結婚式
「わぁ……!綺麗ー!」
「結婚式なんて、いつぶりだろうな。」
「綺麗な所だね。」
二か月が経って、三月末の学期が上がる頃。
結婚式に招待されてた俺達は、五人でおめかしをして結婚式場に足を運んでいた。
浩介達はスーツを新調して、悠治は学ランで、俺は高校卒業してから買ったスーツで、親戚の控室に足を運ぶ。
「始めまして、悠介さん。綾ちゃんの夫になる、良太です。こんにちは、坊や達。今日は来てくれてありがとう。」
「始めまして、良太君。今日は結婚式に呼んでくれてありがとう。子供達も、参加させてくれるとは思わなかったよ。」
「良いんです。綾ちゃんのお兄さんが優しい方だっていうのはずっと聞いてましたし、そのお子さん達にも、お祝いして欲しかったですから。」
ソフトモヒカンの、ちょっとぽっちゃりした感じなおっとりした、そんな雰囲気の良太君が、挨拶に来てくれる。
綾ちゃんは今ドレスを着てる最中らしくて、披露宴まではまだ時間があるから、って挨拶をしてくれたんだろう。
「悠介さん、思った通りの人みたいで、ちょっと安心しましたよ。優しそうな人だって、綾ちゃんから聞いて思ってましたけど、こうして血の繋がらない子供達を立派に育てられてて、本当に優しい人なんですね。綾ちゃんが自慢したくなるのも、わかります。」
「褒めても何も出ないよ?俺は優しいんじゃない、臆病なだけだから。でも、こうして幸せになってくれる人が近くにいるっていうのは、嬉しいな。良太君も優しそうだ、綾ちゃんを任せてもいいと思える。」
「光栄です。それでは、俺は準備があるので、また挙式で。」
「楽しみにしてるよ。」
そういうと良太君が控室を出て行って、入れ替わりでお父さんとお母さんが入ってくる。
「あらあら!ばっちりおめかしして可愛いわねぇ!」
「悠介、先についていたのか。」
「おはよう、お父さん、お母さん。今日は、結婚おめでとう。」
「お父さんのお洋服はなんていうの?」
「紋付袴、っていうんだよ、浩介。家紋が入ってるから、ちゃんと受け継いできた物だね。お父さん、似合ってるよ。」
「そうか、ありがとう。」
ウェルカムドリンクを貰って、飲みながら暫しの漫談。
今日の結婚式には、綾ちゃんの学生時代の友達と、会社の同僚と、良太君の同僚と、親族と、同級生と、ご両親が来るって話だ。
「国枝さん、今日はお日柄もよく……。そちらの方が悠介君ですね?良太からお話は伺っています、ご立派な方だと。」
「始めまして、坂入悠介と申します。こっちは息子達です。大きいのから悠治、浩希、浩介、悠介です。浩希と悠介以外は血は繋がってませんが、大切な家族です。今日は参列を許可していただいて、ありがとうございます。」
「可愛らしい子供達ですね。私は良太の母、前田智子です。これから先、お世話になりますね。」
「父の前田亮喜です。坂入さん、今日は来てくださって感謝しています。二人とも、坂入さんに門出を祝って欲しがっていましたから。」
良太君の両親は、良太君に雰囲気が似ていて、何処かおっとりとした感じだったけど、性格も似たんだろうな、優しそうな人達だ。
愛らしい表情をした両親で、この両親からなら良太君みたいな良い子が育つのも納得だ、って感じだ。
「式が始まる前にご挨拶をと思っただけですので、私達はこれで失礼しますね。本当に、来ていただいてありがとうございます。坊や達も、今日は楽しんでいってね?」
「ありがとうございます。」
そういうと、ご両親は控室を出て行って、俺はちょっと緊張してたからか、ふーってため息をつく。
式が始まるまで、もう少し時間がある、ちょっとの間待ち時間だ。
「ねぇお兄ちゃん、お兄ちゃんも結婚したかったの?」
「そうだな。結婚の約束をして、それから暫くして、春ちゃんが事故で亡くなって。それ以来、結婚は考えなかったな。」
