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ETERNAL SAGA  作者: 紫音
48/73

episode 45 至福の一時


−ディルウィンクエイス−

セントラルエリア








 「なんだ……これは…」





光の中から現れたのは

アッシュ、 ディック、 シェイルにヴィーゼだった。

何日ぶりだろうかアッシュとディックは久しぶりに見る

ハウスだったのだが…。



 「話には聞いてたけど…俺こんなめちゃくちゃに…」


 「い、 いや…違う…。

 ここまでじゃ…なかった」



2人の瞳にはディルウィンクエイスは映っていなかった。

島が浮いている。

ただそれだけである。

そびえ立っていた建物は皆分解された様に

瓦礫と化していた。

ヴィーゼが辺りを見渡しながら口を開く。



 「…人の気配がないぞ」


 「この島が…ディルウィンクエイスなの?


 どういう原理で浮いてるのかしら」


 「ちょっと待て、 思い出すからよ…。




 俺はティナとアッシュを捜索しに行ったんだ。

 その前…確かグランベルクがやって来るって…」


 「グランベルクだって!?」


 「…あぁ…確かそうだ。 間違いねぇ」


 「なら奴らの仕業か?」


 「ちっくしょ…!! 俺達がいねぇ間に…」


 「ティナ達は!? まさかみんな…」


 「いや、 あいつらは簡単にやられたりしねぇ…

 何処か……身を隠してるんだ」


 「けど…ディック……」



アッシュは広範囲にスキャンするがティナ達はもちろん

グランベルクの反応も何処にもない。



 「魔力を消しているだけだろう。

 とりあえずこの島を手分けして探すぞ」



ヴィーゼとシェイルの2人は手掛かりを探しに

行ってしまった。



 「アッシュ、 俺達も探そうぜ」


 「ディック…、 そこの…それって穴だよな?」


 「ん? …あぁ、

 おめぇのアーディルを保管してあった場所だ。

 覚えてねぇか?」


 「行こう…」


 「え? あ、 おい」



アッシュは瓦礫を押しのけ中へと入って行った。

ディックもその後を追う。





地下へと続く階段を降りて行くアッシュとディック。

スキャンの暗視を使い辺りに目を配る。

以前1度入っていたアッシュは少しずつ

ピタッピタッと記憶のパズルがはまっていった。



 「なぁ…ディック…。



 マーディン様ってまだ目が覚めてないんだよな…」


 「いやもしかしたら、 俺達がいねぇ間に

 意識を取り戻してるかもしんねぇ」


 「ディック…俺…」


 「心配すんなって! それより今は何か手掛かりを…」


 「…誰かいる…」


 「誰だ? スキャンに反応ねぇぞ」


 「一番下に何か微かに反応がある…」


 「おめぇ…そんなとこまで拾えるのか!?」


 「しっ…ディック気配を消して行くぞ」



アッシュは魔力を最小限にし

反応のある場所へと走り出した。

ディックもそれに続く。

階段を駆ける音が辺りに響く。

アッシュが捉えた反応はディックでも拾える

範囲にまで近づいて来た。

そして最奥部、 かつてアーディルが封印されていた

場所へと到達する。



 「…奴らだ…」


 「あぁ。 それも3人揃ってやがるぜ」











 「ここにもいない…ったくどこ行ったんだよあいつら」


 「どうする…ここで終わりだぞ?」


 「シキ…どう思う?」


 「………ハウスを捨てたか…。



 だがこの周辺に必ずいるはずだ」


 「じゃあ下の街を手初めにやるか。

 何人か殺せばあいつらも出てくるはずだよ

 くっくっく…」




 「そうはさせない!!」



ロゼ達の前にはアッシュとディックの姿があった。

シキは一瞬驚いたがまた奇妙な笑みを浮かべ

アッシュに話かける。



 「探したぞ…アッシュ…バーナム」


 「俺達の家に勝手に入りやがって…」


 「ディック・ストライバー、 アッシュを渡せば

 ここは大人しく引き下がろう」


 「なぁーっはっはっはっは〜!!


