episode 16 再会
この話はしばらく続きそうです。
個人的には早く終わらせて次に行きたいんですけど・・・
12月1日、 また新しい月になりました。
今月もエターナルサーガをよろしくお願いします。
では、 どうぞ…
「ほら、 この先や」
リルティとジェノはフュリンの案内で森のさらに奥へと足を踏み入れていた。
フュリンの右手にはリルティが腰にぶら下げていたあの小瓶
それを グイグイ と中の液体を飲んでは口を拭き、 ゆらゆら と浮遊しながら
2人の前を飛んでいる。
「ほんとに渡してもよかったのかな……」
「…………」
「ジェノぉ〜」
「俺様に聞くなっ! てめぇが勝手にしたんだろうが!」
「勝手にって…フュリンが持ってっちゃったんだもん……」
「これでもしうまくいかなかったらてめぇのせいだからな!」
「そ、 そんな〜」
先を見ると吊り橋があり橋の周りは大きな滝が下に向かって落ちている。
滝の流れる音が最初は耳障りだったが次第に心地よくなって行く。
リルティは橋を渡る前に両手を広げて深呼吸した。
「う〜ん、 気持ちいいねぇ」
ジェノはその横を無言で通り過ぎる。
「…あっ、 ちょっと待ってよぉ〜」
風が通り抜けただけでも揺れるその吊り橋をゆっくりと渡っていくリルティ。
ジェノはもう半分を過ぎていた。 フュリンはもう向こうに着いている。
1人取り残された感じがしたリルティは少しペースを上げるのだが・・・
「きゃぁ〜! 揺れてるぅぅぅ〜! ……も、 もう……無理…」
風で橋が揺れてリルティは横のロープに掴んだまま動けない状態になっていた。
そんな事にお構いなしのジェノはどんどん距離を離していく。
滝の音で聞こえないが微かに助けを求めている声がジェノの耳に届く
「ん? …何してんだあいつ」
「…た…て…よ……うご……よ」
「あぁ? そんなとっからじゃ聞こえねぇよ!!」
リルティは大声でジェノを呼ぶがいくら耳のいいジェノでも滝の音とこれほど遠い距離では
聞こえなくて当然である。 それでも必死で声を枯らすリルティだがようやくその事を理解し
自分でなんとかする事を決意した。
「でもどうしよ……戻ってから考えよ」
来た道をまた戻り始めたリルティはロープを掴んで揺れている橋を少しづつ歩いて行く。
地面を両足が踏みしめると心から落ち着きを取り戻すリルティ…
一先ず地面にへたれこんだ。 するとある事に気づいた。
「あ! あっちに行かないと意味ないじゃん〜
なんで戻ってんのぉ〜 もぅ、 あたしのバカバカバカバカぁ〜!!」
地面を楽器の様にリズムよく叩くリルティ、 何回かそうしてる間にある事に気づく。
「…そ、 そっか!! フュリンの様に飛んでけばいいんだぁ!
