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第1話「──本日は貴方に報告があります」

「──速報です。今日午前8時過ぎ。〇〇区のマンション内で女性が倒れているのが見つかり、その後死亡が確認されました。警察の発表によりますと亡くなったのは九條雪子28歳。九條さんは有名コンサルタント経営者として知られ、数々の事業を歴任するも一昨年に発生した自社で発売する健康食品による被害により廃業。その後も詐欺グループとの関連性が噂されており。警察は何らかのトラブルに巻き込まれたとして、犯人の行方を追っています」

 夢を見ていると夢の中で『これは夢だ』と認識する事がある。

 今アストリアが見ている夢は見知らぬ土地で見知らぬ自分が事業に失敗し、殺されると言う映像を俯瞰したものだ。


 「──起きなさいアストリア」

ジュローム先生の声が聞こえる……瞼を開けるとランタンの煌々と発する光が目に染みた。周りは真っ暗であり夜明け前の時間と伺える。


 夢から目覚め、アストリアとしての自分が急激に逆転する。だが夢と呼ぶには余りにも長大で現実的過ぎた。今自分の記憶の中では2人の現実の人生が混在しているような感覚に苛まれる。


 アストリアは先程夢で殴られた額に手を当てる、そこには治りきった傷跡の感触が残っている。だがこれは幼き頃、姉妹喧嘩で姉に付けられた物である事をはっきり覚えていた。

 アストリアは昔から姉が大嫌いだ。多分魔族の次くらいに嫌いだろう、そしてその差はレース生地のように薄い。

この寮に入れられたのもある意味その関係性が原因である。しかしアストリアにとってここはそれ程居心地の悪い場所でも無かった。

 

「アストリア……貴方どんな夢を見たらそんなに乱れ回れるのかしら」

 周りを見るとグシャグシャになったベッドの上に自分の体がある。

「目覚めたのならそのはだけた素足を今すぐ仕舞いなさい。はしたない……」

「あっ、すみません先生!」

アストリアは急いで白く細いその脚をベッドの中に引いた。

 「おはようございますジュローム先生。今日も気持ちの良い朝ですね」



「──本日は貴方に報告があります」

 先生の表情は何一つ変化せず、険しさを保っている。 

「まず一つ目。貴方は本日付けで退学となります」

 

「そしてもう一つ。──この国は現在魔族による侵略を受けています。国民は既に西への避難を始めていて、この学校も間もなく閉鎖されるでしょうね」


 

 寝起きに混乱しているアストリアには寝耳に水な話だった。以前から魔族の進行について聞かされてはいる、だがその時にはまだ遠い異国の地での話であった。

「そんな、だってほんの数ヶ月前に隣国が攻撃されたって……」

「彼等の進軍速度は私達の想像を遥かに超えていました。噂では魔法なんて物も戦力に使いはじめたらしく……」


 魔法。そんな高度な術を使えるのは有名な賢者達か北方に住む一部の亜人と言うのが一般的な常識であった。

 

「他の生徒は早朝、皆で集合した後脱出する予定です。貴方には昨日に御父母から帰還する要請を承りました。今玄関に馬車が止まってます、お行きなさい……それと最後に、人が大事な話をしてる時にずっと足を擦ってるのを止めなさい」

