episode 17 苦手なもの
今回はかなり時間を置きました。
…別に時間をかけたからと言って特に何も変わってないですけどね(苦笑)
しばらくはこんな感じで更新していきたいとおもうのでよろしくお願いします。
誤字脱字も多分大丈夫だと……思います。
」
3人の目の前に現れたジーナと言うエルフ。 老人と呼ぶにはかなり違和感があった。
顔にシワなどは一切なく殻を剥いた卵の様な肌をしている。 マーディンが言った【高齢】とは無縁であったが
若い容姿から発せられた言葉は明らかに老人を思わせる口調だった。
しかしそれとは逆に声は水の様に澄んでいて美しい。
「…帰りが遅いから皆心配してたんじゃぞ。 どこをほっつき歩いとったんじゃまったく」
そうアッシュに向かって話しかけるジーナ。 だが目線が合ってもアッシュは答えようとはしなかった。
何故自分に向けて言葉を放っているのか…ジーナが名前を呼ぶまでは完全に忘れていた。
「フュリン、 どうしたんじゃ、 何故答えんのじゃ?」
「(…………そうだった……。 今の俺の姿は……)」
「あの…ジーナさん、 少しお話しなければいけない事があるんです」
フュリンの身に何が起きているか自分の推測をジーナに話した。
目を閉じてリルティの話に耳を傾けていたジーナは話を全て聞き終えると
瞳をじっと見つめ始めた。 だが彼女が見ているのはフュリンではなく
その奥にいるアッシュだった。 まるで仮面の中を覗き込んでいるかの様に…
ジーナの瞳は他のエルフとは違っていた。 薄い黄緑の瞳の中には蛇の様な物が ぐるぐる とその中を
回っている。 ジーナが集中して彼を見ると中のそれは早く回転していく。
その状況をすぐ目の前で見ているアッシュはその瞳に口を閉ざしたまま見入ってしまっていた。
しばらくするとジーナは深く溜息をつき3人にこう告げるのだった。
そして再び瞼を閉じて重い口調で切り出した。
「確かに…フュリンの中に別の意識が入っておる。 フュリンの意識は今眠っておるが
早くなんとかせんと消えてしまう…」
「消える!? 消えるってどう言う事ですか!?」
「……アッシュ…じゃったか? 今はアッシュが支配しておる。 しかしその間にも
フュリンの意識は少しずつじゃが小さくなっていってるのじゃよ…
それとは反対にアッシュの意識は大きくなってきておる。 これがどういう事かわかるか?」
「……つまり羽女の意識が消えると死ぬと言う事か…?」
「…そうじゃ。 だがそれだけじゃない…フュリンの意識が消えればこの身体の主はアッシュに変わる事になる。
もしそうなれば二度と元の体には戻れん…」
もう二度と戻れない…その言葉だけがアッシュの心に深く突き刺さる。
そしてそれは同時にフュリンを殺す事にもなる。 この事を全く知らないフュリンを
自分が何もしなくても死に追いやっているその事実に何も考えられなかった。
そしてそれを見抜いていたジーナが彼にこう話しかけた。
「じゃが… フュリンを助ける方法はある」
「ほ、 ほんとですか!? なら今すぐやって下さい!!