なぁーんだ、 なんでもっと早く気付かなかったんだろ…まいっか!」
リルティは両手を胸の前に持って行き魔力を集める。 そして詠唱を開始した。
「開け! 我が魔力の扉!! クイックフェザー!!」
両手を広げるとリルティの背中から光が伸びていく。 そしてその光が翼になるのだが…
「ティナさんの様な奇麗な翼にならない……やっぱりまだ無理かぁ」
背中の光は炎の様な形になって噴き出している。
これはまだリルティの魔力や経験が足りない為に起こった言わば未完成の状態。
本来はこの状態からティナの様な翼に変わっていく。
ノア達との戦いの時にティナが披露して以来ずっとこのスペルの修行を続けてきたリルティ
今日が初披露となったのだが、 まだ完全には極めていないらしい…無理もない。
なぜならクイックフェザーと言うスペルは風属性のスペル…
雷属性の次に習得が困難なスペルなのだ。
さらに補助スペルは攻撃スペルよりも習得が難しい為彼女が使用しているこの時点で
普通のエレメンツよりもスペル技術が抜きん出ている。
やはりティナが発言した通り、 スペルの才能があるのかもしれない……
リルティは掛け声と共に浮かび上がった。 両足が地面から離れていく。
吹く風に身体が流されそうになるが、 魔力をコントロールして前へと進んでいく。
だが勢いよく翼に魔力を大量に流し込み過ぎた為、 物凄いスピードで飛んで行った。
あっという間に橋の半分を通り越し、 その速さにリルティもはしゃぐが
勢いはまだまだ止まらない、 そればかりかどんどん加速していく。
張り切り過ぎて魔力を大量に流し込んだ事をこの後、 後悔する事となる。
「…やっばぁ。 ど、 どどうやったら止まるのぉ〜」
数秒するとジェノの姿が見えたが、 当然の様に通り過ぎてしまった。
後ろを振り返りながらブレーキをかけるがもう遅い。
「ひぃえぇぇぇ〜!!」
「……なにやってんだ…あいつ」
迫ってくる木々に体を動かしてなんとか避けるリルティ。
額の汗を拭い溜息を吐いたのも束の間、 目の前に巨大な大木が彼女を待ち構えていた。
魔力を使って必死でブレーキをかけるが案の定大木と熱い口づけを交わす。
「こ、 こ…う言う…オチ…ね……」
その状態のままずり落ちて地面に転がった。
そこへ足音が近づいてきた。 フュリンとジェノだ。
「あんたすごいなー! あたいでもあんなに早くは飛ばれへんのに」
「……ったく、 バカが…」
フュリンの話によると今は見えないがこの大木の向こう側に小さな集落があり
その集落にジーナはいると言う。 だがそこまでの道と言う道が無い。
後ろは吊り橋があり周りは木々の集団、 そして目の前には大きな大木がある。
ジェノは足で歩ける所まで行ってみるが途中で崖になりずっと下には滝が流れてできた大きな滝壺がありそこに水が溜まってある、 この下は全てが湖の様になっていつのだ。
しかし霧のように真っ白で一番下を見通す事は困難であった。
そう、 吊り橋で渡って来たここは円錐の形をした一種の島の様な所だった。
しかしこの島は地面と切り離されていて島自体が浮いている。
そしてこの大木はこの島の中心にあった。
フュリンが言う大木の向こう側と言うのはいったいどう言う事なのだろうか……
一方その頃……
森の中を走る影が2つ。
それはアッシュとゼアだった、 グランベルクの牢獄から脱走を果たし今その近くの森を
全力疾走している所であった。 何故そんなにも全力で走っているのか……
それは後ろにグランベルクの兵士が7…9…12……いやもっといる。
しかもその中には騎馬隊の姿もあった。 ますます状況は悪くなっていく一方。
このままではまた捕まってしまうと思ったアッシュとゼアは二手に散ってやり過ごす事を決める。
ゼアの合図と共に二手に分かれた。 2人の思惑通り兵士達も分断される。
アッシュはただ道が続く限り足を止めない。
「はぁはぁはぁ……」
「あっちだ! 追えー!! なんとしても捕まえろー!!!」
