episode 15 真実に向かって…
episode 15 完成です。
始めに言っときますがまだ次まで引っ張る事となりました。 15で終わらせるつもりがあまり詰め込み過ぎると読んでくださっている人がしんどくなるのではないかと思い今回はこんなラストとなりました
誤字や脱字が最近目立っているので注意はしてるんですがもしあった時の為に先に謝っておきます
すいません・・・
では、 どうぞ!!!
「おねぇちゃんどうもありがと…」
「すいませんでした……もうほんと何て言ったらいいか…」
「買い物もいいですけど、 ちゃんとお子さんの事気をつけて見てあげて下さいねぇ」
リルティが少し離れたアッシュ、 ジェノの元に帰って来る。
「やっと終わったぁ〜、 …でさっきの話だけど……」
そうリルティが話を切り出そうとした時だった。
「あ…あ……あぁぁぁぁ!!」
頭を抱え苦しそうに悶えているアッシュ。 突然の出来事に言葉を無くす2人。
「…ど、 どうしたの? アッ…シュ…?」
「あぁぁぁああああ〜!!!!」
アッシュの瞳は充血し、 次第に彼の瞳の中を白が占領していく。
そしてそのまま後ろに倒れた。 口から泡を零し気を失っている。
「あ、 アッシュ!? …ジェノ、 ア、 アッシュが……アッシュが…」
指をアッシュに向けてジェノに知らせるリルティ。
あまり日常では見る事のない光景に足がすくんでそのまま地面に崩れていった。
心の動揺が指に腕に体全体に伝わる。 そして唇にまでもその影響が出る。
その姿はまるで寒い冬の真夜中に水を被ってしまったようであった。
そんな状況の彼女に容赦なくジェノが声を張り上げ指示を飛ばす。
「リル! そっちの肩持て! 上に連れてくぞ!!」
「…ア、…ア…ア、 …ッシュが……」
「おい聞いてんのかっ!!? しっかりしろよてめぇよりこいつの方がやべぇかも
しんねぇんだぞ!!!?」
アッシュ達の周りに人だかりができ、 辺りはざわついている。
「ちっ、 これ以上事を大きくしたらやべぇな…
リル! 早くしろ!!」
まだ完全には自分を取り戻してはないものの、 ジェノの声がなんとか彼女を行動させる。
一先ずアッシュを運んで上の医務室に行くことにした。
― 医務室 ―
ベッドに運ばれたアッシュは落ち着きを取り戻し穏やかな表情で静かに眠っている。
そのすぐそばでリルティとジェノは医療士の1人と話をしている。
アッシュの顔を見つめては深刻な顔をしていたリルティだが話を聞いている内に
溜息と共に胸を撫で下ろした。 それに比べジェノはと言うと…
壁にもたれ、 腕を組んで目を閉じている。 リルティとは違うがこれでも彼なりに心配しているようだ。
医務室に向かって足音が近づいてくる。 足音の間隔が狭い所から急いで誰かがこちらに
走って来ているみたいだ。 その音は医務室の扉前で止まる。
そして扉が開けられ部屋の中に入って来た。
『ディックさん!』
入って来たのはディックだった。
彼はリルティやジェノに一言も話さずにアッシュのそばへと駆け寄る。
ディックの瞳の中にはアッシュだけしか映っていないようだ。 その為途中でごみ箱を
蹴飛ばしてしまうがそれはディックの障害にはならなかった。
彼の顔を一目見るとようやく2人を瞳の中に入れる余裕ができる。
「…………おい何があった!?」
「下の街を見回っている途中に急に倒れたんです…」
「急に倒れたって…原因はわからねぇのか?」
「……原因かどうかわかんないっすけど
こいつ朝からなんか変なんっすよ、 ぼーっとしてたかと思うと急に叫んだり…」
ディックはアッシュの安らかな表情を再び見つめた。 だが今度は冷静に彼を見つめている。
「(スキャンで見ても特に異常は…なし…か…)」
スキャンが終えると同時にアッシュの瞼がゆっくりと開いた。
「アッシュ!! 大丈夫か!!?」
ディックは起き上ろうとしている彼の肩と背中に手を添えてゆっくりと上半身を起こした。
「…………」
「よかったぁ…大丈夫みたいだね!」
「ディガ……エストラン」
「……な、 なんだって?」
アッシュはディックの顔をしばらく見つめると急に目を見開いて怒鳴った。
「ディガルイマーマル!!」
「な、 …何すんだよお前……」
アッシュは自分の肩を支えていた彼の腕を払った。 そしてどこか警戒している表情を見せる。
