世界で一番××な……
「なぁんちゃって」
私は無理やり押し倒された。
あれあれ? と、ぼんやりしていた脳みそでは状況について行けない。
速やかに《わたし》は私から包丁を奪い取り、遠くに放る。
「あっ」と伸ばした手を、まるで握手のように繋がれる。
絡まった指と指。冷たさは感じない。
それは私の手も《わたし》と同じくらい冷たいことの証左のようだった。
「《わたし》は死にたくない。そして、私にも死んでほしくない」
何を、勝手なことを言ってるんだ?
再び膨大な自己嫌悪が胸の内からあふれてくる。顔を近づけられている状況に耐えきれず、酸っぱいものがこみあげてきて、堪えようとしてえづいてしまう。
《わたし》は、そんな私を抱きしめてくる。
全身に鳥肌が立ちそうな怖気が走り、私は逃れようとするが力が入らない。
「……っ、死ねば、いいのに……って言ったくせに」
「そうだね。私の望みをかなえたいなら、それがベストだと思うよ。でも、残念ながら《わたし》は嫌。全力で妨害させてもらうから」
耳元で紡がれる言葉、大っ嫌いな音に私は苦しいほどの憎悪を感じる。
それなのに、
甘い声で、《わたし》は囁く。
「《わたし》は孤独なんてへっちゃら。だって、私がいるもの。私がいる限り、《わたし》はひとりぼっちになりたくてもなれない」
《わたし》は、私のおかげで、ひとりっぼっちじゃないんだよ。
「私の弱さ私の強さ私の未熟さ私の苦しみ私の嘆き私の涙私の顔私の肢体私の言葉私の声――この、心臓の鼓動――その全てが、愛おしい」
こいつは、《わたし》自身。
私が世界で一番嫌いな――――
「《わたし》は私のことが、世界で一番大好きです」
変われなくてもいいじゃないと、《わたし》は笑う。
《わたし》がいるからいいじゃない、ひとりじゃないよ。寂しくないよ。
「私をひとりにはさせないよ、約束する」
私の胸に渦巻く激情を全部、全部無視して、
《わたし》は幸せそうに、笑っていた。
連続投稿です!!