早くしないと消えてしまうんでしょ!? ジーナさん早く!!」
アッシュはジーナの肩を両手で掴み揺さぶって声を枯らす。
何で早く行動に移さないのか…少し苛立ちながらもジーナの答えを待つ。
しかしこの一言で彼女が何故ためらっていたか理解できた。
「それは…アッシュ、 あんたの意識を小さくして消す事じゃ…」
「な!?」
希望の先に待っていた絶望。
フュリンを助けるには自分が消えて無くならなければならないと言うこの状況に
次第に力が抜け腰が砕けて地面に崩れ落ちるアッシュ。
心臓の音が激しく脈打ちアッシュの耳元で囁き始める。 その音はさらに大きくなっていく。
それは彼に選択という2文字の言葉を迫っているようにも見えた。
それもすぐに決めなければならない…
何度も自分に問いかけ、 ここで死んで終わりたくないと言う諦めきれない思いと…
罪もない者を殺してしまうと言う罪悪感…
決心したはずの答えを再び問いかける。 それの繰り返しだった。
今まで悩んできた出来事がちっぽけだと思えるほど、 終わりがない悩みだった。
俯いているアッシュの肩にそっと目を落とすリルティ
今の彼の思っている事、 考えている事はここにいる誰もが手に取るようにわかる。
そして誰もがこう聞くだろう……
「そ、 そんな……2人とも助かる方法は無いんですか!?」
目を潤わせて今にも零れ落ちそうな涙を堪えながら彼女に問いかけたリルティ。
ジーナは普通のエルフとは違う…きっと何か方法を知っているとそう心の隅から引張り寄せる。
しかしジーナの表情はとてもその期待に応えてくれそうもなかった。
ゆっくりと首を横に2度振ったっきり黙り込んでしまった。
「フュリンの意識が完全に消えるまでまだ5日間ある。 そのあいだは大丈夫じゃ
……それにここでこうしていても何も変わらん。 とりあえずついて来なさい」
大木の前で3人にそう告げると木に向かって何やら小声で口ずさんでいるジーナ。
彼女の声に答えるかの様に大木は輝きだした。
そして渦が完成ずるとジーナは3人をその渦の中に招き入れる。
ディルウィンクエイスにもワープドアと呼ばれる同じ様な物が存在している為渦の中に入る事に
抵抗は感じなかった。 しかしその渦の先には3人は今まで見た事もない景色が広がっていた。
「…きれい……」
「こんな景色今まで見た事ないな……
初めてディルウィンクエイスの街を見た時よりもすごい」
「な、 なんだあれは……」
まず3人が目に留まったのは空の色だった。 淡いピンクやオレンジ色が混ざった空に虹がすぐ近くの
地面から空に向かって曲線を描きながら伸びている。 そしてその地面までもが普通のそれとは違っていた。
辺り一面草が生い茂っているが草の色形が変わっていて、 普通の草の様にまっすぐ空に向かって伸びている物もあれば草の先に丸い綿の様な白い物体が付いているものや螺旋状になっているもの
花の中からシャボン玉のような丸い物体を ふわり と浮かせているものなど
まるで御伽話の世界の様な所だった。
虹は触れる事が可能なようで、 これは好奇心旺盛なリルティが示してくれた。
まず触れた瞬間は固いガラスの質感だった、 これは彼女の想像通りだったが
次第に暖かく柔らかくなっていき、 撫でている内に…
「あっ! と、 溶け…ちゃったのかな…?」
彼女が触れた所だけ溶けて無くなっていた。 だがしばらくするとまた元通りになった。
不思議に思いながらも ペタペタ と触っては溶かしてまた戻るまで待機と何回も繰り返して遊んだ後
満足した様子でまたジーナの元へ戻って行った。
彼女がその場を去ったのを確認してその虹に意外な人物が感触を確かめに近づいて来た。
同じように手を当てて撫でながら確かめている。
「(す、 すげぇぞ…。 虹ってこんな感じだったのか…)」
何とも言えない感触に何度も繰り返してはそれを不思議がって見ている。
サングラスに虹が溶けまた戻っていく様が何度も再生されている。
「ジェノ〜、 何やってんのぉー! 早く来なよぉ〜!」
その声に ビクッ と体が反応すると素早く手をポケットに突っ込みその場所から遠ざかって
興味も無い花や草に目を向けながら進んでいく。 そしてその前にはリルティが足を止めて彼の進路を塞いでいる。
