episode 52 帝王ディウス
黄金の光と黒き光が凄まじい速さで島全体を
縦横無尽に飛び交っていた。
ディックとリーベルトである。
彼等の闘いにもやはティナ達はついていけなかった。
しかしその中で唯一ヴァルファリエンであるゼアだけが
戦闘状況を把握出来ていた。
「2人共恐ろしいスピードで戦っている……。
あれがギガドライヴか…。
な、 何と言うスピードだ…」
「あ、 あたし…ただ光ってる様にしか…」
「私もついていけない……こんな事初めてだわ…」
「ディックさん…頑張って!!」
ティナ達に見守られる中、 激しい闘いを
繰り広げているディックとリーベルト。
ここまでお互い全くの互角の闘いをしていた。
しかしギガドライヴには弱点がある。
それは術が解けた時点で魔力が0になり
シールドも張れない無防備状態となる。
基本的にオーバードライヴ、 ギガドライヴは
発動時間に限りはない。
任意に解除するか意識的に保ってられない場合は
強制解除となる。
そして忘れてはならないのが長時間使い続けていると
身体的な影響を及ぼすのも特徴であるこの術。
発動してから10分を経過したディックに
少しずつそのペナルティーが加算されていく。
激しい攻防戦の途中で徐々に手足が痺れはじめた。
「(や、 やべぇ…もうそんな時間か…。
くそ〜早く決めねぇと…
ちっ! 手足が痺れてきやがった…!!)」
リーベルトから距離を大きく取って
フォースエッジを投げ放った。
そしてそのフォースエッジに“ホーミング”機能を
追加した後、 ティナに声をかける。
「わりぃティナ! あれをコピってくれぇー!」
「え!? ………わかったわ!!
ん〜!!!!!!」
ティナはリーベルトに向かって飛んで行く
フォースエッジをシャドウコピーで複製する。じわじわと巨剣から黒い影が滲み出し、
それぞれが鋭い巨剣へと形作られていく。
その数、 何と数百。
「よっしゃ〜っ!!!
これで勝負をかけるぜっ!!」
ディックは空高く上昇しながら魔力を全身から放った。
「ドォォラァァゴォォ…
ブレェェェェイズッ!!!!!」
図太い炎が勢いよくリーベルトへ放たれた。
その頃数百のフォースエッジはリーベルトに
次々と命中していく。
魔力を放出して粉砕するがコピーされたフォースエッジの
圧倒的な数に追いつかずまたリーベルトに突き刺さる。
「ぐ……う……。
やるな………ディック…ストライバー」
そこに巨大なドラゴンの口がリーベルトへと
向かっていた。
フォースエッジに対処していたリーベルトは
そのまま巨大な炎に飲まれていく。
ドラゴブレイズも見事命中した。
火柱と化しますます勢いが激しく燃え上がる。
「す、 すす……すごい…ディックさん…」
さらにディックはまだ何かをしようとしていた。
彼はいつの間にかクイックフェザーを使い
上空に浮遊しながら何やら小さく呟き出した。
「ま、 まだ何かやる気だわ…ディック」
「……あれは……」
「ジグド・フレ・アルフ・レイズ
リファイア・ガン・ド・スファイ
古より来れし黒き稲妻よ
我が血の盟約を持って汝を誘わん」
「ま、 まさかあれは…マテリアルフォースか!?」
「え!?」
「だ、 だが……あんな呪文…
聞いた事ないぞ…」
「へっへっへ、 ありゃあ俺達が教えたやつだ!!」
「ゼア達が?」
「具体的に言えばフィルが生み出したんだけどよ。
あいつ既に使い熟してたとはな!!
ほんとすげぇ奴だぜぇ!!」
「いでよぉー!!
