episode 1 決意
−辺境の村ミスト−
「(なんだ、 夢か……ぐっ…か…らだ…が…)」
全身に激痛が走る。
体は火傷を負い、 動けなくなっていた。
焼けた土の臭いと灰色の空に響く悲鳴、 数メートル先には村の人間が倒れているが
見る影もない。 それはまるで朽ち果てた石像の様だった。
「…む、村が…な、 何がどうなってるんだ!?」
燃え上がった家屋の中から、 人が飛び出そうとしている。
「あ、 あぶないっ!!!」
「う、 うわぁ〜!!」
アッシュの声は虚しく響いただけだった。
家屋の柱が崩れ下敷きになってしまった。
「く…くそぉ! 力が…入ら……ない」
相変わらずの痛みが走る身体にも慣れ、 ただその時を待つだけだった。
「お…俺も、 死ぬのか……」
人間は死に直面した時、 走馬灯の様に過去の出来事が映像として流れてくると言う。
目を閉じると楽になれる気がしたが同時に[死]と言う恐怖が瞼を持ち上げる。
「うぐっ…ぐ…」
懸命に力を振り絞り、 体勢を変えた。 仰向けになっても彼の瞳には灰色の空が映るだけ。
それに時々降ってくる火の粉が体に当たっているにも関わらず痛みを感じないのか、
表情を変えない。 薄れ行く意識の中、 人の声が微かに聞こえ始める。
「おいしっかりしろ! おいっ!! 大丈夫か!?」
足音が近づいてくる。 抱き抱えられたアッシュは眠る様に気を失った。
―翌朝―
鳥のさえずりと日の光が白いカーテンの隙間から流れ
そこに柔らかな風が彼の頬を軽く撫でる。
アッシュの瞼がゆっくりと開いていく。
「……ここは…?
俺は…助かったのか…」
そしてふと自分の体を確かめた。
体のどこを触っても傷や火傷の痕が
残っていない。
考えているとしばらくして扉の開く音と共に誰かが入って来た。
「お、 目が覚めたんだな」
「あんたが俺を助けてくれたのか?」
「まあな。 俺はディックだ、 よろしくな! ディックって呼んでくれて構わねぇぜ!」
「あぁ、 よろしくディック…」
「んで、 ここはお前の村の近くのテリスの街の宿屋だ。 えっと、 お前は……」
アッシュは自分の名前をまさに今、 口にするところだったのだが……。
「アッシュ・バーナム、 18才でミスト村出身。 長男で2人兄弟あとは……
う〜ん…ここまでしか覚えてねぇや」
「!? ど、 どうして俺の名前を!?」
アッシュの瞳をしばらく見つめると溜め息混じりにこう言った。
「まっ、 そうなるわな……何でって言われると話せば長くなるが…」
さらにアッシュは問いかける。
昨日自分の村で何があったのか……。
彼の頭の中に村が業火に包まれていく人間の姿が何度も再生されていた。
「なぁ、 何があったか教えてくれ!!
俺の村に一体何が起きたんだよ!?」
「…村は何者かに襲われていた形跡があった、 家は焼かれ村人は殺されていた。
生き残りがいないか探していたら、 お前を見つけたんだよ」
ディックの肩を両手で捕まえたアッシュは揺さぶりながら声を枯らす。
「母さんやミリアもか? ……殺されたって言うのか!?」
「……わからねぇ、 ただやった奴はもうわかってる。 あいつらが…やったんだ…!」
アッシュはそのままゆっくりと座り込んだ。
「……誰なんだよ、 俺の村を襲った奴らって」
「それ聞いてどうすんだよお前……」
アッシュは立ち上がると右手に握り拳を作りそこに母親や妹のミリア、
村の人々を思い浮かべた。
「村のみんなの……仇を討つんだ!!」
「やめとけ……今のお前に何ができるってんだ無理だよ」
皮肉な笑みで軽くアッシュの言葉を投げ捨てる。
「それにお前1人でか? みすみす死にに行く様なもんだな」
「く…くそぉ…!」
握り拳を力いっぱい投げ捨てた。 瞳に軽く涙を浮かべているアッシュ。
「心配すんな。 仇は取ってやる! 俺が、 いや俺達エレメンツが必ずなっ!!」
ディックは両腕を組んで自慢げに話す。 ある言葉に引っかかったアッシュは……。
「エレ…メンツ……?」
「なんだぁー? お前、 まさかエレメンツ知らねぇの!?」
大きく開いた目をアッシュに向けるディック組んでいた両腕もほどけてしまう。
そしてそれに戸惑いながらも頷き返事を返すアッシュ。
「まじでか!? エレメンツ知らねぇってお前の村相当やべぇな……っていうか
今までどうやって村守って来れたんだよ!?」
そして気を取り直して話し始めた。
「いいか? エレメンツってのは……
正義の味方ってつぅか……う〜ん…」
うまく説明できないのか考え込んでしまった。
胸に固く結び直した両腕がさらに彼の記憶のパズルを難解にしていた。
「どう言やいいのかなー。 エレメンツって言うのは……」
「世界に巣くう魔物を……倒す為に作られた組織の事でしょ」
扉に目を向けるとそこにはかなりムッとした表情の女性が腰に手を当てて
怒りをあらわにしている。
「お、 どしたティナ」
「どうしたじゃないわよ! いつまで待たせんのよあんたは!」
「いやぁ、 わりぃわりぃ…」
「……彼が、 例のターゲット?」
「お、 おうアッシュだ。 アッシュ、 こいつはティナだ」