アッシュの方に帝国兵が向かって来る。 足音を聞くとかなりの数を想像してしまい思わず
後ろを振り返って見てみるが、 彼のすぐ後ろには歩兵が5人だけだった。
しかしその足音の本当の正体は彼等ではなく、 そのまた後ろから追いかけて来ている騎馬隊のものだった。
アッシュの所までかなりの距離があるが騎馬隊と言う事を考えると安心できる距離ではない
「(くそ……何か足止めできるスペルはないか……)」
黄金色の帝国兵は皆大剣を構えアッシュに向かって来ている。
「(とりあえずこの後ろの奴らだけでもどうにかしないと……)」
走りながら両手を近づけスペルを放とうとしているアッシュ。
いつもの様に魔力を両手に集中しようとするのだが……
「あ…れ? 魔力が作り出せない……!?」
もう一度力を込めみても結果は変わらなかった。 まるでそんな力がなかったかの様に…
ただ力むだけで終わった。 後ろを振り返ると相変わらず最悪の事態は以前変わらず。
何故魔力が作り出せないのか、 今は深く考えない事にし、 ただ帝国兵から逃げる事だけに集中した。
後ろの兵士達も息を切らしペースが乱れてきている。 アッシュはその事を察知し全速力で走った。
徐々に帝国兵と距離がひらいてきたと思いきやその兵士達の後ろから騎馬隊がスピードを上げて
急激に迫って来た。 違う…アッシュのスタミナが切れてスピードが落ちたのだ。
しかし彼の瞳にはそう映って見えた。 そして騎馬隊の攻撃範囲に入ると一斉に攻撃を開始した。
魔力を作り出せないと言う事はシールドも使えないと言う事…
そんなアッシュの体目がけて無数の矢や槍が飛んできている。
そのいくつかは彼の腕や頬をかすって行ったが……
「!!? …が、 がはっ……」
自分の腹を見ると血に染まった矛が顔を出していた。
槍はアッシュの腹を貫通していたのだ。 よろけながらも彼は諦めず足を止めない。
しかしもう気力だけではどうする事もできない状況へと追い込まれていくアッシュ。
「…ち、 力…が…」
もうダメだ……とそう脳裏によぎった時、 死を覚悟したからなのか
ディックやティナ、 マーディンにクレイド、 リルティそれにジェノとの出来事が
彼の脳がもう一度思い出している。
「(ディック…ティナ……!! く…そ……
俺は、 こ、 こんな所で…こんな所で死ぬわけにはいかないんだぁぁぁ!!!)」
突然アッシュの目の前に小さな渦が現れた。 その渦は最初は透明だったが次第に大きくなり
その渦が磁石の様に彼を引き寄せる。
「な、 何だ!? ぐ…か、 か…らだが…う、 うわぁぁぁ〜!!!」
アッシュはその渦の中に吸い込まれてしまった…
そして彼を吸い込むとその渦は パッ と消えて無くなった。
後ろの追いかけている騎馬隊にしてみれば、 一瞬で目の前から消えた事になる。
もちろん驚きを隠せないでいた。
騎馬隊は足を止めるとアッシュが消えた周りを見回している。
「き、 消えた……」
「何を言ってる!? そんなはずないだろ! 絶対まだ近くにいるはずだ! 探せぇ!!」
アッシュの足取りを見失った騎馬隊は再び捜査を開始する。
砂埃を撒き散らしながらその場を去って行った。
彼等が去ったその地面には血の痕がはっきりと残っていた。
――北の森・奥地――
「それでフュリン、 どうやってその集落へ行くの?
……まさかここから飛び降りるとか…?」
「心配するなリル。 そんな事ぬかしたらこの俺様がすぐにぶっ殺してやるから」
「アホ! それやったらわざわざこんな高いとこまでは来たりせーへん!」
「もしかしたらここで俺様達を殺ろうと企んでるかも知れねぇぞ…
ノアとディアナの時もそうだっただろ? エルフは信用できねんだよ」
「企むだなんて…」
「リル、 てめぇは俺様とこの羽女とどっちを信用すんだよ!!」
「そ、 それは……」
「あんな〜、 あたいはエルフじゃなくて【フェアリー】や!! 見たらわかるやろ?
自分そんな黒いメガネかけてるからちゃんと見えへんのんとちゃうのん?