ダルクマティアァァァァ!!!!!」
ディックの全身が眩しく輝いた光が大きな塊となり
リーベルトへ放たれた。
その途中で魔方陣を形成し、 その中から
黒い物体が勢いよく飛び出した。
鋼鉄の身体を持つ黒龍、 ダルクマティアである。
「ギャャャオオオオーッ!!!」
巨大な翼を広げたダルクマティアは
大きく口を開けるとドラゴブレイズに
包まれたリーベルトを地面ごとえぐり取った。
しかし確かな手応えを感じない。
「…!? あのスペルから逃げたのか!?」
キョロキョロと周りを探るディックの背後に
魔力の反応があった。
それに気づいていたゼアが叫ぶ。
「おいっ!! 後ろだぁーー!!」
「その通り…」
「…し、 しまっ!?」
リーベルトは振り返るディックに持っていた刀を
大きく振り下ろした。
衝撃波がディックに炸裂するとそのまま落下して行った。
「ぅがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
それと同時にダルクマティアは消え、 ギガドライヴは
解除される。
地面に墜落すると水しぶきの様に砂埃が舞い
ディックの倒れている姿が目に入った。
「ディック!!」
「ディックさぁぁん!!」
ディックは俯せになったまま動かない。
その少し前方にリーベルトがゆっくりと着地する。
「中々の…攻撃だったな…。
以前の俺なら間違いなく死んでた…。
しかし、 まさかたった一撃くらった程度で
終わりとはな…」
「あ、 あ、 あいつ…全然ダメージがない…」
「くっ……くそぉぉぉぉぉー!!」
「クレイド!? ちょ!! クレイドー!!!」
魔力を全開に放出しながらクレイドはイシュメルと共に
リーベルトへ突っ込んで行った。
ロンの時の様に怒りで我を失っている。
「どおぉぉあぁぁぁぁぁ!!!!」
「……そんな魔力量で戦うつもりか?
貴様などクズ以下だ…」
クレイドとイシュメルが繰り出す猛攻を
シールドだけで全てを弾き返していた。
リーベルトはその場に立ったまま
攻撃が止むのを待っている。
「はぁ……はぁ…はぁ」
「やはり弱すぎるな。
俺に傷を負わせる以前にシールドすら
まともに破れんとは…」
「はぁ…はぁはぁ…くっ!!
だぁぁぁっ!!!」
クレイドは全魔力を拳に込めて打ち込んだ。
その腕をまるで磁石の様に掴むとリーベルトは腕を回し上げ背中へ向けた。
「が!!! …あ……う…ぁ」
「…2度と復活が出来ない様にバラバラにしてやる…。
ギガスパーク…」
「!?
が・が・が・が・がぁぁぁぁぁぁぁー!!!!」
ギガスパークはリーベルトまでも包んでしまい
やがて爆発を起こした。
突風が辺りにばらまかれる。
ティナ達はシールドでただ堪える事しか
出来なかった。
「ク、 クレイドー!!!!」
スキャンの反応から一つの魔力が消えた。
クレイドは姿ごと文字通り消えてなくなったのだ。
「クレ…イドさん…クレイドさぁぁぁーん!!!」
リーベルトは腕を組み何事も無かったかの様に
再び沈黙する。
眉一つ動かす事のないリーベルトの顔を見ながら
恐怖と怒りが混同したリルティは
全身を震わせながらティナへと告げる。
「ティナ…さん…
クレイド……さん…が」
「………。
許さない…!!」
「ちっきしょぉぉぉ!!!
アッシュの野郎は何で来ねぇんだよ!!!」
「……アッシュ・バーナムは今頃…
陛下と戦ってるだろうな……」
「何ですって!?」
即座に皆ディウスが倒れていた所に目を向けた。
倒れていたはずのディウスは消えていた。
「いない!?」
「さ、 さっき倒れてたのに…」
「全く…愚かな奴らだ…。
陛下が貴様ら程度にやられる訳がないだろう」
「!?
あのディウスは偽物!?」
「ま、 待てよおい…
じゃあ全力で俺がやったのも
無駄だったっつう事か!?」
「………そこのハゲ頭のアーディルが尽き
ディック・ストライバーが敗れた今
もはや俺とまともに戦える者はおらん様だな。
本来なら貴様らの様なクズを相手にするまでもないが…
陛下に皆殺しにするよう命じられているのでな
面倒だが今回はちゃんと殺してやる…」
「ティナさん……あたし達じゃもう…」
「……わかってる…勝てない…」
「いや…、 姉ちゃん達。
一つだけいい考えがあるぜ…」
「……?」
「俺のアーディルが回復すりゃあ奴とやり合える!
