episode 27 アーダとイーヴァ
前半部分は説明的会話がかなり長く続きますが最後まで読んでくれるとうれしいですf^_^;今回は本当に説明が多いのでご了承下さい。
「おい、 さっきてめぇが言った試作品ってどう言う事なんだよ」
(うん…レリス…僕達の世界にレリスって言う女性がいるんだけど彼女もヴァルファリエンなんだ)
「俺様は試作品って何だと聞いてんだよ」
(ジェノ君、 話は最後まで聞くもんだよ。
いいからとりあえず黙って聞いて)
「ちっ、 わかったよ」
(ふぅ…、 レリスのアーディルには他のヴァルファリエンにはないある特別な力があるんだ。
君は【エターナルサーガ】って聞いた事ある?)
「エターナルサーガ? いや、 聞いた事ねぇ…」
(創造書エターナルサーガ…。
これを手にした者は宇宙を…いや、 全ての次元に存在する万物の在り方を意のままにできると言われているんだ…)
「レリスって奴はそのエターナルサーガを持ってるって事か?」
(まさか、 彼女にはその創造書が眠る場所を指し示す力があるんだ。
…話は神話の時代まで遡るんだけど、 このエターナルサーガを発動した者はこの世にたった2人だけ…。
その力を使いヴァルスと言う存在を生み出してしまった…アーダとイーヴァと言う人間なんだ)
「アーダと…イーヴァ…。
神魔人大戦に出てくる英雄の名前だ…」
(そう…神族や魔族そして人間がその創造書を巡って争ったのが君の言う神魔人大戦なんだ。
神話の時代の言葉で【神々を破壊する者】と名付けられたヴァルスは文字通り兵器として誕生したんだ…。
僕達ヴァルファリエンの原型って言われている。
アーダとイーヴァが生み出したヴァルス達はあっという間に神族と魔族を滅ぼした。
人間達はこの戦争の勝者となった。
アーダとイーヴァは究極の存在を誕生させてしまった事に次第に恐怖を感じエターナルサーガを使いヴァルス達を消そうとした。
しかし神の力を超えた存在を神が創ったと言われる創造書エターナルサーガは彼等を消す事はできなかった。 そしてその行動はすぐに彼等に伝わり2人を抹殺する為に探しまわった。
世界の隅々まで探しても2人は見つからなかった。
それもそのはず、 アーダとイーヴァはエターナルサーガを使い別次元へ逃げ延びていたんだ。
2人はそこに新しい世界を創った。
それはエディル、 僕達の世界だと言われている。
神をも超えるヴァルスがこの世界にやってこないとも限らない…アーダとイーヴァはどうすればヴァルスを消滅する事ができるか考えに考えた。
そしてアーダにある考えが浮かぶ。
それは同族通しで争わせるというものだった。
エターナルサーガは3度発動された。
結果は失敗だった…。
数はたった1人まで減ったんだけどどういうわけかそのヴァルスの力はさらに強大になっていたんだ。
もしかしたら意思を持たない彼等に心が芽生え始めたのではないか…。
それは愛や喜びと言う綺麗なものではなく憎悪や哀しみに近い感じだった。
アーダとイーヴァへの激しい念いがこの1人を誕生させてしまったのかもしれない。
そしてそのヴァルスがエディルにやってくるのはそう遅くはなかった。
アーダとイーヴァは再びエターナルサーガを発動させた。
2人は何をしたのか…。
それは彼の魂を慰める事だった。
2人の想いとエターナルサーガの力でこのたった1人のヴァルスは光となりアーダとイーヴァに還っていった。
2人はこれまでの行いを悔い改めるべくこれにシェイドと名付けいつまでも忘れる事がない様に光の元で生きる全ての者に影を宿した。
そして2人はこのエディルに新たな平和な種をと誕生させたのが僕達ヴァルファリエンなんだ…。
それを最後にエターナルサーガは遥か彼方へ封印された。
アーダとイーヴァは自分達の過ちを2度と起こさない為にもヴァルファリエンの中から2人選び特別な力を与えエターナルサーガを護るように命じた…。
そしてアーダとイーヴァは全ての使命を終えたかの様に天に召された。
その2人のヴァルファリエンの子孫がアッシュとレリスなんだ)
「じゃあアッシュも?」
(……レリスと同様特別な力があるんだ。
