episode 29 ◆ユミルとセレイン
今回は3つに分けました。
同時刻に起こった事と踏まえて読んでくれれば☆
ちなみにepisode 29はどれから読んで頂いてもOKです♪♪
−キルキア−
とある村
「ここもダメか…」
この村の建物を全て調べ尽くしたジェノ。
オルゴールがあったあの民家だけが唯一
入れる建物であった。
何故あの民家だけが入れるのだろうか…。
もう一度手掛かりを見つける為に
その民家へ向かう事にしたのだった。
「ジェノ〜! 大変だよぉ!!」
空から慌ててジェノの元へと降りてきたリルティ。
静かな雪がちらほらと舞っている中を急激なスピードで向かって来た。
「お、 おい…」
「どいてどいてー!!!」
「まじかよ…ったくばかが…」
ジェノは寸前まで接近している
リルティを避けるとそのままリルティは雪に埋もれてしまった。
その衝撃で飛び散った雪がジェノにかかる。
そしてさらに民家の屋根に積もった
雪が重たくジェノにのしかかった。
半分凍った雪を退けて無言のまま服を払い溜め息を零す。
「ん〜、 ん〜!!!!」
「…なにやってんだよ…」
「ひぇの〜」
「………ばかが」
雪の中へ頭からダイブしたリルティの
両足がバタバタと動いている。
その状態が少し面白かったのか暫くの間
ジェノは立ったままリルティに話しかける。
「ひぇの〜!! ひんひゃうっへ…!!」
「死にはしねぇよ…ほらっ」
ぶっきらぼうに片足を持ち上げ
リルティを救出した。
雪の中から出て来たリルティは
早く助けろと吊り上げられたまま
ジェノに雪をぶつける。
「で…大変な事ってなんだよ」
「あ! そうそう大変なんだよ!
あたしたち村から出られないんだよ!!」
「まじかそれ…」
「なんか見えないバリアみたいなのに包まれてるんだって〜」
「…バリア……?」
ジェノは急いで村の門へ走って行った。
この村は北と南に門がありジェノ達がここを訪れた時に通った門は南門であった。
その南門へ辿り着くとゆっくりと外へ進んでみる。
「…な、 なんだよ。
別に行けるじゃねぇか」
そのままジェノは外へ向かって歩き出した。
しかし暫くするとジェノはリルティの元へと戻ってきた。
「なに…どういう事だ!?」
「ほ、 ほらね! 無理でしょ」
もう一度外へ向かって歩き出すが
また戻ってしまった。
走っても魔力を駆使しても変わらず戻って来る。
「おい…まじでやべぇぞ!
これじゃ出れねぇじゃねぇか!」
「だからさっきから言ってるじゃぁん…」
「さっきてめぇが落ちて来たのは
そういう事だったのか…」
「ねぇ、 もしかしたらさ
あのオルゴールと関係あるのかな…」
2人は再びあの民家へ入った。
オルゴールは先程と何も変化なく
メロディーを奏で続けている。
このオルゴール以外は特におかしな物は
見つからなかった。
「やっぱこのオルゴールだよね」
「触らん方がいいぞ。
電撃をくらいたくないならな…」
「うん、 わかってる」
リルティは触れる事なくオルゴールを
いろんな角度から眺めてみた。
しかしこれといって何も発見できなかった。
次に手紙をもう一度読み返す。
「セレインの祠…ってどこにあるの…」
「ぜってぇそこに何かあるはずだ。
このオルゴールに関係する何かが…な」
そんなこんなで結局何もつかめないまま
時は過ぎて行った。
ディルウィンクエイスから出発して
既に12時間が経過していた。
外を見ると夕日が沈むところだった。
成す術が見つからず民家に留まってしまった2人。
「もうすぐ日が沈んじゃうね…」
と、 その時であった。
「あっ! と、 止まった…!?」
オルゴールの音色が止んだのだ。
ギィッと言う木の軋む音と共にゆっくりと
蓋が閉まる。
暫くすると地面が揺れだした。
「な、 なんだ地震か!?
おい! なぜいきなり止まったんだ?
