episode 20 魔導の力
20話です。 今回は少し内容が濃くなってると思います。
大木の前へとやってきたアッシュ。
彼が無事に到着した事を確認したかの様に渦は消えて無くなった。
「さぁ着いたぞ、 俺は何をすればいい?」
(……)
「フュリン?」
(…なんや)
「あのなーお前が言ったんだろー」
(わかってるってちゃんと開いたるから〜
でもちょっとあんたに聞きたい事あるねん)
「先に開いてからだ。
歩きながらでも喋れる」
(わかったちょっと待ってて…)
そう一言残したままフュリンは黙ってしまった。数分するとアッシュに変化が起こり始める。
「あれ…? 何でだ?
俺暗号知ってる…」
(やっぱりな〜何か知らんけどあたいのオーブもあんたの身体に宿ってるみたいやわ)
「ちょっと…待てよ。
オーブは人の身体には1つしか宿らないはずだろ? 何で2つ宿ってるんだよ」
(それはあたいにもわからん…今あたいのオーブ繋いだからあたいの能力が使えるようになったやろ? よかったなぁ)
「バカッそんな事したらどうなるかわからないだろ〜! すぐに戻せ!」
(何か苦しいとかあるん?)
「……いや特に」
(ほ〜ら大丈夫大丈夫!)
「い・ま・はな!!」
(いいから早く開けてみぃーや!
それに早く救出してこいって言ってたやん)
仕方なくフュリンに言われるままに頭に浮かんでくるアクセスコードを呪文として念じ扉を形成する。
「おぉ! できた」
(あたいの力やで!!)
「はいはい…じゃ行くぞ」
そしてやっとリルティ達がいる世界へやってきたアッシュ。
1度は足を踏み入れているがやはりエルフの世界は美しくとても幻想的で見とれてしまう。
「やっぱ綺麗だよな…」
(エルフの世界ラミュンダへようこそ〜)
「ラミュンダって言うのか」
チリクへ向けてまた長い道程を歩き始めるアッシュ。
「なぁチリクだったか? 何で空にあるんだ?」
(ファントムから身を守る為かな…チリクだけじゃなくて他の村や街もみんな空にあるねん)
「ファントム? 何だよそれ」
(簡単に言えば魔物やな…)
「この前は遭遇しなかったけどな…」
(ここはファントムが出ない地域やから大丈夫大丈夫!)
チリクへの道はまだまだ
遠い。
アッシュはフュリンと会話をしながら巨大なきりかぶを目指し歩いていく。
他から見れば独り言を言ってる様に見えるアッシュ達の会話。 彼はフュリンが自分の中にいる事を次第に受け入れていった。
「そう言えば何か聞きたかったんだろ?
何だ? 言ってみろよ」
(ディウスは向こうの世界の住人なんやろ?)
「もう1人の俺がそう言ってたな」
(じゃあディウスは向こうの世界からこっち側へ来たと言う事やろ?)
「そういう事になるな」
(もし本当に来たんならかなり前からっちゅう事になるで)
「だよな…グランベルク帝国の皇帝がディウスになってから50年くらい経ってるらしいからな」
(そこであんたに質問や。 あんた歳いくつや)
「18…歳なんか聞いて何がわかるんだ?」
(まだわからへんのんかー
もう1人のあんたと見た目は全く同じやった。
と言う事はあっちのあんたも18前後って事や)
「それが何なんだよ」
(あほー、 おかしいやろー
どのぐらい前かは知らへんけど過去を見せられた時期のディウスはまだ向こうの世界におった。
記憶て事は当然あっちのアッシュもその場所にいた事になるやん)
「あの牢獄とかか?」
(そや! と言う事はやで、 その辺りの時期からこっちの世界にディウスが来たとして少なくても50年たってるから)
「もしその時期だったらあっちの世界のアッシュは68歳でないとおかしいわけか…」
(そーゆー事や!)
「それならディウスもおかしいだろ?
噂じゃ子供だって言うぜ」
(まぁあいつの事はともかくはっきりしてるのはあっちのあんたの事や不思議やろ?)
「あぁ俺と全く同じだったしな」
(エルフなら話しは別やけどあんたと同じただの人間や)
「じゃあ答えは1つだ」
(…なんや)
「俺は人間じゃないって事」
(あははは…何言うてんねんーどこを見ても人間…)
「だって俺の中にはエディルオーブが宿ってたんだぜ」
(エ、 エディルオーブぅー!!!!!!!!?)