 だーれがおめぇらみてぇなカス野郎の言う事聞くかよ

 いかにも“悪”って顔しやがってよ〜」


 「おや、 随分と言ってくれるじゃないか

 そんなに死にたいのかい?」



ロゼが前に出て来るとディックも前へ踏み出し

笑いながらこう言い放った。



 「悪いがこれ以上は暴れさせねぇよ」


 「へぇ、 あたしらと戦う気なのかい?」


 「ふっふっふ愚かな…

 我々はマスタークラスだぞ?」


 「へっへっへ心配すんな〜


 俺達は神様クラスだからよ」


 「後で後悔すんじゃないよ!!」



ロゼはディックに猛攻撃を仕掛けて来た。

素早く飛ぶロゼの拳、 ディックはその攻撃を

意図も簡単にかわしてみせる。



 「な、 なに!?」


 「あ、 言い忘れてた!

 俺達めちゃめちゃ強くなったから☆

 よろしく〜」


 「ふ…ざけやがってぇ!!」



魔力を解放して再びディックへと飛び込んで行ったロゼ。

だが結果は同じだった。



 「よっ、 ほっ、 へっへーい♪」


 「き、 き…さ…まぁ…!!!」



ロゼはついに全力で飛び掛かった。

スペルや技を繰り出すもそのどれもが

ディックを捉えきれない。

闘いを見ながらシキがロゼに話しかける。



 「ロゼ何をしている。

 殺しても構わんぞ」


 「うるさいねぇ!! わかってるよ!!



 開け! 我が魔力の扉!!