「よろしくね……アッシュ」
時間に追われているせいなのか、 どこか冷たさが残る挨拶をするティナ。
「いろいろと質問があるでしょうけど、 とりあえず急がないと……じゃあいくわよ」
「行くって……どこへ?」
「ディック、 あんた言ってないの!?」
笑ってごまかすディック、 彼女に言い訳を零し逃れようとしてアッシュを使う。
「それがこいつの質問攻めに合ってよーこれはアッシュが悪いっ! うん」
と、 アッシュに指差すがそれでもディックの方をじっと見続けるティナ
彼の言い訳を見抜いているのかしばらく彼の目を黙視し続けていた。
「……まあいいわ。 アッシュ理由は移動しながらでも話すわ。
とりあえずここを出るわよ」
街の東門の入り口へとむかった。 アッシュは久し振りに日の光を浴びたかの様な顔をする。
空を見上げると雲一つない。 ただ青い空と眩しい太陽がアッシュの瞳に映る。
ティナが少し先を歩き次にディックが続く。 アッシュもその後を付いて行く。
「(あの2人は俺をどこに連れて行くんだろう……?)」
「おい、 ちょっとまてよティナ」
ディックが驚いた表情でティナの歩みを止める。 その声に軽い溜息を吐いた。
めんどくさそうに振り返るティナ。
「まさか、 歩きで行くつもりじゃねぇだろうな?」
「仕方ないでしょ……敵に見つからないように目的地に着く為なんだから」
「何考えてんだよお前! 歩きだとこっから3日ぐらいかかるんだぜ!?」
「だから言ってるんでしょ、 さっきから急がないとって!」
どうしても徒歩が嫌なのか辺りを キョロキョロ と見渡すディック。
彼は何かを探しているようだ。 その結果ある看板に目を止めた。
「じゃあ、 あそこで馬車調達しようぜ? それなら早く着くだろ?
こう言う時はやっぱ馬車に限るぜ、 なっ、 アッシュ!」
「…え? あ、 あぁ……」
「……あんた今、 いくら持ってる?」
「ん? ちょっと待てよ……」
するとディックはいきなり座り込み財布の中の有り金を全部地面に出し始めた。
それを呆れた様子で見つめるアッシュとティナ。
2人はその行動にしばらく付き合う事となる。
「…5…6……9、 全部で1000Gだな…
借りるには大体2500だから1500足りねぇ…
ティナに1500出してもら……」
「あら、 じゃあ無理ね…」
「な、 なんで無理なんだよ…。 1500Gぐらいあんだろ?」
「あぁあたし、 お金持ってきてないもん」
「金持ってきて……えぇ〜!! ウソだろ? まさか最初から俺に全額出させる気だったのか〜!?」
ティナは溜息を一息つくと……
「はいはい…後でちゃんと返します。
ていうか、 全部ってあんたに宿代だけしか払ってもらってないんだけど!」
2人の言い争いをただ見ているだけのアッシュだったがようやく口を開く。
「なぁ、 そろそろ出発しなくていいのか?」
その言葉にはっと我に返るティナ。 何故か彼女は頬を赤らめる。
「そ、 そうだったわ…急がないと……。
このまま東に行くと、 【ラジュ】って言う小さな村があるわ。
まずはそこを目指すわよ!」
アッシュ、ディック、そしてティナは東を目指す事となった。
突如、アッシュの目の前に現れたディックとティナ。
2人はエレメンツと呼ばれる戦士だという。
ではエレメンツとは一体何なのか、アッシュは2人に尋ねてみることにした。
「なぁ、あんた達の……エレ…?」
「エレメンツだ、 …どうした?」
「あぁ、 なんなんだ?」
「何って言われてもなぁ……」
「それにさっきから気になってたんだけど、 あんた達武器持ってないよな?」
「エレメンツは基本、武器や防具は身につけないの。
少しでも身軽に素早く行動できるためにね」
「じゃあ、 どうやって戦うんだよ」
「こいつで戦うんだよ!」
そういうとディックは握り拳をアッシュに見せた。
素手なんかで魔物なんかと対等に戦えるはずはないアッシュは全く信じなかった。
しかしその疑問はすぐに解決された。
「ディック! 奴らよ!!」
いつの間にか3人は敵に取り囲まれていた。 黄金の鎧と大きな大剣を構え詰め寄る。
ディックとティナはアッシュを挟んで戦闘態勢に入った。
「ちっ、 やっぱうろちょろしてやがったか! 1…2…全部で6人か……」
「ディック、 こいつらが村を…?」
「あぁ、 グランベルク帝国兵さん達だ」
「こい…つら…が母さんやミリアを……」
心の底から怒りが込み上げてくる。
体内部から全体に震えが伝わり、 彼の怒りが眉を釣り上がらせる。
「いいかアッシュ、 俺からはなれ……っておいっ!」
ディックの話も聞かずに敵に向かっていった。
「うわぁぁぁぁ!!!」
「無茶だ! やめろぉ!!」
アッシュが繰り出した怒りを込めたパンチは間違いなく帝国兵の一人を捉えた。
しかしダメージを与えるどころか眉ひとつ動かしていなかった。
アッシュがそれに気づいた時は、 反撃を受けた瞬間だった。
その間僅か2秒足らず…
一撃で吹っ飛ばされたアッシュの元にティナが駆け付ける。
「アッシュ!! …あぁ、 凄い傷……(肋骨が砕けてる!!?)