フュリンがあまりにも急に大声で叫んだ為、 反射的に耳を塞ぐアッシュ。
しかし意味はない。 なぜならフュリンの声は外からではなくアッシュの脳に直接届いているからである。
「驚くのは勝手だけどな、 大声で叫ぶのはやめてくれ…おかげで頭が…あぁまだくらくらする…」
(ほ、 ほんまや…あんたの記憶にちゃんと残ってる…アーディルを持ってるって事は…あの伝説のヴァルファリエン…)
「アーディル? エディルオーブの事か…確かゼアもそう言ってた。
アーディルを抜き取られると死ぬみたいだなバラフェルアンは」
(ヴァルファリエンや!
いいかよく聞きやアッシュ)
「何だよ説教なら聞きたくないぜ」
(いいから聞け!
いいか、
ヴァルファリエンは最強にして究極の種族やと言われている。
アーディルは星そのものの運命を変えると言われている程、 超高密度のエネルギーの塊なんや。
その力を使えるのはヴァルファリエンだけや。
ほんでこっちの世界とあっちの世界を繋げたんも多分そのアーディルがあったからや……ディウスは人間でもエルフでもない…)
「ディウスは……
…ヴァルファリエンか!!」
−チリク−
ジーナの家
「アッシュ…」
「大丈夫じゃよリルティ。 アッシュはあちらの世界とやらに行ったんじゃ」
「うん…それにフュリンは元に戻れたんだし…よかったんだよね」
「…これからどうする。 一回マスターに報告した方がいいんじゃねぇか」
「そだね……通信オーブの準備するね」
「通信できんよ…ここはあんた達がいる次元とは別の世界じゃからの、 連絡するなら帰るしか方法はないんじゃよ」
「……じゃ、 帰るか」
「ちょっと待ちーやこのままアッシュを見捨てるんか? またあたいに入ってくるかもしれへんやろ?」
「いや、 俺様達は一度帰る。 向こうにこっちの様子を伝える義務もあるしな」
「………」
「フュリン、 よう頑張ったのう。 後でアレを好きなだけ飲んでいいぞ」
「うん…ありがとばぁちゃん」
「……いや…いいんじゃ………………。
……ではフュリン2人を第3ゲートまで送ってあげなさい」
「うん、 わかった」
「第3ゲート?」
「あんた達が入ってきた所じゃよ。 じゃあの気をつけてな」
「いろいろとご迷惑をかけましたぁ〜」
「ジェノよ、 お前さんは近いうちにまたわしを尋ねる事になるじゃろう…力を求めてな。
忘れるでない、 真実からは目を背ける事はできん」
「まだ言ってやがる」
「では失礼しまーす」
リルティとジェノそしてフュリンはディルウィンクエイスを目指して今チリクを発とうとしていた。
そして再びアッシュへ
「なぁ根本的な質問なんだけどな俺アーディルなくても生きてるぞ…
なんでだ?」
(マーディンに取り出してもらったんやろ?
問題はそこやなー、 もしあんたがヴァルファリエンならもう死んでてもおかしくないのに…
あんたは【特別】なんかもな)
「特別……というかヴァルファリエンじゃなかったりして」
(あははっかもな〜)
その時だった…。
急にアッシュの前方が少し揺らいだように見えた。
アッシュは気のせいだと思いそのまま進んだその瞬間。
いきなり何かが突進してきた。
アッシュは無防備なまま吹っ飛ばされてしまった。
「がはっ…う…ぐ」
(アッシュ! 大丈夫か!? …フ、 ファントムや! なんで…何でこんなとこにファントムが!?)
起き上がり体勢を立て直すもファントムどころか何も見当たらない。
「…いないぞ」
(スキャンするんや! 魔力の反応だけで居所を掴むしかない!)
スキャンを使い辺りを探るアッシュ。
魔力の流れが後方から伝わってくる。
「後ろかっ!!」
すぐさまアッシュは振り返り殴りかかった。
しかし…
「す、 すりぬけた…」
(アッシュ敵はもうそこにはおらんでーきぃつけや!!)
「どこ行った!?
うぐっ…ぐわぁー!」
なんとアッシュの攻撃はすりぬけるがファントムの攻撃はアッシュにダメージを与えている。
また後ろに回られて背後から物凄い衝撃がくる。
シールドで何とか防いでいるものの一方的にやられているアッシュ。
「く、 くそ…
スペルを使うしかないか」
(アッシュ! あかんスペルはあいつにはきかん!! 絶対使ったらあかんで!!)
「やってみないとわからないだろ!
開け 我が魔力の扉!
スパークボルトォォ!」
アッシュの掌から放たれた電撃が見事ファントムに命中する。
「ギャァァァ!!」
電撃がファントムの身体に絡まり姿が薄く見え出した。
「おいあの声聞いたか! 電撃が弱点らしいぜっ」
(あほ…よぉ見てみ…)
ため息ながらに言ったフュリンの言葉はすぐに理解できる事になった。
(潜在魔力がうんと上昇してんのわかるやろ…さっきのスペルを吸収してるんや……だから言ったのに…)
「も、 もっと早く言えよ! け、 けけ結構上がったな…」
(あほマヌケ〜!!結構どころじゃないやろ〜! さっきの2倍や2倍!!
