偽りの告白
ロベルトが自室で苦悩を抱えていると、扉が静かにノックされた。開けると、そこに立っていたのはステイシーだった。いつもの冷たい表情で、しかしどこか固い決意を秘めたような眼差しで、彼はロベルトを見つめていた。
「少し、話がある」
ステイシーはロベルトを部屋に招き入れると、扉を閉めた。室内には張り詰めた空気が漂っていた。ロベルトは、この男が何を言おうとしているのか、直感的に察した。
「マデイラから聞いた。君が、私に興味を持っていると」
ロベルトは言葉に詰まった。言い訳も、嘘も、この男には通用しない。ステイシーは続ける。
「私とマデイラは、幼い頃から共に育った。彼女は、私の唯一の家族だ。私の心を唯一理解してくれる、愛しい従妹だ」
ロベルトは、その言葉に胸を締め付けられた。ステイシーはマデイラへの愛を語っている。だが、それはロベルトが夜に立ち聞きした、孤独と絶望に満ちた誓いの言葉とは、まるで違う響きだった。
「マデイラが本当に好きなのは、この私だ。君に優しくしているのは、私に振り向いてほしいからだ。だから、君はこれ以上、この家に関わらないでくれ。マデイラを傷つけないでほしい。そして、君自身の人生のために、もうここから出ていってくれ」
ステイシーは、まるで羅針盤のようにロベルトをまっすぐに見つめていた。その言葉は、ロベルトの心を深く抉った。ステイシーが嘘をついていることが分かっていたからだ。彼は、自分の苦悩と、この家の呪いからロベルトを遠ざけるために、わざとマデイラへの愛を口にしている。
ロベルトは、心の中で叫びたかった。
違う、違うんだ、ステイシー!もうお金のことなんて、どうでもいいんだ!僕が求めているのは、マデイラじゃない。君だ!
だが、その言葉は喉の奥で詰まって、どうやっても外に出なかった。ステイシーの冷徹な態度、そして、自分を守るためにマデイラへの愛を偽って語るその姿が、ロベルトの心をかき乱した。
ステイシーの言葉は、まるで真実であるかのようにロベルトを突き刺し、彼の心を深く傷つけた。しかし、ロベルトは、その裏に隠されたステイシーの真意を理解していた。だからこそ、ロベルトの苦悩は深まっていく。このまま彼の言葉を受け入れ、城を出ていくべきなのか。それとも、すべてを振り払って、真実を告げるべきなのか。ロベルトは、出口のない迷路に迷い込んだような心境だった。