ちなみに言うとくけど、 あたいがもしあんたらを騙してるんならもうとっくに逃げてるわ」
「じゃあ教えてもらおうか、 この先に集落があるんだろ? 道はどこ行っても崖で終わりだ。
もしてめぇが言ってる事が本当ならここからどうやって行くんだ? あぁ?」
フュリンは無言のまま目の前の大木の前に降りた。 木に両手を当てると呪文の様なものを
ぶつぶつと唱え始めた。 リルティとジェノは後ろでその行動を見ている。
ジェノはサングラス越しに冷たい目線を送り続けているが、 リルティは胸を躍らせていた。
フュリンの両手から青白い光が スッ と大木の中に入って行く。 しばらくして巨大な大木が
青白い光で満たされるとその中心から小さな渦ができた。 大木全体に満たされた光が
その中心に向かって集まって行く。 それと共にその渦はどんどん広がって行った。
「ジェノ、 これってディルウィンクエイスのさぁ、 ワープドアに似てない?」
「…あぁ、 まあな……」
「ちょっと待っててな、 あと少しやから…
(あれ? おかしいな…もう繋がってもいいのに……)」
フュリンはそう言うとまた呪文を唱え始める。
渦が光り輝き、 やがてその光が落ち着いた時その渦の中にどこかの景色が流れ出した。
落ちてくる滝を覗いている様な感じで揺らいで見えているその向こうにある景色は
実際にそこへ行って肉眼で確かめたいと思うほど美しかった。
その渦の近くにいるためか、 磁石の様な力が身体に伝わってくる。
特に踏んばる程の力はいらないものの スルッ とその中に引き込まれそうな感じがするそれに
瞳を潤わせフュリンの合図を待つリルティ。
「よっしゃ、 ほな行こかー」
フュリンの顔がその渦に接触した瞬間だった……
「!? …………な、 なんや!!?」
突然フラッシュと共に景色が消えてしまった。 そして再び渦は光輝きだした。
「なんや!? どうなってるんやこれ〜!」
「それはこっちのセリフだバカが!! くっ!」
その渦から物凄い衝撃波が放たれ3人を襲う。 どうにか踏んばってはいるものの物凄い
突風の様な風が身体を徐々に仰け反らせていく。
「なにこれぇ〜! このままじゃみんな吹き飛ばされちゃうよ〜」
「まさかばぁちゃん……呪文変えたんかな」
「あぁー!? てめぇ今なんて言ったんだ〜!? 聞こえねぇよ!!!」
少しでも風の抵抗を無くす為、 皆体勢を低く構える。
そしてフュリンは大木に再び近づいてその渦を閉じようとしていた。
その時だった。 その光の渦から大きな衝撃が目の前のフュリンと衝突した。
同時に渦は消えていった。
「フュリン!! 大丈夫!?」
リルティが倒れているフュリンの元へと辿り着いた。
呼びかけても返事が返ってこない、 リルティはスキャンで調べてみるが異常は見当たらなかった。
「よかったぁ……。 気絶してるだけみたい」
2人はフュリンが目を覚ますまで少しその場に待機する事にした。
そして再びアッシュへ……
「(……う、 お、 俺は生きてるのか…? なんだこの音…)」
気がついたアッシュは目を開けた。 その瞬間、 滝の音が飛び込んできた。
彼はうつぶせの状態で倒れていた。 地面がぼやけて白く濁って見えている。
「痛みが無い……。 傷も消えている…」
頭がぼぉーっとしてる中、 こうなった事を記憶に問いかけてるアッシュ。
しばらくすると声が聞こえた。 柔らかい女性の声だがどこか聞き覚えのある声だった。
遠くの方からこちらに向かって何かを言っている。
声がする方へ体の向きを変え目で確認すると…
「リ、 リルティ!? なんでこんな所に……?」
……なんとその声はリルティだった。
そして、 離れてジェノの姿も見えた。
「よかったぁ、 大丈夫みたいだね!」
少し離れた所から笑顔を見せているリルティ、 ジェノは相変わらず無愛想に腕を組んでいる。
そんな2人を見て、 今この場所にいる自分に疑問の念を抱く。
それにさっきまでいた場所ではなく、 また知らない景色が彼の瞳の中に映っている。
「なぁ、 ここはどこなんだよ……。 俺はいったい……」
リルティに問いかけてみるものの返事が返ってこない。
彼女の顔を見ると目を丸くして自分を見ていた。 かなり驚いているようだ。
