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ETERNAL SAGA  作者: 紫音
58/73

episode 55 一時の平和

目を開けた。 夜明けだ。

まだ少し薄暗いが実に清々しい朝だ。

ガラッと窓を開いて外の空気を部屋に入れる。

外はまだ瓦礫の山が散らばっている。

アッシュは一通りその景色を見渡した後

部屋の中で眠るレリスに目を落とす。

薄いシーツにくるまってすやすやと寝息を

立てている彼女のそばに座ってその愛くるしい

寝顔を見つめる。 心が休まる。

2人は今、 ディルウィンクエイスの居住区の

宿舎にいる。

ただここはアッシュの部屋ではない。

使えそうな部屋を借りているだけなのだ。

しかしディルウィンクエイスが崩壊した今

誰のものなど関係のない事だろう。



実際ディルウィンクエイスにいるのは

彼等2人だけなのだから。



 「………ん…アッシュ…」


 「ごめん。 起こしたか?」


 「…ううん、 おはよ…」


 「何度見ても信じられないよな…。

 あのディルウィンクエイスがこんなになって…」


 「……ねぇ、 アッシュ」


 「……ん?」


 「あたし今、 凄い幸せだよ。

 だってこんな時でもアッシュと一緒にいれるんだから」


 「まだ闘いは終わった訳じゃないんだぜ?」


 「そうだよね…今日で10日になるね…」


 「(あれから10日か……。

 ヴィーゼ達から何の連絡もないな…。

 それに今日まで何も起こらなかったし…。


 何か……変な感じだな…)」




それは悪夢が過ぎ去った様な錯覚だった。

まるで今までの事が全て夢であったかの様に。

これが“平和”だと言うのならば

そうなのだろうと思うアッシュ。

しかしこの平和な日々には限りがある。

こうしている間にもこの世界のどこかで

ディウスがエターナルサーガ発動に向けて

着々と準備を進めているのだ。

そう考えると今こんなところでこんな事を

している場合じゃないと思えてくる。



 「ティナも言ってたでしょ?

 休める時に休まないと次闘う時は

 あたし達が勝つか負けるか…

 世界が終わるかはあたし達にかかっているんだって」


 「あぁ…分かってる。

 絶対に負けない」


 「…うん!」


 「よし! じゃあ今日もディックと修業するか」


 「も〜休まないとダメだってティナが言ってた事

 今さっき言ったのにもう忘れてるんだから」


 「え、 ああ…そうか…。

 でもディック達は今日もやるのに俺だけ…」


 「きっとディックも同じ事言われてると思うよ」


 「そうか?」


 「そうだ☆ じゃあ今日はあの湖に行こうよ!!」


 「何であんな所に行きたいんだよ。

 何かジメジメしてるし何にも無いぞ」


 「いいから! 行こ☆」



レリスに言われるがままアッシュは

あの霧が立ち込める湖へ向かう事にしたのだった。










−ラミュンダ−



エルフが暮らす世界“ラミュンダ”。

この地にディックとティナがいた。

2人が今いるのは【霊花の草原】と呼ばれる場所で

何でもここで霊花と言う花を見る事が出来た者達には

永遠の絆が結ばれ、 お互いの絆が無事に

結ばれると花はそっと消えて無くなると言う。

ただお互いが想い合ってなければ

花は消える事無く枯れてしまうらしい。

それを探しにやって来たのはティナであり

ディックはただティナに頼まれてついて来ていたのだった。




 「おいティナ、 もういいだろ…帰ろうぜ

 …あ〜疲れた…」


 「…あんたね、 アッシュと修業する時は

 平気で何時間もやってられるのに

 ただ歩くだけで何で疲れるのよ」


 「歩くだけってお前なぁ…。

 こんなでっけぇとこで……なんだったか?」


 「…霊花」


 「そう、 その霊花っちゅう花を見つけるなんて

 無謀だろ〜、 いや普通に無理だって」


 「はぁ…じゃあもういいわよ。

 私一人で探すから」



冷たく言葉を置いて先に行くティナ。

それをまずいと感じ、 せこせこと後を追うディック。



 「ちょ、 お、 おい!

 わかったわかった!! 俺も探すから


 だから怒んなって」


 「嫌々だったらいいわよ別に」


 「嫌だったら最初から断ってるって!