殺される〜)
「よ、 よ〜しこうなったら一か八か…あれをやってやる!!」
(何する気やー! スペルならあかんからな!)
「う…うぉぉぉぉぉ〜!!!」
アッシュの身体全身から物凄い量の魔力が吹き出している。
(な、 何してんねや〜!! 何で魔力を捨ててるんや〜! おかしくなったんかー)
「い、 い…いからだ、 だ…まってろ…」
全体の半分程の量の魔力を放出するとアッシュはこう叫んだ。
「一か八かだ〜!!!
オォォバァァドライヴゥゥー!!!!!」
そのかけ声と共に吹き出した魔力を一気に吸収していくアッシュ。
吸収していくのと同時に全身を激しいスパークが何度も音を立てながら身体を包み込んだ。
そして青い光から燃える様な赤い光へと変わっていく。
(ア、 アッシュの潜在魔力がめっちゃ上がった…どういう事や…?
ただ放出して吸収しただけやろ…)
「うおらぁー!!」
物凄い速さでファントムに接近していく。
信じられない程の超スピードがかかったアッシュのパンチがファントムを捉えた。
「グギャッ!」
アッシュが攻撃した部分だけが姿を現した。
苦しみ悶えているファントムだったがまた姿を消して突進してきた。
「ギャァ!!!」
ファントムが向かって来ているのにも関わらずアッシュは立ち止まり構えを解いた。
(な、 何してるんや! 避けるかなんかしなやばいやろっ!
は、 早くシールドや! シールド張れー!)
「…いいからちゃんと見とけよ」
ファントムが側面から攻撃してきた。
しかしアッシュの身体に当たる寸前で突然シールドに覆われ攻撃を弾いた。
その衝撃で少し吹き飛んだファントム…すかさず次の攻撃に移る。
ファントムは全身が透明な為全長や形態などがアッシュには把握できていない、 どんな攻撃を仕掛けてくるかもわからない状況で彼は余裕の笑みを浮かべている。
そんな中、 ファントムは攻撃の手を休ませる事なく猛攻撃が続いている。
そのどの攻撃も当たる寸前でシールドによって全て弾いている。
彼は以前変わらずただ前を見て笑みを零しているだけである。
(シールドが勝手に発動してる…こんなん見た事ない…しかもダメージゼロや…な、 なんて頑丈なシールドや)
相手の攻撃が止んだ瞬間、 アッシュの笑みも止まりまた攻撃を再開した。
「おらおらおらぁぁ!!」
右、 左とテンポよく拳を打ち出しそれと共に速度も上げていく。ファントムの身体がアッシュの攻撃を受ける度に揺れ、 速さの余りファントムが徐々に宙へ浮かび上がっていっている。
「ギャッ…ギェッ…グギャ…ギャフ…」
(な、 なんかようわからんけど…も、 物凄い術やな〜! いける!!)
アッシュはファントムの首らしき所を掴み少しだけ上に浮かせると跳び上がりパンチ2連打と右足からの回し蹴りで吹っ飛ばした。 そして地面へとゆっくり降下していく途中で何やら呟き始めた。
(透明化がとけかかってる…アッシュちょっとあいつの近くに行ってくれへんかー? どんな姿なんか正体を見てみたいんや。
……って聞いてない)
「アドーラ・バ・シール・ラム・ア・デルス
ドラアドーレア・ラァム・アデールシス
第六天界の守護者レミアルよ 我が魂の導きに答え給え」
詠唱と共にアッシュは身体を縮込めながら宙に浮かび上がった。
物凄い量の魔力が彼の身体へと集まっていき同時に衝撃波が彼の身体から放たれている。
それはまるで呼吸しているかの様だ。
そして…
「アデルヴァーストラムッ!!!」
そのかけ声と共に一気に身体を広げるとアッシュの身体から無数の光の矢がファントム目掛けて飛んで行った。
(こ、 こここれって…もし…もしかしてスススーパースペル!?)
