episode ４２ 別れを犠牲に…
ギガドライヴしたディックは
空にいるシグナスを見上げながら叫んだ。
「おめぇなぁ！！ よくも俺の大事な弟を…
精神的にイジメやがって！！」
「誰かと思えばディックか。
ふっ、 お前程度がどうあがこうが何も変わらない」
「そいつはどうかなぁぁ！！」
「ディ…ック……な…に…を…」
「アッシュ、 わりぃな。
もうちょっとだけ堪えててくれ」
そう言うとディックは地面に手をついて
魔力を込める。
「はぁぁぁぁ〜！！！！」
「（ディック……一体……）」
ディックの周りを光の線が囲んでいく。
そして円が完成するとそこから少し離れて
再び魔力を送った。
「ジグド・フレ・アルフ・レイズ
リファイア・ガン・ド・スファイ
古より来れし黒き稲妻よ
我が血の盟約を持って汝を誘わん
いでよ！！ ダルクマティア！！」
先程の円から赤い光が空へと放たれた。
雲を突き抜けて何処までも上昇する。
そして空に巨大な魔方陣が浮かび上がると
そこから勢いよく飛び出してきた。
漆黒の翼を大きくゆっくりと広げる。
その皮膚は鋼鉄より硬く、 その爪で大地を削り取る。
ディックが召喚したのはなんとドラゴンであった。
「ダルクマティアァァ！！
その野郎をぶっ飛ばしてやれぇぇ！！」
「ド、 ドラゴンだと！！？」
ダルクマティアはそのままシグナスへと飛んでいき
背後へ回った。
シグナスはスペルを放っている為振り返る事も出来ない。
「ちっ、 余計なものを…呼び出しやがって」
ダルクマティアは大きく右腕を振り上げ
その鋭い爪でシグナスに襲い掛かる。
シグナスは送っていた魔力を打ち切り
それを回避すると同時にアッシュへの負担が
軽くなった。
「う、 うぉぉぉぉらぁぁぁ！！！！！」
アッシュはそのを隙をついてシグナスへ弾き返す。
「なにぃ！？ あれを弾き返したのか！！？」
ディックはダルクマティアを呼び戻し
アッシュの前方に着けた。
「はぁはぁ…う…ぐ…」
「アッシュよく頑張ったな！！」
「くっそぉぉぉぉぉー！！！！」
シグナスは突然の事態によける事も出来ないまま
受け止める事を決める。
残っている生命力をぎりぎりまで魔力に変え
目の前の巨大なエネルギーに備える。
「あのレプリカに出来てこの俺に
…出来ないはずはなぁぁい！！」
そして激しく衝突した。
「ぐぐぬぬ…ぬぬ！！
こ、 ここ…こん……なもので…
やられ…は…せん！！！！」
魔力は既に尽きている。
生命力もあとわずかというのに
シグナスは何とか堪えていた。
それは執念…とも呼ぶべきだろうか。
思いだけで受け止めている様だった。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！！！」
「な、 なんて奴だ…」
シグナスはなんとスペルを弾き返して来たのだ。
スペルは再びアッシュへと飛んで行く。
「はぁはぁ…。 ふ、 ふはは…はは。
ど…どうだぁ！ こ…んどこそ…き、
き…きえろぉぉぉぉ！！」
「くる……ぞ…。
ディ…ック……はや……うぐ…」
「へへ、 まぁ見てろって！」
ディックが手をかざすとダルクマティアが
身体を前に倒して突進する体勢を作る。
次にギガドライヴのエネルギーを一点に集め出した。
黄金のスパークがかったオーラが右手に全て集め終えると
ディックはダルクマティアに向けて
叫びながら投げ飛ばした。
「アッシュ！ よ〜くみとけよぉぉ！！
俺のオリジナルスペル！！
ダルクマティアバージョンだぁぁ！！
いくぜぇ！！
ギガドライバァァァー！！！」
エネルギーの塊がダルクマティアにぶち当たると
なんとダルクマティアがギガドライヴを発動した。
そしてそのままシグナスに突進して行った。
向かって来ているスペルは威力が
弱まっていたのもあってか簡単にぶち破ってしまった。
「な！？」
そしてシグナスはダルクマティアと激突した。
ダルクマティアはシグナスに接触したと同時に
