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なにそのプロポーズもどき


今日も今日とて図書館にいる放課後。本に囲まれて、ああ幸せ。

そんな至福をぶち破って登場するのも、いつものように充輝だ。

勢いよく走って……は、ないか。うん、ぎりぎり歩いてる。前に叱りつけたからな、思いっきり。

でも、カウンターに本を投げやがったぞこいつ。なんだ? 私に喧嘩売ってんのか?


「読んだ!!」

「うっさい黙れ」

「え、なんで先輩そんなに辛辣なんだよ」


なんでって? そんなの決まってるだろう。


「本を乱暴に扱うなって何回言ったらわかるの?」

「別に、ちょっとカウンターに投げただけ……」

「黙れアーチェリー部。自分の腕力考えろ」


ああもう、本はデリケートなんだから。

思わず返却処理をしてから本を撫でていると、まだそこにいた充輝が噴き出した。


「先輩って、本当に本好きだよなー」

「そうだけど、何か文句が?」

「今、すっごい優しい目をしてたから」


そう言って笑う充輝の目が優しくて、悔しい事に何も言えなくなった。

黙って本を撫でてれば、頭に手が触れる感触に顔を上げる。


「先輩って、可愛いな」

「……あんたさ、前もそう言ってたけど、こんなデブスのどこが可愛いの? 性格だってはっきり言ってよくないし」

「んー、そうだな」


何こいつ。なんでこんな余裕綽々みたいな顔してんの?


「先輩って、自分自身はどうでもいいけど他人の為に頑張るじゃん?」

「ああ、私には何の価値もないから、せめて他の人のフォローくらいしたいからね」

「うん、そういう所」


……うん、意味がわからない。


「今の本もそうだけど、他人の為に一生懸命な先輩は優しいと思うし、可愛い」

「なんで最後その結論に至るのか意味がわからないんだけど」


それに、私が他人の為に頑張るのは、結局私自身の為だし。


「余計な火の粉かぶりたくない。いつでも脇役でいたい。ヒロインになんてなりたくない。そんな打算で動く私のどこが優しいっていうの?」

「そう言っても、最後まで手を抜かない。適当にしないだろう?」

「……適当にしたせいで結局また私に返ってきたら意味ないもの」


そう、ただそれだけの事。

優しくなんてない、私はいつだって自分の事しか考えてない。


「ほんともうお前黙ればいいよ天然タラシ」

「だから、何で俺が天然タラシなんだよ?」

「自分で気づかないから天然だって言ってんでしょ。あとタラシてるからタラシ」

「タラシって何だよ」

「誑かしの略です」


本当、こいつと一緒にいると調子が狂う。

それでもいいやとか思ってる自分がいるのが一番気に食わない。


「……なんであんた、恋人いないのよ」

「そこで恋人って言い方をする先輩が可愛い」

「ほんっと意味わかんない!!」

「俺に彼女ができないのはモテないからです」

「はあ? 嘘でしょ?」

「いや本当。むしろなんで俺がモテると思えるのかぜひ聞きたい」

「なんでって、あんたが天然タラシだから」

「うん、それ言うの先輩だけだから」


だめだ、何これ、会話が成立しない。

ていうか、こいつがモテないとか嘘だって、絶対。


「なんでモテないの? あんたそんなに優しいし良い男なのに」

「どこが。成績は中の中、運動は苦手、飛びぬけたイケメンでも高身長でもない俺なのに」

「はあ? そんなのただの付録でしょ?」


そう言い切れば、なぜだかびっくりした顔を向けられた。

いや、私のほうがびっくりだよその反応。


「だって、人を気遣ったりいつもポジティブな部分とか、そういうのって誰にでも身につけられる強みじゃないでしょ。私はネガティブだし後ろ向きだから、あんたはすごく眩しい」

「……ネガティブの自覚あるなら直そうぜ先輩」

「無理」


なにせ母親にも生まれながらのネガティブと言わしめた根っからのネガティブだからね!!


「そんなきっぱり……」

「私は人一倍怖がりだから、ネガティブに物事を考えないと安心できないの」

「いや、それはどうなのさ」

「失敗をあらかじめ想定しておけば、対処方法も一緒に考えられるじゃない。慎重だって言ってよ」

「いや、なんかそれって違うだろ」


そうだね、君にはきっとわからない。


「光は自分の光で影を見る事はできない、か」

「なにそれ」

「夕月先生のセリフ。私の好きな作者さん」

「ふうん、変なの。人なんて、いいところも悪いところもあっての人間だろ」


こういう時、ああこいつは光の住人なんだなって思う。

光に焦がれて、けれどその光の強さに自分を失ってしまう影の恐怖を理解できないんだなって。

だって私が、影だから。


「……あんたは、幸せだね」

「なに突然」

「いや、もういいよ。私も仕事あるし、そろそろどいてくれる?」


うん、私も忘れてたけど、他に利用者もいないけど、でも言おう。

いい加減カウンターの前からどいてくれ。

……それに、今の私に充輝の存在はちょっとだけ辛いから。

眩しすぎて、羨ましくて、辛いから。


「はいはーい。あ、先輩」

「何?」

「もしも俺が先輩のいう光なら、先輩は影な訳だろう?」

「ん、まあ、そうね」


だからどうしたというのだろう。


「じゃあさ、俺ら二人で足して二で割ったらちょうどいいよな」


そう言ってあっさり背中を向けて立ち去る充輝に、私は呆然とした。

なにそれ、二人でって、なにそのプロポーズもどき。


「……やっぱりあいつ、天然タラシだ」


私はカウンターに倒れ伏した。

顔が赤くなってるとか、そんな理由じゃなくて、ただ脱力しただけです。

頬が熱いとか、絶対に気のせいです、はい!!




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