 スパイラルブリッツ!!」


 「オリジナルのスペルか…?」



油断していたディックの周りから雷が放たれた。

案の定、 簡単に命中する。



 「あででで…いぢぢぢ」


 「さぁ、 消えてなくなりなっ!」



ロゼが拳を突き出すと電撃と共にディックが

圧縮されて……はいかなかった。

ディックがシールドに魔力を込めると

絡まっていた電撃が吹き飛んでいった。



 「な!? そんな馬鹿な…」


 「ふぅ…」



ロゼの顔に冷やっとしたものが流れた。

それを振り払ってディックへと殴り掛かる。

ロゼはこの時

初めて恐怖と言う2文字が脳裏によぎった。



 「そぉぉらぁぁ!!」


 「よっと」



すると今までかわし続けていたディックは

打ち込んで来たロゼの腕を掴み背中へと曲げた。



 「ぐ……くっ」


 「………怖ぇか? おめぇらが今まで殺して来た

 何の罪もねぇ人達もそう感じてたんだ」


 「うぐぐ…ぐぐ…な…なん…て力…」



ディックは掴んでいたロゼの手を放す。

その隙に距離を取り息を整える。

しかしロゼは決してスタミナを切らしたわけではない。



 「俺はおめぇらより遥かに強くなった。

 けどおめぇらみてぇに命を奪う気はねぇ。





 それでもまだおめぇらがやるってんなら…


 次は全力でぶっ倒す!!」



 「はぁ……はぁはぁ」



腕に手を添えながらロゼはディックを見る。

彼女の瞳はまるで叱られた子犬の様に怯えていた。

何も話さず黙り込んだまま

ただじっと見ている。



 「ロゼ…どうした?」


 「はぁはぁ…………はぁはぁ」


 「おい! 何か言え!!」


 「とっとと帰ってディウスに伝えろ。

 アーディルがほしけりゃ自分で取りに来いってな」


 「ふ、 ふっふっふ…。

 その言葉…

 後悔する事になるぞ…




 ……リーベルト、 退くぞ」



リーベルトは微動だにしないロゼを担ぐと

シキと共にワープドアで逃げて行った。

圧倒的な力の差を見せつけたディック。

ティナやクレイド達が全く敵わなかったロゼを

遥かに凌いだディックの力…。

彼はここまでパワーアップしていたのだ。

そしてそれはロゼに恐怖を与える事になった。

その表情を思い出したディックが

溜息混じりに呟いた。



 「あいつでも……あんな顔すんだな…」


 「………」


 「……すげぇ悪い奴ってわかってるのによ

 あんな顔されると…な……」


 「(ディック…)」


 「あぁ〜何か…後味わりぃよな…」


 「……ティナ達探そうぜ…」


 「…あぁ」



どんな人間でも力があれば使ってみたくなる。

そして力で捩伏せ、 相手を制した時

何とも言えない快感を覚える。

それは数が増す度に中毒となりさらに力を

求めてしまう。

正直、 ディックはロゼとの一戦で快感を

覚えた事だろう。

しかし力は時に人を恐怖に陥れる事もある。

それを改めて感じ

いかに争いが醜く恐ろしいものだと

同時に知ったディックであった。















その頃…ティナ達は。











 「う…ん………」



ティナが目を覚ますとそこにはクレイドや

ジェノ、 リルティの顔が瞳に映った。



 「ここ…は…?」


 「チリクです。

 撤退作戦、 完了しましたぁ!」


 「でも…私達…」


 「マシーナが助けてくれたのだ」


 「…そう……だったわね…で彼等は?」


 「ヴァレアさんの所にいます」


 「私…どれくらい眠ってた?」


 「1時間ぐらい…かな多分」



ティナは起き上がると隣で眠るマーディンの

姿が目に入った。

その側にはマシーナマスターのエイディアの姿もあった。



 「マスターはまだ…」


 「はい…体力が少し落ちてきています。

 私はしばらく治療に専念するので

 ティナ、 ここからは貴方に任せます」


 「わかりました」


 「ティナ、 私はハウスの様子を

 見に行って来るが…」


 「わかったわ。

 リルティ、 ジェノ、 あんた達も行って」


 「はい!」


 「了解」



クレイドはジェノとリルティを引き連れ

ディルウィンクエイスへと向かった。

そしてティナはヴァレアの元に足を運んだ。






















−グランベルク帝国−

謁見の間








 「…………」


 「も、 申し訳ありません!!!」



王座に座り、 頬杖をついたディウスに

何度も頭を下げるシキの姿があった。



 「僕が冗談嫌いな事……


 君、 知ってるよね?」


 「も、 もも、 勿論でございます!!」


 「マスターがクラスAに負けた?

 それも…たった1人に?」



ディウスは声を震わせ笑って話すが

明らかに怒りをあらわにしている。

彼の表情の変化に1番敏感なシキは

すぐに感じ取る。



 「つ、 次こそは…次こそは必ず!!」


 「…ロゼはどこ?」


 「ロゼは……」


 「ロゼは戦意喪失状態です。

 戦線復帰はできません」



焦るシキとは違いリーベルトは冷静に言葉を並べる。

彼の発言がディウスの気に触れていないか

常に全神経を高ぶらせるシキ。

流れる汗を拭き取る事も出来ない。



 「…じゃあロゼはいらないや。

 君が今日から新しいマスターだよしっかり働いて」


 「な、 なんですと!?

 へ、 陛下…それには4大マスターの…」


 「シキ、 君も…いらないや」


 「な………!?」


 「そうだリーベルト、 マスターとしての初任務だよ

 レヴィナードとアストルーラを綺麗に掃除してきて」


 「そ、 そんな…」


 「エレメンツはもういらないや。

 役に立たないし…

 リーベルト、 君には相応しい部下をつけてあげる

 ちゃんと任務が達成されたらね。

 出来るかな?」


 「お任せ下さい」



リーベルトはゆっくりと礼をすると

謁見の間から出て行った。



 「へ、 陛下!!

 もう1度……もう1度だけでいいのです!!

 私に最後のチャンスを…」


 「ん〜だめ。





 だって…役立たずは…いらないもん」



ディウスは座ったまま指をクイッと天井に向けた。

するとシキの身体が浮かび上がる。

そしてくるくると指を回すと

シキも連動しているかの様にぐるぐると回転する。

ディウスにとってシキはオモチャなのだ。

子供は新しいデザインの機能が充実したオモチャを

手に入れるとそれまで使っていた物では遊ばなくなる。

つまり、 もうそのオモチャは役に立たない。

姿は子供だが考えもどうやら子供のようだ。




もがきながらもディウスに訴えるシキは

助からないとわかると今の今まで溜めてきた

思いを憎しみに変えて叫び散らした。



 「ずっと…ずっと…ずっと

 貴様の言う通りにしてきた!