この行動に目を丸くしながら彼を見るディック。
「お、 おれだ、 ディックだよ! まさか俺がわかんねぇのか?」
「ディガ……エストラン」
「でぃが…え…す…? な、 何言ってんだお前!?」
「…ふっ、 こいつ、 さらにおかしくなってるぞ」
「ジェノぉ〜! 笑ってる場合じゃないでしょー」
アッシュは物珍しそうに キョロキョロ と辺りを見回している。
近くの窓を覗いて見るが初めて見た場所のような反応が顔から伝わってくる。
「ディガ……エストラン」
「アッシュ…どうしちゃったのー!?」
「ジェノ、 マスター呼んで来てくれるか?」
「あ、 …はい」
ジェノはマスターを呼びに医務室を出た。
「(どうなっちまったんだよアッシュ……)」
30分後……
「ヴァルアーサ、 グライ…グライアラス……」
「…ずっとこの調子なんです」
「……エルフ語…ですか…いやちょっと違う…これは……」
「ラスアリアシャ・・・イグリア」
「どこか古代の……エルフが使っていた言語と少し似てますね…」
「それで何て言ってるんですかぁ? アッシュは」
「いえ……何を話してるのかまではちょっと……」
アッシュの顔を見ながら首を傾げる。
「そんなぁ……マスターでもわからないなんて…」
「私どころか今この言葉を知っていて扱える者は恐らくいないでしょう……
1000年以上も前の言葉ですから……」
「でも何でそんな言葉をアッシュが喋ってるんすか?」
「…それも……わかりません。 ただ……」
そう言ったまま黙り込んでしまったマーディン。
皆マーディンの次の言葉を待っている状態であった。 そんな中リルティがこの沈黙を破る。
「あのぉ……マスター?」
「…はい。 どうしましたかリルティ」
「思ったんですけど、 エルフに頼むってのはダメなんですか?
マスターがさっき古代のエルフの言葉と似てるって言ってたんでもしかしたらわかるかなって……」
「確かにエルフなら少しはわかるかも知れません。 しかし恐らく私と同じレベルでしょう
この言語を話せるエルフなど……!? そうか! 彼女なら……」
会話の途中で何かに気づいたマーディン。 その表情に今度こそはと皆も期待が高まる。
そしてまたもやリルティが彼女に言い寄った。
「いるんですか!? マスター!!」
「はい。 たった1人だけ心当たりがありました。 ジーナと言うエルフです。
彼女は恐らく世界のエルフの中で一番の高齢…………何歳かは忘れましたが彼女なら何か
知っているかもしれないですね」
アッシュのそばにいたディックも話が進展したのを確認し、 会話に参加する。
「で、 そのジーナと言うエルフは今どこに?」
「確か……今も北の森のどこかに住んでると思います」
「なんだすぐ近くじゃないですか!! よし! ジェノ、 リルティ緊急の任務だ。
2人でそのジーナと言うエルフを連れて来てくれ!」
「待ち……」 「ディックさんちょっと待って下さい!」
マーディンがディックを止めようと話しかけるがそれよりも先にディックの話の流れを止める。
「…どうしたリルティ、 2人じゃ不安か?」
「いえ、 あの…エルフは基本あたし達人間とは接触しないってティナさんから聞きました。
普通に行ってもきっと会ってくれないんじゃないかと思って……」
「その通りですリルティ。 よくその事に気が付きました。
エルフはめったに人の前に顔を出したりはしませんが……
あれを持って行けば話は別です。 少し待ってて下さい」
そう言うとマーディンは医務室を出て行った。
「おい…あれって、 なんだぁ…?」
「さ、 さぁ・・・」
3人は立ち尽くしたままマーディンの帰りを待つ。
さらに15分後……
「ダリ、 ガジェラシュテ……メルセヴィアータバフォル」
「あぁ、 必ず助けてやるからな!」
笑顔で返すディック。 もちろん彼の言葉は理解していない。
そこにマーディンが医務室の扉を開けた。 手には何かを持っている。
「すいませんお待たせしました。 どこにしまったか忘れてしまって…」
「それが……必要なんですか?」
マーディンは右手に持っている小瓶を見せた。 中には半分程液体が入っているのだが
魚を擂り潰した様な欠片が黒い液体と混ざっていて見る限り気持ちが悪い。
だが見た目とは逆に甘いフルーツの様な香りが漂ってくる。
「あ〜なんかいい匂いがしますねぇ〜。 何なんですかこれ」