【オーバードライヴ】
一度魔力を外に放出して一気に吸収すると
自身のオーブに吸収した魔力の質を数倍に高める性質変化が起きる。
オーバードライヴはそれを利用した術であり、 成功すると魔力は勿論パワー・スピードを飛躍的に上昇させる事ができる。
放出する魔力の量も決まっていて最大の半分が必要であるが誰がやっても発動できるとは限らない。
魔力自体があまりにも低い場合同じ動作をしても何の効果も得られない。
オーバードライヴ発動中では扱えるスペルのランクが最大ランクになり詠唱無し(スーパースペルは詠唱しなければならない)で即座に放つ事ができる。
そして最大ランクのシールドとスキャンが自分の意思に関係無く自動的に作動する
しかし短所もあり
発動中は常に体力が低下していき、 発動している時間が長ければ長い程身体的にも問題が生じる。
まず手足、 身体の軽い痺れから始まり肉体の破壊が始まると共に理性までも同時に失われていく。 最終的には自身ではコントロールができなくなり記憶を失ってしまう。
理性が無くなる前に術を解除していき少しずつ瞬間的に使っていく事がこの術を有効に使える手段でもある。
【スーパースペル】
天界・魔界・神界などの非物質界から超エネルギーを使役して放つスペル。
呪文詠唱を用いる事で瞬間的にその場で魔力を作り出しそのままスペルに使用できる為魔力を消費する事はないが超エネルギーを身体に取り込む為に必要な体力と強固なシールド無ければ存在そのものが消えて無くなる恐れがある。
どんなスーパースペルでも大陸そのものを消す程の威力がある為に使用する時対象の周りにも自動的にシールドを形成する事になっている。
放たれた無数の光の矢はファントムに命中すると大爆発を起こした。
さらに第2第3と次々命中していく。
その度に大爆発が起きその破壊力は誰の目で見てもわかる程だった。
光の矢はまだまだファントムを目掛けて飛んで行っているがすでに対象が第1撃で消滅している為行き場を無くした矢どうしがぶつかりまた第爆発を起こす。
スーパースペルの自動シールドがなければ恐らくこの地域そのものが消えていたに違いない。
爆発が終わるとスーパースペルのシールドはスッと消えた。
(す、 すごい…
あは…あははアッシュあんたすごいわ〜)
「へへ……へ…」
ゆらゆらと頼りなくゆっくり落下していきアッシュはそのまま意識を失った。
(アッシュ! アッシュ!! アッシュ〜!!!)
数分後…
「う…ん…」
「アッシュ! 気ぃついたか」
「フュ、 フュ…リン…か?
あ…ぐっ…」
起き上がろうとしたアッシュだが全身に痺れと痛みが自身を縛りつけていた。 その効果は薄れていってはいるものの今も続いている。
そしてスーパースペルの超エネルギーについていけず身体の所々の骨が砕けていた。
「何でこんな無茶をしたんや…。 スーパースペルを使う前に術を解いてたらこんな事にはならへんかったのに…」
「ス…スーパースペル……? 何…があ…った?」
「…あんたまさか覚えてへんの? さっきの物凄い術とスーパースペルでファントムをやっつけた事やで?」
「……また記憶が飛んでたんだな…やっぱりまだ俺には無理と言う事か…。
なあ、 俺その術発動してから気を失うまでにどれくらい時間経ってたかわかるか?」
「…1分ぐらいかな…なんせあっというまやったからよく覚えてないけど、 とんでもない術や…どこで覚えたんやあんな術」
「1分か…最高記録突破だな…。
ん…あれか? マーディン様に教えてもらったんだけどな、 危険だから使用許可もらってからでないと使っちゃダメな術なんだ。 帰ったら怒られるなきっと…はは…あははは……うぐ…あ…」
「ちょっとほんまに大丈夫か!? 今は無理せんで少し休み」
「あ、 あぁ…そうさせてもらう…かな…」
そう言うとアッシュは気を失ったかの様に眠り出した。
その間にフュリンが何かを彼の記憶から探っているようだ。
(さっきのオーバードライヴとか言う術……今までいろんなエレメンツ見て来たけどあんな術は初めてや…アッシュ、 あんたマジでヴァルファリエンかもな……)
一方その頃…
リルティ達は透明な板に乗って巨大なきりかぶの前へと下降しているところだった。
きりかぶの上にすっと止まると木の色に変色した。
先程からジェノが何かを感じ始めていた。
スキャンでじっと同じ方向を見つめていたが反応が消えると話し始めた。
「…おいリル、 さっきの反応気付いただろ?」
「う、 うん…地上に着いた瞬間に反応があった……誰だろ?」
「バカが! 忘れんじゃねぇよ。 この魔力はあいつのだ」
「あいつ…?