口を開いたままずっとアッシュを見ているリルティ。
「おい……(聞こえない距離じゃないのにどうしたんだ……?)」
…と少しずつ向かって来るリルティを何気なく見ている時だった。
何か様子がおかしい…。 それは彼女にではなく自分自身に。
アッシュは目を何度も擦って見るがその現象は変わらなかった。
彼女が近づいてくる度にさらに不思議に思った。
「な、 なぁ…リルティ、 どうなってるんだよこれ……
なんでそんなにでっかいんだ…? 目の錯覚か」
そしてその止めにリルティが衝撃的な言葉を言い放った。
「どうしちゃったの【フュリン】……
……急に男の子みたいな話し方に変わったりして」
「…………え?」
「ふっ、 さっきの衝撃で頭をやっちまったんじゃねぇのか」
「お、 おいリルティ…。 何言ってるんだ!? 俺だよ!」
「ほんとにどうしちゃったの?」
「ジェノ! お前も俺がわからないのか!?」
「あぁわかってるさ、 羽おん……おっと今は羽野郎か? くっくっくっく」
「2人ともどうしたんだよ!? 俺だよアッシュだよ!! 何がどうなってるんだよ……」
「え!? 今何て? どうしてアッシュの事知ってるの!?」
「知ってるも何も俺だよ! …まさかまた夢幻想なのか?」
「おいリル! てめぇこいつに喋ったのかよ!!」
「いやぁ、 一言も……」
「じゃぁ何でこいつがあいつの名前知ってんだよ!!?」
全員がパニックに陥っていた。 しばらく疑問を投げかけ合う3人。
そしてアッシュは驚愕の事実を知る事となった。
そのきっかけはジェノのこんな言葉から始まった。
「てめぇがアッシュだと? ふっ、 よく自分の姿を鏡で見てみるんだな。」
「それにぃ、 アッシュは多分……ハウスにいると思うし……」
何か自分の姿を映すものはないか…そう辺りを見渡すとあるものを発見する。
それはあの小瓶だった。 アッシュはその小瓶を手に取って見てみた。
中には液体が少し入っている。
しかしこの小瓶……中の液体は見た限り鼻を摘んでしまうくらい汚い色をしていたが
何故か気になってしまう。
自分の想像とは違う不思議な感覚のせいなのか意識がとろけそうになってくる。
生唾を飲んでただそれを見ていたアッシュは、 このどうしようもない誘惑に負け
ただ感じるがままに手を動かした。 気がつくと少し顔を近づけているアッシュ。
するといきなり我に返り小瓶を投げ捨てた、 自分が何をしていたのかに驚いたのではなく
なぜあの液体がこれほどまでにもそそるのか…その感情に少し恐怖さえ覚えた…
「……な、 なんだ…!? あの匂いを嗅いだ瞬間…何か変な気分になった…ぞ
お、 おい! あれなんなんだ!?」
とリルティ達に問いかけてみてもジェノと何かを ヒソヒソ と話していて彼の声は聞こえてはいなかった。
仕方なくアッシュは今あった出来事を忘れ、 再び自分を映す物はないかと辺りを探し回る。
そうしてる間になんとなく頭を掻こうと手をやった時だった。
いつもやっている動作に何か違和感を感じたアッシュは耳にゆっくりと触れた。
「え? え、 ちょ…これって、 俺の……耳が、 の、 伸びてる……!?」
何度も確かめるがやはり耳の感触に違和感があった。
それにさっきから聞こえてる滝の音も今考えれば不自然だった。 アッシュがいる位置から
滝まではかなり離れている、 が耳に届くその音からするとすぐ近くにいる事になる。
しかし現実、 滝とは距離がある。 その事実を今になって気づいたアッシュ。
それをきっかけに自分のありとあらゆる所を可能な限り触って確かめていく。
そうしてる間にリルティ達が大きくなったのではなく自分が縮んだと言う事もわかってきた。
だが、 一番驚いたのは……
「これってまさか!? ……は、 羽が…生えてる!!?」
「フュリン……まさかジェノの言った通りあたし達を騙してたの?」
「騙す!? おい、 ちょっと待ってくれ!! 何がなんだかわからないんだよ!
(ひるんってなんなんだ…?)」
「訳わかんねぇのはこっちだバーカ、 やっぱり俺の思った通りだったぜ」
「…じゃあ、 これならどうだ!?
ジェノ! お前は俺がマーディン様に気に入られている事が気に入らないんだったよな?
まぁお前が気に入らないのも無理ないよなー!!