 グランベルクが誕生したあの時からなぁぁ!」


 「何だよいきなり……うるさいなぁ…」


 「初めて貴様が現れた時、 神だと思った…

 圧倒的な力、 そして知識…

 まさに我が主に相応しいとな!

 だが貴様の欲は底無しだった!!

 民の事を考えず己の欲の為に…役立たずは

 次々と殺し……我が妻までも…」



ディウスは向けている手を広げそして握る。

するとシキに圧力がかかり押し潰されていく。

だがシキは全力でその力に抵抗していた。



 「ぐぐぬぬぬぃ…き、 きさ…まが

 きさ…まが、 いな…けれ…ば

 こ、 こ…こ、 ここん…な…

 みに……く、 くい…自…分になる…事…

 はな、 なな…かっ……



 おぉ…ぉぉぉぉー!!!!!」



なんとシキはディウスの圧力から自力で脱出したのだ。

そしてディウスを睨み構えを取る。



 「凄い、 弾かれた」


 「貴様さえいなければぁぁぁぁ!!!」



シキの全身全霊を込めた捨て身の攻撃が

皇帝ディウスへと向かう。

しかしディウスはいつの間にか

シキの後ろへと移動していた。



 「じゃあそろそろ消えて」


 「!?」



小さな手をシキの背中に当て魔力を放つと

物凄いエネルギーで壁をぶち破り遥か空の彼方へと

飛んで行ってしまった。

シキは既にエネルギーに触れた時点で消滅していた。



 「あ〜ぁ、 壁に穴空いちゃったじゃない」










−ディルウィンクエイス−

セントラルエリア






ヴィーゼ達と合流を果たしたアッシュは

下の街まで降りて来ていた。

無惨なハウスとは逆にこの街は初めて訪れた

あの時のままだった。

4人は街中を歩きながらティナ達の手掛かりを探す。



 「よかった、 ここは無事みたいだな。

 街の人も大丈夫そうだ」


 「ティナ達はいねぇな…。

 見たとこエレメンツを配置した形跡もねぇ…

 あいつらがここを無防備にするわけねぇのに…」



その事についてシェイルが推論を立てる。



 「見て、 結界よ。 …あそこにも


 きっとこれでとばっちりを受けないように

 したのね」



地面には魔方陣が描かれており

一定の距離を置いて並んでいる。

微かに光が放たれてはいるが

今にも消えそうになっている。

結界の効果がなくなり始めているのだろうか。



 「かなり前に作られたものだな。

 結界が消えかかっている」


 「この結界が街を守っててくれたんだな」


 「…ここにはいないみたいね。

 他に心当たりはないの?」



アッシュとディックはティナ達が隠れ家に

使いそうな所を思い浮かべる。

考えると逆に1度もそういった事がなかった事に

気づいた。

ディックは今まで立ち寄った街や村などを

隠れ家に使えるかどうかをイメージしながら考える。



 「どっかあるか?」


 「…………」


 「アッシュ、 聞いてるか?」


 「………ん? あ、 いや……ないな」


 「だよな…」


 「…………」



アッシュの様子が少しおかしい。

考えているというより“何かを見ている”という感じだ。

だがこの街の何処かを見ているのではない。

スキャンで反応を拾う感覚で何かを見ていた。

それに気づいたディックはアッシュに尋ねる。



 「どうした?」


 「ディック……ずっとあっちの方角には

 何がある?」




アッシュが指した方角は北西。

その場所は彼は1度も行った事がない場所。

しかしディックにはすぐにわかった。



 「あいつらのハウス…

 レヴィナードがある」


 「魔力の反応が次々と消えていってるんだ…」


 「……おい、 お前それって…」


 「何者かに殺されているのだ」



その問いにヴィーゼが答えた。

彼もまたアッシュ同様スキャンで拾っていた。

そして彼女も。



 「たった1人でやってるみたいね。

 魔力数12000超えたわよ」


 「魔力数?」


 「私達ヴァルファリエンのスキャンは

 魔力を数値として見る事ができるの。

 うふふ、 心配しないでディック

 貴方の魔力数はまだ少し上だから」


 「ははは…。 すこし…上ね…。

 アッシュ、 そいつ誰かわかんのか?」


 「あぁ…。 リーベルトだ」



なんとその正体はリーベルトであった。

彼はディウスの命令でハウスをそしてエレメンツを

次々と抹殺していっているのだ。


何故リーベルトが…?