「人間で言うお酒の様な物です。
エルフはこれに目が無いようなのでこれをうまく利用すればきっと姿を見せるはずです」
話しながら小瓶をリルティに渡すと顔の近くまで持って行き何度も匂って確かめる。
それをジェノの顔にも持って行く、 手は小瓶をそれ以上近づけさせない為か拒否しているが
彼女が何度もそれを避けてジェノの顔に近付けている内に
興味が出て来たのかその状態で匂って確かめる。
「どう? いい匂いでしょ!!」
「あ、 あぁ」
「よし、 それじゃあジェノ、 リルティ頼んだぞ!」
「くれぐれも気をつけてください。 何かあればすぐに連絡を」
「わかりました」 「了解でぇす!」
2人は北の森へ向かった。
―とある牢獄―
水が一滴また一滴と耳の近くで音がする。 目を開けると薄暗い地下の牢屋の中にいるアッシュ。
「(う・・あ、 頭が・・)」
地面にうつ伏せになって倒れているアッシュは頭をおさえながら周りを見回した。
横には木製のベッドがあった。 そこに手を置いてゆっくりと腰を掛ける。
ベッドは木の軋んだ音を出す。 手を置いた所が少し湿っているのに気づきそこに目をやった。
濡れた様な感触がしたので手を顔の前に持ってくると鉄の様な臭いと生臭い臭いが鼻をつく
気になって光が漏れている場所に行って確かめてみた。
手にはべっとりと血が付いていた。
そしてもう一度ベッドに戻りよく目を凝らして見てみた。 するとそこには人型に形取られた
模様がうっすらとベッドに張り付いていた。 そこから先程の生臭い鉄の臭いがする。
「(な、 なんだここ……俺どうなったんだ…!?)」
頭痛は少しだが相変わらずまだ頭の中でエコーの様に鳴り響いている。
もう一度辺りを見回し自分の今の状況をどうにか把握しようと試みるが無駄に終わった。
しばらくすると向かいの牢屋から声がした。 アッシュは片手で頭をおさえて鉄格子の所まで
足を運んだ。 向こうにはスキンヘッドの大男が格子を両手で掴んで何か話していた。
それは誰でもなく自分にだった。
「おい! 大丈夫かアッシュ!? …頭痛むのか?」
「……あんた誰だ…」
「お、 おい! 俺を忘れたのかよ!?」
じっと男の顔を見て記憶の中の人物と重ね合わせる。 今目の前にいる男と記憶の中の男が
一致した時、 男の名前と同時に今この状況がとても不思議で不可解な出来事と言う事を
認識したアッシュ。
「ゼア!? (ゼアが何で俺の目の前にいるんだ!?)」
「やっと思い出したか。 へへっ」
「何が…どうなって…るんだ……?」
この言葉はゼアに向けたものではなかったが話の流れからこの言葉に自然と返事を返すゼア。
「俺もさっぱりわからねぇんだよ・・レリスが光に消えた時の事覚えてるか?
あの後同じのがやって来てよ、 どうやら俺もあの光を受けたらしいだ
おめぇは途中で気を失ったみてぇだがここにいるって事はあれにやられたんだな」
「!!!?」
「おい、 そんな驚くこたぁねぇだろ!?」
「ここはどこなんだ…?」
「どこってグランベルクだろうよ、 場所的にも近くだったしよ……
へへへっまた戻って来ちまうとは思わなかったぜ」
「グランベルク…? ここがか?」
「おい、 おめぇどうしちまったんだほんと…何年もここに監禁られていた事も忘れたってぇのかよ!?」
2人の話声に見張りの兵士がやって来た。 もう1人後ろに影が見える。 明らかに前の兵士とは雰囲気が違う……高貴な姿から大臣かと思っていたのだが……
前の兵士がアッシュの方に近寄って来た。
「光栄に思うがいい! こんな薄汚い所に陛下自らが足を運ばれたのだぞ!」
「へっ、 知るかよそんなの」
その言葉に兵士は反対側のゼアの所へ行く。
「きっさま〜!! 今ここで殺してやってもいいんだぞ!!」
「もうよい、 …ほう、 そなたらが【ヴァルファリエン】か。
この目で一度見ておこうと思ってここまで来たがどうやら想像とはちと違ったようじゃの。 見たところ人間と変わりないが」
「ゼア・カチェス、 そして…
こいつがアッシュ・バーナムです陛下」
「そなたがアッシュ・バーナムか……。 拍子抜けじゃの〜
ディウスの話を聞いて化け物だと思ったんじゃが」
左手で顎の髭を伸ばして考え出したグランベルク王。
「王様よぉ、 おめぇらがどんだけ仲間を殺してきたかわかってんのかよ! あぁ!?