もう昔の話になっちゃうだろう、八年も前の話なんだから。
これから先、浩介達が結婚するかもしれない、その時にどんな挙式をあげたいか、なんていう参考にでもなればいいな、と思う。
「それでは、新郎の入場です。」
チャペルにて、悠介達が席についてから、視界の女性が進行し始める。
まずは良太が入ってきて、タキシードがよく似合っている、と悠介は感心しながら、入ってくる良太を眺めていた。
「良太さん、かっこいいね。」
「そうだな。」
隣に座っていた悠治が、思わず口を開く程度に、良太のタキシード姿は似合っていて、おっとりとした見た目とは相反する凛々しさがあった。
チャペルの壇上に立って、良太が入口の方に向き直る。
「それでは、新婦の入場です。」
ありきたりな、懐かし気な結婚向けの曲が流れる中、紋付き袴を着た父に連れられて、綾が入場する。
「きれい……!」
浩介達は、始めてみるウェディングドレス姿の綾に見惚れていて、わぁと拍手をしながらざわついている。
悠介は、春によく似た綾のウェディングドレス姿を見て、春と結婚していたら、こうして結婚式を行って、自分が良太の立ち位置にいたのかもしれない、と少し感傷的になる。
「それでは、誓いのキスを。」
式は円滑に進み、誓いのキスの時間になった。
綾と良太がキスをして、それを見て浩介達は色めき立つ。
拍手に包まれ、二人は指輪を交換し、はめ合い、チャペルでの式は滞り無く終了した。
「では、ケーキの入刀をお願いします!」
「大きい!」
「ウェディングケーキって言ってな、あれがお祝いなんだよ。」
「そうなんだ!」
披露宴が始まって、お色直しをして薄緑のドレスに着替えた綾ちゃんと、良太がケーキに入刀する。
浩介と浩希と悠介は興奮気味にそれを見てる、それもそうか、結婚式で出す様なケーキの大きさは見た事がないだろうしな。
「では、一口!」
「綾ちゃん、はい。」
「ありがと、良太。」
ウェディングケーキを綾ちゃんが一口食べて、披露宴が本格的に始まった。
「美味しそう!」
「食べ方、覚えてきたもんな。」
「うん!」
ケーキ入刀が終わって、まずはオードブルが振舞われる。
事前にテーブルマナーを教えておいたから、戸惑う事もないと思うけど、実際にこういう場所で食べるのは初めてだろうし、美味しいと良いんだけど、と想いながら、オードブルのカルパッチョを食べる。
「美味しいね!」
「美味しいよぉ?」
「お魚美味しい!」
テーブルマナーを仕込んだだけあって、丁寧に食べていく浩介達。
俺はナイフとフォークが逆な人だから、教えるのに少し苦労したけど、でも大丈夫そうだ。
「ではここで、新郎新婦のプロフィールをご紹介します!」
拍手の中、綾ちゃんと良太のプロフィール紹介が始まる。
綾ちゃんは小学生の頃から知ってるから、懐かしい写真が出てきたなーと思ったけど、良太の幼少の頃の写真が出てきて、今のまま小さい感じの良太が映ってて、ちょっと笑っちゃう。
本当にあのまま成長したんだなって、そう思うと笑えて来るし、ほっこりする。
「パンでございます。」
「ありがとうございます。」
次に出てきたのはディナーロールで、塩味の入ったバターと一緒に食べると、ふわりと小麦粉の香りが口の中に漂う。
「美味しー!」
「浩くん、私の一つ食べてくれない?お腹いっぱいになっちゃいそうだわ?」
「ありがとー!」
隣で見てると、浩介がお母さんからパンを一つ受け取って、頬張ってる。
微笑ましい光景を眺めながら、俺もパンをかじる。
「では、写真撮影を行いますので、親族の方からどうぞ!」
「あら、行きましょ!」
「俺達も?」
「勿論よ!だって、私達家族でしょう?」
お母さんとお父さんに連れられて、俺達五人も写真撮影に参加する。
スタッフさんにスマホを渡して、写真を撮ってもらいつつ、プロのカメラマンにも写真を撮ってもらう。