何かしたのか!?」
「あ、 あたし何もしてないよ〜!!」
地震はすぐに治まった。
リルティは何気なく窓から
外を眺めてみると村中に
異変が起こっていた。
「ジェノ見て!!」
民家や宿屋、 教会と凍っていた建物が
次々に元に戻って行く。
「おい行ってみようぜ!」
「うん!」
2人は外へ飛び出し、 村の中心へと
向かった。 辺りはすっかり闇が包み込み
夜となっていた。
向かう途中にあった民家から人が出て来た。
そして次々と外へと出て来る住民達。
「元に戻ったんだぁ!」
「でもなんでなんだ?」
住民達はごく普通に会話をしたりと
あの状態を知らない様だった。
自分達が凍っていた事もわからないのだろうか…。
「あのぅ…」
リルティは近くを歩いていた女性に
声をかけてみる事にした。
「はい? なんでしょう」
「貴方さっきまで凍ってたんですよ?
何か覚えてませんか?」
それを聞いた女性は少しだけ
笑みを見せながら答えた。
「凍ってた? 私がですか?」
「はい。 貴方もここにいる
村の人もみんなです。
何か心当たりとかないですか?」
「ぷっ、 何の冗談なんですか?
それより貴方達村の住民じゃないですよね」
「あ、 はい…。
バリオンから来ました」
「バリオン? すいませんが
聞いた事ない国ですね」
「え…?」
「用事があるので失礼します」
そう言うと女性は行ってしまった。
リルティは続けて他の住民にも
話しかけてみた。
「あのぅ…」
「ん? 見ない顔じゃなお前さん達
こんな老いぼれになんの用じゃ?」
「昼間の事何か覚えてませんか?」
「ひるま?」
「はい。 変な質問でごめんなさい」
「いやいいんじゃよ別に謝らんでも
それよりそのひるまとはなんじゃ?」
「? なに…って…昼間ですよ」
「すまんの…わしにはわからんわい」
老人はそう言い残して行った。
「あのくそじじぃボケてんだな…」
「…違うよジェノ、
ほんとに…知らないんだよ…」
昼間を知らないこの村の住民達。
彼等は何故凍り付けになっていたのか。
そして何故急に戻ったのだろうか…。
とりあえず続けて住民達に聞いて
みる2人だったがどの村人も
同じ返答だった。
「そうだ! アンディって子なら
何か知ってるのかも」
「オルゴールのガキか?」
2人はアンディを捜す事にした。
今度はアンディについて聞いて見ると
「あのちょっといいかな…」
「なーに?」
話しかけたのは3人の子供だった。
アンディの年齢はわからないが
大体このぐらいだろうと推測を立てた結果
7才ぐらいの子供に絞る事に至った。
「アンディって子知らない?」
「あんでぃ?」
「うん。 ちょっとその子の事で
聞きたい事があるんだ」
「あんでぃだったら教会にいるよ」
「教会かぁ、 ありがとね!」
アンディがいるという教会へ向かうと
入り口の扉が開き、 中から誰かが
飛び出して来た。
「こらっ! 待ちなさい!!」
「やだよ〜だ」
金髪の少年がリルティとジェノの間を
すり抜けて行った。
その後を追おうとした神父らしき男は
途中で引き返してきた。
「ねぇ、 さっきの金髪の子が
そうなのかなぁ…」
少し困った表情で教会へと戻る神父。
リルティ達と顔を合わせるや否や
少し頬を赤らめながら会釈をした。
「お恥ずかしい所をお見せしました」
そのまま教会の中へ入る所で
リルティが話しを切り出した。
もちろん話の内容はアンディについてだ。
「あぁ、 アンディならさっき
逃げて行った子がそうですよ。
あの子は身寄りが無く我々が引き取って
一緒に生活しているのですが…
どうもヤンチャでしてね…ふふふ」
「ジェノ…やっぱあの子が
そうだったんだ」
「どこに行ったかわかるのか?」
「きっとニーナの所でしょうね。
最近2人でコソコソ何かやってるみたいで
いつも一緒にいるんです」
「そうなんですかぁ」
「あの子がまた何かしたんですか?」
「い、 いえぇ〜。
さ、 さっきいきなり飛び出して
来たからびっくりしたなぁと思って」
「うん? 貴方達旅人なんですか?