今のアッシュ達にはその疑問しか思いつかなかった。



 「どういう事だよ」


 「……わからない…」


 「あぁー!!!!!」



そんなアッシュ達の後ろ側から大声が上がった。

ふいをつかれたその声に何となく覚えはあるが

誰かは思い出せない。

アッシュとディックは同時に後ろを向くと

その先に立っていたのは

桃色の髪とツインテールが特徴のリルティだった。

そして彼女の後ろにはサングラスが似合うジェノの姿が。

久しぶりの再会というのに相変わらず

感情を表に出さない性格に

少し笑みを見せたアッシュ。



 「アッシュー!!! ディックさ〜ん!!!」


 「おめぇら、 無事だったかぁ!!」


 「アッシュ!! 元に戻ったんだねぇ!!

 今までどこ行ってたのよー!?

 こっちは大変だったんだからぁ!」


 「いろいろ…ごめんな」


 「あれ………その2人は?」


 「あぁ、 ヴィーゼにシェイルだ」


 「うふふ、 よろしくね」


 「リルティ、 今の状況がわかんねぇ。

 みんな無事か?」


 「無事ですよ〜!!

 今はみんなチリクにいます!」


 「そうかぁ!! じゃあ案内してくれ」


 「りょうかい!

 クレイドさんが上にいるので呼んで来ま〜す!」



リルティはディックに何故か敬礼をして

クイックフェザーでハウスへと飛んで行った。



 「久しぶりだな。 ジェノ」


 「………あぁ」


 「んだよジェノ〜、

 こういう時ぐらい喜べよな〜」


 「………」


 「(ふっ、 相変わらずだな…)」







−チリク−







リルティ達の案内でチリクへと

辿り着いたアッシュ達。

久しぶりの再会に皆、 笑顔が滲み出る。

グランベルクとの闘いで絶望的だったが

彼等の帰還で一気に希望へと変わっていった。

アッシュやティナ達は今まで起こった事を

それぞれ情報交換する。

さすがにアッシュの事にはあのジェノでさえも

驚きを隠す事は出来なかった。

チリクのエルフ達がもてなす様々な料理を

楽しみながら至福の時は過ぎていった。

そんな宴の中にヴィーゼとシェイルの姿はなかった。

そう、 彼等がここへ来た理由はマーディンと会う事。

皆が楽しんでいる隙をついて彼女が眠る

部屋へと来ていた。



 「うふふ、 本当に眠ってるわ」


 「よし…研究所へ運ぶぞ」



ヴィーゼとシェイルはマーディンと共に

その場から消え去った。

そんな事にも気づかないぐらい宴は派手に

盛り上がっている。

今、 話題はアッシュがレリスの前で

どれぐらい緊張するかだった。

ディックが身振り手振りで面白おかしく再現している。



 「でよ、 こいつ足ぶつけてやんの

 笑うだろ〜?」


 「あははは」


 「へぇ〜、 アッシュがねぇ」



飲み物をディックにつぎながら

流し目でアッシュを見るティナ。



 「い、 いいだろ別に…」


 「アッシュってレリスの事好きなんだねー☆」


 「おーリルティ♪ さっすがだなぁ〜♪♪

 実は一・目・惚・れ…なんだよぉ〜

 なっ、 アッシュ!!」


 「ディック…! 覚えてろよぉ…」


 「なぁぁ〜っはっはっはっ!!!」


 「それで…ちゃんと言ったの?」


 「え…」


 「だーかーらぁ、 レリスに好きって

 言ったのって聞いてるの〜!」


 「あ、 い、 いや……」


 「えぇ〜!! 言ってないのぉ!?

 ダメだよちゃんと言わないとさぁ

 レリス待ってると思うよアッシュ」


 「…あ…、 う…ん………ははは…」


 「っとにおめぇはよぉ…。

 

 じゃあ、 よく見とけアッシュ!

