第一章2 『彷徨い続けた結果』
行く宛もない、そもそもここがどこかもわからない、常識すらわからない。そして喉の強烈な渇きと空腹を抑えながら、ディノスはなんとか辺境の公園にたどり着いた。時刻はもう夕方か?
ろくに手入れもされてないのか草はボーボー、2つある内のブランコも一つは壊れている。
水を得られるかもと思って蛇口を捻ってみたが、出てきたのはサビだけだった。もっと整理してくれと管理人に文句を言いたい。
「アルマは今頃何してんのかな」
アルマとは、故郷では長い年月を相過ごしたディノスの相棒である。黄色いアルマジロで盾役。弟分だ。
ちなみに飯のまずいディノスと違い作る料理が何もかも美味しく、もちろん他の家事も万能。
非常に専業主夫適性が高く、一家に一台あると便利。あと凶悪な顔をしたディノスと違い可愛らしくて愛嬌がある。
「あーだめだだめだ。心配だが、数日くらいならあいつも大丈夫だろ」
アルマは少々抜けているところもあるが、あれで案外しっかりとしている。こういう逆境のときほど彼は輝くと、長い付き合いでそのくらいわかっているのだ。
———そもそもこの現実世界にアルマがやってきていない可能性もあるのだが、それには目を瞑っておく。
「仕方ねぇ。今日はここで野宿するしかないな。明日から本格的に動き始めるとして、まずは火起こし…」
火起こしと言っても、木を使って摩擦で発火させる原始人スタイルをする必要はない。ディノスにはこのギターがあるのだ。彼は元々雷使い、その力を少し利用すれば火くらい容易い…
「む…?」
彼は違和感を覚えた。ピリッとした小さな電流により、確かにかき集められた落ち葉に火はつけれた。諸々の疲れなどで手足が痺れて意識が朦朧とはするが、自分の力が弱まってるわけではない。
しかし、違うのは感覚。火起こしなどかつての冒険で何度もやっていたはずなのに、初めての経験かのような…——たとえば、経験値がリセットされていると言うべきか。そんな感触がした。
「ははは、まあ疲れてるからしゃーねぇわな。切り替え切り替え」
「なぁ兄ちゃん、ちょっとツラ貸せや」
乾いた笑いで自分の疑問を誤魔化そうとしたディノスだったが、突如野太い声が聞こえた。
気が付かなかったが、やってきたのは釘バットを持った男。いわゆるチンピラである。
彼の侮蔑と嘲弄まじりの視線、それを感じつつもディノスもまた彼らを値踏みしていた。
「おー、このオレになんか用か?弾き語りして欲しいってんなら金がいるぜ」
「そんなんじゃないよ。悪いけと、ここ俺たちのナワバリ。出ていきなよ、そのギターとマントを置いてな」
「出てくのはいいけど、後者は聞き捨てならんぞ」
ナワバリだとかどこの世界でもこういうのはいるのかと感心していたディノスだが、後者…ギターとマントを捨てることだけは容認できなかった。
「こいつはオレの家宝だぜ?追い剥ぎしようってんなら衛兵でも…」
「ははは、警察はお前らなんか守らないよ。基本的に人権なんか認められてないし。逆に抵抗でもして俺を殴ってみなよ、即ムショ行きだ」
「はぁぁぁぁぁぁ…………………さっきから厄介なことばっかだぞ」
刑務所行きか大人しく追い剥ぎを受けるか。熾烈な二択を迫られている。もっとも、理想とする答えはどちらに対してもノーだが。というか、差別はまだしも権利すら認められてないというのはどうなのだ。世紀末ではないのか。
「見た限りだとこいつら人間の身体能力はカスだ。頭がぐらついてる今でも逃げようと思えば余裕で逃げれるだろ」
しかし、ディノスにはここの地理がわからないのでどこへ逃げるか宛もない。そもそも、やっと見つけたこの場所を捨ててどこかへ行くのも惜しい。それに、これ以上はもう体力が持たないのだ。さらに気がついたら囲まれている。
「観念しなよ。命まではとらな…」
ニヤついた男がジリジリとディノスへ近づ…
「おー、やっと見つけたぜ」
その場にいた全員が、突如現れた全身を深緑の鎧で覆った男の声により固まる。顔すらも兜に阻まれて見えない。しかし、どうやら彼はかなりの有名人のようで
「美少女かと思った? 残念!中年サルコスクスのラクールちゃんでした!」
肩をすくめる仕草をした鎧男は、その場の全員の注目を掻っ攫い、少し苦笑しながらそう名乗った。