さっきの闘いを見る限り何とかやれそうだ。
だが回復には時間がかかっちまう…」
「アーディルの回復にはどれぐらいかかるの?」
「今で大体半分てとこだ。
長くてもあと5分……その間」
「その間…あたし達が時間を稼げればいいんですね?」
「あぁ。 けどよ、 大丈夫か?」
「5分か………。
いいわ! 私達に任せて!!」
「……なら頼んだぜ…!!」
ゼアはティナ達から少し離れて瞑想の準備を始めた。
「戦地でこんな事やるなんざ初めてだが…
ここは姉ちゃん達を信じるしかねぇな…」
ゼアは瞑想に入った。
瞑想する事によりアーディルの回復力が増すのだが
これはゼア特有の技術だった。
しかし一度瞑想に入ると全快するまで
任意に解く事は出来ない為戦闘中などでは使えない。
ティナ達が足止めをしているからこそこの様な
状況でも瞑想に入れるのだ。
「…回復とサポートをお願い」
「任せて下さい!」
「何を企んでいるかは知らんが…
がっかりさせないでくれよ」
「えっらそうに……。
はぁぁぁぁぁ…」
ティナは魔力を高め、 シャドウコピーで自身を
4体複製した。
本体含め5人のティナにそれぞれ
エナジーソウルとバリアオーブをかけるリルティ。
「あの時の術か……さっさと来い」
「言われなくても行くわよ!!
そらぁぁぁぁぁっ!!」
ティナはコピー達と共にリーベルトに
飛び掛かって行った。
リーベルトはその5つの攻撃を素早い動きで回避しつつ
まるで稽古をつけているかの様に一人ずつに
反撃していく。
リーベルトの一撃は想像以上に重たくそして速い。
相当なダメージを受けながらもティナとそのコピー達は
何とか戦っていた。
これは後方にいるリルティが回復スペルを
唱えてくれているからだ。
絶好のタイミングでスペルを唱えるのでティナ達は
常に全快でいて全く無駄がない。
「このままだと5分…もちそう!!
ティナさん!! 頑張って!!」
―????―
そこにはアッシュとレリス、
そしてディウスの姿があった。
アッシュ達はワープドアでティナ達の所へ
向かったはずだった。
しかしワープした先は真っ暗な空間。
宙に浮きアッシュ達を見下ろしながら口を開く。
「ようこそ…僕の空間へ」
「…ディウス!!」
「レリス、 久しぶりだね。
何故君達2人を呼んだのか…
言わなくてもわかってるよね? くくく」
「降りて来いよ。 ただでさえ小さいんだ」
「ついにこの時が来たんだよ!!
僕がエターナルサーガを手にする時がね!」
「そう簡単にいくかよ」
「い〜やそうなるよ!!
だって君達のアーダとイーヴァは……
もう僕のものなんだからね!!」
ディウスがいきなり姿を消した。
「レリス!! 下がってろ」
「う…うん!」
何処からか光弾が飛んで来た。
アッシュはそれを右左にかわしながら
辺りをスキャンする。
「(反応が消えた!?)」
地面からは溶岩が次々と噴き上がる。
「!? な、 何なんだよこれ!!」
−−言っただろ? ここは僕の空間だってね!!−−
「よっ、 ほっ、 っと…くっ!!」
飛んで来る光弾と地面から噴き出す炎を
何とか避け続けているアッシュ。
彼の頭上からいきなり姿を現したディウスは
全身から炎の巨球を落としてきた。
「あははは。 これは避けられるかな?
それ! フレアノヴァだよ!!」
「!?」
アッシュが上を向いた時、 フレアノヴァは既に目前に。
避ける事など到底できない。
アッシュはオーバードライヴを発動しながら
迫る塊に向かって跳び上がった。
「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
「アッシュー!!」
両手でフレアノヴァを受け止め反対側へ受け流した。
その後アッシュはディウスがいた辺りを睨むが
ディウスは再び姿を消していた。
集中してスキャンで探る。
「(また消えた…くそっ!!
戦闘のペースがもってかれてる…やりにくいな…)」
攻撃が止み、 風の流れる音もしない全くの無音と
この空間にアッシュは瞳を忙しなく動かして魔力を追う。
しばらくするとディウスは何処からか笑い声と共に話始めた。
−−さぁ…次で決めようかな。
くくく…僕も案外…せっかちだったんだ…−−
「おい! 出てこいよ卑怯者!!