エターナルサーガを発動する為の鍵…。
【エディルブレイブ】と言う力がね…。)
「エディル…ブレイブ…」
(アッシュとレリスは時を同じくしてその力に目覚め始めた。
そしてある者達がアッシュとレリスの力に気付き狙い始める…)
「ディウス達か…」
(うん…。
実はディウスも僕達と同じヴァルファリエンなんだけどね、 彼は僕達とは考え方や力の使い方が違っていたんだ。
アッシュ達にエターナルサーガを発動させる事を強く訴えてきた。
その当時のアッシュ達にはまだエターナルサーガを発動できる力は備わっていないと言うのに彼はアッシュ達にしつこく問いかけてきた。
何故その様な力の存在を知りながら何もしないのかと…)
「その時から何か企んでいやがったのか…」
(…僕達ヴァルファリエンは破壊兵器と恐れられた事もあって人里離れた所でひっそりと暮らしていたんだ。
歴史では神話の時代に神々を滅ぼしたのはヴァルスじゃなくヴァルファリエンって事になってるから…と言うか僕達も最近知った事だから。
それに歴史上はもう滅びている種族だからね。 人間達に見つかるとまた恐怖を与えるだけじゃなく世界を混乱に導くかもしれないとその当時の長達は里からの外出を固く禁じていたんだ。
しばらくは平和な日々が続いた。
ディウスがアッシュ達の力の事を知るまでは…ね。
2つの力を手に入れる事ができれば自分の思うがままに世界を造り変える事ができる…
ディウスは長達の目を盗み同じ思いのある仲間を集めてある組織を作ったんだ……それが)
「それが…6大魔導だろ」
(…同じヴァルファリエンでも力の差はある…この時のディウスは非力だった。
そんな彼に運命とも呼ぶべき時が訪れたんだ。
それはグランベルクで石版が発見された事だった。
神魔人大戦の事が書かれた石版にはこうも書かれていた…。
【天魔の闘い】
ヴァルファリエン達の間で起こった闘い…。
それは闘いに勝者は敗者のアーディルを奪いそれを取り込んで自らを高めていける恐ろしいものだった。
さっきも言ったけどこれはヴァルファリエンじゃなくてヴァルスなんだけどね…。
外出を禁じられているのにも関わらずディウスは里を離れて人間と接触していた事でその情報を知ると彼はグランベルクへと向かった。
そしてそこで石版の内容を知ると…ディウスは躊躇う事なく実行に移した。
どう言ったのかは知らないけどグランベルクをうまく利用したディウスは里の場所を教え仲間達を次々と捕らえていった。
そしてアーディルを抜き取っていったんだ…。
その度にディウスはとてつもなく強大にそして邪悪な存在へと変わっていった。
そしてアッシュや僕達も捕らえられる事になったんだ…。
…幸運な事にうまく逃げ延びる事に成功した僕達は隠れ家を作りそこに身を潜めながら残った5人でできる事を考えた。
ディウスは昔とは比べ物にならないぐらいの力を手に入れてる…。
このままだったらアーディルを抜き取られるのも時間の問題…。
その時アッシュはある事を提案したんだ…。
それはアーディルを2つに分ける事だった。
力を2つに分ける事でもし全員が捕まったとしてもエターナルサーガは発動できないから、 アッシュの提案は最終的には全員賛成となった。
でも…そうする事によってもしかしたらアッシュ自身が死んでしまうかもしれない…途中で大爆発が起きて世界が消えるかもしれない…。
本当に賭だったんだ…結果上手くアーディルを2つに分ける事ができたんだけどね)
「その半分がこっちのアッシュに?」
(うん。
アーディルを2つに分けたまではよかったんだけどそれを宿す言わば入れ物が欲しかった。
僕達は持てるだけのいろんな知識を寄せ集めアッシュのクローンを造った。
全部で3つ、 1人目も2人目も結果はアーディルに耐えられずに失敗…。
そして要約3人目で成功したんだ)
「…それで試作品って事か…。
ふっ、 まるで人形みたいな扱いじゃねぇか」
(そうじゃないんだ! 当時は感情なんて…)
すると部屋に近づいて来る足音が聞こえてきた。
扉が開かれるとそこにはリルティの姿があった。
「やっぱりまだここにいたんだぁ」
「リルか……で、 なんだ」
「なんだじゃないよ!