候補生のテストを受けずに通ったのは特例中の特例だったんだから!」
「な、 なに!? なんでてめぇその事を……」
「まだ言って欲しいかー? そうだな…
クラスCに昇格する時に解いた暗号文……確か5時間かかったんだよな? その内容も全部言えるぜ?
まず出だしはおめでとうだ、 それで……
貴方達がこれを読んでいると言う事は解読に成功したと言う事。
ここまで協力し、 助け合ってきた事と思います。
今日をもって貴方達3人は候補生を卒業して正……」
「う、 うそぉ!? なんで知ってるの? あの時あそこにいたのはあたし達とマスター
だけだったのに……」
「どうなってやがるんだ!!?」
2人は顔を見合せてしばらく静止する。 そしてその間にもアッシュの演説は続いている。
話が終わるとさっきまでフュリンと認識して話してきた2人の脳裏にアッシュと言う人物が
上書きされ、 何らかの原因でフュリンがアッシュになったと言う前提で話が続く。
だがすぐにまた別の問題が生じてきた。
「でももし本当にアッシュだとしたら、 さっきの事と何か関係があるのかな…」
「俺様達は医務室であいつを見てるんだぞ!? それはどう説明すんだよ!!」
「わからないよぉ! とにかくマスターに報告しよ? マスターに確かめてもらおうよ!」
「……それしか方法はねぇ…な」
ジェノはアッシュに冷たい視線を送る。 リルティの言う通りもしこれが
本当にアッシュなのであれば、 アッシュは2人存在する事となる……
「よし、 飛ばして帰るぞ!」
「ジェノ、 何もハウスに帰らなくても方法はあるでしょ?
……通信オーブを飛ばすんだよぉ!!」
「そうか!! リル、 マスターに通信オーブ飛ばせ」
「りょうかぁ〜い!!」
リルティは両手を前に出して魔力を集めた。 念じると黄色い輝きを放ち始める。
そしてそれは両手の間で玉の形となった。
通信オーブは完成した、 だがそれをなかなか飛ばそうとはしないリルティ。
どうやら何かまた考え事をしているようだ。 両手の黄色いオーブを見つめているリルティ
思いにふけている彼女にジェノがすかさず声をかける。
「なにやってんだ、 早く飛ばせ」
「う、 うん……」
「…んだよ、 なんか問題でもあんのか?」
「なんかさぁあたしが通信オーブ使う時っていつもアッシュの事でじゃない?
不思議だなぁって思って……」
「てめぇまたそれかよ!?
そんな事は今考えても何も意味ねぇんだよバカが。 それより早く飛ばせ」
「……そだね! マスター・マーディン様の元へ……」
そう言って軽く息を吹きかけた。 するとリルティの手から離れゆっくりと空へ上昇すると
急激にスピードを上げて飛んで行った。
「やったぁぁ! 今度はちゃんと飛んでったぁ!! あたしやるじゃん」
いくら早く飛ばせたからと言ってもマーディンの元へ届くにはまだ時間がある。
その時間を利用して3人はこれまでの事を詳しくゆっくりと紐解いて行く事にした。
大木を背にして座っているアッシュ。 変わり果てた自分の姿に深い溜息をついた。
「(なんか……ここ最近、 俺こんな感じばっかりだよな…
ほんと今日こそ夢であって欲しいよ……)」
「ア…っシュ…?」
「…ん? なんだ……」
リルティが確認する様に彼に話しかけてきた、 それを溜息混じりに返事を返すアッシュ。
しかし彼女には目を合わせず、 ただじっと地面を見つめている。
「…なんだよ、 何か話したいんじゃないのか」
「うん…、 やっぱりアッシュだなぁって思って…」
「……そう言えば2人はこんなところで何してたんだ?」
「えっと……ジェノ、 何て言えばいい?」
「まんま言えばいいんじゃねぇの。 …てめぇは街のど真ん中で倒れて俺様達に運ばれたんだ
医務室にな。 それで目覚めるとてめぇは変な言葉を ベラベラ と喋り始めた」
「変な言葉ってなんだよ…」
「古代のエルフ語ってマスターは言ってたよ、 1000年も前の言葉をいきなり喋りだしたからみんなびっくりしちゃって」
「それでマスターがジーナと言うエルフを探してくるように俺様達に言ったんだ」
「ジェノ…それじゃアッシュに伝わらないよぉ…
あたしが説明するね!
