転生者が転生して色々とやらかした結果、原作から大きくルートが外れてしまった世界の話
アリッサ・ベナリーがご近所でも有名な占い師の話を聞いたのは偶然だった。
「うーん。アタシは興味ないかな」
「まぁアリッサは、占いとか信じて無さそうなタイプだもんね」
「そう! 自分の未来は自分で切り開かないとね!」
「アリッサらしいわ。あー。でもさ。なら、アイツ。オリヴァーについて聞いてみたら?」
「オリヴァーについて? 彼も占いには興味無いと思うけど」
「そうじゃなくて! オリヴァーの浮気癖がどうやったら直るかって聞くのよ」
からかう様な友人の言葉に、アリッサは軽く息を吐きながら興味が無いなという意思を示した。
だが、友人の言葉は止まらない。
「アリッサだって、本当は不安なんじゃないの? フラフラ知らない女を追いかけてどこかに行っちゃったらってさ」
「それはまぁ……そうだけど。でも、その時は私の頑張りが足りなかったのかなって思うわ」
「それはおかしいでしょうよ。アリッサ。なんでそこまでアイツに尽くすの? アリッサにはアリッサの人生があるんだからね」
「……そうかもね。でも、両親が死んじゃって、独りぼっちになった時、手を差し伸べてくれたのはオリヴァーだけだったの。だから、オリヴァーが私を要らないって言うのなら、それは仕方ないかなって」
「うーん。子供の頃の話でしょ?」
「そうだよ。子供の頃の話。だからこそ。苦しんでいる人に手を差し伸べられる姿が、オリヴァーの本質なんだと思うわ。だから、私もオリヴァーを好きになったの」
ふわりと柔らかい笑顔を浮かべるアリッサに、友人はそれ以上何もいう事が出来ず、なら、二人の将来でも占って来なさいと半ば無理矢理アリッサを送り出すのだった。
強引な友人の行動に、アリッサはクスリと笑いながら『よく当たると評判の占い師』の元へと向かう事にした。
おそらく友人も占って貰ったは良いが、当たるか不安でアリッサも巻き込みたいのだろうと考えながら。
そして、占い師の元へとやってきたアリッサは、明日の天気でも占って貰おうかしらと占い師に声をかけたのだが……占い師の反応はアリッサの予想とは大きく違っていた。
アリッサを見て、目を大きく見開き、パクパクと口を開いている。
「えと? あの……占い師の方ですよね?」
「え、あっ! そ、そうです! そういう貴女はアリッサ・ベナリーさんですよね!?」
「え、えぇ。そうですが」
突如として占い師に名前を当てられ、アリッサは少し気持ち悪さを感じながらも頷く。
それに、占い師は大変満足した顔で頷き、占いの要件も伝えていないというのに、勝手に占いを始めた。
占い師など話すのも初めてであったアリッサは、これが占い師というモノなのかなと考えながら、水晶の前で両手をかざしている占い師を見つめた。
そして……。
「アリッサさん。まもなく貴女の前に運命の人が現れるでしょう?」
「運命の人? なら、もう居ますよ」
「いえ! 貴女は騙されているのです! 今、貴女を利用している男はクズです! 騙されてはいけません」
アリッサは、一瞬心の中で生まれた罵倒を飲み込んだ。
パン屋で働いていた経験から、苛立ちを何とか抑え込んでにこやかに笑う。
「オリヴァーはクズではありませんよ」
「しかし、色々な女性に手を出していますね」
「声を掛けているという様な話は聞きますね」
「その男は貴女を使用人の様に扱っているのです! 貴女を利用しているだけ。本当に貴女を想い、慈しんでいる方は他に居ます」
まさか!
とアリッサは、叫びたくなった。
冬場の水仕事は辛いだろうと、仕事で疲れているだろうに代わろうとオリヴァーが自分を利用している?