もうとっくに1時間過ぎてるんだけどぉ〜。
これでもわからない?」
「…あ、 やべっ! 作戦会議だったな!!」
ジェノは急いで部屋を出て行きディック達の待つ図書館へと向かった。
入口を出て真っ直ぐ南に見える建物…と言っても今や廃墟と化しているが、 そこへジェノは全速力で向かう。
(話はまた後が良さそうだね)
「あぁ…それともう一つ」
(なに?)
「少しの間黙ってろ」
(…どうして?)
「大事な話の最中にてめぇの声で聞き逃したくねぇんだよ」
(…わかった)
図書館、 今は臨時としてここが作戦会議室になっている。
ジェノは少し戸惑いながら図書館へと足を踏み入れる。
「…ディックさん、 他にいい場所なかったんすか…」
「ん? まぁいいじゃねぇか話せりゃ☆
それともなにか? おめぇはイスに座らねぇと作戦が立てられねぇって言いたいのか?」
「…そこまでは言ってないすけど…」
ジェノは辺りにちらほらと目をやりながらディックの元へと近づいて行く。
今のこの図書館は建物と言うそれではない。
壁は崩れ高い天井からは直接太陽の光が差し込む。
床は焼け焦げ本は無残な姿で散乱、 ディックとティナはこの部屋の調度中央に適当に座って会話をしている。
恐らくそれまでに何枚かの扉があったと思わせる壁や通路が図書館全てを見渡せる吹き抜けとなっていた。
いつ崩れてもおかしくないこの建物をよく選んだな…とジェノはサングラスの下で表情を曇らせる。
「ティナ、 リルティにジェノ…おい、 クレイドはどうした?」
「それが大事な人に会うとかで出て行きましたけど…?」
「リルティ、 それいつの事だ?」
「…確かジェノをベッドに運んだ時だから…5時間前…だと思います」
「下かしら…」
「何で俺達に知らせなかったんだ!?」
「す、 すいませ〜ん!! 知ってるものとばかり…」
「(大事な人…)」
ジェノはその言葉に心当たりがあった。
それは候補生時代の任務でディアナ達を捜索していた時の事だった。
「(あの時話した人のところへ行ったのか…?
クレイドさん…)」
−ミダルヴァ国−
商人の街【ザハン】
バリオン国から西に位置する国ミダルヴァ。
山脈に囲まれ砂漠が特徴的な国。
国全体の約60%にも及ぶ灼熱の砂漠は普通の人間なら10分ともたない。
昼間に外をうろつく者は死を意味するこの事から【死の砂漠】と言われている。
この国で商人達が夜中に活動的なのはこの事が理由である。
そんなオアシス的存在の街ザハンの街中にクレイドの姿があった。
彼は我が家を探すかの様に迷わず街の中心の高い建物に向かっていく。
その道には様々な店が立ち並び商人が威勢良く声を飛ばす。
「さぁ今日の品はこいつだぁ!
ミダルヴァ牛の肉30Kg!!