 今から俺が見本を見せてやるから」



ディックは洗い物をするティナの後ろ姿を

見つめながらグラスに入ったものを一気に

流し込んだ。

そして立ち上がり顔を叩いて気合いを入れる。



 「っしゃぁぁ!!」


 「え、 ディックさん………?」



ティナへ近づいて肩を両手で掴むと

くるっと自分へと向けた。

いきなりの事にティナの目はまるで猫が驚いた

様に瞳孔が丸く広がった。



 「ティナ!!」


 「!?

 え、 な、 なに」


 「……………ティナ」


 「……………………」



しばらく2人は見つめ合う。

それを後ろから熱く視線を送るアッシュとリルティ。

興味があるのはこの2人だけ。



 「…な、 なに? ディ、 ディック……」


 「ティナ…、 俺は…お前を」


 「……………」


 「(どうなるのどうなるの〜♪♪♪)」



唾を飲み込んで見守るアッシュ。

決定的瞬間を逃さぬ様にと凝視している。



 「おれは……おまえを…」


 「え…? 





 あ、 ちょ、 ちょ、 ちょっと!?」



ディックはティナに抱き着いた。



 「(わ〜お☆ だぁいた〜ん♪)」


 「ちょ…っとディック……!!

 み、 みみんな見てるでしょう…!!」


 「…………う…ん」



ディックはそのままずり落ちて床に転がった。



 「………う…ん…むにゃ…むにゃ」


 「え…」


 「あっちゃぁ…」



ディックは爆睡してしまった。

期待を裏切られ頭を抱えているリルティは

隣のアッシュの背中をポンポンと軽く叩くと

その場から去って行った。



 「う…ん……むにゃ…ティナァ〜」



びっくりしていたティナはディックの寝言を

聞くとゆっくり口元を緩めた。



 「ほら…こんな所で寝ないの」



顔を優しく叩いて起こしてみるが

起きる気配は全くない。

ティナは溜息と共にアッシュに声をかける。



 「…アッシュ、 運ぶの手伝って」


 「………あ、 う、 うん」



ティナに頼まれたアッシュは2人で

いびきをかくディックをベッドへと運ぶ。

その途中に気持ち良く眠る顔を見ながら

先程の事を思い返す。



 「(…あぁやればいいのか…

 でもあれでちゃんと伝わったのか?


 だよな…だって笑ってたしな…)」


 「…ほんと馬鹿よね…こいつ」


 「……ティナはディックの事好きか?」


 「…あ、 あんた以外とストレートに聞くのね…」


 「俺はディック好きだな。

 いつも俺の事心配してくれて…

 俺を弟って勝手に呼んで…へへっ

 ちょっとめんどくさい時もあるけどな」


 「………似てるのよ」


 「似てるって誰に?」


 「ディックの弟に似てるの。

 危なっかしいところとか…特にね」


 「……へぇ」


 「あんた覚えてる?

 私達と初めて会った時の事。



 あんたを連れて行く途中でグランベルクが

 突然現れて襲って来たでしょ?」


 「………あぁ、 あの時か。

 覚えてるよ」


 「魔力も使えないあんたを守りながら

 戦おうとしたらいきなり殴りかかって」


 「一発ノックアウト…だろ?」


 「ふふ、 そうよ。 そんなところとかね

 きっとディック、 その頃から

 あんたと弟をダブらせていたんだと思うわ」


 「(ディックの弟…か…)」



ディックは1度アッシュに話した事があった。

自分の手で弟を殺したのだと。

その事を思い出したアッシュは悩んだ結果

聞いてみる事にした。



 「なぁ……弟を殺したって……本当なのか?」


 「……聞いたの?」


 「ちゃんとは知らないんだ…。





 ティナ、 教えてくれないか?

 何でディックは…」



アッシュの真剣な眼差しにティナは

一息着くとディックが眠る寝室を離れ

アッシュを外へと連れ出した。



外に出ると真夜中とは思えない程明るかった。

何故ならここはエルフの国。

赤やオレンジなどの色が混ざった空に

雲を破って虹が顔を出すといったお伽話の様な世界だ。

村はディルウィンクエイス同様の浮き島で地面は透明。

その村の中を特に何処を目指す訳でもなく

歩くティナとアッシュ。



 「ディックの弟……エディって言うんだけど

 ほんと、 あんたみたいに危なっかしくて

 負けず嫌いで…それに優しい子だったわ…。



 エディはね……アストルーラのエレメンツだったの」


 「アストルーラって……グランベルクのか?」


 「そう…」


 「おい、 何でエディ」


 「何でディルウィンクエイスに入らなかったか?