全てを爆発力に変えて粉々に消えた。
空が燃え上がる。
地面とはかなり離れているにもかかわらず
凄まじい地響きと揺れに襲われた。
「よ、 よ……し…やっ…た…へへ…」
「ディック……だ、 大丈夫…か」
ディックは力尽きたかの様にその場に倒れ
気を失った。
そこへ這って進むアッシュ。
その時、 空から何かが降って来た。
アッシュ達から少し離れて地面へ
大きな音と共に墜落した。
辺りに砂埃が舞う。
アッシュは倒れているディックの肩を
軽く揺さぶりながらそれに目を向ける。
「ディック、 ディック！！」
「…………う……。
よ……よう……へへ…」
「よかった…死んだかと思ったよ…」
「バ…ァ…カ…勝手に…殺す…んじゃ…ねぇ…よ…」
ディックの無事を確認したアッシュは
立ち上がると先程墜落した場所へ歩き出した。
そこにはシグナスが倒れていた。
信じられない事にあの攻撃をくらっても
まだ生きていたのだ。
「はぁはぁ…はぁ
あ……あぐぐ…ぐ…」
「シグナス…」
「はぁはぁはぁ……。
俺の……負けだ……」
「……帰ろうぜ…。
ここにはもう用はないんだから…」
「……アッシュ……お前…の…
言った通り……俺も…ま…また…偽…物だ」
「……シグナス」
「お、 俺は…怖かった…。
あい…つに……レリスに…言われる度に…な…」
「………」
「うぐ…レ…リス…は気づい…ていたのかも…な。
俺…が………偽物だ…と」
「シグナス……」
「い、 いつまで……そうして…いる。
変身…を…とけ……。
そし…て……俺……の…うぅ…ぐぐ…ぁ」
「シ、 シグナス！！」
「俺の…アーディルを…きゅ…収…するんだ…
アッ…シュ…」
「な、 何を……そんな事したら…あんたは」
「いい…か…よく聞…け…。
６……魔……は…すぐに…動く…。
先…程の……たた…で…な」
「もう喋るな…！ 帰って治療を…」
「馬鹿やろ…う！！」
シグナスは大量の血と共にアッシュに吐き出した。
「アーディ…ライズを身……につけ…だけで
…強くなっ……と思うな…。
奴…らの……強……を……みく…る…な…」
「シグナス……あんた…」
「も…う…時…が…無……ぐ…ぁ…。
俺……の…ア…ディ…を…」
「…………くっ！」
アッシュは変身を解きシグナスの胸に手を当てた。
しかし顔を横にやったまま
シグナスと目を合わせようとはしない。
「…そ……う……れで…いいんだ……アッシュ…」
「く……そぉ…くそぉぉぉ……！！」
シグナスは息を整えて最後の力を込めて
アッシュに言葉をかけた。
「アッシュ…最後に教えて欲しい事があるんだ…」
「…何だ？」
「母親……俺…いや……。
俺達の…母親は…どんな姿か…思い出せ…るか？」
「母さん…？」
アッシュは記憶の中を探る。
端から端まで記憶を探る。
全ての記憶を取り戻したアッシュだったが
どうしても母親の顔や声が思い出せなかった。
「わるい…思い出せない…」
「そう…か……やはりな……。
アッ…シュ…その鍵…はな…
マーデ…ィンが握っている……」
「！？ マーディン様…が…」
「うぐ…も…う…限…界みたいだ…。
今からア…デ…ィルを……。
はぁぁ……あぁぁ〜！！」
シグナスが力を込めると彼の胸の辺りから
アッシュの手を伝ってエネルギーが流れ込んで来た。
その途中にシグナスの声が聞こえて来るが
彼の口は閉じたまま…。
どうやらアッシュの頭の中で直接響いてる様だ。
――アッシュ、 仲間っていいよな…。
お前の事を心配して駆け付けてくれるんだから…
お前には仲間がいる。 大事にしろよ…。
そして今この瞬間からお前が本物の…
真のアッシュだ。 俺が認めてやる…。
お前は……俺の様になるなよ。
じゃあな…。
アッシュ・バーナム――
シグナスの身体は胸を中心として消えていく。
光は砂の様に風に飛ばされて行った。
そしてシグナスの顔は穏やかな笑みを残して
最後に光の粒となって消えていった……。
ありがとう…。
もう１人の…
俺…。