とても信じられない様な話だ。
アリッサが少しでも体をふらつかせれば、ベッドへと連れてゆき、ベッドの横で落ち着かずウロウロとしているオリヴァーが、アリッサを利用している。
鼻で笑う様な話だ。
だいたい、オリヴァーが女性に声をかける時は、全てアリッサに話が届く時だけであるし。
彼が働いている工場からは、毎日頑張って働いていて、仕事が終わると同時にアリッサの待つ家へと走って帰っていると聞いているのだ。
浮気などしている時間はない。
そもそも体が目当てであるというのなら、オリヴァーへと昔から好意を向けているアリッサに手を出していないのがおかしいではないか。
まぁ、自分に魅力が無いと言えば、そうなのだろうが、とアリッサは不意に思い出してしまった最近の悩みにため息を吐いた。
そのため息を、おそらくは酷く自分にとって都合よく解釈したであろう占い師は突如、アリッサの手を握った。
「っ!」
「悩みがあるのですね! では、運命の方の元へ導きましょう!」
「結構です!」
「大丈夫。変化は怖い事ではありませんよ!」
グイグイとアリッサの手を引く占い師に、アリッサの怒りは遂に頂点に達して、声を上げようとした。
しかし、占い師の足元に光る円と模様が生まれ、アリッサは動揺で怒りを失ってしまう。
「これは!? 魔法!?」
「ご安心ください! これはただの転移魔法です!」
「まっ!」
アリッサが待ってという前に、転移は無事行われ、目が眩む様な閃光が世界を包み、次に気が付いた時、アリッサは見知らぬ場所に立っていた。
周囲には綺麗に整えられた庭園が広がっており、その真ん中に白亜のテーブルと椅子が配置されている。
椅子には当然の様に、この庭に相応しいだけの身分を持つであろう男たちが座っていた。
「あぁ、占い師。どうやら見つけたようだな」
「はい。彼女こそがこの国を救う聖女でございます」
「ほぅ。確かに麗しい少女だな」
値踏みされる様に向けられる視線に、アリッサは気分を酷く害しながら恐怖と怒りを抑える為に、自分の左手を握りしめた。
いつも優しいオリヴァーからは感じた事のない視線、感情。
貴族という物が、軽い気持ちで庶民を害すると知っていたアリッサはなるべく不興を買わない様にと膝を付けて頭を下げようとした。
しかし、隣に立っていた占い師がそんなアリッサの行動を止める。
「アリッサ様は聖女となられるのですから。その様な事をする必要はございませんよ。ね? 殿下」
「あぁ。その通りだ。君が聖女であるというのならば、私の妻となる。であればその様な必要はない」
「っ! お、おそれながら……私はただの町娘です。聖女という様な地位の御方ではございません」
祈る様な気持ちでアリッサは言葉を向ける。
殿下と占い師は言っていた。つまり、目の前に座っている男は王族なのだ。
逆らえば、死が待っている。
「ふむ? との事だが」
「うーん。ちょっと荒っぽい方法ですが……! てい!」
王族に対して怯えていたアリッサへと、突如として占い師から黒いナニカが飛ばされる。
おそらくそれは魔法であろうが、アリッサにはソレがどういう効果で、何が起きるのかは分からない。
が、その黒いナニカはアリッサにぶつかる直前で、光る何かにぶつかって消滅してしまった。
呆然と何が起きているのか分からない中、王族の男と、その周りに居た男たちが歓喜の声を上げたのが分かった。
事態はアリッサが考える以上に最悪な方向へと進んでいるのかもしれない。
「今のは、光の魔法か」
「光の魔法は聖女にしか扱えない魔法。という事は、彼女は確かに」
「そういう事でしたら兄上。私も彼女の婚約者に立候補させていただきましょうか」
「ふざけるなよ。彼女は俺の物だ」
「兄上。それはあまりにも不公平というものです」
アリッサの意思を無視して進められる王族の会話に、アリッサは強い恐怖を感じながらそれでもオリヴァーへの愛を守ろうと叫んだ。
例え、ここで殺されるとしても、彼への愛を裏切れないと。
「恐れ多くも! 私には、婚約者が居ます! 将来を誓った婚約者が!」
「なんだと? どういう事だ。占い師」
「殿下。彼女は騙されているのです。彼女を利用し、縛り付けている男が居る!」
「違う! オリヴァーは私を愛している!」
「アリッサ様。それは嘘なのです。真実の愛はここにあります」
何が真実の愛だ。
人の気持ちを踏みにじって!
