第一章3『真実はいつも残酷で』
「『英雄』ラクールっ…!」
「なぁ、その英雄って呼び方やめてくんね?俺にお似合いなのは『愚者』か『無駄飯喰らい』、『負の雷光』辺りがちょうどいいとこだろうよ。お好きなのをどうぞ」
ひょうきんとした声色でラクールはそう言うものの、先ほどまで人を驕り高ぶる面をしていた彼らは顔面蒼白。冷や汗が何滴も流れる。
「ん…?」
そんな彼らを尻目に、ディノスはある違和感を覚える。人間でも、ラクールでも、ましてや自分でもない第四者の気配を感じ取ったと言うべきか。ほぼ直感とも言えるそれはすぐさま現実となる。
「お前さんたち見逃してやっからよ、とっとと帰りな。誰がこの街守ってやってると思ってんだ。ほら見ろよ」
言葉を一言も発せない彼らに対して、ラクールはやれやれと言うかのように肩をすくめ、指で"ぱっちん"する。すると…
「な…ぁ!?」
「この山の近く、たまーに恐獣が寄ってくるんだわ。兄弟はともかく、こんなところにいたら人間なんか瞬く間に喰われちまうぜ?」
突如現れた鳥型の化け物がラクールをついばま…ない。ラクールが振り向きもせずあっさり超高出力の雷をソレに落とし、軽く絶命させた。
「ほら、帰れって。何度も言わねーぞ?」
「「「———ッ!!」」」
そのラクールの言葉を皮切りに、ディノスに絡んでいたチンピラたちは蜘蛛の目を散らすかのようにあっさり逃げ去った。
それを確認したラクールはため息をつくと、ディノスの方に振り向き「よっ」と手を上げた。
「何で…オレを助けてくれたんだ?そもそも、あんたは誰だ。馴れ馴れしくされるほどの交流なんて…」
「おーっと、一度に聞きすぎだ。オレはラクール。ただのラクールさ。実はここだとちと有名人なんだぜ?兄弟。あ、有名鰐か」
「有名なのはあのチンピラの反応でよくわかってるが…鰐だと?」
いくらディノスでも極限の疲労とストレス、そして情報の混濁もあれば狼狽える。だが、今のディノスには聞き捨てならない言葉が次に繰り出された。
「何で助けたか、ヒントを与えっか。『夢見るだけでは』」
「—— ? 星は落とせぬ」
「竜も?」
「無敗ではなく」
「———ロロフにも?」
「情けはある…っ!!!」
これらの慣用句はモンスターパートナーというゲームの世界で使われていた造語の慣用句であり、当然現実世界には存在しない。少なくとも、人間には全く使えなかった。
「そうさ。つまり俺と兄弟は同郷。同じ世界からやってきたってわけよ。しかも兄弟は俺のこと知らねーかもだが、俺は兄弟のことよくわかってんだぜ?」
顔が見えないラクールが少しばかり笑みを声色に含ませながらそう言うと、続けて意味深な言葉を挟む。
「…おい、どういうことだ」
「その質問の前に、一つ聞きたいことがある。——兄弟が最後に倒したボスは誰だ?」
「…?ま、魔王カタストロだ」
「——なるほどな」
ラクールは納得した様子を見せ、そして次に言葉を続ける。それはディノスにとっては衝撃的で、受け入れられないことで…
「あのな、兄弟。スマホゲームっつー…子供とか大人が遊ぶ娯楽みたいなものがあるんだわ」
「…よくわからん」
「だろうな。まあこれは実際見てもらった方が早いから割愛するが…まあつまり、俺たちはそのゲームの舞台であり作られた世界、電子の世界からやってきたってわけよ。俺たちの場合は『モンスターパートナー』な。もうサービス終わっちまったけど」
「なっ…!???」
驚愕し硬直するディノス。夜の冷たい風が響くが、それすらも気にならない、否…気にするほどの余裕もないくらいの衝撃。そんな彼に、ラクールは続ける。
「でな、そのゲーム世界からやってきたわけだが…兄弟はモンスターパートナー1章の時系列。俺はモンスターパートナー10章の時系列からやってきたってんだ。兄弟が俺のことを知らないのも無理はない」
「そういう…ことだったのか。単純な異世界ってわけではなかったんだな。——待て、待ってくれ」
納得した様子を見せるディノスだが、不意に一つの最悪な未来が頭によぎり、冷や汗が流れる。的中しないでいて欲しくない、最悪の未来予測だ。
「ラクール…元の世界に戻れる方法は、あるのか。『モンスターパートナー』に」
そう聞かれたラクールは、少し目を逸らして、でも意を決したかのようにこうとだけ言った。
「兄弟…俺たちの故郷は、もう滅びたんだ。戻れなんて、しねぇよ」
ディノスは、膝下から崩れ落ちた。