ここの住民じゃないですよね?」
「まぁ…旅人みたいなものです、、、」
「そうですか…。
もし何かお困りでしたらいつでも。
出来る限り力になりますので」
「ありがとうございます。
機会があったらまた寄りますね」
神父はまた会釈をすると中へ入った。
リルティとジェノはオルゴールがあった
あの民家へと向かった。
夜だというのにも関わらずこの村の
住民達は昼間の様に活動的に賑わっていた。
「ここの人達の生活は夜しかないんだよ。
だからこんな時間でも子供が
外で遊んでるんだろうね…」
「金髪のガキを問い詰めて
この妙な現象を元に戻さねぇと
一生出れねぇぞ…」
2人はニーナの家に辿り着くと
ドアをノックする。
しかしいつまで待っても
誰も出てこなかった。
「あれぇ? ここで間違いないよね」
「あぁ。 この細い路地の3軒目
だからな」
もう一度リルティはドアをノックするが
出て来る気配は一切ない。
窓から中を覗けるが明かりがついているのに
誰か人がいる気配はない。
「そこは誰も住んでないよ」
2人の背中越しに通りすがりの男が
話しかけて来た。
「でも明かりはついてるぞ」
「あぁ君達か…噂の旅人というのは。
じゃあ知らなくても無理はないな」
「何がですかぁ?」
「その家は昔からそうなんだよ。
どういう訳か中にはどうやっても
入れないんだよ。
取り壊す事も不可能だしね」
「だが俺様達さっき中に入ったぞ」
「んな馬鹿な〜。
俺はこの村で育って26年になるけど
それまで一度も中に入った人間は
1人もいなかったんだぞ?」
「じゃあアンディとニーナは
どこにいるだろ…」
「なになに? あんたたちあの2人を
探してるのか?」
その問にリルティは返事を返す。
するとその男は村の反対側を指差した。
「だったらあっちだよ。
あいつら最近【セレインの祠】で
遊んでるみたいだから」
「おい…それって」
「あの手紙に書いてた場所だね」
「うん? 手紙?」
「あ、 あはは。 こっちの話ですぅ。
お兄さんありがとー」
ジェノを引っ張りその場を後にした。
男はゆっくりと首を傾げながら
路地へと消えて行った。
「おい! んだよ急に!!」
「ごめんごめん。 えっと…
あっちって言ってたよね」
「あんな場所に祠なんかなかったぞ」
「とりあえず行こ!」
2人は教えられた場所へと歩き出した。
宿屋の向かい側には小さな酒場がある。
その裏に細い道があり、 そこを
通ると目的の祠という訳なのだが
そんな場所に祠など無かったはず…
村全体を調べ尽くしたジェノは
歩きながらずっと考えていた。
「ねぇ、 あれ…そうかな?」
「そ…そんな馬鹿な…」
土の様な素材で作られた鳥居の向こう側に
確かに祠らしき空間が口を開けて待っていた。
入り口付近にはアンディ達はいなかったが
この奥から声がしている。
2人はこの中にいるらしい。
「よし、 行くか」
鳥居をくぐりジェノとリルティも
奥へ入って行った。
外の光が届かなくなる所まで来ると
小さな祭壇と社を見つけた。
ここで行き止まりとなっている。
「あれ、 ここで終わりだよね」
「なぁリル、 あれ見ろよ」
社に色鮮やかな綺麗な花束と
様々な装飾品が祭られてあった。
「なんで指輪なんてここに…?
それに花も場違いな感じだし…
セレインって神様だって思ってたけど…違うのかな…」
「…ん?」
社の付近でコソコソと何かが動いた。
しかしジェノもリルティも
既に何なのかは察知していた。
アンディとニーナである。
「隠れても無駄だぞ。
どこに隠れてもこっちはわかんだよ(スキャンでな)」
「ご、 ごめんなさい!!