と叫びたい衝動に駆られながらも、王族の前であるから控えめに言葉を返す。
「真実の愛などと、どうしてその様な事を言えるのですか? 地位や金銭に私が惹かれる事はありません」
「うーん。分からない人ですねぇ。原作だと、割とすぐに頷いてた気がするけど。まぁ良いや。進めていけば変わるでしょ。イケメン王子達に溺愛される方が、どう考えても幸せなんだしさ」
まるで話を聞いていないかの様に、軽く笑う占い師に、アリッサは強い恐怖を覚えながら後ずさった。
そして、これ以上はここに居られないとアリッサは走って逃げだした。
王城はどうやら入る時には厳重なチェックがある様だが、出る時には何もなく、すんなりと町へと逃げ出す事が出来た。
それでも、多くの兵隊が城から出て来たのを確認した時には隠れてやり過ごし、家にたどり着いた時にはすっかり夜になってしまっていた。
ボロボロの体で、恐る恐る家の扉を開けて、急いで背中で扉を閉めて、アリッサはズルズルと滑り落ちた。
安堵よりも、今は泣きたくなる様な感情が強く、アリッサは玄関の扉にもたれかかったまま、ボロボロと涙を流す。
怖かった。
アリッサの胸にあるのは怒りよりも何よりも、強い恐怖だ。
そして、そんなアリッサの泣いている声を聞き吐けたのか、家の奥からオリヴァーが駆けて来る。
「アリッサ!」
「……! おり、ヴぁー」
「無事だったんだな。良かった」
「オリヴァー……! あなた、その傷!」
暗闇の中、僅かな灯りで照らされたオリヴァーの顔は腫れあがっており、鼻からはタラリと血が流れている。
アリッサは急いでハンカチを取り出して、オリヴァーの傷に当てる。
「昼間、兵隊連中がやってきて、アリッサから手を引けって、殴られてこのザマさ」
「っ!」
「アリッサが、これからは王城で生きるなんて言われて、ふざけんなって怒ったんだけど、僕、弱いから」
「ううん! そんな事ない! オリヴァーは強いよ! すごい、つよい」
オリヴァーの傷だらけの手を包み、アリッサはまた涙を流す。
その涙が、オリヴァーの手に当たり、傷が少しずつ塞がっているが、二人は気づかない。
「いや、僕は弱い男さ。君からの愛が信じられなくて、色々な女性に声をかけて、君からの愛が本物なのか、試してしまった」
「知ってたわ」
「アリッサ……!」
「でも、私ももっとハッキリ伝えておけば良かったかもしれない」
アリッサは自身の涙を拭って、オリヴァーの頬を両手で包み唇を重ねた。
その大胆な行動にオリヴァーは目を見開き、信じられないという様な目でアリッサを見る。
「ねぇ、オリヴァー。私はあの時から。貴方が私に手を差し伸べてくれた日からずっと、貴方の事が好きだったの」
「でも、君は傷心だったから、ちょうど近くに居た僕に想いを重ねたんだろう? 僕は卑怯者さ。何も無ければ、君の様な陽の光の様な君と僕が共に居られるはずはない」
「ちょっと! 例え、貴方でも私の大好きなオリヴァーの悪口は言わないでくれる!?」
「ひえっ! ご、ごめんよ」
「ねぇ。オリヴァー。確かに私はあの時、貴方に心を奪われたわ。それは確かにひな鳥が初めて見た物を親と思う様な気持ちだったかもしれない。でもね。今はもう私の中にあの時と同じ気持ちは無いの」
「それは……」
「今あるのは、長い時を貴方と一緒に過ごして育まれた愛だわ。貴方と共に生きていきたいという気持ち」
「アリッサ……! 僕は、僕は!」
「オリヴァー。貴方が良いのなら、一緒に逃げましょう? 彼らの手が届かない場所まで」
「あぁ。勿論だ。今度こそ! 僕が君を守るよ!」
「嬉しいわ。オリヴァー」
そして、二人の影はもう一度重なり、少ししてから二人の姿は町より消えた。
彼らの行方について、城の兵士たちが町へと聞き込みを行ったが、その行き先を知る者は誰も居なかった。
しかし、どこか遠い国で、アリッサに良く似た女性と、オリヴァーによく似た男性。
そして、二人によく似た子供の姿が確認されたが、それを知る者は真に二人の事を思う者達だけであった。