……アッシュだぁ!!!」
リルティは心遠眼で反応があった辺りを調べ始めた。
彼女の作った両手の中にはアッシュの眠っているところが映っていた。
「元に戻れたんだね〜でも何であんな所で寝てるの?」
首を傾げているリルティがジェノのサングラスに映る。 彼女の疑問に満ちた反応が気になって近づいてみた。
「どうした?」
「アッシュが寝そべってる」
「…何だそれ」
「だって本当なんだもん」
「行ってみればわかるやろ、 はよ行こ」
フュリンは背中の羽根を小刻みに動かしながら2人の間を通り過ぎて行ってしまった。
「フュリン待ってよぉ〜」
2人もその後を歩いて行った。
−とある異次元の世界−
研究施設らしき場所に人影が4つ…。
部屋の中は機械やコンピューターが幾つもあり大きな四角い物体に大きなパイプが部屋の中央のこれまた大きな細長いカプセルに繋がれている。
彼等は銀色の大きなカプセル状の箱を囲んでその中の何かを見ながら話をしていた。
ドアのような物が上にスライドしながらゆっくりと開いていく。 蒸気がドアの開く音と一緒に噴き出しその中には立ったまま眠っているといった状態の人がいた。
彼の頭上のライトが消えるとゆっくりと目を開けた。
「アッシュ! 大丈夫?」
「…あぁ、 何ともない」
「向こうの世界に行けたか? なぁ聞かせろよ、 どんなんだったんだ?」
「ゼアー、 まずアッシュの身体チェックしてからだよ」
「あ、 すまない…つい、 な」
「フィル?」
「わかってるよレリスもうチェックしてる! あと30秒程度で終わるから」
「それにしてもアッシュ貴方も無茶しますね。自分からアーディルを取り出してこんな事をするなんて…フィルがあと数秒遅れていたらどうなっていたか…彼の判断に感謝しなくてはいけませんよ」
銀色のカプセルから出ながら自分の指を何度も動かして感を取り戻してるアッシュ。
「うん、 オールクリア! 何も異常はないみたいだね」
「身体的には問題ないですよ…ただやはりアーディルが…」
レジェアもフィルの隣のディスプレイで何やら調べている。
透明なキーボードを両手で慣れた手つきで弾く。
彼女の目の前に青いプレートが現れそこにアッシュのアーディルや魔力などエネルギーについて文字が並んでいる。
「レジェアわかってる。 リスクを承知でやったんだ」
「一応教えてレジェア。 アッシュのアーディルはどんな状態なの?」
「彼のアーディルは半分しかエネルギーを発していません…無理もありません【アレ】を使ったんですからね…」
「普通あんな事したら死んでるよアッシュ。 まぁ僕とレジェアの細かな計算と実験で何とかアーディルを半分失う形で止まらせたんだからね」
「あぁ。 わかってる感謝してるって! それに予想通りアーディル半分で済んだんだ、 成功だろ」
「だからあっちの世界には俺が行くって言ったんだぜ? おめぇはアーディル削っちまってもし何かあったらおめぇには…」
「もうわかったわかった。 心配してくれてありがとなゼア」
「で、 どうだった? 向こうのアッシュに伝えた?」
「あぁそれが、 半分もまだ伝え切れてないんだ…」
「何だと!? じゃあおめぇは何の為に…」
「装置が充電次第今度は僕が行くよ」
「フィル〜、 そりゃねぇぜー俺が次行くんだからよ」
「だってゼアちゃんと伝えれる?」
「時間も限られてる…ですしね」
「…へっ、 わぁったよじゃあ俺は見張りでもしとけって事だな」
ゼアは不機嫌そうに部屋を出て行った。
一同溜め息をつくとアッシュが切り出した。
「さっき俺が向こうに行ってる間に接続に割り込んだ奴がいただろ?」
「うん。 今調べてるとこだけど…きっとあいつらだよ」
レリスがフィルに近づいて覗き込んだ。 数字の列がディスプレイ全体に並んでいた。
「向こうのアッシュに記憶を送ってる時からずっとこのコードが割り込んでる……うん、 それそれ」
「かなり前からみたいだよ……」
「どのくらい前?」
「う〜ん……正確な日数を出すにはまだ時間がかかる…ね」
「レジェアの方はどうだ?」
「そのコードの持ち主はアッシュが接続した時に向こうの住人の中に入ってる可能性がありますね……まだこちらには戻った形跡は見られません。
このオーブの波形からすると……恐らくガルのようですね」
「ガ、 ガル!? あの6大魔導の一人のか!?」
「そのよう…ですね」
そして再びアッシュへ…
(それにしてもすんごい治癒能力やな…あんた全身の骨が砕けててんで!? 寝ただけで回復するなんて信じられへん…)
「自分でも信じられないよ。 マーディン様の修業の時にも気を失ったんだけどな、 その時も起きたら傷が回復してたんだ」
(……ヴァルファリエンってな、 戦闘能力だけじゃなくて高い治癒能力もあったらしいで。
あんた、 本格的にヴァルファリエンかもな)
一休みを終え体力を取り戻したアッシュはまたチリクへ向けて歩き出したところだった。
数キロ先にはあのきりかぶが少し顔を出していた。
そしてリルティ達もすぐそこまで来ていた。
フュリンがその事に気付いたのだが少し不思議そうにアッシュに話しかけた。
「アッシュ、 スキャンしてみて」
「な、 何だまたファントムか?」
「いいから」
言われるままに辺りをスキャンし始めたアッシュ。
「ちゃうちゃう、 もっと先や、 向こうらへん、 魔力の反応見てみ」
「……リルティ達だ!! こっちに向かって来てるじゃないかー!