しもふり肉と言えばこいつだよな! 焼いて食うもよし、 生でもいけるぜ☆
今回は10000Gを半額で……」
また反対側からは別の商売人が装飾品を手にクレイドへと近づいて来る。
「お兄さん!! このピークスファのネックレス! 彼女に買って帰ったら喜ぶわよ〜♪」
いらない…と手で合図を出してやり過ごすと今度は酒樽を抱えた小太りの小さな男が真っ正面に陣取りクレイドに壁を作った。
「にぃちゃん、 あんたついてるぜ! 今日はめったに手に入らねぇこの酒……ビブロリマーインだ! あんた名前ぐらいは聞いた事あるだろ?
超高級な酒だぜぇ〜」
「ビブロ…リマーインか…懐かしい…」
クレイドは男の前で足を止めると頼んでもいないのに酒を注ぎ始めた。
「ほぅ〜あんたこの酒の味知ってるのかい? そいつは驚きだなぁ。
ほらよ! 一杯はサービスだ」
零れそうな勢いでクレイドの前へと持って来た男は彼が受け取ると自分もグラス一杯に注ぎクレイドに一方的な乾杯をして一気に飲み干した。
このビブロリマーインとは超がつく程高級な酒で一般の人間には手の届かない代物だと言われている。
薄い黄金の色をしたその酒をよく見みると小さな丸い粒があるのだがこれはビブロと呼ばれるジェリー状のもので実はこのビブロが高級なのである。
口に入れた瞬間ゆっくりと溶け出して酒と混ざる事により絶妙なハーモニーを生み出すのだ。
本来は少しずつ舌の上でその溶け行く様を感じ楽しみながら飲む飲み物なのでこの男の様に一気に飲み干してしまっては意味がない。
喉元まで込み上げて来た言葉を冷静な表情のまま心に押し返すとクレイドは手に持っている酒を口に運んだ。
「……うまい」
「へっ、 まずい訳がねぇって。 がぁっはっはっは」
「それで…こいつをいくらで売ってくれるんだ?」
「売ってやりてぇとこだがよ、 わりぃなにぃちゃん、 実はもうこいつは売却済みなんだ」
「…そうか。 残念だ…だが久しぶりにまた飲む事ができてよかった。
礼を言わないとな」
「礼なんていいって! そこの角の小さいのが俺の店だからまた寄ってくれよ!! にぃちゃんとは楽しく酒が飲めそうだからよたっぷりとサービスするぜぇ〜♪♪♪」
「あぁ。 是非また寄らせてもらうとしよう」
グラスを男に返すとクレイドはまた歩き出した。
この燃える様な暑さの中、 この街は商人達の声で活気に溢れていた。
この街の中心に位置するビルの様な建物は他とはデザインが違っていた。 目の前まで来てみると奇抜さはさらに際立って見えた。
その入口に向かって歩くクレイドの目線は戸惑いを見せる事はなく、 真っ直ぐ玄関を向いていた。
銀色の丸いレンズの様な物の前で足を止める。
しばらくすると銀色から次第に透明に変わっていき中が見える様になった。
クレイドの目の前にはスーツを来た1人の男が立っていた。
「ロン、 久しぶりだな」
「クレイド、 まさかまた会えるとは思ってなかった。
マスターがお待ちだ」
「あぁ…」
ロンと呼ばれる男に案内され中へと入って行った。
レンズは再び元の銀色へとゆっくりと戻っていく。
「…クレイド、 久しぶりに会うお前にこんな事を言うのは気が引けるが……この【マシーナ】に何の用があって来た?」
「…どおせマスターに話す時にお前もいるんだろ?」
「ディルウィンクエイスの事と関係あるのか?」
「………」
「…なるほど、 やはりそうか…」
それ以降はお互い無言になり足音だけが辺りに響く。
そしてある扉の前で足を止めるとロンが丁寧にノックをする。
返事を待たずに扉を開け部屋の中へと入った。
