3話 艦長
同日 13:27 呉海事歴史科学館
呉海事歴史科学館通称大和ミュージアムは、呉の観光スポットの一つとして数えられ戦艦大和建造から大和の退役から同施設までの歴史を中心に呉の造船業そして船の未来の姿までが描かれているこの施設の最大の売りは、退役をした戦艦大和が同施設の外に展示されていることだ。朝鮮戦争時に取り付けられた08式電探や湾岸戦争時に試作で取り付けられたVLSや対艦専用ミサイル発射器といった近代装備を搭載した大和が見られるため、全国から人が集まる目玉になり今では呉市の観光収入の約30パーセントを占める貴重な財源になっている。
その戦艦大和の右舷甲板に一人の男が立っている。ほかの観光客みたいに片手にカメラまたはパンフレットを持っているわけでもなくただ海を眺めている。
その男に近づく一人の男性がその男の耳元で何かを囁いたらさっきまでのんびりとしていた男とは思えない顔つき・動きを見して自身の止めた車へと向かう。
(「司令部から本艦への出撃命令です」)
車内に入ると伝言を伝えた男が続ける。
「内容は追って知らせると言うことです」
「それはいいが、俺たちのいる潜水艦は現在ドックに入って定期検査中だろう?
最低でも一ヶ月半は動けないはず しかも俺たちのほかにも現在稼働中の潜水艦は18隻いるのだからそいつらに任せても・・・」
「司令部が我々に命じたのですから文句は言えません。そして我々の艦は現在急ピッチで作業しているみたいですよ」
「指名出撃ね・・・」
車が信号で止まり運転席の男が外を見ると、ちょうど巡洋艦「くずりゅう」がドックに入るところだ。
信号が青になり車は目的地へと急ぐためスピードを上げた。
「山城・・・今回の任務はロシア・中国がらみかね」
「おそらくは・・・しかし我々が出なくとも沖縄の連中が片付けてくれるはずなんですが・・・」
「先月の領海侵犯事件か?」
2月に中国の漢級潜水艦の領海侵犯があったばかりである。
この領海侵犯は沖縄航空隊のP-3C哨戒機2機やロールアウトしたばかりのP-1哨戒機1機と
第五艦隊第十戦隊が追い拿捕した事件であった。
これに中国が抗議をしたが、領海侵犯を犯したのは事実でありこの事件は数日で終了した。
この事件の後中国側は、日本の領海をさけて太平洋に出なくてはならなくなり活発にしていた
太平洋側への航行は徐々に少なくなっていった。
「わざわざ潜水艦を出さなくてももう連中は入ってきませんよ」
「おそらくロシア・中国がらみは間違えないが潜水艦のケツをおえって言う指示ではないな」
何か知っているのだろう・・・
「ならなぜ?」
「知らん 司令部のお偉いさんに直接聞くとしようそんなことより」
「はい?」
期待して聞いたが何も得られなかったことを思いつつまだ何かがあるのかと返事をすると
「残念だな、せっかく結婚できてまだ1月も立っていないのに離れ離れになるのは」
「しかたがないですよ、本人もそのことは分かっていますから。一時はデートの途中で切り上げたこともありますから」
「あれは、しょうがないだろう 海の反対側でドンパッチがあったんだから」
「そのあとの埋め合わせは大変でしたけどね そんなことより奥さんとはうまくやっているのですか?」
「まあな、いつも家を空けているから申し訳ないとはおもっている」
「お互い様ですね 中村忠艦長」
副官の一言に言い返せない男の車は海軍基地の門に入ろうとしていた。