化け物だぁ? おめぇがそうじゃねぇのかよ!!」
鉄格子を揺らして怒鳴り散らすゼア、 そのせいで埃が天井から降って来る。
「貴様〜!! 陛下はなぁ!!」
「よい、 そなたゼアと言ったかの? 実はここに来たのは1つ確認したい事があっての
そなたが話に応じてくれればの話なんじゃが……」
「話だと!? 俺達に今さら何を話せってんだよ!」
「陛下、 もう時間がありません……お早めに」
「うむ。 どうじゃ?」
「ゼア……」
アッシュはゼアの顔を見てゆっくりと頷いた。
「けっ、 …で何を聞きたいんだ?」
「なあに簡単な事じゃ、 何でそなたらヴァルファリエンが我がグランベルクを
滅ぼそうとしているのかが知りたいのじゃよ」
「滅ぼす? …ふふ、 …ふふふふあ〜はっはっは!!
何寝ぼけてんだ、 それはおめぇらグランベルクだろ。
最初に仕掛けて来たのはそっちって言う事を忘れたのかー?」
「(やはりわしが思っていた通りじゃったか…)
……もう一度聞く、 最後の確認じゃ…。
全ての原因はグランベルクにありそなたらヴァルファリエンは争う気は無かった……
つまりこちらが一方的にしたと…そう言う事じゃな?」
「な、 なんだ…………!? まさかおめぇ知らねぇのか!?」
「陛下、 お急ぎを…奴が…ディウスが帰って参ります」
「うむ……。 頃合いを見てこの2人を解放してやれ」
「仰せのままに」
「今は急ぐのでこれで失礼する」
立ち去って行くグランベルク王は深く考え込んでいた。
「(奴め…わしの目の届かん所でこの様な悪事を企みおって!!
やはり何か様子が可笑しいと思っておったが…問い詰めてくれるわ!!!)」
一歩一歩怒りを込めて踏みしめる王。 それをアッシュとゼアは不思議そうに見ていた。
「……なぁ、 それでレリスはどうなった?」
「…わからねぇ、 もしかしたらもうアーディルを抜かれているかもしんねぇ…」
アッシュは今自分の状況がわからないままゼアと会話する。
夢なのか現実なのか、 はたまた幻なのか頭がおかしくなってくる……そのせいか
心の声が表に出てしまった。
「なんなんだよこれは……。 夢か?」
「おめぇなぁ……夢な訳ねぇだろ?」
「…………」
一方そのころ……
「北の森って聞いてずっと引っかかってたんだけどぉ…
前にアッシュが行方不明になってみんなで探した時あったじゃん、 その時心遠眼で
この森を調べてアッシュを見つけたでしょ? 今回もアッシュの事でこの森に来てる
からなんか不思議だなぁって思ってさぁ…」
「気のせいだろ、 ただの偶然だ」
「う〜ん、 そうだと思うんだけどね…不思議だなぁって思って……」
そう言いながらリルティは先にどんどん進んでいくジェノの後をついて行った。
森を進んでいく毎に霧が段々と濃く辺りを包んだ。 それでもペースを落とさないジェノ・・
しかしリルティは体験した事のない景色に少し怖気気味のようだ。
ジェノに近づき後ろから手を掴もうとするのだが何故かもう一歩が前にでない。
仕方なくその手を胸のところに持ってくる。 もう片方の手で慰めながら
自分を励ますリルティ。 それに辺りは関係なく霧がさらに深まり空気も冷えてきた。
「ジェノぉ〜、 ちょっと待ってよ〜」
すでにジェノの背中は霧で薄くなっていた。 今の距離では見失ってしまうと思ったリルティ
は思い切って両手をジェノの手に近付ける。
「(ちょっと、 あとほんのちょっとなのに……! 掴めぇ〜)」
そしてジェノの手を掴んだ。
「おい!!」
その声にすぐに手を放してしまうリルティ、 ジェノの手には軽く触れた程度だった。
そして頬を赤らめながらジェノに言った。
「ち、 違うの!! そ、 そそそそそんなんじゃないんだから!!」
両手が口以上に激しく動く。
「あぁ? 何言ってんだてめぇ、 あれ見ろよ」
「…へ? あれ?」
ジェノが見ている所に目をやった。
うっすらとだが向こうに小屋らしき建物が見える。
「行ってみるぞ!」