 んじゃ探そうぜ!!」



と、 ティナの先に行って目を凝らしながら

探し出すディック。

その行動がいつまで続くのやらと溜息で語り

再びティナも探す作業に入る。



 「で、 霊花ってどんな花なんだ?」


 「私も聞いただけの情報しかないけど…

 黄色い花なんだけど花弁が特徴なんだって」


 「ふ〜ん…黄色い花ね…。


 そもそも何でそんな花を探してんだよ」


 「…そ、 それは…」


 「…ん?」


 「……………」


 「……何だよ」


 「な、 何だっていいでしょう!!」


 「……へぇ〜なるほど」


 「な、 ………何」


 「へへ、 わかったぜー!」


 「!?


 な、 何が…?」


 「へっへっへー、 あれだろー?


 それ食ったら痩せる効果があるとか」


 「……違うわよ」


 「いーや、 そうだ!

 俺の推理が当たってたら…

 最近少し太ったとみた☆」



と、 人差し指を立ててニコッと決めた

ディックに重い一発を放つティナ。

完全にティナの膝が腹部に入った。



 「うがっ…」


 「ばか…」



ティナは再びディックを置いて先に行ってしまった。



 「…本…気で…蹴りや…がった」










−エルザード−

リザレクションルーム



エルフが統べる空中浮遊国エルザード。

そこには人間は一人といない。

一般市民ももちろんエルフである。

この国にはマナフォビッドと呼ばれる

エレメンツハウスがあり、 国の中心に位置する。

他のハウスと違うのはマスターと国王が

イコール(=)になると言う事だ。

そのマナフォビッドの中の一室に

リザレクションルームと呼ばれる治療室がある。

これは重傷な兵士を対象にしたもので

徹底的に集中治療を施す為の部屋なのだ。

部屋の中には黒いカプセルが並んでおり

そのカプセルの一つの中にはジェノの姿があった。


そう、 リーベルトとの戦いで力尽きたジェノは

ディック達によって救出されていたのだった。

ガラスを挟んで彼の顔が見える。

カプセルの中から青白い明かりが顔を死人の様に

見せてしまう事もあってジェノを運んで来てから

ずっとこのカプセルを見守り続けてきた

リルティは不安で堪らない。

涙などはとうに流し果て、 イスに腰掛けずっと

彼のカプセルを見つめながらただ祈っていたのだった。



 「…いい加減休んだら」



そんなリルティに声をかけたのは赤髪のノアだった。



 「………」


 「あのね……そんな事しても無駄だって

 君もわかってるのに何で続けるの?


 ほんとに人間ってわっかんないなぁー」


 「………」


 「はぁ……て言っても無駄か…」



溜息をついたノアはそのまま部屋を後にした。


 「……ジェノ………ジェノ」










−湖−



 「あれ? 霧が出てないな…」


 「ほんとだ…」


 「こんなの初めてだ。 向こうまで見える」



アッシュとレリスは“あの湖”へとやって来た。

いつもの様な霧は無く、 キラキラと月光が

湖に反射していてこれはこれで神秘的だ。

ただ月明かりだけでこれ程の演出は無理だろう

答えは湖の中の水晶だ。

これが光を増幅し、 明るくしているのだろう。

青く光るその湖の周りを2人は適当に

歩いてみる事にした。



 「静かだね」


 「そうだな…」


 「夜になっちゃった」


 「途中で寄り道するからだろー

 逆方向のテリスからまた引き返して来たんだから」


 「だって2人で街とか歩いてみたかったんだもん」


 「だったらバリオンの方がいいのに。

 あそこの城下街は凄い綺麗らしいから」


 「そういう事何で早く言わないのー

 もう…」


 「ご、 ごめん…だって楽しそうだったし…」


 「楽しかったけど言って欲しかった」


 「じゃ、 じゃあ明日行くか?」


 「ね! アッシュあれ見て!!」


 「え、 あれって?」



レリスが指差す辺りに目を向けると

光輝く蝶がヒラヒラと宙を舞っていた。

よく見渡すと何匹か蝶が辺りを浮遊していたのだった。

見る角度によっては赤にも黄色にも

またピンク色にも見える。



 「綺麗だね…」


 「あぁ…。

 (さっきの話はもういいのかな…)」


 「アッシュ! こっちこっち!」



少し先の所でレリスが座って手招きをしている。

隣に座り湖を眺めた。



 「ねぇアッシュ」


 「…ん」


 「もし、 もしもだよ?

 もしあたしがいなくなったら……


 悲しい?」


 「何だよ急に…」


 「いいから答えて」


 「悲しいに決まってるだろ……ん?