さっきも言ったけど1000年前の言葉を話せる人間やエルフって多分世界中探しても
きっといないんだって、 でもマスターはジーナって言うエルフの事を思い出して
もしかしたら何か知ってるかもしれないって事になって…そのエルフはこの辺りに
住んでるみたいなんだ。 それであたしとジェノがその人を探しにここまで来たんだけどね……」
「なぁ、 さっきリルティ確か俺の事違う名前で呼んでたよな? なんだっけ? ヒュリだっけ…?」
「フュリンだよ、 う〜んとね、 実はここに来るまでにフュリンって妖精に会って
そのジーナってエルフのとこまで案内してもらってたの
そこの大きな木あるじゃん、 そこからワープドアみたいなのを開いてたらこんな事が
起こったの。 多分そこからアッシュが出て来たんだと思うんだけど…」
「これで少しは静かになったんだから、 くっくっくっ、 いいんじゃねぇの」
「もう、 ジェノったら……」
「……で、 てめぇはまた何も覚えてねぇのかよ」
アッシュは体験した事を自分が覚えている限り2人に打ち明けた。
始めは笑いを零してひやかしていたジェノも彼の話に集中していった。
自分が帝国兵から追いかけられてた事、 レリスやゼア達の事などを2人に話した。
「グランベルクの牢獄に……捕えられていただと……!?」
「……そのゼアって人と一緒に?」
「……あぁ」
「あそこの牢獄は脱走不可能だって噂で聞いた事あるけど、 どうやって逃げたの?」
「兵士が逃がしてくれたんだ。 確か……王の命令って言ってたけど……」
2人はグランベルク帝国の皇帝を思い出してみた。 アッシュとは違い候補生になる以前から
ディルウィンクエイスにいた2人は容易に想像できた。 と言うより普通に開けている街なら
誰もが知っている事である。
「あの野郎がそんな事するか? あれはどう見ても冷徹人間だぜ」
「そうか? 俺は優しい感じがしたけどな…」
「アッシュ、 誰かときっと間違ってるんだよ。 あいつがそんな事するはずないもん
平気で人の顔を踏みつけて行く様な奴なんだよあいつは!!」
「いや、 絶対間違ってない! だって王に俺会ってるんだ。」
「牢獄にぃ? 王様がぁ?」
「なんだよリルティ……信じてないのか」
「じゃぁさ、 なんでそんな所に来たの? 王様」
「え? ……なんだっけなぁ……」
記憶の扉を全て開けて、 片っ端からその出来事を探って調べていくアッシュ
「え〜と、 ゼアと話してたからあんまり覚えてないんだよなー
……そうだ! 確か確認したい事があるって言ってたな…」
「確認? なんだろう……」
「時間がなかったからなぁ、 ……そう言えば兵士が何か言ってたな…
奴が来る、 急いで下さい……だったっけ…?」
「奴? 奴って誰だよ」
「名前言ってたんだけど忘れたなぁ……」
するといきなりリルティは両手に魔力を集めて光の玉を作り出してそれを地面に放った。
光の玉は地面に落ちると水の様に柔らかく地面に浸透していく。
しばらくするとその辺りの地面が淡い黄色の光を放ち始めた。
「…何やってるんだリルティ」
「え? あ、 あぁこれ? さっき通信オーブ送ったじゃん、 もうそろそろ着くかなと
思って通信の準備をしてるんだぁ」
「それってさっきやっとかないとダメじゃないか」
「えへへへ……。 まだ時間があると思ってさぁ」
通信オーブでリアルタイムで連絡を取る場合、 オーブを相手に飛ばした後にこのような
光の床を作って相手が繋げるまで待たなければならない…。
例え通信オーブを相手に送っても、 この行動をしていなければ相手と連絡を取る事はできない。
「あ! すごい! ぴったしだぁ!!」
運よくリルティが通信の準備を終えた瞬間にマーディンに届き繋がったようだ。