「あ、 ちょ、 ちょっと〜
(なぁ〜んだ嫌がってたんじゃなかったのかぁー)」
赤い色の屋根のレンガでできた家だった。 人間の子供がやっと入れるくらいの小さな家だった。
「家か? あれ……」
「あっかわいい〜!!」
「誰か住んでんのか?」
ジェノは家のそばまで来て改めてその小ささを確認する。 ジェノの腰ぐらいがちょうど
屋根と同じ高さなのだ。 その横にあったこれまた小さな窓から中を覗き込むジェノ。
両目で見るには窓の大きさに合わず、 また片目で見るにはまだ余裕があるそのやっかいな窓
その向こう側には木製のタンスやテーブル、 柱時計やイスがどれもミニチュアサイズ
で置いてあったが誰もいなかった。
次にジェノは屋根を コンコン と軽く叩き始めた。
それでも何の反応も無い事にムッとしたのか家を持ち上げようとしている。
「ジェ、 ジェノなにしてんの!?」
「ふったら何かでてくるんじゃねぇかー」
すると2人のすぐ後ろから声がした。
「コルルルアァ!! ワレなにさらしとんじゃい!!」
独特な言葉で怒鳴り散らすその声に振り向くが誰もいない。
「どこ見てんねや! こっちや」
2人は声がする地面に目を向ける。 すると羽根の生えた小さな人間が両手を腰に当てて
2人を見上げている。 よく見ると耳が少し尖り赤い帽子を被っている、 帽子のてっぺんに
白く丸い綿の様な物がついている。
「きゃぁ〜!!! かっわいい♪」
「そうやろ!! かわいいやろ!!」
「な、 なんだこの小さいのは……」
「あたいの事聞く前にまずおのれから名乗るんが筋っちゅうもんやろメガネ」
「んだと…おいこいつ殺るぞ」
「ちょっと待ってよジェノ! あなたもしかしてジーナ…さん?」
「なんやジーナばぁちゃん知っとんのかい、 ばぁちゃんに何か用があんのか?」
「うんちょっとね……あ、 あたしはリルティ、 で、 こっちはジェノ
じゃああなたはジーナさんじゃないんだ」
「そうや、 あたいはフュリンやよろしくな…えーとリルティ」
「それでフュリン、 ジーナさん今どこにいるの」
「この奥にいてはるよ、 なんなら案内したるでぇ」
「ほんとに〜」「たーだーしや!」
「…え?」
「その腰にぶらさげとるもんと交換っちゅう事でや」
「腰……?」
リルティは腰に手を当てた。 それはマーディンから受け取った小瓶だった。
「これはジーナさんにあげるものだからダメなんだよ……」
「ばぁちゃんに? なら全然構わへん! どっちにしてもあたいがもらう事になるんやから」
フュリンは羽を動かして上に上昇していく…と言っても元がリルティの脚ぐらいの大きさなので飛びあがっても普通にリルティと目線が同じになっただけである。
羽が虫の様に物凄い速さで動いている。 どうやって動かしているのか羽根の付け根はどうなっているのかなど興味が絶えない。
「じゃあついてきー」
気がつくとフュリンは少し離れた所で呼んでいる。
「ジェノ、 いこっ!」
リルティは走ってフュリンの後を追いかけた。
ジェノもその後を追って行くが何か不満げな表情を浮かべている。
「(あの羽女、 いつか殺してやる)」
―グランベルク地下の牢獄―
「(おかしい…もうそろそろ現実に戻ってる頃なのに…)」
アッシュ達はいまだ牢獄の中にいた。
「なぁアッシュ」
「(夢じゃないって事か…?
もし夢じゃなかったんだったとしたらジェノやリルティはどこにいったんだろう…)」
「…おいアッシュ」
「(…ゼアに聞いてみるか)」
「おい! アッ……」 「なぁゼア」
「!? やっと気づいたか……で、 なんだ」
「あんたジェノって知ってるか? ジェノ・クラヴィスって言うエレメンツなんだけど」
「ジェノ・クラヴィス……? いや知らんが…」
「やっぱ知らない…よな」
「えれ……なんだそれ」
「エレメンツだ…ディルウィンクエイスって言う所のエレメンツなんだジェノ」
「おめぇなにボケてんだよ、 ディルウィンクエイスは俺達のチーム名だろ?