もうここにはこないから!!」
「君がアンディくんだね」
アンディの後ろにもう1人ポニーテールの
女の子も2人に向かって謝り出した。
「ごめんなさい!!
にぃながいけないの…あんでぃくんを
むりやりつれてきたから
にぃながわるいの!!」
「しんぷさまにはいわないで!
おねがい…もうこないから」
リルティは勘違いしている
2人に説明しようとするが
ジェノがその中を割ってこう言った。
「内緒にしといてやってもいいぜ」
「ほ、 ほんとー!?」
「ただし、 いくつか質問に答えたらだ」
「しつもん? なに?」
「リル、 てめぇが話せ」
「え…う、 うん」
リルティはオルゴールの事や手紙の事
を2人に話した。
2人共驚くかと思いきや意外な
反応を返してきた。
「…ぼくがいけないんだ…ぼくが…」
「ん? …説明してくれるかな?」
アンディはしくしくと肩を揺らし始め
とてもじゃないが話すどころではない。
それを見たニーナが代わりに話し出した。
「あのね…このほこらはねしんぷさま
いがいわはいっちゃいけないの。
でもねあんでぃくんがにぃなとなかなおりしたいってゆってね、
おるごーるをねとりにほこらにはいっちゃったの。
あそこにあったんだって」
ニーナが指差した所には
丁度あのオルゴールがはまりそうな窪みがあった。
「それでねあんでぃくんにもらった
おるごーるがおきてみたらなくなってたの」
「う〜ん、 よくわかんないなぁ…」
「ぼくね、 しんぷさまのはなし
きいちゃったんだ…」
「どんな話?」
「あのおるごーるはね、 ずっと
まえにこのむらにいたせれいんっていう
おんなのひとがだいすきなひとに
あげたものなんだって。
でもねだいすきなひとはせれいんにかえしたんだって。
それでせれいんはいなくなっちゃったんだ」
「……そう…なんだぁ…」
「ぼく…ね、 きづいたらもってかえっちゃってたんだ…
でもへんなんだ…」
「何が変なの?」
「ぜんぜん…おぼえてないんだ…。
きづいたらへやでてがみかいてた…」
「…う〜ん……。
ジェノどう思う?」
「…神父が怪しいな」
「…だよね」
「だめ…いわないで!!
しんぷさまにおこられる…」
「大丈夫だよ! アンディくんの事は
黙っといてあげるから☆」
「ほんと…!?」
「でも、 もう入っちゃダメだよ?
お姉さんと約束できるかな?」
「やくそくする…」
「にぃなもやくそくするぅ」
「じゃあ見つかんない内に行きなさい」
「ありがとうおねぇちゃん!!」
アンディとニーナは走って出て行った。
2人の笑い声が祠内でこだまする。
次第に声は小さくなりやがて
聞こえなくなった。
「さてと…。
じゃあ神父様に会いにいこっか☆」
2人も祠の出口に向かい歩き出した。
「それにしてもあのオルゴール…
悲しいメロディーだったけど
もしかしたらセレインの魂が宿ってて
本当に泣いてるのかもしれないね…」
「嫉妬か…よくある話だな…」
「そういう事だったら勝手に鳴ってる
オルゴールもなんとなく説明つかない?」
とその時、 突然地面が揺れ出した。
入り口付近まで来ていたジェノとリルティは
駆け足で祠を脱出した。
外に出て来たはいいが2人の目の前には
またも驚くべき光景が広がっていたのだった。
「…村が…」
村はまた凍り付けとなっていた。
そしてすぐ後ろの祠もいつの間にか
地面に潜っていた。
「ジェノ、 祠が…ない」
「なるほどな、 見つからない訳だ」
「ねぇ、
何でまた凍っちゃったんだろ…」
「…あれだ」
ジェノは顔をクイッとある方向にやると
そこには太陽があった。
夜明けである。
「そういう事か…。 どうする?