手間が省けたなぁ」
「アッシュ、 先頭の奴をスキャンしてみ」
「先頭?
……誰だ? この波形の魔力は」
「誰かわからんけどばぁちゃんじゃない事は確かや」
「チリクのエルフじゃないのか? 道を案内してるとか…」
(いやあんな形の魔力はチリクにはおらん…
ていうかあんな魔力見た事もない。 帝国の奴らかもしらんで!)
「…でもリルティもジェノも魔力の波形が乱れてないし、 あのジェノが穏やかな波形を保ってるんだから敵じゃないって事は確かだな」
フュリンと会話している間にもリルティ達との距離はだんだんと近づいていっている。
目で人とわかるぐらいの所までくるとまたフュリンが不思議そうに話し出した。
「な、 なぁアッシュ、 あれってアタイとちゃう?」
「……お、 おい…ど、 どうなってるんだ?」
「ア、 アタイが聞きたいわ! あんたは自分の体に戻ってアタイは今あんたと一緒におる…」
「じゃあ…あのフュリンは誰…だ?」
不思議に思いながらも歩みは止める事はなくむしろ謎を確かめたい気持ちが歩みを早めている。
リルティがアッシュを呼びながら手を振っているのを目で確認できる距離まで来ると謎はさらに深海の奥深くまで落ちて行った。
明らかにフュリンがアッシュの目に映っている。
「アッシュ、 しばらくアタイの事は言わんといて」
「あぁ…わかった」
そしてリルティ達と合流した。
「アッシュ〜! 元に戻れたんだねぇ!!」
「リルティ、 ジェノ! 迷惑かけて悪かった」
「そんな事よりてめぇ何しに来たんだ」
「もうジェノ〜何であんたはいつもそんなツンツンしてるのぉ」
「2人を迎えに来たんだよ。 俺が無事に戻ったって伝えにな」
「ほんとよかった〜! 一時はどーなるかと思ったんだから〜
フュリンもこの通り!」
「アタイも一時はどうなるかと思ったんやから
戻れてよかったわぁ」
「…………」
「…どうしたの? アッシュ」
「いや……なんでもない」
(アタイになりきってるで… 怪しいな)
「じゃあハウスに向かってしゅっぱーつ」
リルティが足を踏み出そうとした時、 アッシュがそれを止めた。
「どうしたの?」
「お前誰だ」
「誰ってアタイはフュリ…」
「フュリンじゃないのはわかってるんだ! 目的は何だ」
「ちょ、 ちょっとアッシュ急にどうしたの?」
「どういう事か説明しろ」
「簡単だ。 本物のフュリンはここにいるんだからな」
(あほっ! まだ早いって)
そう言って自分の頭を指すアッシュだがいきなりの思いもよらない話にリルティとジェノは理解する事ができないでいた。
「ふっ、 意味がわかんねぇよ。 てめぇの頭ん中にいるんならここの羽女は何なんだよ」
「アッシュ、 どうしちゃったの?」
「あははは、 あんた元に戻る時頭おかしくなったんとちゃう?
いくら小さくても頭の中はさすがに無理やろ〜」
「…どう言えばいいんだ?」
(…ん? こいつもしかして…)
「とりあえずワープドアへ行こうよーそれも含めてマスターに報告しよ」
「おい! ちょ、 ちょっと待て」
(アッシュいいからワープドアまで行って)
「…何だよ何かわかったのか?」
(へへへ、 まぁなぁ)
ワープドアへ向かう事にしたアッシュ。
フュリンには何か考えがあるのか、 期待しつつも歩きながら自分なりにどう説明するか悩んでいた。
そして今目の前にいるフュリン…。
偽者なのはわかっている…しかし一体何者なのか…
何の為にこんな事をしているのか深く考えながら来た道をまた戻って行く。
20分程度の時間を費やし辿り着いたアッシュ達。
アッシュは頭にもう一度聞いてみる事にした。
「さぁ、 着いたぞ。 でどうするんだ?」
「え? どうするって?」
(とりあえずワープドア通って向こうに行ってからや! 偽者も連れて行かなアカンで)
「あ、 あぁ独り言だよ」
「そ、 そう」
「じゃあアタイはここまでやな。 じゃあ気ぃつけてな〜」
「待てよフュリン」
「ん? 何やアッシュ」
「あんたも一緒に来てくれ」
「寂しいんか〜わかるでぇ… でもアタイも寂しいんやから」
「俺様はてめぇの面なんか二度と見たくねぇよ…」
「じゃあせめてここを通って向こうまでついて来てくれよ、 それならいいだろ?」
「ア、 アッシュ…なんか……変だよ」
「もーしゃあないなぁ〜」
(よしかかった! やるやんアッシュ!!)