 (あれ…何か前にもこんな事あったような…)」


 「うふふ♪あたしは〜

 アッシュがいなくなっちゃったら…


 死んじゃうかも☆」


 「お、 おいおい…」


 「それぐらい好きだって事なんだよーだ」


 「はいはい…ありがと」


 「ふーんだいっつもアッシュはそうやって

 本当の気持ちを隠すんだから」


 「隠してないだろーちゃんと言ったぞ

 ありがとうって」


 「知らな〜い」



レリスはそっぽ向いてしまった。



 「何だよ…怒ってんのか?」


 「怒ってない」


 「いや怒ってるだろ…

 (んとに…何でこうなるんだよ…)」


 「…でもね。

 こうやってケンカしたりするのも

 もしかしたら最後かもしれないんだよね…」


 「……レリス…?」


 「だからいっぱいわがまま言ってアッシュを

 困らせるの。 うふふ一生分ね!」


 「な、 何だよそれ…」


 「ふふふ! 困ってる困ってる☆」



レリスはニコニコ笑顔を見せながら

アッシュの腕にしがみついた。

こんな行動されたらかつてのアッシュは

きっと死んでいたに違いない。

慣れとは怖いものである。



 「絶対離さないから心配すんな」


 「…うん」










−エルザード−

リザレクションルーム



 「…君まだいたの…」



ノアが再び部屋にやって来た。



 「………」


 「リルティだったよね君。

 聞いたら食事も取ってないそうじゃないか」


 「………」


 「食べないと体がもたないよ?

 ジェノ様が回復してもその時君がやばかったら

 ジェノ様はどんな気持ちになるかな」


 「……ジェノが…?」


 「そうだよ。

 このままだと君もカプセルに入る事になるかも

 しれないんだ。 オイラが言ってる事わかる?」


 「……でも…」


 「ジェノ様の事は心配ないから。

 オイラはその為に来たのさ」


 「ノア…」


 「ほら、 早く」


 「………うん」



リルティは立ち上がり、 食堂へと向かう。



 「…ありがと」


 「べ、 別にオイラはジェノ様の様子を代わりに

 見る為に……そう任務として来たんだから

 い、 いいから早く…行けよ」


 「(……ふふ、 嘘ばっか)」



リルティは部屋を後にした。



 「ふぅ…。 何やってんだろオイラ…。


 でも何で…




 何であんな人間が気になるんだろ…」










−ラミュンダ−

霊花の草原



 「特徴は?」


 「何?」


 「ほら、 さっき言ったろ?

 花弁が特徴だってよ」


 「あ、 えっと。

 確か風車の様な形をしてるって言ってた」


 「かざぐるま…?



 ん〜と………こんな感じの?」



とディックが近くの花を摘み取ってティナに見せる。



 「そうそう! きっとそんな感じの………って


 それそれ!! それよきっとー!!」


 「え? こ、 これかぁー!?」


 「黄色で花弁が………そう!

 きっとこれだわ!!」


 「よかったなー!

 俺のおかげだぜ☆ 感謝しろよティナ」


 「そうね、 ありがとねディック」


 「え!? えぇぇ!!!?


 うそだろ…おい……。


 まさかあのティナが…

 今ありがとうって…」


 「何?」


 「お前…熱あるんじゃねぇのか?」


 「ないわよ…」


 「まさか…数々の激しい戦いで

 おかしくなったんじゃ……いや

 俺が無理な指示を出したからか…?

 そうか…そうだったのか…

 ティナ…俺はお前に…」


 「聞いてディック。

 この霊花にはこんな話があるの…」



この地で霊花を見つける事が出来た者達には

永遠の絆が結ばれると言う伝承をディックに聞かせた。

ティナの口からそんな事を聞くとは思いもしなかった

ディックは今一番気になる事を

彼女に問いかけたのだった。



 「な、 なぁ…それってよ…つまり

 …ほら…その」


 「な……何」


 「つまりは……あれだ…えっと…その…」


 「だから何よ」


 「だから俺とお前が…」


 「………」


 「いやまさかな…はは…はははは。

 そんな訳ないかぁー」


 「もぉ…鈍感っ!!」


 「あ、 おい! ティナッ!!


 じゃあ本当に? 本当にかぁー?」



ティナは頭から蒸気を出しながら

ドスドスと歩いて行く。



 「何であんな奴!!


 何であんな奴の事なんか!!!」


 「後で嘘でしたとか無しだぞぉー!!

 おい聞いてるのかよー!! ティナ!!」



持っていた霊花を捨ててディックは

ティナの後を追いかけた。

花はゆっくりと消えて行ったのだった。




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