また神父さん凍っちゃったから
夜まで待たなきゃだめだね…はぁ」
「待たなくてもいいですよ」
するとどこからともなく
神父が姿を表した。
しかし住民は凍り付けとなっているはず…
何故ここに神父がいるのだろうか。
「神父様、 え、 だって
凍っちゃったんじゃ…」
神父は寂し気な表情をしながら
2人に説明し始めた。
「私は凍らないんです…
私を除く全ての住民がこうなるんです」
「な、 なんで神父様だけ…?」
「…セレインの事アンディから
聞いたでしょう?
実は全部見てたんです…」
「それってまさか…」
「セレインが愛していた男というのは
私の事なんです…」
「神父さまがそうだったんですか!?」
「私は…
セレインに呪われているんです…」
「呪われてるって…どんな?」
「…私は永遠にこの村から
出られないんです…もう150年も
前からこの村にいます…」
「ひゃ!? 150年ん!!?」
「私は死ぬ事ができず永遠に
生き続け、 罪を償わなければ
いけないんです…」
「罪……?」
「あの日…村の外に倒れている彼女を
助けた時から始まったんです…。
一目見てすぐにわかりました。
人間ではないと言う事が…」
「人間じゃ…ない…?」
「はい…。
こんな小さな村ですから噂はすぐに
広がっていき、 彼女はその容姿から
悪魔と呼ばれる様になりました。
確かに彼女は人間ではありません
しかし私には悪魔などにはどうしても
見えなかった。
住民達はすぐに追い出せと言ってましたが
私は暫く彼女の傷が癒えるまでの間
自分の家で匿う事にしたんです」
「見た目だけで悪魔って…
酷いですね…」
「彼女の傷は数日で癒えました。
そして私はいつしか…彼女の事を
愛してしまっていたんです…
住民達が悪魔と呼んでいた事は
彼女は知っていました。
自分がいる事によって村に迷惑が
かかるから彼女はすぐに村を出ると
言ったんです…でも私が…
それを引き止めたんです…」
「何で引き止めたんだ?」
「バカ、 好きだからに
決まってるじゃん!」
「…それが悲劇の始まりでした。
私がいけなかったんです……。
あの時引き止めていなければ…」
神父は力を失ったかの様に
腰からその場に崩れて行った。
ポツンと涙を落とす。
「また彼女との生活が始まりました。
もちろん住民には秘密で…。
彼女も私の事を次第に受け入れて
くれるようになりました。
暫くは平穏な幸せの日々が続いた
のですが…」
ある時家に帰ってみると彼女は
いませんでした。
外出できるのは人も少なくなる夜のみ
だったのですが昼間に外出するのは
これまでの生活の中で初めてでした。
私はすぐに家を飛び出し彼女を
捜しに行きました。
「セレイィン! セレイィン!!」
彼女はすぐに見つかりました。
村の子供が魔物に襲われているところを
助けに行ったみたいで彼女は意図も簡単に
その魔物を倒しました。
その時初めて彼女の不思議な力を見たんです。
「セレイン…おまえ」
「ごめんなさい…ユミル。
私…見ていられなくて…」
それがきっかけで彼女の事は村に知れ渡りました。
子供を救ったのにも関わらず魔物を
一撃で倒した力に興味がいき、 彼女はやはり悪魔だったと
皆に責め立てられ続けました。
「あ、 悪魔め…早くこの村から出て行け!!」
「おいもしかしからこいつがいるから
魔物が来たんじゃないか?」
「…そうか! こいつが呼んだのか!!」
「神父様、 貴方も見たでしょ!?
この悪魔が魔術で魔物を殺したのを!!」
「皆さん! 落ち着いて下さい!!
セレインは悪魔ではありません」
「おい悪魔!!
神父様に言い寄って何しようってんだ!!」
「神父様! 目を覚まして下さい!!
何でそんな奴かばうんですか!!!」
「まさか…神父様、 悪魔に支配されているんじゃ…」
「悪魔め!! 神父様から離れろ!!」
私は彼女の手を引き、 家まで走りました。
「ユミル! もういいから…」
「もういいって…」
「やっぱり私達…一緒に暮らすなんて無理なのよ……」
「セレイン…」
「私は貴方達とは違う…。
あの力だって何で使えるかわからないし…
本当に私…悪魔なのかも知れないわ…」
セレインは自分が何者か知らなかったのです。
この村に来る前はテムトと言う他の村にいたらしいんですが
キルキアにはそんな村存在しません。
「おまえ…まさか記憶が…?」
「…隠しててごめんなさい」
「それなら何で言わなかったんだよ!!
