奇妙な城の執事
城の中は、外観から想像するよりもさらに広大で豪華だった。大理石の床にはロベルトの靴音が虚しく響き、壁には歴代の当主であろうか、厳めしい肖像画がずらりと並んでいる。その顔ぶれの中に、ステイシーとどこか似た面影を探し、ロベルトは複雑な思いに囚われた。
応接室に通され、ふかふかのソファに腰を下ろすと、一人の男が静かに現れた。
「ようこそ、ロベルト様。お待ちしておりました」
背が高く、痩せた男は、まるで影のように音もなく歩み寄ってきた。端正な顔立ちには、感情が読み取れない。丁寧な言葉遣いと完璧な所作は、長年この家で仕えてきたことを物語っている。
「彼はシェラザード。彼のお母様の代から、ビンセント家に仕えてくださっているの」
マデイラが嬉しそうに紹介した。ロベルトは、その名に聞き覚えがあるような気がしたが、思い出せない。すると、ふと、ステイシーの視線がマデイラに鋭く飛んだのが見えた。まるで「余計なことを言うな」と警告しているかのようだ。マデイラは、その視線に気づいたのか、口元を小さく引き結んで黙り込んだ。
ロベルトは、そのやり取りに強い違和感を覚えた。婚約者である自分に、なぜ家族の内情を隠そうとするのだろうか。これから家族になる人間だというのに、こんなにも他人行儀な態度を取られることに、ロベルトは不信感を抱いた。
「ステイシーはちょっと口下手なの。でも、心根は優しい人よ」
マデイラがフォローするように微笑んだが、ステイシーは何も言わず、ただ静かにティーカップを傾けていた。その横顔は、まるで仮面を被っているかのように無表情だった。ロベルトは、この城の優雅な雰囲気に隠された、底知れない闇のようなものを感じ始めていた。