大丈夫っ! すぐに治療してあげるから!」
すると、 掌から淡い水色の光が現れその手をアッシュの胸に当てる。
そしてティナはこう叫んだ。 光は次第に大きく輝きを放つ。
「開け! 我が魔力の扉!!
ヒーリング!」
光はアッシュを包んでいき傷が癒えていく。
だが、 帝国兵達も黙って見ている程寛大ではなかった。
ティナの背後に帝国兵が忍び寄っていた。
「死ねぇぇぇ!!!」
「やべぇ!」
ディックがその危機に向かおうとするも残りの兵がそれを止める。
囲まれてしまったディック。
「くっ、 ちくしょう……」
そしてまさに今、 帝国兵の攻撃がティナに直撃する瞬間だった。
ティナの体は薄い光の膜に覆われていた。
「シールド!? まさか貴様……!?」
「正解! 気づくの遅いわよ帝国兵さん……やぁぁ!」
そう言うと猛スピードで相手の背後を取り強烈な蹴りを放つ。
ティナが放った蹴りは風の音と共に鎧を切り裂いた。
物凄い勢いで帝国兵がアッシュの上を飛び越していく。
「よ、 鎧が砕けてる……す、 すごいこれが…エレメンツの力なのか……!?」
休む暇もなくすぐにディックの元へと向かうティナ。
だがティナの助けは必要はなかった。
ディックを囲む5人の帝国兵達同時に大きな剣を振り下ろし攻撃を仕掛けてきた。
囲まれていた為、 逃げ道を失っている状態に嫌な予感を感じたアッシュが彼に向かって
必死で叫んでいた。 …しかし振り下ろされた先には誰もいなかった。
「開け! 我が魔力の扉!!」
するとどこからか彼の声が聞こえて来た。 その声に一斉に上を向く帝国兵達。
「後ろだ、 バーカ」
「な!?」
「バスターフレアッ!」
その掛け声と共に放たれた巨大な火球は帝国兵達を飲み込んでいった。
帝国兵全員が炎に包まれ踊っている。 しばらくすると兵士達は黒い灰となって
地面に落ちていた。
「…へへっ、 いっちょあがりっと!」
「な、 なんだ……い、 今のは……」
ティナがアッシュの元に引き返してきた。
「アッシュ! 大丈夫?」
「あ、 あぁ……」
「おーい、 大丈夫かー?」
遠い所からディックが声を出している。
アッシュはディックに向かって手を軽くあげて無事を伝えた。
「今……あいつ何したんだ?」
「あれは【スペル】と言って、 …まぁ、 一種の超能力のようなものね」
「ティナが使ったものもか?」
「そうよ! ただあたしが使ってたのは回復スペルってやつだけどね。」
「回復…スペル……」
「傷を治したり、 毒や麻痺を治したりできる術と言った方がいいかな」
「でもよ、 やっぱ帝国兵の奴ら待ち伏せてやがったな」
「そうね。 でも相手がエレメンツじゃ無かった事が不幸中の幸いってやつね」
自分が何もできなかった事に深く落ち込むアッシュ。
握り拳を作り、 それにおもいっきり力を込める。
「(何にもできなかった……仇討ち? ふっ…それどころかあの帝国兵に
ダメージを与える事さえもできなかった……こんな事で本当に村の仇が討てるのか?
俺にもあの2人の様な力があれば……)」
「今の戦いでもしかしたら気づかれたかもしれねぇし…
急いだ方がいいな」
ディックとティナが歩み出そうとした時だった。
「待ってくれ!!」
その歩みを止めたのは他でもない、 アッシュだった。
その表情は何かを決意した様に見える。 そして2人もその変化に気づいていた。
ディックが二ヤリと、 うっすら笑みを浮かべていた・・・
おかしなところがあったら修正していきます
その為セリフや文章が多少変更するかもですが
そのへんはご了承ください。