「あ、はい……すみません……。それと先生、最後に質問良いですか?」

「──何でしょう」


 「また皆と再会出来るでしょうか?」


 「そうなる事を是非願っています……」


 最後に見た先生の姿は暗澹に打ちひしがれながら窓の方をボーっと眺めていた。

 アストリアにはそのウェーブ掛かった長い髪を梳く暇も無く、準備もそこそこに闇夜の外に出て馬車へ向かった。車内には城から派遣された侍女がおり王女を出迎えてくれた。

「おはようございます。大変ですねこんな早くから」

「──国の一大事ですもの、今は一刻を争います」

言葉のトーンからアストリアの想像より事態の深刻さを受け取る。




「久しぶりの帰省ですね。父母君もお喜びになるでしょう」

「……別に会いたくなかった訳でも無いけど、約1名の敵性分子の存在が私にとって余りに嫌過ぎて」

「……ヴィナス様も、最近は落ち着きを獲得したようですが」

「きっとそうでしょうね。」 


 侍女は乗り気で無いアストリアに姉に関する質問をした。

「付かぬこと聞きますが、何故そんなに姉妹仲が悪化したのですか?」

「きっかけは大した事じゃなかった、小さい頃2人でとある物語を読んだの。兄妹がお菓子の城を見付ける話で……」

「その城の主がドラゴンで幻覚を見せられてた話ですね」

「そそ、最終的には魔法が使えるシスターが助けてくれる終わり方だけど。姉はこの話に文句を付けてきた『この城とシスターが共謀している』なんて。兎に角姉は捻くれた性格をしていた。そして私は自分の解釈を周りに押し付ける姉の事をごく自然と嫌いになっていたわ」 

「まぁ……心中お察しします」

 使用人は何か思い当たる節があったように同情した。


 道中アストリアは先程見た夢の事を考えていた。別世界で財を成した女の事とその末路。生涯を追体験したかのようなその夢は、アストリアの固定概念を打ち破ると共にそのノウハウを乾いたスポンジが水を吸うかの如く彼女の頭脳に叩き込まれた。


 日が昇り辺りが明るくなってくる、道中は国境まで逃れようとする一団と何回もすれ違う、アストリアは残された時間が短い事を憂慮しる。しばらく進み城下町に入った、この城を出た時以来に見る景色だがそこに当時の喧騒などその面影は無くなり閑散としている。

「随分とまぁ綺麗な街になったものね」

「さっき見たように住民の大半が王都から去りました。先週の話です、わが国随一の強さを誇る国王陛下の精鋭、ロックアーク師団壊滅の報を知らされたのは。その後、残った兵士と共に平民に召集が掛けられたのですが国王が発した『国を守るやる気の無い奴は要らん!』との言葉で大半が徴兵を免れました」

 アストリアは呆れ顔を隠さなかった。

 城の正面への道は封鎖されていたので裏側の連絡橋から入城する。 


─────────────────────

  〈王都 城内 大講堂〉

 城では国王を中心として魔王軍に対応する緊急会議が執り行なわれていた。

「魔王軍は現在城下町外縁に到達しつつあります!第3軍団の遅滞戦術により西方通路は未だ健在、臣民の避難が続けられています」

「近衛魔導師はどうなっている?籠城戦に備えた結界の構築は済んだのか?」


 国王の質問は報告担当の背筋を凍らせ、言葉を詰まらせる。

「えーっと……近衛師団からの報告によると、今朝の時点で一切の存在が消えをうせたとの事で……恐らくは既に国外逃亡を図った物と思われます……」


 「逃げた……?ほう?そうか、逃げたか。私の就任時、あやつらは我に永遠の忠誠を誓うと言ったよな?違うか?」

「……間違いございません、陛下」

報告官は額から滲み出る汗を拭えずに高価な絨毯の上に滴らせた。


 「……とするとあれか??あの虫にも劣る糞どもは我が王国と臣民にケツを向け、魔族にその血肉を差し出さんと頭を垂れて『私どもだけは見逃してくださいぃぃぃぃ!!!』等と醜く命乞いをしたんだよ!思えば周りの国々が脆くも崩れ去ったのは古の賢者共の威光に縋る能無しの魔法使いがろくに働きもしなかったせいでは無いのか?クソ喰らえだあんな連中!!さすればゴミ虫には死刑が相応しいな?そうだな、皮剥ぎの刑が良い。人の皮を被った悪魔の正体を民の前面に晒し、絶命するまで己の罪を唱えさせるのだ!どうだ、この王国始まって以来の名案だと思わないか!?」