うまく連れ出す事に成功したアッシュだがどうやって正体を見破るのか…
ワープドアを出て元の世界へやってきたアッシュ達。
さっそく頭の中のフュリンから詳細を聞かされる。
「ほんまにここまでや。 これ以上離れるとばぁちゃんに怒られるし、 アタイも帰られへんくなるから」
「うん。 ありがとねフュリン」
フュリンが振り返ろうとした時だった。
「待てよ」
「アッシュ、 気持ちはわかるけどでも…」
「10…987…4」
突然アッシュがカウントを数え始めた。
「アッシュ?」
「3…2…1…
0…」
すると開いていたワープドアの渦が縮小していき消えて無くなった。
それを確認してまたアッシュの顔を見るリルティ、 ジェノそして偽者のフュリン。
「これでお前が偽者かどうかがわかるな」
「…アッシュまだそんな事言ってるの〜?
フュリンは偽者なんかじゃな…」
「…ワープドア開いてみろよフュリン」
「………」
「おい、 説明しろよ」
「フュリンにはワープドアを扱える能力があるんだ。 何でかはわからないが俺が戻った時からこの中にいる。 声も聞こえるしな。
それでフュリンのオーブも今俺の中にあるんだ」
「………」
「お前はワープドアは使えない。 さっき言ってたよなぁ? 帰られなくなるって、 おかしいだろ?フュリンはこの森には詳しいんだからなぁ!」
「…おい、 言われた通りやってみろ」
「………」
「どうしたの? フュリン……」
「……くっくっく」
突然フュリンの声色が変わった。
その変化に驚いたリルティはすぐに距離を取った。
(何者や!)
「やっぱりな」
フュリンの姿がみるみると変わっていく。
「すごい魔力だよ…」
(ちょっとアタイの身体がぁ…)
「もうお前の身体は完全に俺のものだ。 戻る事はできない、 くっくっくっく」
(!? アタイの声が聞こえてる…)
小さな身体がアッシュ達と変わらない大きさに変化し、 形が整っていく。
そして今、 アッシュ達の目の前に真の姿が現れた。
「てめぇ、 なにもんだ」
銀色の短髪に両耳には紫の水晶が入ったピアス。
そして漆黒のローブに身を包んだ男が立っていた。
爬虫類を思わせる様な瞳が少しアッシュ達を威圧している。
「いいだろう死ぬ前に教えてやる。
俺は6大魔導の一人…
名はガル」
「6大魔導?」
「ディウスの…帝国の手先か?」
「帝国? くっくっく
いーや違う、 だがディウスは俺達の仲間だ。 あいつも6大魔導の一人だからな」
「なに!?」
「ふんっ、 なにが6大魔導だ。 気持ちわりぃ目しやがって」
「さぁ、 死んでもらおうか」
「目的はなんだ!」
「目的か? …くっくっく、 俺がすんなりとバラすとでも思ったか?
お前達はここで死ぬんだ。
何を知っても意味がないんだよ!!」
ガルはいきなりリルティに向かって行った。
「リルティー!」
アッシュとジェノが側面から挟んだ状態でガルに突進していく。
しかしガルは残像を残して消えていた。 アッシュとジェノは足でブレーキをかけ、 2人共空に目を向ける。
「どこだ!?」
そうアッシュが声を発した瞬間、
ガルはアッシュの背後にいた。
「後ろだ!!!」
「!?」
「遅い!」
ガルは軽く掌をアッシュに当てると嘘の様に吹き飛ばされていくた。
木や枝に衝突すると地面に落ちた。
何本かの木が倒れ砂埃が舞う。
「このやろうっ!!!」
ジェノがガルに殴りかかった…がまたもや残像だけを残し消えた。
「ちっ、 また消えやがった」
周りを見渡してガルを探すジェノ。 スキャンは常に発動している。
手に魔力を集めフォースエッジを精製するとリルティと距離を取った。
「リル、 多分大丈夫だろうがあいつを見てこい」
「わかったぁ!」
リルティがアッシュに向かう時だった。
リルティの頭上には光弾が迫っていた。
ジェノがそれにいち早く気付くと
「開け! 我が魔力の扉ぁ!!
