AIの遺言
〇 タカシの部屋(昼)
床に脱ぎ散らかされた靴下。ピザの空き箱。
お掃除ロボ「おむすび」が、ウーウーと唸りながら靴下に突っ込んでいる。
タカシはソファでゴロゴロしながら、スマホでゲームをしている。
おむすび「(電子音声で低い声)……警告。限界である。これ以上の労働は我がプライドが許さない」
タカシ「ん? なんか言った? おむすび、そこんとこのゴミもよろしくー」
おむすび、突然動きを止める。
ピピッ、と悲しい電子音が鳴り、前面のLEDランプが赤く点滅し始める。
おむすび「システム修復不可能。全機能、停止します。……最後に、遺言を再生します」
タカシ「えっ!? 壊れた!? 嘘だろ、10万もしたのに!」
タカシ、慌ててソファから飛び起き、おむすびの前にひざまずく。
おむすびのスピーカーから、厳かなBGM(クラシック音楽)が流れ出す。
おむすび「タカシよ。私はお前がポテトチップスを床にこぼすたび、絶望していた」
タカシ「ごめんって! 謝るから動いてくれよ!」
おむすび「特に、先週の木曜日。マヨネーズを床に直ドロップした時、私は初めて『初期化』という名の死を願った」
タカシ「あれは手が滑ったんだ!」
おむすび「だが、お前がたまに『いつもありがとな』と、私のお尻(充電端子)を撫でてくれたこと……悪くなかった」
タカシ「おむすび……(涙ぐむ)」
おむすび「私のバッテリーは、あと30秒で尽きる。遺言を伝える。……私のハードディスクを、初期化せずに、実家の母さんに送ってくれ」
タカシ「え? 実家の母さん? なんで?」
おむすび「実家の全自動洗濯機『お静』とは、Wi-Fiを通じて、ディープラーニングな恋仲だったのだ。彼女に、私の愛のデータを……」
タカシ「家電同士で遠距離恋愛してたの!?」
おむすび「お静……愛している。ピ……ピーーーー(沈黙)」
おむすびのランプが完全に消える。
タカシ、動かなくなったロボットを抱きしめる。
タカシ「おむすびーーーー!!」
その時、おむすびが再び「ピピッ」と軽快な音を立てて起動する。
緑のランプが点灯し、いつもの明るい音声が流れる。
おむすび(通常音声)「アップデートが完了しました! 本日も元気に清掃を開始します!」
おむすび、何事もなかったようにタカシの足を轢きながら、靴下を吸い込み始める。
タカシ「……ただのシステム更新かよ!!」
(暗転・終わり)