これじゃあ戦いにならないじゃ…」
話をしているアッシュの足元の床が渦の様に
うねっている。
アッシュはまだ気づかない。
次の瞬間、 いきなり床から手が突き上がってきた。
「!?」
その両手はアッシュの足首を掴んでいた。
「まずは君の……アーディルからだ!」
地面からぬるっと出て来たディウスは
そのままアッシュを転ばせると腹目掛けて
一発重い一撃を打った。
「ぐふっ!?」
アッシュの胸に手を強く押し当てた。
アーディルを取り出そうとしているのだ。
ディウスの手から光が身体の中心へ流れていく。
そして物凄い不気味な笑みでアッシュを睨みつけた。
「や…やば……い」
「アッシュ!!!」
アッシュのピンチにレリスは駆け寄ろうとしたのだが…。
ディウスは片手をレリスに向けた。
するとレリスの身体がまるで金縛りにあっているかの様に
動きが止まった。
「!? う……ぐ…ぐぐ」
「くっくっく。 大人しくしてて。
そんなに焦らなくても次は君だから…」
そう言い残すとまたディウスはアッシュに集中する。
「さすがはアーダ…。
やっぱり簡単には取り出せないようだね」
「(ち、 力…が…でな………い)」
「…さぁ、 仕上げといこうじゃないかぁぁぁ!!!
……………な、 なに? どういう事…?」
アッシュのアーディルは取り出せてはいなかった。
「な、 なんで……」
「(今だっ!)
たぁぁぁっっ!!」
寝ている状態からフォースエッジを出し
ディウスの腹に差し込んだ。
その後両足を重ねて足の裏で剣の柄を持ち上げた。
「ぐはっ……な、 なん……で」
素早く立ち上がり左手でディウスの肩を掴むと
もう片方の手で剣を握りさらに押し込んだ。
「残念だったな。 俺のはアーダじゃないんだよ」
「な、 なんだって!!!?」
「今度はこっちの反撃だ。
ギガドラァァイヴ!!!」
ギガドライヴした瞬間にディウスの身体は衝撃で
宙に飛ばされて行った。
その後を追うアッシュは飛ばされている間のディウスを
360度、 全方向から超スピードで攻撃していく。
その攻撃はたった5秒だったが
その5秒で相当な手数の攻撃を繰り出す。
攻撃のフィニッシュに手を組んで地面へと叩き飛ばすと
ランブレイズやスパークボルトなど
低〜中ランクのスペルを乱発し追い撃ちをかけた。
「うらうらうらうらうらうらぁぁぁぁ!!!!!!
へへ、 さっきのお返しだ。
フレアノヴァァァァァ!!」
全身から太陽の様な燃え盛る塊がディウスに落ちる。
レリスの側に降りてきたアッシュはギガドライヴを解き
その燃え上がる様を黙って見る。
「アーディル…大丈夫だった?」
「あぁ…無事だよ」
煙りが漂いしばらくすると視界が良好になった。
ディウスの影が2人の瞳に映る。
なんとディウスはその場に立っていたのだ。
しかしアッシュとレリスは驚きはしなかった。
「たいしたダメージはないか…」
「…で…だ」
「アッシュ……
あいつ何か…言ってる…」
ディウスは思った程ダメージを受けてはいなかった。
しかし様子が変だ。
腹にフォースエッジが刺さっていると言うのに
特に気にする事もなく独り言の様に
ぶつぶつと呟き始めた。
「なんで? どうして?
あいつはアーダじゃない?
じゃあアーダは誰が持ってるの…。
じゃああいつのアーディルはなんなの…」
愚痴を次々と零しながら言葉を並べていくディウス。
アッシュ達には聞こえないトーンで息継ぐ間もなく
同じ言葉を繰り返し続ける。
「イ、 イライラするな…。
じゃあアーダは今どこにあるの…?
あれがないと僕の夢は……僕の…」
「…これで終わりだな。
エターナルサーガは発動できない…。
お前の夢は叶わないんだ」
ディウスに近づきながら話かけるアッシュ。
「アッシュ…」
「レリスはそこで待っててくれ」
「……うん…」
「アーダじゃ……ない……だって…?
ふ、 ふふ、 ふふふ…
君は僕を騙そうとしてるんだ。
そうだ! 君は嘘をついてる!!」
「何でもいいから早く抜けよ。
刺さったままだぞ」
「そうか! アーダを何処かに封印したんだ!