「はい、左様であります……そうですね……陛下。その為にもまずは王国を存続させなければなりません」


 「無論だが?もしかして貴様もゴミ虫か?処されたいのか??」


「いいえ滅相もございません!!ワタクシめは陛下に永遠の忠誠を誓っていますう!!」

 何気ない一言が国王の琴線に触れてしまう、こんな状況で迫る魔王軍に対応の議論は進まず集まった幹部一同が暗い顔を浮かべる。


「あ、あの!会議中失礼します!!」

 顔に血管の浮いた国王に勇敢にも迫る者は大講堂に入室したメイドであった。

「き、貴様ぁ!陛下は今お怒りであらせられる!邪魔立てするなどなんたる不埒。即刻消え去れ!!」

「だあっとれ!ゴミ虫!!──いったい何の用だ?」

 国王は側近の制止を阻止し、そのメイドの用件を尋ねた。

「実は今しがたアストリアお嬢様がお見えになりまして……その、ヴィナスお嬢様が……」

国王はさっきまでの怒りが嘘みたいに冷静になり目の色を変えた。

「我は一旦離席する!戻って来る前に作戦を立案しておきたまえ」


 国王は急ぎ足で大講堂を後にした。

「娘達は何処だね?」

「はい、大広間にて対応中です」

 その場所に近付くに連れて甲高い声の罵声が耳を劈いて来る。


「殺す!!絶対殺してやる!!」


「お嬢様お控えなさって!」


 この物凄い剣幕で剣を振り上げ、数人の召使いによって動きを封じられている高貴なる者こそが、国王の跡取りと成りうる第一王女ヴィナスであり、妹アストリアとは理由あって犬猿の仲となっている。そんな姉と対峙したアストリアは咄嗟に近くのテーブルの下に身を隠した。


 「こ、ここで貴女に刺されるなら魔族に喰われた方がマシですぅ!」

「だったら!!今すぐ勇者にでもなってその足で魔王倒して来なさいよ!食べカスになった骨はちゃんと拾ってあげる。その骨を埋めて墓石を建ててやるわ『勇敢に戦った女王アストリアは不幸にも敗北し、魔族の胃袋の中で永遠に眠る』ってね」


「やめんか!!2人とも!」

 ここで国王が登場し一声でこの場を鎮めた。

「お父様!コイッ……妹は城外退去命令を破り、この危機的な情勢下にある城に戻ってまいりました!今すぐ追い出して下さい」

 国王はアストリアの言い分も聞く。

「──私は手紙を渡され、そこに城に戻って来るよう記されて居たから戻って来ただけなんです!好きで来た訳じゃありません!」


 アストリアは手紙を国王に手渡す。

「うむ、この字は王妃が書いた物だな。何故わざわざ呼び寄せたんだ」

 その答えは手紙を書いた本人から聞く事が出来た。


 「国王陛下、間もなくここに賢者様がいらっしゃいます。その時全ての判断を授けて頂けるでしょう」

「王妃!?ダメではないか寝床から出てしまわれては。召使いは何をやっている!」


「王妃が是が非でもここに来ると言う事でしたので……」

 王妃はあまり体調が優れないようで顔も青白く生気が無い。国王は王妃の提案にあまり乗り気でないようである。

「言っておくがな、私は今更賢者などに頼るつもりは無いからな。今朝逃げ帰った魔法使いの連中は彼処の教えを受けている。きっと碌でもない事を吹き込まれたのだろう」


 賢者とは西方諸国を取りまとめる賢人会議のメンバーである。今より昔、東の地から来る魔族によって人類が危機に瀕した際に発足され、独自の西方魔術体系を用いて人類を救ったという伝説が残されている。

 現在は領土拡大を続け大国となった中央諸国に対し、実質的な影響力は低下しているが尚もその人望は全人類にとって揺るぎ無い物となっている。


「賢者様。只今お出でになされました!」

 皆が衛兵の声がした方向に顔を向けると、老年の男がゆっくり歩んできた。隣には背丈の高い一人の従者を従えているがその顔は深く被ったフードにより確認出来ない。


「皆お揃いだな?早速始めよう」

「わかりました賢者様。ヴィナス!アストリア!」

 王妃は2人を呼び並んで立たせる、2人とも不満気だが賢者の手前、無礼な振る舞いなど出来なかった。


「自己紹介とするか。ワシの名はケンリット、以降名前で呼んで結構だ。いきなりで恐縮だが……はっきり申し上げると、この城は今日中に堕ちるだろう。その事を念頭に置いて話を聞いて欲しい」

 賢者の言葉にその場の空気が凍り付いた。

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