それに仲間にジェノっちゅう奴はおらんぞ」
「……チーム…だって……?」
2人の会話の途中に先程の見張りの兵士がそれを割って入って来た。
牢屋の扉を開けながら2人のこう告げる。
「この鍵を使えば外に出られる、 だがここから出た瞬間俺はお前達を追わなければならない」
兵士はゼアに鍵を渡す。 受け取ったもののいまいち理解ができないゼアは兵士に問いかけた。
「……何で俺達を助ける?」
「陛下のご命令だからだ。 そんな事はいい! うまく逃げてくれ」
「なんだと!? そりゃどう言う事なんだ?」
「詳しく話している時間などない! 5分だけ時間をやる! さぁ行け!!」
言われるままにアッシュとゼアは牢屋を抜け出し、 階段を上って行った。
上を見ながら駆け上がっていく2人。 進んでも進んでも変わらない景色と
天まで届く程の螺旋階段を目の当たりにしてアッシュがこう漏らした。
「いったいどれだけ下に作ったんだ? ここの牢獄」
「ここら辺でやっと半分ってとこだろうな…」
「まだ半分だって!? 目が回ってくる……」
「・・何言ってんだおめぇ、 つい最近ここも通っただろ!?
おめぇ本格的にやべぇぞ……」
景色が グルグル と回転するだけで上に進んでるのかさえもわからなくなってしまう程
その階段はまだ続いていた。 下を見ると自分がこれだけ上ってきたのかと思うほど高い場所にいた。
「はぁ…はぁはぁ……はぁはぁはぁ……はぁはぁ」
始めの方は口を開いていたアッシュも今は無言でただ目の前の階段を一段また一段と進む事
だけを考えている……と言うよりそれしか考えられなくなっていた。
自分の息遣いが耳に聞こえてくる、
「はぁはぁ…お、 おい、 まだ着かないのか…?」
「…はぁはぁはぁ……もう少しだ…はぁはぁ…はぁはぁ」
そしてついに地上へと辿り着いた。
目の前には扉がありそこから微かに光が漏れている。
「この扉を開けるともう外だ」
「はぁ……はぁ…はぁ」
息を整えながらゼアは鍵を使い鉄の扉を開ける、 その後ろでアッシュは今まで上がって来た
階段を見つめている。 途中から階段は暗闇に包まれそれ以上下が見えなくなっていた。
「よし! 開いたぞ!!」
ゼアは両手でその扉を開いた。
目が暗闇に慣れたせいか眩い光が飛び込んでくる。 一瞬ただ真白い景色しか見えなかったが
段々と木や建物が姿を現してきた。 手でかばいながら外へ出た。
「…確かこっちだ」
ゼアが走り出した。 それについて行くアッシュ。
すると警報が辺りに鳴り響いた。
「もう5分経ったのか…?」
「馬鹿もう5分以上経ってるぜ、 へっあの野郎、 気を利かしてくれたんだな!!」
2人は目の前の森に飛び込んだ。
―地下の牢獄―
「ぐわ…く…そ……ぐふっ…」
身体を刃物で ズタズタ に斬りつけられた兵士が牢屋と牢屋の間の廊下で倒れている。
それは先程の見張りの兵士だった。
「2人を追うんだ!」
「はっ!」
数名の兵士がアッシュ達が使った螺旋階段を上って追跡を開始する。
「ディ…ウ…ス…が……がはっ…」
兵士の顔を踏みつけたのはディウスと呼ばれた男だった。
金髪のロングヘアーに顔から下は毛皮のローブに包まれ、 見た限りかなり位が高く見える。
「…まったく、 僕がいない間にこんなくだらない事してくれて…
おかげでまた探さないといけないじゃないか!!
この! このっ! この!! このぉぉ!!」
「あ…が……あ……ぐ……」
何度も何度も踏みつける、 ディウスが気付くと兵士はもうすでに息絶えていた。
「アッシュ・バーナムとゼア・カチェス、 すぐ捕まえてあげるよ
くっくっくっく……あーっはっはっはっは!!!!」
そう言いながら闇に消えて行った。
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