秘めたる恋、そして苦悩
シェラザードの告白は、ロベルトの心に重くのしかかった。自室に戻る道すがら、彼はビンセント家の悲劇的な歴史を反芻していた。精神を病む血筋、祖父と使用人、母と執事。そして、その歪んだ血を宿したステイシーの孤独な覚悟。すべての謎が解けた今、ロベルトは、初めてステイシーの冷たい態度や、血を繋ぐことを拒む理由を深く理解した。
しかし、同時に、ロベルトの心には別の感情が渦巻いていた。それは、抗いようのない、甘く切ない感情だった。初めて城門で彼を見た瞬間の衝撃、図書室で交わした言葉の温かさ、そして夜の廊下で目撃した彼の哀しいまでの優しさ。ステイシーを知れば知るほど、ロベルトは彼に惹かれていた。
それは、金銭目的でこの家に来たはずの自分には、決して許されない感情だ。ましてや、惹かれている相手は、婚約者の従兄弟であり、そして……男なのだ。ロベルトは、自分の心に芽生えた感情の正体に気づき、愕然とした。
「男であるステイシーに……私は、恋をしているのか?」
彼は、自分の頬に手を当てた。熱い。胸が苦しいほどに締め付けられる。金のために結婚するはずだった女性の従兄弟に、しかも同性に、これほどまでに心を奪われるとは。
ステイシーが背負う重荷、そして彼が選んだ孤独な道。ロベルトは、そのすべてを知ってしまった。それなのに、それでも彼を求める自分がいる。このままこの城に留まることは、ステイシーの決意を揺るがし、彼の苦悩をさらに深めることになるだろう。
それでも、ロベルトは、どうしても諦めることができなかった。このまま彼を一人にしておくことなど、できない。ステイシーを助けたい、その苦しみから解放してあげたい。そんな強い思いが、ロベルトの心を占めていた。しかし、その思いの先に待っているのは、世間には決して認められない道だ。ロベルトは、己の恋心と、ステイシーの運命の間で、激しく苦悩していた。




