11.認めない
助けに入ったメイドはレナと名乗った。
背が高く、青髪のショートボブがよく似合う。
中性的な顔立ちで海外のモデルの様な雰囲気もあって美しい女性だが歳はまだ十八歳らしい。
外国人の年齢分からん。
それにこの世界には美男美女しかいないのか。王宮だからだと思いたい。
公爵が出て行った後、レナに身体に不調はないかと散々確認されたが、翠の身体は至って健康だ。なんならあのジャムひと掬いで指先までエネルギーが行き渡った気分だ。
だがきっとそれは朝までぐっすりと眠ったからに違いない。
試しにレナにフィゴジャムを食べてみて欲しいとお願いしたが全力で断られた。
代わりに部屋の外にいる騎士にひと匙舐めてもらったら、首を絞められた蛇の様に床をのたうち回っていた。大人として見て見ぬふりをしてあげようと扉を閉めたので、その後その騎士がどうなったのかは分からない。
「その、害獣避け?に使うフィゴの実ってジャムみたいに加工して使うの?」
レナに聞くと「いいえ」と返事がきた。フィゴの実を使用する際は単にすり潰すだけだそうだ。わざわざジャムみたいに煮詰めたりはしないらしい。だから加工されたフィゴの実自体見るのが初めてで、食べるのを止める事が無かったそうだ。
改めて瓶の中身を見てみるとその色の異様さが際立つ。異世界だからとコバルトブルーなジャムを受け入れてしまったが日本なら裏の成分表を舐め回す様に見ているところだ。
「公爵様はこれを自分で作ってきたって事かな・・・」
わざわざ嫌がらせのために?
どれだけ陰湿なんだよ。濡れ女もびっくりだよ。
「公爵様は料理をなさいませんし、それに・・・」
ミラはそう言って首を傾げたまま考え込んでしまう。
確かに公爵様と言えば王族に次ぐ高貴な身分だ。そんな人が厨房には立たないだろうし、料理の仕方を知っているとも思えない。
しかし公爵家の料理人が作らないとも限らない。
「普段公爵様はこれをお召し上がりになるとか」
と聞くと「いいえ」と即答で返ってくる。
「あんなものを作って出せば、作った者はすぐさま牢獄行きです」
ミラはついさっき見た床を暴れ回る騎士を思い出した様だ。
あのもがきっぷりは最早毒だもんね、と翠も遠い目になる。
と言うことは考えられるのはただ一つ。
「実は公爵様も私を邪魔に思っていたとか」
言った後でチクリと胸が痛んだ気がした。
首を傾げる翠に、ミラははっきりとした口調で言う。
「それはあり得ません。彼の方はミドリ様に危害が及ぶ事を望んでおりませんから」
アイスブルーの瞳が真っ直ぐと翠に注がれる。静かで確信めいた目だ。
どうしてそこまで言い切れるのか分からないが、これ以上疑うのは野暮な気がした。
ならば何故公爵は翠にフィゴジャムを食べさせたのか。
「もしかして何処か一部の地域でこれを美味しく食れる料理法が・・・」
尋ねるまでもなく「無いです」と即答が返ってくる。
もうこれ以上の抜け道は思いつかない。
翠はしばし考える。そして決心する。
「レナさん。さっき渡したフィゴジャムを貸して貰っていい?」
「ミドリ様、私に敬称は不要です。ジャム・・・害獣避けをどうするのですか」
レナはわざわざ言い換えてからエプロンのポケットからフィゴジャムを取り出して、ギリギリ翠の手が届かない位置で見せてくる。
「それは」
「まさか食べたりしませんよね」
「・・・」
「ミドリ様、これは人が食べるものではありません」
子供に言い聞かせる様にレナははっきりとした口調で言う。
翠も認めたくは無いがはっきりと言う。
「でも美味しかったし」
レナはジトリと視線を向けてくる。言いたいことは大体分かる。なので先に言う。
「味覚がおかしい訳じゃないから」
認めない。馬鹿舌だなんて断固として認めない。これでも職場では翠のご飯は美味しいと評判だったのだ!
レナは疑わしい目を向けてくるがこればかりは譲れない。
翠の味覚が正常だと証明するためには、翠の作った料理を誰かに食べてもらうのがいいだろう。
「と言うことで厨房を貸してください」
「何故そうなるのかは分かりませんが、でしたらまずはお召し物を変えましょう」
そう言ってレナが持ってきたのはマリーアントワネットもびっくりなモリモリヒラヒラのピンクのドレスだった。
真顔でそれなの? それがスタンダードじゃ無いよね。この世界はそんな感じじゃ無いよね。
これを着てるのが結依ちゃんでも爆笑する自信あるよ。
翠が言えることはただ一つ。
「チェンジで」