軽く笑みを見せて待ち構えていたそれを見たジェノはすぐに悟った。 カムフラージュは通用しなかったと…
そればかりかジェノのカムフラージュがリルティに疑問の念を作り出させる引き金となり、
そしてそれは質問攻めと言う形になって放たれた。 決して逃れる事のできない質問攻めに…
彼女がサングラスの中の瞳を見通す程の眼力で覗いてきた。 反射的にそれを横へ受け流す。
「ねっ、 虹触ったでしょ?」
「…触ってねぇよ」
「うそぉだってあの辺りにいたじゃん」
「…………」
「触ったんでしょ? 感触どんなだった?」
「……」
「ジェノ〜」
「…」
「ねぇ、 どん……」 「あぁ〜うぜぇんだよてめぇ!!」
「…で、 どんな感じだった?」
ジェノが黙ってようが煙たがっていようがどんどん洪水の様に流れてくる彼女の言葉。
その流れについにジェノは 触った とそれだけを彼女に告げた。
その一言を聞くとリルティはにこっと微笑みを置いてアッシュとジーナの元へスキップしていった。
彼の黒いレンズに満足げに駆けているリルティの背中が映る。
3日間連続で修行する事もあるジェノだが彼女の質問攻めの方が体力を消耗するようだ。
これからはリルティが近くにいる場合はやめておこうと心にそう決めたのだった。
しかしこれはほんの序章に過ぎなかった。
そうこうしてる内に歩きだしてから30分が過ぎようとしていた。
3人は見た事も無い珍しい物に目を奪われながらもジーナの後を付いて行く。
頭上には七色に鈍く光を帯びた虹が空に向かって伸び、 そしてそれはピンクの雲を突き抜けてさらに遥か向こうの雲から顔を出して地面に落ちている。
長さ大きさは違うがその様な虹がいくつも空に向かって伸びていた。 3人は歩きながらも
その景色を首が痛くなるまで目に焼き付けていた。
透明な橋を渡ってさらに進んでいくジーナとアッシュ達3人。 そしてようやくジーナが口を開いた。
「ほら、 あそこが我が村【チリク】じゃ」
と誇らしげにジーナは言っていたがアッシュ達の目の前に現れたのは巨大な切り株状の物体が
1つずっしりとそびえ立っているだけで誰がどう見ても村と呼べる感じではなかった。
その周りはと言うと珍しい植物などでいっぱいだったがそれだけだった。
3人は巨大なその物体を見て回った。 だがどこを見てもその中に入る扉が見当たらない。
アッシュがじろじろと物体を確かめながら見ているその横から話かけて来た。
「あたし、 なんとなくわかっちゃった」
「わかったって、 何が?」
「この中の入り方だよ! きっとさっきみたいに念じるとこの中へ入れるんだよ!」
「この中に……村がか?」
「アッシュ〜、 忘れた? イマジンルームって部屋
前に特殊空間と繋いで草原でシールドの訓練したじゃん」
「あぁ覚えてるよ…じゃあこの中もそうなってるのか?」
「それに似た感じじゃないかなって。 全く同じじゃないだろうけど…
ねっ? ジーナさん」
自信満々にジーナに言った。 それを聞いてにっこりと頬笑むと切り株の前に立ち手を軽く当てた。
「ほらほら〜! ね? やっぱりあたしが言った通りじゃ〜ん」
「さわぐな。 バカが」
すると彼女の手から切り株全体に青い光が流れ始め満たされていく。
そして輝きが落ち着いてくると切り株から空に向かって細い光が放たれた。
しばらくするとピンクの雲を割って何かがこちらに向かってきた。
「おい、 なんか来るぞ…でもなんなんだ……よく見えない」
「へっ、 リル、 どうやらはずれ…らしいぜ!」
「…そんな嬉しそうに言わなくてもいいじゃん」
ゆっくりとそれは切り株の上に止まり、 そしてまたゆっくりと降下して行った。
切り株から少し浮いている状態を保ったまま静止した巨大な皿状の物体。
驚く事にそれは透明だったが徐々に切り株の色に変わっていった。
それと同時にジーナの前にまた透明なものが伸びて来た。 地面に着くと変色し始め草の色に変わり
千切れた板状の物体は階段となった。
「さぁあれに乗っとくれ」
「乗るって……あの板みたいなやつにですかぁ?」
3人は言われるがままにその階段を上っていく。 1つ1つが板の様に独立して浮いている階段。
一番後ろのジェノが踏み終えると1段1段スッと消えてなくなっていく。
そして全員が巨大な板の上に乗ると空へと上昇していく。 青く光っていた切り株はアッシュ達
