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縛られた城  作者: 輝 久実


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炎の夜

マデイラは、ロベルトの部屋から飛び出すと、城の中を狂ったように走り回った。その顔には、怒り、悲しみ、そして深い絶望が入り混じっていた。

「ステイシーは、私を愛しているのよ!私だけのお兄様なのよ!男のあなたが、どうして彼を奪えるの……!」

マデイラの叫びは、城の廊下に虚しく響いた。彼女は、ロベルトの言葉が真実であることを理解していた。ステイシーは、自分の愛を拒絶したのだ。そして、その原因は、女の姿を隠し、男として振る舞うステイシーという存在を愛してしまった自分自身にあるのだと。

「もう……もう、何もかもいらない……!」

マデイラは、震える手で暖炉の火を掴んだ。燃え盛る炎が、彼女の瞳に映る。マデイラの狂気は、もはや彼女自身を制御できないほどに膨れ上がっていた。彼女は、手に持った火種を、近くのカーテンに投げつけた。燃えやすい布は、瞬く間に炎に包まれ、火は瞬く間に城全体に広がり始めた。

ステイシーの部屋で、ロベルトは彼女を抱きしめていた。マデイラとの婚約を解消したことを告げ、ステイシーの心に安堵と、そして希望の光が灯ったのを感じていた。その時、外から人々の悲鳴と、煙の匂いが流れ込んできた。

「火事だ!」

ロベルトは、ステイシーの手を握り、部屋を飛び出した。しかし、すでに城は炎に包まれ、逃げ道は塞がれている。熱風がロベルトとステイシーを襲い、二人は身動きが取れなくなった。

「ステイシー……!」

ロベルトが彼女を庇うように抱きしめた、その時だった。

「こちらへ!」

炎の中から、一人の男が現れた。執事のシェラザードだった。彼は、ロベルトとステイシーに、濡れた布を差し出した。

「マデイラ様は……」

ロベルトの問いに、シェラザードは悲痛な表情で首を振った。

「すべて、私が招いたことです。私が、妹を愛してしまったばかりに……」

シェラザードは、ロベルトとステイシーを抱きかかえるようにして、燃え盛る炎の中を進んでいった。彼は、この城の呪われた血、そして、愛ゆえの悲劇のすべてを知っている。だからこそ、彼は最後の親心として、二人の新しい人生を願っていた。

「ステイシー様……ロベルト様。どうか、幸せになってください」

シェラザードの言葉は、炎の音にかき消されそうになりながらも、二人の心に届いた。彼は、ロベルトとステイシーを城の外へ押し出すと、自らは炎の中へと消えていった。

夜空を焦がす炎の中で、ステイシーはロベルトの腕の中で泣き続けた。マデイラの命と、そして父の命。その二つの命と引き換えに、彼女は真の自分を生きることを許された。

ロベルトは、ステイシーを強く抱きしめた。もう、誰も彼女を傷つけることはできない。二人は、燃え盛る城を背に、新しい人生へと歩み始めた。それは、呪われた血の終わりであり、そして、二人の愛の始まりだった。

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