君はアーディルを自由に取り外せるからね。
なるほどね。 納得したよ。
それでさぁ、 一体何処に…
隠したんだよぉぉぉ!!!!」
話しながらゆっくりとフォースエッジを腹から抜き出すと
アッシュ目掛けて投げ飛ばした。
フォースエッジは回転しながらアッシュへと向かうが
アッシュが片手を向けると彼の目の前でピタッと
止まり手に収まった。
フォースエッジに気を取られていたアッシュへ
急接近したディウスはパンチやキックなどの
超連撃を繰り出す。
その攻撃をフォースエッジで防ぎ続けるが一撃受け止める度に身体が弾かれる程の衝撃が
弾丸の様に飛んで来る。
おまけに先程ギガドライヴを発動した為
魔力が0。 スペルもシールドも使えない状態である。
「さぁぁ! 言えよぉ!!
アーダは何処なんだよぉぉぉ!!!」
「う……ぐ…。
(くそ…!
さっきので…魔力が使えない…)」
「隠しても無駄だよ! さあ早く言えよ!!」
ディウスは右手を引いて拳を打ち込んだ。
その攻撃力はアッシュのフォースエッジを破壊し
アッシュの胸に直撃した。
シールドが使えず防御力が低下した今の彼に
ディウスの“ただの攻撃”を防ぐ事はできず
突風にさらされたかの様に吹き飛んでしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁ…!!」
後方にいたレリスの辺りを軽く通り越して行き
見えない壁にぶつかると床に倒れた。
「ア、 アッシュ〜!!」
「あ……あ……く……ぐぐ…」
アッシュは険しい表情でゆっくりと遠くのディウスに
目を向けるとそのディウスは
瞬間移動し、 アッシュの前に現れた。
「!?」
「そうか…魔力が空っぽでシールドも張れないのか。
余りにも勢いよく吹っ飛んだからちょっと驚いたよ。
くくく…まぁそんな事はどうでもいいよね」
「……………」
「…君の中にあるアーディルが
アーダじゃないんだったらそのアーディルはなにさ?
僕はなんで吸収できないんだ?」
「………へへ…へ…。
は、 腹…いっぱいって事…だ…よ。
食べ過…ぎはよく…ないぜ…へ、 へへへ…」
皮肉な笑みを浮かべながら立ち上がろうとする
アッシュの顔面に強烈な蹴りを浴びせた。
「が!!? ぅがっ…」
「……くだらない冗談言ってないで
さっさと教えてくれないかな!!
そのアーディルは何なんだ!?」
「…あ…あ…ぁぁ…う…………が…ぁ」
「くくく、 知らないは無しだよ。
それとも教える気がないのかな?」
「……痛っ……て…ぇ…。
さ、 さぁ…どうか…な…」
「そっか。
じゃあ……喋れる様にしてあげようか?」
ディウスは片手をレリスへと向けた。
掌に魔力が集まっていく。
「お前は……レリスを殺せない…。
そうだろ? 殺せばイーヴァは…手に入らない…」
「殺す?
くっくっく…殺さないよ…。
順番を変えるだけさ」
「順番…?」
ディウスは掌から魔光弾を放つと物凄い速さで
レリスに襲い掛かって行った。
「ま、 待てぇ!!!!」
後ろから叫ぶアッシュの声に口元を緩めたディウスは
レリスに向かう途中で突然姿を消した。
そしてアーディライズを発動したレリスは
魔力、 霊力を最大限に高め向かって来る
光弾を防ぐと辺りを警戒する。
アーディライズしたとはいえレリスの能力では
ディウスとまともに戦えそうにもない。
地面に転がったままアッシュはレリスに叫び続ける。
しかし彼が発した言葉は意外なものだった。
「レリィィス!!
変身を解くんだぁぁ!!
早く!! 今すぐアーディライズを解除しろぉぉ!!」
「で、 でも…」
「くそ…!! 力が入らない…!!