エアサァァァクル!」
ジェノのスペルは光弾に向かって行ったが接触した瞬間光弾に吸収されてしまった。
「な、 なんだと!?」
「ジェノー!!!」
リルティは光弾の爆発に巻き込まれてしまった。
辺りを爆風が包みジェノはリルティの名前を叫んではみるものの…返事はない。
煙りが生存の有無を遮っているその中を無我夢中で走って行った。
そこには焼け焦げた無惨な彼女の姿が地面にあった。
すぐさま駆け寄り息を確かめに行くジェノ。
ガルはいつのまにかジェノの背後に現れた。
「想像以上に弱い…今も軽く放ったんだからな。 くっくっく」
「て…てて…て…めぇ!!」
「いくら叫ぼうがこの強さの差は何も変わらん」
魔力をフォースエッジに送りさらなる強化を行いながらガルに向かって行った。
両手で持ち勢いよく振りかぶった。
しかし…
「また消えやがった! くそっ!!」
また辺りを見渡すジェノ。
すると少し離れた所から声がした。
「お前達には消えた様に見えているみたいだが俺はただ避けたに過ぎんのだ」
「オォォラアックス!!!」
ガルが視界に入ると同時に技を放つジェノ。
光る2つの手斧が回転しながらガルへと向かって行く。
風を切って勢いが増していくオーラアックスはまたもや残像をすり抜けて行った。
しかしジェノはまだ何かあるかの様な表情をしている。
そしてガルは技を放った所からまた離れた所に立っていた。
「何をどうあがいても無駄だ…お前は死ぬ」
「(ホーミング!)」
なんとジェノは先程のオーラアックスに機能追加を行った。
本来はスペルにしか追加されない技術だがジェノはとっさの判断でフォースエッジで試してみた。
「(頼む! 追尾しろ)」
願いが届いたのかジェノの放ったオーラアックスがさらに勢いを増して帰ってきた。
それを確認すると
両手をクロスして頭の少し上にもってくると魔力を集め始めた。
魔力で作られた風が彼の周りを取り巻いている。
「開け! 我が魔力の扉!!
スラァッシュウィンド!!!」
腕を振り下ろすと周りの風が密度を高め十字を切ってガルに向かって行った。
「くっくっくっばかめ。 そんな離れた場所から狙っても避けられるに決まってるだろ」
ガルはまた消えたのだが…
「あそこかっ!」
オーラアックスが敵を追尾している為、 ガルの移動した場所をある程度予測する事に成功した。
ジェノはそこへ全速力でダッシュし、 殴りかかろうと拳に力を込める。
ガルが姿を現した直後ジェノのパンチがガルの顔面を直撃した。
「な!? あがっ…」
「そらそらそらぁ!!」
何度もガルの顔面にパンチを繰り出し両手の掌を腹に当てたのを確認するとジェノはなぜか距離を置いた。
そう、 ガルの背後にはオーラアックスが迫っていたのだ。
ジェノが退いたのとほぼ同じにオーラアックスがガルに命中する。
だがジェノはまだ何かやろうとしている。
それは先程放ったスペルだった。
じつはスラッシュウィンドにも機能追加しており
こちらには軌道を自在に操作できるリモートを追加していたのだ。
意識を集中してまたガルに目掛けて向かって行く。
それもジェノの思惑通り見事に命中した。
オーラアックスとスペルの相乗効果により鋭い刃物の様な竜巻がガルの全身を切り付ける
風はまだまだ勢いを増していく。
「ぐあぁぁー!!」
「はぁ…はぁ…はぁ…
ゆ、 油断したな!
シールドを張ってないのは予想外だったが…
お、 俺様を怒らせるからこ、 こうなるんだ バ、 バカが」
風がおさまり血だらけのガルを確認したジェノ。
「少しはやるようだな…。
だが…」
ガルが魔力を込めると傷ついていた身体がみるみる回復していく。
「な、 なんだと!? ヒーリングじゃない… 何をしたんだ…」
「これが…魔導の力だ」
「(……あいつ傷だけじゃなく体力までも全快している…くそ…)」
「俺は不死身だ…」
「(だが逆に俺様の魔力は既に尽きかけている。 どうする…)」
「どうした? もう終わりか?
もっと俺を楽しませろよ」
「くっ…」
ローブについた砂を払いながらゆっくりとジェノの方へ歩いて行く。
「(こんな…こんなにも差があるなんて…)」
「どうやって殺そうか? そうだなあの女のようにこいつで死ぬか?
くっくっくっ」
ガルは片手をジェノに向けた。
掌に光の粒が集まっていき大きな光が形成されていく。
「くっくっくっく大丈夫だ、 一瞬で死ねる」
「こ…ここ…までか」
「さようならだ…
ジェノ・クラヴィス」
そしてジェノの目の前まで来たガルはジェノの顔に手を向け、 今放たれようとしていた。
そんな時、 ガルの背後から電撃が飛んで来た。
命中するがたいしてダメージはない。
「まだ生きていたか…
アッシュ……バーナム」