この光景を、ホントは夢見てた。
春ちゃんと結婚して、結婚式をやって、綾ちゃんとお父さんとお母さんと写真を撮って、なんて事を。
ちょっと泣きそうになる、でも今は泣くところじゃない。
笑顔で写真を撮って、次は新郎のご親族が写真を撮る。
「お兄ちゃん、ありがとうね。今日来てくれて、ホントに良かった。」
「可愛い妹の為だからな、これくらいお安い御用だ。」
「……。お姉ちゃんがいたら、喜んでくれてたかな。」
「きっとな。」
写真撮影の合間に、小声で話をする。
綾ちゃんは一瞬泣きそうな顔をする、でもそれは、今日の主役には似合わない。
「ほら、綾ちゃん、笑って?今日の主役が悲しくて泣いてたら、春ちゃんは喜んでくれないよ。それに、俺は誇らしい。綾ちゃんが立派に育ってくれた事が、今日結婚する事が。だから笑うんだ、笑って、幸せだって。」
「うん……。」
小さな声で、励ます。
綾ちゃんは、少しだけ涙をこぼした後、笑った。
「デザートですが、ビュッフェ形式になりますので、皆様お好きなものをお取り下さい。」
「了解です。皆、取りすぎて食べきれない、はマナーが悪いからな?」
「はーい!」
「うん!」
披露宴は順調に進んでいって、デザートの時間だ。
デザートはビュッフェ形式って事だから、皆でそれぞれ好きなやつを取りに行く。
「お兄ちゃん、これはなあに?」
「これはティラミスって言ってな、コーヒーとクリームのお菓子だよ。」
「こっちは?」
「これは……。ピスタチオのケーキだな。ピスタチオっていうのは、お豆の種類だよ。」
まだ色んなお菓子が初見な浩介に付き添って、俺もデザートをよそう。
浩介は悩んだ後、プリンとティラミス、それにウェディングケーキの切ったのを選んだみたいだ。
「ちょっと苦い……。でも、美味しい!」
「プリンも食べてご覧?卵と牛乳と、バニラビーンズを合わせて蒸し焼きにしたものだよ。」
「うん!美味しい!僕プリン好き!」
「浩くん、初めて食べるものが多いのねぇ。聞いてはいたけれど、なんだかちょっと切ないわね。」
「切ない?」
「うーん、どう言えば良いのかしら。胸がギューッとなる事よ。きっと、そのうちわかる日が来るわ。」
プリンを嬉しそうに食べてると、お母さんが少し悲しげな顔をしてる。
浩介が碌なものを与えられてこなかった事は話してあった、でも子供が大好きであろうプリンまでとは、と思ってるんだろう。
俺も色々と試して、アレルギーなんかはない事は病院の検査でわかってたから、食べさせてはいたんだけど、まだまだ食べた事のない料理は多いんだと思う。
それは、俺達が想像するよりも、ずっと辛い環境に身を置いていたからだと。
「そういえば悠介ちゃん、綾ちゃんが何か言っていたけど、知ってる?」
「綾ちゃんが?」
「……。スピーチを頼みたい、と言っていたが、聞いていないか?」
「俺に?」
初耳だし、驚きだ。
サプライズのつもりだったのか、それとも言い忘れてたのか。
スピーチ自体は構いやしないけど、何を話せば良いのやらだ。
「それではここで、新婦のお兄様からのスピーチをいただきます!」
「どうしたもんかなぁ……。」
デザートを食べ終わった頃、呼ばれる。
俺は腹をくくって、壇上に立つと、マイクを受け取って、深呼吸する。
「皆さん、本日はお二人のご結婚のお祝いに参列していただき、ありがとうございます。新婦の綾ちゃんの兄として、関わらせていただいております、坂入悠介と申します。……。俺は、厳密には家族ではありません。綾ちゃんのお姉さんである春ちゃんと、結婚の約束をしていただけです。でも、綾ちゃんはそんな俺をお兄ちゃんと言って下さった、それに感謝しています。さて、綾ちゃんと俺の出会いは、綾ちゃんが小学五年生の頃になります。最初はお姉ちゃんを取り合うライバルとして認識されていました、それだけ綾ちゃんが春ちゃんを好きだったんだなと、俺は嬉しかったです。