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私は――を殺したい


 今晩が最後のチャンスだ。

 追い詰められて、私の心臓がどくどくする。カッターナイフを持つ手が汗ばむ。

 世界が回りそうになる感覚に、もう後がないと追い立てられているような気がした。

 

 誰に?


 小さく息を吐く、怖くはない。覚悟もある。

 息を潜ませ、階段を上る。二段ベットがキィと音を立て、その度に足を止め上の気配をさぐる。そしてまた、一歩、足を。

 神経をすり減らし、一秒を永遠に感じるほどの時間をかけて着くと、あいつの身体に触れないように気を付けながら柔らかな布団へ足を下した。

 天井はすぐそこで、四つん這いの姿勢でそろそろと音を立てる布団に苛立ちながら進む。

 ここまでが最大の難所だった。しかしあいつはすやすや寝ていて、起きる気配はまるでない。

 馬乗りになる形、嫌でもその顔が目に入って、湧いてきた吐き気に目を逸らす。

 そして、ギチギチと刃を押し出す。

 そっと、その刃をそいつの首元に沿わす。頸動脈の位置、何度も何度も本を読み、イメージトレーニングを繰り返した光景と全く同じ、少しも違うことはなかった。

 とても貧弱な武器だがこの殺意こそを刃にすればいいのだと、頼りない武器を握る手に力を込めた。

  

 あとはもう、この刃を押し込めば、


 終わり。


 終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終わり終われえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ――――!!


「おはよう」

 

 涼やかな声。

 耳障りな音。

 

 カッターを持つ手が純然なる殺意を原動力に駆動しようとするのを、冷たい手が妨げた。

 心まで冷えてしまいそうな冷たさが、掴まれた手首から伝わる。


 私はそれでも手を動かそうとしたが、力は拮抗していて動くことも動かされることもなく、停滞――――


「…………っ」


 歯を食いしばり、悔しさに顔を歪めながらも、諦めたのは私だった。

 乱暴にそいつの腕を払うと、絶望に肩を落とした。

 また、殺せなかった。

 胸に渦巻く、どす黒い殺意。煮えたぎったそれは、私にこいつを殺せと蠢く。


「あなたに私は殺せないよ」


 笑って、そいつは言う。

 寝起きなくせに、深夜二時という時間なのに、すっきりした表情で、私の殺意に笑顔を向ける。

 ちらりと目に入ったそれから顔を俯けて、すぐさま私は目を逸らす。


「おはよう、私」

 

 また、そいつは私に言った。

 私は答えない。顔も上げない。

 ただただ、一つの感情にすべてを支配される。

 

 私はお前(わたし)を殺したい。

 

 目の前でにこやかに笑う、私と同じ顔、同じ声をしたあいつ。

 紛れもない《わたし》自身。


 

 


 タイトルからしてかなり暗い内容になることが予想されます(汗


 一話、一話が短くプチ連載という感じになります。


 これからもっともっと暗くなると思います……なんでホラー書こうと思ってこんなのを妄想したのか自分でもわかりません。

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