「マスター。 連れて参りました」
「…お久しぶりです。
マスター・エイディア」
小麦色の健康的な肌が特徴的なエイディアと呼ばれたこの女性、 実はこのエレメンツハウス【マシーナ】を統括するマスターである。
若干29歳とマスターにしては若いがその能力はマーディンに認められている程だ。
マシーナのマスターに推薦したのがマーディンだと言うのも有名な話である。
そしてクレイドがエレメンツになるきっかけの人物でもある。
「お久しぶりですね、 クレイド。
元気そうでよかったです」
ツイストヘアーの茶髪を後ろで束ね耳からは金のピアスが重たくぶら下がっている。
蛇のこれまた金の腕輪を両腕に複数着けているので彼女が何か動く度にジャラジャラと音が鳴る。
昔と何一つ変わらないエイディアに懐かしむクレイドは緩んだ口元を固く締め直すと本題に入る。
「マスター・エイディア、 ディルウィンクエイスの事はもうお聞きになられていますか?」
「はい詳しく…。 マーディン様の事も聞いております」
「これはこの国バリオンの…いや、 世界レベルの危険な事態です。
我がハウスはエレメンツが機能していないばかりか指導者までもいない状態です、 そこで貴方の知識をお借りしたい」
「もちろん断る理由はありません。
わたくしに出来る事はさせて頂くつもりです」
「お忙しいのに本当に申し訳ありません…でもマーディン様の穴を埋める事ができるのは貴方しかいないのです」
「では一刻も早くディルウィンクエイスに向かいましょう。
ロン、 今空いているエレメンツをここへ集合させて下さい、 10分後に発ちます」
「了解」
エイディアに一礼すると顔上げ様にちらっとクレイドと顔を合わせる。
そして急いで部屋を出て行った。
部屋にはクレイドとエイディアの2人になった。
お互い目を合わせる事はしなくそれぞれ違う所に目を向けている。
部屋の外の足音が鮮明に聞こえる程静かだった。
「…それにしても、 もう5年…?」
「……はい…マスター」
「わたし…どんなに貴方に会いたかったか…クレイド…」
エイディアはクレイドにゆっくりと近づいて彼の頬を優しく撫でる。
クレイドは目を合わせようとはせずただじっと立っているだけでエイディアの行動に特に変化は見せない。
「わたしが…わたしがいけないの…あの頃は…」
「貴方は……マシーナのマスター、 私はディルウィンクエイスのエレメンツ…ただそれだけの…関係です」
「………そう…」
触れていた手がゆっくりと離れていく。
その手をもう片方の手が優しく慰めるように撫でる。
次第に溢れてくる思いは涙となり零れ落ちて行った。
それを隠す様にクレイドに背を向けると…。
「…今のは忘れて下さい」
「マスター準備が出来ました。
いつでも出発できます」
部屋の扉からロン率いるエレメンツ達が次々と入って来た。
「…ロン、 これで全てですか?」
「はい。 今このハウスの中で優秀な人材を集めました」
ロンを入れて全部で7人程だった。
「たった7人ですか?」
「はい。 ほとんどのチームはグランベルクへ行っていますので」
「そう言えばそうでしたね。 ふふふ…自分で下した命令を忘れるとはマスター失格ですね…」
「…何故そんなに多くのチームをグランベルクに?」
「グランベルクがついに動き出したのです」
「グランベルクのレヴィナードとアストルーラが今、 大部隊でバリオンに向かって来ている。
我がマシーナの部隊はそれを食い止める様に向かったんだ」
「…アッシュだ…。
ついにディウスはアッシュを奪いに本格的に動き出したのか…」
「では急がないと!!