が離れると光は少しずつ消えていく。 そしてそれと共に皆が立っているこの板も透明に戻っていった。
ゆっくりと上昇していく中、 リルティだけが顔を青ざめて固まっていた。
近くにいるジーナの服を少し遠慮気味に摘んで透けている床から下を覗いた。
「た、 た、 たかい…よぉ〜」
「…てめぇさっき思いっきり飛んでたじゃねぇか」
「あ、 あれは一瞬じゃ〜ん……そ、 それにスペルだから、 お、 落ちるかどうかって
わ、 わかるでしょ? こう言うのはいつ落ちるかなんて わ、 わかんないじゃん…」
「リルティ、 高い所苦手…なんだな。 その気持ちわかるよ……
誰にだって苦手な物ってあるんだな……」
「てめぇの苦手な物ってなんだよ」
「お、おおおまえそれ聞いてど、 どうするんだよ…」
「そんなに動揺してる所を見ると相当らしいな。 くっくっく」
「さぁ、 着いたよ。」
透明な板がスピードを徐々に落とし始めた。 空にあったピンクの雲が今は足元に見える。
そして音もなく止まると板は床となった。 アッシュ達は透明な四角い部屋の中にいた。
どうやらこの板は下からここへ運ぶ為の言わばエレベーターみたいなものだったのだ。
しかし扉などは一切見当たらない。 3人は透明な壁を触りながら扉を探す。
…いや扉を探すというよりは外の様子を伺っているといった方がいい。
ノアやディアナを前に見ているとはいえこれほど多くのエルフを目の当たりにするとやはり見入ってしまう。
歩いたり話したりと人間と何ら変わりない普通の行動をただ物珍しく見ている3人。
どこか違和感があった。 それはエルフでは無く景色そのものに…
歩いている道が全て透明なので彼等の目には空を歩いているように映って見えていた。
錯覚とわかっていても少し不思議な光景だった。
ジーナが壁の前に立つと前の壁がスッと消えてそこから外へ出た。
あれだけアッシュ達が近づいても何の反応も無かった壁がジーナなら反応を見せる。
これらはエルフだけにしか反応しないのだろうか。
全員が通り終えると壁はまた元通りに戻る。
「ここが…【チリク】じゃ。 …さぁ、 一先ずはワシの家に、 こっちじゃ」
そう一言話すとまた歩き出した。 3人もその後を歩いてついて行くが段々と距離が離れていってしまう。
それは彼女が早いのではなくアッシュ達の足が遅い為だ。
「どこ見てもエルフばっかだねぇ…」
「エルフの村なんだから当たり前だろ」
「でもここって村って感じじゃないよな」
「……あれ見ろよ」
すれ違うエルフ達にも興味が沸いたがやはり周りの景色に目がいってしまう。
そしてジェノが指差した近くにあった噴水の様なもの、
勢いよく水が噴出しているが実は遥か下から吸い上げられているのだ。
透明なのでその様子が目で容易に確認でき、 それに釘付けになる3人。
しかし途中でピンクの雲で隠れてそれ以上下は見えなかった。
「何しとるんじゃ〜、 早よ来い」
3人はその声にハッと気づきジーナの元へ駆け寄る。
今歩いている道にベンチ、 街灯そして建物までもが全てガラスの様に透明だった。
しかしこんなにも人がいるのに何故か家らしきものが見当たらなかった。
ジーナは確かに自分の家に向かうと話していた…。 でもどこを見てもその様な建物はない。
人が数名入れる程の細長い煙突状の建物がいくつかあるだけだった。
まさかこれが【家】とでも言うのだろうか……
ジーナはその中の一つの細い建物に向かって行く。
わかりやすく3人の反応は一緒だった。 皆これが家なのかと目で会話している。
先にジーナが入るとアッシュ達もそれに続くのだが…
「あぁこれは2人ずつしか入れん。 後の2人はワシらが行ってから入ってくれ」
そう言ってアッシュとその中に入ると、 光と共に消えた。
「消え…ちゃった……」
「後で来いってどうすりゃいいんだよ」
「…とりあえず入ってみよっか」
2人はジーナ達と同じように中に入った。
「あれ……? 何も起きない」
「ちっ、 あのババアろくな説明もせずに行きやがって!!」
「ババアって…。 ジーナさんすごい若いじゃん、 話し方は年寄りくさいけど…
あたしが見た限りでは、 20…いや30代前半かな……うん!」
