナード】と【アストルーラ】
エルザードの…
【マナフォビッド】
そしてバリオンの…
【ディルウィンクエイス】だ」
「おい…それって、 全部でかい勢力のハウスばかりじゃねぇか…」
「大体まだ参加するなんて決めてないわよ!!」
「…わかりました」
「マスター!!」
「ただし! …条件があります」
「条件…?」
「もし、 その武術大会で我がディルウィンクエイスのエレメンツが
優勝した場合、 今後一切アッシュには近づかない事を約束してもらいます」
「あたし達に約束だって!?
ふっふっふ…あーっはっはっはっはっ!
面白いじゃないかー!!
わかった、 その条件呑んでやるよ!
こっちの欲しいものはもうわかってるから言わないが…
アッシュ・バーナムは絶対参加だから
せいぜい殺されないよう修行するんだねぇ…
くっくっくっあっはっはっは!!!」
容姿とは全く縁のない豪快な笑い方に
レヴィナードの連中も少し驚いていた。
「リーベルトっ!!」
ロゼは少し離れた所で大きな岩に座ってる
黒髪の男を呼ぶと男は無表情のまま
こちらへ向かって歩いて来る。
「こいつはリーベルトって言って
あたしが今一番可愛がってる坊やさ」
「ロゼ、 戦闘がないなら俺はもう帰るぞ」
「あいつが…リーベルト…」
「あぁ、 俺と同じクラスAだ…。
パワーにスピードそれに魔力、 その
どれをとっても俺より実力は数段上だ…」
「そんなに強いのか? あいつ…」
「強いってもんじゃないわ。
目の前に例え味方がいたとしても
その向こうに敵がいるなら味方もかまわず斬り捨てるとんでもない奴よ」
「元々レヴィナードって連中は戦闘マニアで有名なんだ
あのロゼも相当やべぇっつう話だからな。
アッシュ、 あの女の誘惑に負けんなよ〜」
「あ、 ああ…」
警戒しながらロゼを見るそのアッシュを
黙視しているリーベルト。
「(あれが噂に聞くアッシュ・バーナム…
なんだあの微量の魔力は…。
ロゼや陛下はこんな弱い奴を何故相手にする…?)」
「リーベルト、 あんたも大会にでなっ!」
「俺は強い奴としか戦わん…。
ただ、 どうしてもと言うのなら……
そうだなマーディンが相手ならやってもいい」
「!!!?」
その言葉に、 時が止まったかの様に辺りは静まり返る。
「…あっはっはっはっはっ!
言うねぇリーベルトー!
さすがはあたしが見込んだ奴だよ!
…おっと、 くっくっくっ…話がそれたねぇ。
まぁ大会の詳細は近いうちに知らせる。
通信オーブでも使ってな…」
「……」
「楽しみにしてるよマスター・マーディン… ほらお前たちとっとと帰るよ!」
ロゼの一声でレヴィナードはあっという間に
引き揚げて行った。
「…クレイド」
「はい」
「念の為です。
レヴィナードが本当に引き揚げたかどうか
確認して来て下さい」
「了解」
「ディック、 ティナ、 しばらく貴方達は任務から外れてもらいます
みっちり修業して力をつけて下さい」
『はい』
「……それから…アッシュ」
「は、 はい…」
「あの時の気持ち、 まだ変わってませんか?」
「あの時の…気持ち…」
それは初めてマーディンに自分の思いを話した時の事だった。
「はい! 俺エレメンツになりたいんです。
もっとティナやディックの様に強くなりたいんです」
マーディンはアッシュの瞳を覗き込んだ。
海が太陽の光で照らされ宝石みたいに
輝く様に彼の瞳も潤っていた。
「(初めて会った貴方の瞳は濁った色でしたが
今は純粋な黒に…どうやら迷いは晴れたようですね)」
マーディンがアッシュに近寄りこう告げた。
「エレメンツの道は厳しいですよ?
貴方はやり遂げられますか?」
しばらく黙っていたがアッシュはマーディンにこう切り出した。
「俺…ディルウィンクエイスの街の人見てて
思った事があるんです。
みんな笑ってるんです。
何の事で笑ってるのかと言う事よりもどうしてそんなに
笑顔でいられるのかがすごい気になって…
それで俺思ったんです。
この街の人達に俺が感じたあの悲しい思いは させたくないって…。
エレメンツになってその笑顔を
守りたいと思いました。
だから俺はその為にも強くならないとダメなんです!
心も体も、 俺はもっと強くなりたい!!」
「アッシュ…」
感動したのか目が充血気味のディックが鼻を詰まらせながら零した。
「へっ…何かっこつけてんだよ……おめぇは…」
「そう…ですか…」
マーディンはアッシュに背を向けるとこう言った。
「アッシュ・バーナム」
「はい」
「今日から貴方はエレメンツ候補生として
ディルウィンクエイスに仕えてもらいます」
「はい!!」
ティナやディックそして周りのエレメンツも
アッシュを歓迎した。
「それともう1つ…」
「は…はい」
「貴方も当然大会には出場してもらいますが
その為には修行して力をつけなければなりません…
普通に修業をしても結果は見えています。
そこで…
明日から私が…貴方の稽古に付き合う事にします」
『え!?』
アッシュを含め皆その発言に声を揃えるのだった。
次回からはようやくアッシュが活躍します
今までティナやディックの影に隠れていたアッシュでしたが
次回にこうご期待!!!