わたくしのワープドアで…」
クレイドはエイディア達と共にディルウィンクエイスへと急いだのだった。
−ディルウィンクエイス−
居住区
「ディルウィンクエイスの周りを調べましたがやっぱりどこにも…」
「こんな肝心な時にあの野郎どこ行きやがったんだぁ?」
「クレイドの事はとりあえず後で考えましょう。
それよりアッシュの居場所がわかったの」
「あいつは今どこにいるんだ?」
「例の湖…」
「え、 だってスキャンに反応ないですよ?」
「湖ってすぐそこじゃないすか」
「私も聞いただけだから詳しくわ知らないわよ。
報告によるとアッシュは湖の中に潜って行ったんだって」
「今の俺達にできる事は様子を見る事しかできねぇ…。
俺とティナは湖に向かう。
おめぇ達はここに残って待っててくれ。
マスターを頼む」
「了解」 「りょうかいです」
「ティナ!」
「開け! 我が魔力の扉!!
クイックフェザー!!!」
光の翼が激しく羽ばたき彼等を空へと誘う。
ジェノとリルティに手で合図を送ると一気にスピードを上げてディックとティナは湖へと飛び立って行った。
一方その頃…。
グランベルクのレヴィナードとアストルーラの大群はグランベルクを離れ海を渡っていた。
グランベルクは北の大陸 にありバリオンへと向かうにはその間の大海を渡って行かなければならない。
しかしこの海を渡るには一般的な船だと半月もかかってしまう程の広大さなのでエレメンツ達はこの様な長距離を移動する時はある乗り物を使用する。
それは魔金属と呼ばれる生きた金属で出来た乗り物で総称【レグ】と呼ばれている。
搭乗できる人数は1機につき1名で魔力が原動力となっている。
移動中も僅かではあるが常に魔力を消費する。
レヴィナードとアストルーラは数百のレグでバリオンを目指していた。
その先頭を飛ぶ2機のレグに乗っているのは各エレメンツマスターのロゼとシキだった。
少し離れてリーベルトのレグ、 その後ろには残りの数百のレグが続く。
「久しぶりにわくわくしてきたねぇ!! こんな気持ちは本当に久々だ」
ロゼが海に向かってダイブする。
勢いよく海中へと水しぶきをあげて入っていくとまた豪快に大量の水流と共に上がって来た。
「今日は気分がいいねぇ♪ 早く暴れたくてこの子もうずうずしてるみたい」
「ロゼ、 もうその辺にしろ。
複数の魔力の反応が現れたぞ」
「ん…? ディルウィンクエイスじゃないみたいだねぇ」
「だがディルウィンクエイス以外にレグを飛ばせるハウスは…」
「…マシーナか」
ロゼ達の前方に光る点がポツポツと見え始めた。
その点は近づくにつれてロゼ達と同じレグであるとわかった。
しかし形状や色は違い向かって来るレグはロゼ達のよりも少し軽量で小さかった。
素早い動きが用意に想像できる程に。
「おい! グランベルクだー!!
お前ら絶対にこの先へ行かすんじゃないぞ!!!」
「わかってますよ!!」
「よし! 撃てぇ!!!!」
マシーナのエレメンツ部隊はロゼ達に総攻撃を開始する。
魔力を込めて放たれた無数の光の粒がグランベルクのエレメンツ部隊へと向かっていく。
「坊や達!! 派手に暴れな!!」
ロゼの掛け声と共に後ろを飛んでいたエレメンツ達が一斉にスピードを上げてマシーナへと向かって行った。
「な、 なんて数だ…」
「敵は俺達と同じエレメンツだ! 恐れるな!!」
マシーナの攻撃はグランベルクのレグを捉え撃墜に成功するが相手は数百の大群。
向こうの数も減るがこちらの数もそれに比例する様に減っていく。
数では圧倒的にグランベルクが有利であった。
「隊長…また…撃墜されました…」
「こちらの数はあといくつだ…?」
「我々を合わせて30機程です…」
「相手の数は?」
「確かではありませんが130機程かと…」
「くそ…! これほどの差があったとは…」
「隊長! 指示を」
「…お前らはハウスに帰ってマスターに伝えろ…後は俺に任せておけ」
「無茶ですよ隊長! あんな大群を相手に…」
「ごちゃごちゃ話してる暇があったら少しでも早くハウスに向かえ!!