中から辺りの壁を叩き始めたジェノだがいくら叩いても何も変わらない。 時間だけがどんどん過ぎて行った。
「こう言うのって合言葉とかがいるのかなぁ」
「あいつらの時は何も言ってなかったぜ…一瞬だったからわかんねぇけど」
「う〜ん……なんだろなぁ〜」
こめかみに人差指を突き立て グイグイ とねじりながらひらめくのを待つリルティ。
深く考えるとそれに比例して口が歪み、 眉間に皺を寄せる。
その結果彼女の脳裏にある言葉が浮かび上がった。
「ワープするのだぁ〜!!」
『…………』
「…………そんなのが合言葉な訳ねぇだろうが」
「…やっぱりダメかぁ……。
行け! 進め! 飛べぇ! 消えて!! 消えなさい!! …消えろぉ!!」
この調子でどんどん思いつく限りをぶちまけていくリルティに溜息を零しながらそれに付き合うジェノ。
いくら叫んでも何の反応もない事に次第に疲れ息を切らす。 その場に腰を下ろし顔を手で覆って
暗闇を作る。 どうやら飽きてきた様子のリルティ。
「ジェノ〜、 パス〜」
「お、 俺様がそんな事するか!!」
「…いいのぉ? じゃぁずっとここでこうしてるんだね」
「……ちっ。 …わあったよ! 言やぁいいんだろうが!」
しばらく黙りこんで合言葉らしき言葉を捜し出すジェノ。 過ぎゆく時間とは裏腹に
いつまで経ってもこれと言った言葉が見つからない。
その悩んでいるジェノに見上げながらリルティがアドバイスをかけた。
「難しく考えないでさぁ、 好きな言葉とかでいいじゃん とりあえず何か言ってみなよ」
「好きな…言葉……」
そのアドバイスが効いたのか彼女の話を聞いてすぐに浮かんだ言葉があった。
「……修行」
「……」
「……」
やはりリルティと同じく何の反応も返ってこない。
「……しゅ、 修行……って……くすくす…あっはっはっは!
そ〜んなんじゃ無理に決まってるじゃ〜ん。 ジェノやる気あんのぉ?」
「て、 てめぇが好きな言葉って言ったからだろうが!! バ、 バカが…」
そう言いながらリルティに怒鳴り散らすジェノ。 彼の顔はガンガンに沸騰したヤカンの様に
赤く染まっていた。
「さ、 もう1度チャレンジチャレンジ!」
「ま、 まだやるのか!?」
「当たり前じゃん。 だってそれ以外に方法ある〜?」
「ならてめぇがやれよ!」
「ダメだよ〜、 あたしはさっき散々試したんだからもうなんもでて来ないよ」
「知るか!! 俺様はもうやらねぇ、 てめぇ1人で勝手にやってろ」
「ふんふん、 そっかー……なら仕方ないね……」
ジェノに背を向けて立ち上がると前髪をいじり出したリルティ。
前髪を引張って枝毛を探しながら彼にこう呟いた。
「じゃぁマスターに報告するかぁ、 ジェノ・クラヴィス任務を放棄しました〜って…」
「な、 なんだと!?」
そう言ってリルティがジェノの方を振り向いた時、 彼の瞳には確かに映っていた。
彼女の頭から2本の角と腰から尻尾が生えていた事を……。
途中で罵声の1つや2つぶつけてやろうかと喉に準備していたが、
【任務】と言う言葉を口に出されるとそれ以上何も言えなくなってしまう。
こいつは悪魔かと心からそう思った。 この瞬間、 自分の唯一苦手なものとして深く刻まれる事となる。 そして事はマリオネットの様に彼女に操られながら進んでいく。
「忘れたのぉ? あたし達は任務でここまで来たって事をさぁ」
「くっ……(お、 俺様がこんな女に……)」
しばらくすると向こうの方から消えたはずのジーナらしきエルフが姿を現した。
「ねぇ…あれって……ジーナ…さんだよね」
「あぁ? どこだよ……。 な、 なんでだ? さっきここからあいつと消えただろ…」
近づいてくる毎にはっきりと確認できた。 間違いなくジーナだった。
「…やはりワープできていなかったか…。 いやぁすまんの〜説明するのを忘れとった」
「ほらみろ。 やっぱりババアじゃねぇか…」
「でもどこから…」
ジーナは近くにあるこれと同じような建物を指差して2人に説明をした。
どうやらこれはワープシェルターと呼ばれるもので自分の家の番号を頭に思い浮かべるだけで
どこのシェルターからでも出入りする事ができるらしい。
「おい、 何が合言葉だ…バカが」
「てへへ…」
「3人なら、 ぎりでいけるじゃろう……」
そしてようやく2人もジーナの家へ移動する事ができたのだった…