それが、俺達が高校三年生の二月、春ちゃんは亡くなりました。それから、暫く疎遠でしたが、結婚式に出てほしい、と正月のはがきに書いてくれていて、八年ぶりに会いました。大人になった綾ちゃんは、春ちゃんによく似ていて、それでいて立派な女性になっていました。……。俺は、誇らしく思います。……、綾ちゃんが、あんな小さかった女の子が、……、お姉ちゃんにべったりだった甘えんぼさんが……、結婚という舞台に立って、こうして……、こうして、結婚してくれた事が。……、良太君になら、任せられる。俺も、きっと春ちゃんも……、きっと、春ちゃんもそう思ったと思います。……。改めて、結婚おめでとう、俺は誇らしい、春ちゃんもきっと喜んでいるよ。」
涙が出てくる、でもこれは、嬉しいんだ。
悲しいんじゃない、嬉しくて、誇らしくて、ちょっと寂しくて。
「お兄ちゃん、泣いてる……。悲しい事があったのかな……?」
「違うよ、悠にぃは嬉しいんだよ、浩くん。」
「そうなの?嬉しいのに泣いてるの?」
「そう言う事もあるんだよ。」
悠介が泣いている事を不思議がった浩介に悠治が小声で話をする。
と言いつつ、悠治も驚いていた、悠介は強い兄、という印象があった為、泣く姿があまり想像出来なかった。
「俺は……。俺は、これから先結婚する事はないでしょう。ずっと、ずっと、春ちゃんが好きだから。……。でも、いつか春ちゃんに会った時に、……、綾ちゃんは立派になったよと、俺達の妹は、こんなにも……、立派になったよと……。いつか、報告が出来るのが、今から楽しみです。……。本当に、結婚おめでとう。お二人のこれからが、祝福に満ちている事を、祈ります。」
嗚咽をこぼしながら、頭を下げて挨拶を終える。
涙は最後まで止まってくれなかったけど、でも良かったと思える。
拍手の中、ちょっと恥ずかしいと思いながら、席に戻る。
「悠介ちゃん、ありがとう。」
「ううん、これくらい、なんでもないさ。」
「きっと、春ちゃんも見守ってくれるわよね。きっと、貴方の傍で、一緒に。」
「きっとね。」
お母さんもぽろぽろと泣きながら、俺も泣きながら、話をする。
きっと、春ちゃんは見守ってくれている、きっと、俺達の傍にいてくれている、きっと。
わからないけど、死者が何をするのか、どこにいるのかなんてわからないけど、俺は無神論者だから、地獄だとか天国だとか、極楽浄土だとかは信じていないけれど、でも。
春ちゃんはきっと、見守ってくれてると思う。
「結婚式、どうだった?」
「お姉ちゃん、綺麗だった!」
「ねぇ!ご飯も美味しかったよぉ!」
「綺麗だった!お姉ちゃん、幸せそうだったね!」
「ね。僕達も参加させてくれて、嬉しかったよ。」
帰りの車の中、興奮気味な浩介達と、助手席で何事もなく終わって良かったってホッとしてる悠治。
俺は、泣いた姿を見られたのがちょっと恥ずかしかったけど、でも、皆で綾ちゃんの門出を祝えて良かったな、って思ってる。
「皆もいつか、ああやって結婚するのかね。俺、楽しみに待ってるよ。」
「悠にぃは結婚しないの?」
「俺か?しないかな。皆がいてくれるだけで幸せだし、春ちゃんの事を忘れて次の恋愛、なんて考えられないから。生涯、忘れられないと思う。」
「そっか。でも、それだけ想ってくれてるって知ったら、春ちゃんは嬉しいだろうね。だって、悠にぃは素敵な人だから。だから、そんな悠にぃに想われてるっていうのは、嬉しいと思う。」
「そう言ってくれるのは嬉しいな。」
「本心だよ。」
悠治は、いつの間にかこんな言葉を言う様になったんだろうか。
もう中学二年生って言っても、まだまだ子供だと思ってたから、ちょっとびっくりだ。
子供っていうのは、いつも間にか成長していく、いつの間にか、親を超えていく。
それを実感した様な気がした。