これが俺の…マシーナレグ部隊隊長としての最後の命令だ!!!」
「隊長……了解!!」
マシーナのエレメンツ部隊は1機だけを残して戻って行く。
「…この俺の特大のをくらわしてやる。
全部とまではいかないだろうが半分は道連れにできるだろう…」
マシーナのレグが強く光を放ち始めた。
「魔力の密度が増してる…」
「な、 何をしておる!!
早く打ち落とすのだ!!」
「り、 了解!!」
グランベルクのレグ全機がマシーナのレグに照準を合わせ一気に魔力の弾を撃ち飛ばす。
しかし光に包まれたマシーナのレグはその魔力を吸収しているかの様に膨脹して行く。
「おい!! グランベルクのくそエレメンツども!!
よーく見ておけよー!
これが古の時代から使われてきた戦術…
とっこうってやつだぁぁぁぁー!!!!!」
マシーナのレグは強い光を放ったままグランベルクのエレメンツ部隊に突撃して行った。
それを止めようと何度も何度も攻撃を試みるグランベルクのエレメンツだが効果はなかった。
「シキ様、 全く効果がありません!!」
「ロ、 ロゼ! 笑ってる場合じゃないだろ!!」
「くっくっく、 それでもあんたマスターなのかい? そうだねぇ、 いい機会だからレヴィナードの戦術を見せてあげるよ。
坊や達、 レヴィナード式を見せてやりな!!」
するとレヴィナードのエレメンツ部隊は向かって来るマシーナのレグに一斉に次々と突撃をし始めた。
その先頭のレグが接触すると閃光と共に大爆発が起こった。
リーベルトがロゼとシキの前へ行きシールドを張る。
海の底の底まで見える程の激しい爆風と衝撃に近くのグランベルクのレグは一瞬で消滅していった。
130機残っていたグランベルクのエレメンツ部隊はロゼ達を入れて40機まで減っていたのだった。
しばらくして辺りが落ち着いてくるとロゼが愚痴を零す。
「あの馬鹿達、 1人行けばいいものを何で全員で…これじゃただの無駄死にじゃないか〜。
役にたたない坊や達だねぇ」
「リーベルト、 こちらはあと何機残っている?」
「…俺達を入れても40程だ。
それも負傷している」
そういいながらリーベルトはその残りのレグ達のところへと飛んで行った。
「なんと言う破壊力だ…我々の攻撃した魔力を吸収した結果だろうが…。
とりあえず傷の手当をしなけれ…」
すると突然爆発音が辺りに響いた。
なんとリーベルトが負傷していたレグをまとめて破壊したのだ。
数百あったグランベルクの部隊はこれで0となった。
リーベルトは一切表情を変える事なくまたシキ達の所へ戻る。
その渇いた表情のリーベルトにシキは全身から鳥肌が立つ程の恐怖を感じていた。
「お、 お前…何をした……」
「何を? 見てわからないか?」
「あはははは。 いいよリーベルト!
やっぱり陛下の言った通りだねぇ、 あんたはマスターになる資格がある」
「この俺がマスター?」
「陛下はそう言っておられた。
心配しなくても実現しなかったらレヴィナードの次のマスターはあんただよリーベルト」
「俺はマスターなどに興味はない…」
「何でさ?」
「戦闘ができないからだ」
「あんた馬鹿だねぇ。
マスターになってあんたがルール変えりゃぁいい事だろう?」
「そんな事ができるのか?」
「あはは。 リーベルトにはもっと知識の勉強が必要のようだねぇ」
その後ろで2人の話に圧倒されているシキは冷や汗混じりに見物していた。
「(な、 なんなんだこの2人は…。
話しには聞いていたがまさかここまでとは…。
ロゼ、 そしてリーベルト、 味方ながら恐ろしい奴らだ……)」
3機のレグはバリオンに向けて飛んで行った。