記憶がないのか!?」
「……わからない…考えると頭が痛くなる…」
「無理に思い出さなくていい。
だが暫くはここからは出ちゃだめだ」
その日から村の住民の様子が変わりました。
初めはセレインだけに罵声を浴びせるだけだったのが
次第に私までもその対象になったのです。
そしていつしか私を殺せばセレインもいなくなると
討伐隊なるものが結成され、 私自身も外出ができなくなりました。
「おい!! 悪魔ぁ!! 出てこい!!」
「おい、 やるぞ」
私の家に火が放たれました。
「ぎゃははははは!!!
てめぇらも、 これで終わりだなぁー!!」
「そらよ! もう一丁やるよ!!」
火が次々に投げ込まれました。
2階で怯えていた私を見るとセレインは…。
「ユミル、 怖がらないで…大丈夫だから」
彼女はまたもや不思議な力で火を振り払ったのです。
その次の日もまた次の日も村人が
火を放ちにやって来たのですが不思議な力に
守られているせいなのかそれ以降は村人から
火を投げ入れられなくなりました。
…正直、 私は滅入っていました。
自分でもわかるぐらい錯乱していました。
彼女を見る度に怒りや憎しみが顔を出し、
一緒にいる日々が続くとその感情は強く出るばかり…。
そしてそれは彼女が私にプレゼントがあると
呼ばれた日に起こりました。
「貴方と出会ってから私、 すごい充実してるの…。
こんな事になってさえいなければ…」
彼女はオルゴールを持って来て
私へのプレゼントと言って送ってくれました。
私は…彼女の心をこもったそれを…
床に叩き付けました…。
「そもそもおまえさえ現れなければ…。
助ける必要もないし愛さなくてもよかったんだ…」
「ユ…ユミ…ル…?」
「そうさ、 村の住民に怯えなくても済んだんだ…。
それがどうだ? おまえを助けたばっかりに
自分の村も家からも自由にできない!!」
「ごめんなさい…!!」
彼女は涙を零しながら家を飛び出して行きました。
その時、 私は我に返ったのです…。
とんでもない事言ってしまったと…。
しかし後の祭りでした。
私は彼女を探しに村中を探し回りましたが
彼女の姿はどこにもありませんでした。
「やっと出て来たか!!
悪魔の手先め!!」
私はいつの間にか村人に囲まれていました。
村人の手には刃物や鈍器が握られ今にも
飛び掛かって来そうな勢いで私に近寄って来ました。
「悪魔の手先め! もう一人の悪魔はどうしたぁ?」
「く、 来るな…」
「ぎゃははははは!!
悪魔がビビッてやがるっ!!」
「死ねぇ!! 悪魔めぇぇ!!!!」
その時の記憶は余りありません。
しかし私の身体は血まみれでした。
意識が少しずつ遠退いて行くのがわかりました。
私は死ぬのだと…そのはずでした…。
どのくらいでしょうか…ふと目が開いて…
周りを見ると村が凍り付けになっていました。
「な、 なんて事だ…!? む、 村が…。
それに…生きてる…一体どういう事だ…」
「きっと、 セレインが助けてくれたんですよ」
「しかし彼女は2度と私の前には現れませんでした…」
「じゃあこの現象もそのセレインがやったんだな」
「恐らく…そうでしょうね…」
と、 その時だった。
急に村の入口付近で大きな雄叫び声が上がった。
「なんだ!?」
ジェノとリルティは神父と共に急いで向かった。
門から中に入って来た体長5m程の獣。
それは今まで見た事もない魔物だった。
2人はすぐに戦闘体勢に入る。
「リル、 いいか?」
「いつでも〜!!」
少し遅れて来た神父の様子がおかしい。
「そ、 そ、 そんな…まさか…」
「グルルアァァ!!!!」