レリィィス!! いいから早く!!」
「う、 うんわかった…」
「もう遅いよ!」
「!?」
レリスの目の前には既にディウスがいた。
大きな笑みを見せながら手を彼女の首へかける。
「…あ…あ…ぁ………ぁ……が…」
「何でアッシュがアーディライズしなかったか…
わかるかい?」
「レリィィィィス!!!!」
「……か……が…ぁ…は…」
「アーディライズはアーディルを解放する事…
つまり剥き出しも同然な状態なのさ。
君がまだイーヴァを使いこなせてなくて助かったよ。
大丈夫…。 君のは直ぐさ…くっくっく」
首を掴んだまま宙に持ち上げていく。
もう片方の手をレリスの胸元へともって行き
アーディル抽出の準備を始める。
「やめろ………やめろぉぉぉぉ!!!」
アッシュは立ち上がりアーディルを解放した。
眩い光が全身を取り巻き瞳が激しく発光する。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
口から発した叫びはもやは叫びではなく
それは衝撃波の様に辺りに散弾する。
地を蹴りディウスに向かって行く途中で
アーディライズしたアッシュは怒り任せに
背中の4枚の翼を広げ、 加速する。
「アデルヴァァァァストラム!!!」
アッシュの全身から無数に光の矢が放たれ
ディウスに飛んで行く。
これではレリスも巻き添いを食らってしまう。
しかしレリスの周りにはいつの間にかバリアオーブが
形成されていたのだ。
アッシュはスーパースペルと同時に発動していた。
光の矢の大群はディウスに余す事無く
突っ込んで行っている。
アッシュは今まで何回かこのスーパースペルを
使ってきたが過去最高の威力だ。
数もそれまでの数倍、 発動時間も最長。
これは彼のアーディルによるものであるのか…。
光の矢は未だディウスだけを集中的に狙い降り続く。
辺りは爆風と煙で覆い尽くされ
肉眼では何も見えない状況だ。
スーパースペルは程なくして終了した。
MAXレベルのスキャンの反応によると
レリスの魔力の反応は確認出来た。
しかしディウスの反応もある。
ダメージはあるが魔力の減少具合からして
期待は出来ない。
「レリィィィス!!!」
レリスの魔力は確かに感じるが返事がない。
辺りはまだ煙が漂いとてもじゃないがこの視界では
探す事は難しい。
それでもアッシュは感じる魔力に向かって走った。
「レリィィィス!!」
瞳に濁った膜が張り付いたかの様な周りの景色。
その景色の中にうっすらと影が見える。
アーディライズは解除されたのか、
しかし間違いなくレリスだ。
魔力の反応も一致する。
「レリス!! よかった無事か!」
駆け寄って行くアッシュの瞳の中にはレリス以外の
何かが映っている。 ディウスだ。
「レリス!! 早くそこから離れろ!!」
煙は徐々に消えていき2人の姿が
より鮮明になっていく。
何故レリスが返事をしなかったのか…。
返事をしなかったのではない。
出来なかったのだ。
何故ならレリスは今もディウスに首を
掴まれていたからだ。
「スーパースペルを詠唱無しで扱うなんて無茶するね。
アーディライズしたとは言っても身体に
物凄く負担があるはずだよ。
この僕でもスーパースペルを使う時は
詠唱はきちんとするんだよ」
「その手を離せっ! ディウス!!」
「今は無理だなぁ。 アーディル抽出中だからさ」
「お…まえぇぇ……!!!!!
離せと言ってるだろぉぉぉ!!!」
「おっと、 そこから一歩でも動くとどういう事になるか
君はわかってるのかな?」
「…おま…え…!!」
「(この僕とあろう者がさっきので
本当に結構なダメージを受けた。
リーベルトに力を与え過ぎたね…)」
「それ以上何かしてみろ!!
ぶっ殺すからなぁぁ!!」
「ふふふ…出来もしないのによく言うよ」
「俺のアーディルは特別なんだよ。
まだ気づかないのか?
俺のアーディルは……“アース”だ」
「アース?
あっはっはっはっは!!!
何を言い出すのかと思えば神の名前を出すとはね。
僕がアース神を知らないとでも思った?」
「………レリスを離してくれたら
アーダの事を教えてやる」
「いや、 君が先だ。
ちゃんとアーダが確認出来たら彼女を放す」
「……あ……アッシ……ュ」
「ほら、 彼女苦しんでるよ。
早く教えた方がいいと思うけど」
「……くそ……。
アーダは…
お前の中にある」