 それはディックがいたから。


 当時から既にディックは

 ディルウィンクエイスの中心にいて活躍してたから

 色々比べられるのが嫌だったのね」


 「……でも何でアストルーラなんだ?

 他にもハウスはあるだろ? マシーナとか」


 「それは私にはわからない…。

 アストルーラに入ってからエディは変わった…。

 あいつらは楽しみの1つとして戦いをしているの

 あんた知ってるでしょ?

 エディもね……そういう風になったの…。


 笑いながら平気で罪も無い人を殺す殺戮マシーンに…」


 「…………」



ディックが何故弟を殺めたのか…。

最後まで聞かなくてもわかってしまった。

でもこれ以上は聞く必要はない。

そう思ったアッシュはティナの話を止めた。



 「ティナ、 もう……いいよ」


 「え? どうしたの?」


 「や、 やっぱり…

 ちゃんとわかってしまうのは辛いな…」


 「…アッシュ」


 「へへ、 何言ってんだ俺。

 辛いのはディックなのに…」



自分の身内を手にかけるのは

どんな理由があっても悲しすぎる。

ミリアがもしそうだったら…

ティナの話を聞いてる内にそう感じたアッシュは

素直に聞きたくなかった。



 「何か自分から言ったのに……ごめん」


 「別に謝らなくていいわよ。

 じゃあ…この話はおしまい」


 「……ありがとな、 ティナ」



そして2人は部屋へ戻り眠りについた。











翌朝…。









アッシュの元へリルティが大声を上げて

やって来た。

それが目覚まし代わりとなって

飛び起きるアッシュ。



 「な、 なんだよ…びっくりしたな…」


 「いないんだよ〜!!」


 「!? いないって誰が?」


 「マスターだよ!! マーディン様が消えたのー!!」


 「な………なんだってぇぇ!!!!!」


 「みんな広場にいるから早く来て!!」



リルティはそう言うと部屋から出て行った。

着替えを済ませてアッシュも広場へと急いだ。

広場に着くとディックやティナ達の他に

エルフのヴァレア達の姿もあった。



 「リルティから聞いたか?」


 「あぁ! 

 家の中は探したのか?」


 「全員で探し回ったが何処にもいねぇ…」


 「でもこれって〜、 意識が戻ったって事ですよね?」


 「ディルウィンクエイスに行ったのかしら…」


 「何の為にだよ」


 「知らないわよそんなの!」


 「こらこら、 喧嘩はしなさんな」


 「おいババア、 てめぇの力で

 何とかできねぇのかよ」


 「相変わらずその口は直っとらんのぉ。

 …残念じゃがワシにはどうにもできん」


 「おい……アッシュ…。

 あいつらは?」


 「あいつら?」


 「ヴィーゼとシェイルだよ」



アッシュは周りを見渡した。

すぐそばにはリルティと話すティナ

ヴァレアにジェノ、 クレイド

マシーナのアックス、 セイバにランス

そしてマスターのエイディア。

後はエルフ達がちらほらいるが

ヴィーゼ達の姿はない。

スキャンを通して見ているが彼等の反応は

何処にもなかった。

そしてマーディンの反応もない事から

この2つの点はすぐに結びついた。



 「(ま、 まさかあいつら……)」



アッシュは突然魔力を手に集め出した。

そしてワープドアの様な歪みを作る。

しかしワープドアより規模は大きい。

これはこの世界とあちらの世界を繋ぐ門。



 「ワープドア? 何処に行くんだよ」


 「ワープゲートだ。

 多分あっちに連れて行ったんだ。

 だからちょっと俺行って連れ戻してくるよ」


そして門を通ったアッシュは光と共に消えた。

その場に残されたディックやティナ達は

アッシュの行動を理解するまでずっと

無言のまま立ち尽くしていた。




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