「マスター! 報告がありますぅ!」
――はい。 なんでしょう――
光の中からマーディンが姿を現した。 彼女を囲むようにして3人は集まって見ている。
所々にノイズが走っている。
「あのー、 まだターゲットに接触していないんですけど、 そちらに
アッシュ……いてますよね」
――はい。 ちゃんとここにいます。 今は眠ってますけど――
「やっぱり……。 実はここにもアッシュがいてるんです」
――? それはどう言う事なのですか?――
「え〜とですね……」
リルティは今まで起こった事を詳しくマーディンに伝えた。
映像だがマーディンの驚く顔がしっかりと3人の目にも届く。
そしてその事実を知ったマーディンはしばらく沈黙を決めていた。
――わかりました。 ではティナを向かわせますのでしばらく待機していて下さい――
「わかりました。 …通信終わり!」
リルティの掛け声と共にマーディンの姿は光に戻り地面の光と消えて行った。
「わかったぁ? ティナさんが来るまで待機だって」
3人は再び話を再開した。
「…で、 思い出した? アッシュ」
「ダメだ、 思い出せない…」
「でも…なんで【ディウス】がそんな事したんだろうね。
絶対脱走なんか許さない感じなのに……」
「ディ…ウス……」
その言葉に引っかかったアッシュは再び記憶の中を探り出した。
牢獄に閉じ込められたあの時間に遡って…
(陛下、 お急ぎを…奴が…ディウスが帰って参ります)
(うむ……。 頃合いを見てこの2人を解放してやれ)
(仰せのままに)
(今は急ぐのでこれで失礼する)
「ディウス…。 そうだ、 思い出したディウスだ!!」
「ディウスがどうしたのアッシュ」
「ディウスが来るって兵士が言った言葉を思い出したんだよ!
間違いないディウスって言ってた」
「バカが! ディウスはグランベルクの皇帝だろうが! 何ボケてんだよてめぇは」
「皇帝? いや違う! 皇帝は目の前にいたんだ。 陛下ってその兵士も言ってたしな!」
「でもアッシュ…グランベルクの皇帝はディウスだよ。 それは世界中の誰もが知ってる事だから」
「リルティまで……俺を信じないのかよ!!? 確かに見たんだよこの目で!!」
アッシュは小さな体で必死に叫んだ。 声を枯らしてまでもその事を曲げなかった。
しかしいくら2人に説明しても理解してくれない…
2人の話は平行線を保ったままだった。
その時だった……
突然大木が輝きだした。 大木全体に光が行き届き中心に集まっていく。
3人は何が起こっているのか理解できずにただその光景を前に立ち尽くしていた。
そして集まった光が渦を作りそれがどんどん大きくなっていく。
激しい突風がアッシュ達を襲う。 皆足で踏ん張りながらも次に一体何が起こるのか
その瞬間を瞳に入れる為に吹き荒れる風に腕で壁を作る。
ジェノとリルティはいつも以上に目に力を入れた。 緑色に輝くその瞳で
光る渦の中を ギッ と睨み視線を送る。 そして……
「お、 おい!! 中から誰か出てくるぞーっ!」
「ジーナさんかなぁー!!」
「そうとは限らねぇ!! てめぇら油断すんなよー!!」
ジェノの叫びと共に戦闘態勢に入る3人。 アッシュはこの瞬間だけ自分の姿を忘れていた。
その渦から影が飛び出して来ると風も治まり渦も消えた。
辺りは静まり返っている。 滝は近くで今も流れ落ちているのにもかかわらず
音は3人の耳には届いていなかった。
『…………』
「外が騒がしいから出てみたが…お前さん達ここで何やっとるんじゃ?」
「あなた…、 ジーナ…さん?」
「……いかにも、 ワシがジーナじゃ」
ジェノとリルティは少し戸惑っていた。 その言葉は老人の様なのに見た目はかなり若い。
想像とは違うその容姿に2人は言葉が出なかった……